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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
5月編

「ねえ、これ見てよ」

「え?・・・これ、本当か?」

「間違いないわ、信じられないでしょ?」

「あぁ、でも何で・・・」

「・・・ちょっと気になるな、調べてみるか」

「調べるて、心当たりあるの?」

「あぁ、ちょっと・・・な」


「こんにちわー」

いつものように放課後、生徒会室に入った俺と目黒。

しかし、そこには・・・

「・・・・・」

普段見せないような表情を俺たちに見せている大崎さんと田町さん、それに品川さんがいた。

その3人の視線の先には、何やら教科書にノート。

そして難しい顔して手にペンも持っている。

その近くでは、悠長に神田さんが読書している。

「・・・どうしたんですか?」

あまりにその雰囲気から疑問を感じたので率直に聞いてみた。

「どうしたって、追試の勉強に決まってるじゃないか・・・」

普段の強気な大崎さんからは想像も出来ないような泣き声が発せられた。

だけどこれを聞いて納得した。

いくらここが『エンドレスバトラー』を養成するための機関とはいえ、結局は高校。

ちゃんとした学業の授業カリキュラムも存在する。

なのでゴールデンウィークが終わってから中間テストが行われ、その結果も返された。

つまり・・・

「クソォッッ!仮定法過去完了なんて分からねえ!」

「えぇ〜ん!加法定理って何〜?」

「・・・なんでフランス革命なんかが・・・」

このような人たちが必然的に現れるわけだ。

俺のクラスでも同様に何人か現れていたし、決して珍しいことではない。

そしてこの状況を見る限り神田さんは・・・

「分かった分かった、順番に教えるから」

このような感じで助け舟を出す役を買って出て・・・いや、頼み込まれているのだろう。

「全く、またこの3人?」

後ろからの声に気付き振り向いてみると、大塚さんが呆れ返っていた。

「あ、こんにちわ」

「まぁ目黒はいつも成績がいいから心配ないとして、上野は気をつけなさいよ?」

「え、えぇ」

「何?その元気のない返事は?まさかこの3人みたいな感じなの?」

「え?えぇと・・・」

この状況で、正直なことなんて言えない・・・。

「大丈夫ですよ、上野君この前のテストで学年6位だったんですから」

あ、ちょっと目黒、そのことは今は・・・。

「何ーーー!?」

ほら、予想通りのリアクションが・・・。

「だってお前、ここに来るまで廃校寸前の高校にいたんだろ!?」

「は、はい・・・」

「なのに何でそんな成績取れるの!?」

「そ、それは・・・」

「何か秘訣があるんだろ?勿体ぶらずに教えろよ、な?」

迫られる俺。

秘訣と聞かれても・・・。

「普通に先生の話聞いて、ノート取っているだけですけど・・・」

それしかやってないんだけど・・・。

「・・・・・!?」

どうやらこの3人には、心当たりがあるようだ。

「しょうがないさ、苦手科目なんて誰にでもあるものだ。特に品川はそれが顕著に表れているだけだし」

「・・・悪かったな」

不機嫌な目で神田さんを睨みつける品川さん。

そういえばさっきフランス革命がどうとか言っていたから、世界史が苦手ってことか。

確かに品川さん、見た目から理系だし・・・。

「ったく、これから生徒会の新人スカウトのために色々やらなきゃいけないってのに」

大塚さんが大きく溜め息をついて言った。

考えてみたら、俺と目黒を除いて皆3年。

来年までに誰も入らなくなったら、2人だけであの野球部みたいなやつらをどうにかしなきゃいけなくなるわけか。

それだけはどうしても避けたい。

「何か手はないか・・・なぁ上野、お前と同じようにこっちに来たってヤツいないのか?」

「いますよ、2人」

「だよなぁ、そんなうまいこと・・・って、いるの!?」

・・・また驚かれた。

というか大崎さん、そんなリアクションとる暇あるのか?

「あれ?言いませんでしたっけ?」

「初耳だ」

神田さんにハッキリと言われた。

言われてみたら、一緒にこっちに来た後輩がいるなんて言ってなかった気がする。

「でも、その2人って俺と違って1年なんですけど・・・」

「そんなの鍛えてやればどうにでもなる!よし、そいつら連れて来い!」

「い、今からですか?」

そんな、いくらなんでも突然過ぎる・・・。

「やっぱり部活はやってないのか?」

まぁ、あっちでは部活はなかったから普通に考えたら帰宅部なんだけど・・・

「あいつら、確か泳ぎが好きだからって水泳部に入ったてこの前言っていたような・・・」

「水泳部!?よし、尚更好都合だ!」

「え?」

どういうこと?

「水泳部方面は今の俺たちの監視範囲から外れているからな。よし、上野に目黒に・・・大塚、頼めるか?」

「いいわよ」

「あれ?神田さんは行かないんですか?」

副会長なんだから、来た方が説得力あるような・・・。



「俺が行ったら、3月の卒業生が3人ほど減ってしまうぞ」

「そんな殺生なー!」

「見捨てないで〜!」

「・・・了解しました」

納得しながら、俺達3人は生徒会室を出て、今水泳部が活動しているであろう屋内プールに向かった。



「・・・さて、3人とも再開するぞ」

「へ〜い」

ガラッ

「よっ、久しぶりだな」

「・・・お久しぶりです、どうしたんですか、急に?」



「あ、上野せんぱ〜い」

屋内プールに入ると同時に、俺を呼ぶ男声が聞こえてきた。

声を聞いただけで分かる、その主は・・・

「よっ、五反田。元気してるか?」

「はい、おかげ様で」

相変わらず元気そうで何よりだ。

こいつは五反田、前の学校から俺を慕っていた後輩だ。

「ところで、お前のご主人様は?」

「あ、はい。彼女はあそこです」

五反田が指差した方を見ると、物凄い勢いで蹴りによる推進力を得ている女子が1人いた。

・・・アイツも相変わらずだな。

すると、その女子がプールサイドに上がってきた。

「お〜い、渋谷〜」

とりあえず声を掛けた。

すると、ゴーグルを取ってこっちを見た。

「あ、上野さん!」

俺に気付くとすぐに駆け寄ってきた。

「元気してるか?」

「はい・・・て、五反田、タオル!」

「あ、はい!どうぞ」

・・・相変わらず尻に敷かれているな。

「この2人が例の後輩か?」

俺の背後から大塚さんが質問してきた。

「ええ、この2人が今年入学したばかりの・・・」

「渋谷です」

「五反田です」

俺が紹介する前に自分から挨拶してきた。

相変わらず、人の出来た奴らだ。

「ところで上野先輩、そこの人たちはどなたですか?」

五反田が俺の後ろにいる目黒と大塚さんに気付いた。

昔からこういうことには鋭いんだよな、コイツは。

まぁ、それが渋谷に目をつけられる要因になったんだけどな。

ちなみに、コイツはそれを知らない。

「前に話しただろ、俺が生徒会に入ったって。そこでいっしょの目黒に大塚さんだ」

「目黒です」

「大塚だ」

「どうも初めまして・・・で、その人と一緒でどうしたんですか?」

「あぁ、実はな・・・」

「上野、ここは私から話す」

そう言って大塚さんが俺より前に出てきた。

「単刀直入に言うわね、あなた達2人を生徒会にスカウトするわ」

「・・・・・え?」

いきなりの出来事に状況を把握できてない様子の2人。

まるで一ヶ月前の俺を見ているようだ。

「大塚さん、それはやっぱり急すぎるんじゃ?」

目黒が的を射た一言を放ってくれた。

「いや、コイツに任せておくと中々言い出せずに時間がムダになったはずだ」

・・・ごもっともです。

「と、とりあえず私から詳しいことを話すね」

目黒が説明役を買って出た。

一緒に来てくれて、本当に助かった・・・。



「・・・というわけなの、分かった?」

一通りの説明が終わった後、目黒が理解の確認を取った。

「あ、はい、一応は・・・」

「ボクも・・・」

やっぱりそういうリアクションを取っちまうよな。

ちなみに、『ボク』と言っているのは五反田でなくて渋谷の方だ。

昔からコイツは男勝りな性格で、一人称も自然とそうなっていた。

「返事はいつでも構わないわ、その気になったら放課後に生徒会室に・・・」

「いえ、やらせてもらいます」

「え?」

予想外なことに、渋谷が即答してきた。

「いいの?生徒会に入るって言うのはとても大変なことなのよ?」

目黒が念を押した。

「はい、だって上野さんが出来る仕事なんですよね?だったらどうにかなりますよ」

・・・俺って一体、どういう風に見られているんだ?

正直、心境は複雑だ。

「分かったわ、じゃあ今度部活がない日にでも生徒会室に来て。正式に手続きしてあげるから」

「分かりました。いいわよね?五反田」

「・・・やっぱりそうなりますか。いいですよ、付いて行きます」

これはどうやら、五反田も一緒に入会するということで良さそうだ。

「とりあえず、明日部活はないので伺います」

「了解、待ってるぜ」

そう言い残して、俺達はその場を離れた。



「ただいまー」

まず大塚さんが先頭を切って生徒会室に入った。

「よ、大塚」

あれ?

聞いたことのない声だ・・・。

「あぁ!牙津さん!」

その後に入った目黒から何か驚きのような声が聞こえてきた。

それに続いて入った俺の視界には、見たことのない男の人が堂々と足を組んで椅子に座っていた。

「あれ?見ない顔がいるなぁ」

俺の顔を見るなり言われた。

「えぇと・・・失礼ですが、どちら様ですか?」

とりあえず丁寧に聞いてみた。

俺がここに入って覚えた教訓、『目上と思われる人には頭を下げろ』が頭を過ぎったからだ。

「あぁ、この人は牙津 志郎(がつ しろう)さん、この生徒会のOBだ」

「お、OB!?」

「あぁ。こう見えて、実は会長とかしてたんだ・・・あ、もしかしてコイツがさっき言ってた新人か?じゃあヨロシクな」

とても卒業生とは思えないほど軽い人だ。

でも、考えてみればこの『百花高校』は創立されたばかりで、まだ今年で4年目だった気がする。

つまり・・・

「もしかして、今年卒業されたばかりなのでは?」

「おう、その通り!なんだ、勘がいいヤツじゃないか。将来的にお前大物になるかもな、ハハハ」

「ははは・・・」

ここまでサッパリした性格だと、もうこっちも笑うしかなかった。

「・・・んで、牙津さん。今日は一体どんな用件で?」

大塚さんがズバッと聞いてきた。

「大塚も相変わらずだなぁ。そんなキツキツしてると、彼氏も出来ねぇぞ」

「な!?何言ってるんですか!!」

・・・大塚さんの慌てるところ、初めて見た気がする。

「いっそのこと、俺がなってやろうか?」

「いいえ、結構です!!」

あ、これはいつもの大塚さんだ。

そんなやり取りをしている間に、目黒がお客用の湯呑みにお茶を淹れて牙津さんに差し出していた。

「お、目黒ありがとな。お前、いい嫁さんになるぞ、きっと」

「そ、そんな・・・」

持っていたお盆で、赤くなった顔を隠した。

・・・ヤベ、ちょっとカワイイて思っちゃった。

「牙津さん、いい加減本題をお願いしますよ」

さっきからずっと勉強を教えている神田さんが促してきた。

「そうか、じゃあ楽しいトークはこれぐらいにして、と・・・」

そして牙津さんが一息吐いてから話し始めた。

「実はな、来週この近くに異星人が襲来するっていう情報が入ったんだ」

「え!?」

異星人・・・テレビとかで何度か見たことあるけど、実物は見たことは俺にはない。

「んで、軍が手一杯だから、俺の所属する企業に対処を依頼されたんだ。もちろん多額の報酬付きでな」

企業、か・・・。

就職組には、軍か企業かの2種類があるという話を前に聞いたことがある。

軍はいわゆる公務員扱い、つまり安定した収入や雇用はある程度保証される。

それに対して企業はそのような保証はないが、収入が高いケースが多い、いわばハイリスクハイリターンらしい。

特に兵器開発系の企業なら、最新技術の武器に触れることもあり得るという特典付きだとか。

「でもな、俺達も手一杯で人手が足りないんだ。そこでお前達に職業体験も兼ねてどうか、と思ってな」

「なるほど、確かにそれはいいですね」

今まで話を聞いていた神田さんがこの件に同意してきた。

「だろ?」

「でも牙津さん、さっき来週って言いましたよね?」

「あぁ、それがどうした?」

「実はですね、来週ある意味それ以上に重大なことがあるんですよ」

「ほぅ、何だそれは?」

「追試です」

「・・・え?」

あ、そういえば・・・

「この3人の追試が来週あるんですよ」

そう言われている間も、大崎さん、田町さん、品川さんは一生懸命勉強している。

「・・・学生は大変なんだな」

「そうですよ。だからあまりこっちも人数出ませんよ、それでもいいですか?」

「そうか・・・一応奥の手もあるから、引率含めて5人もいれば十分さ」

奥の手?何か策でもあるというのか?

「5人か・・・とりあえず上野、お前決定な」

「え!?」

何で俺?

「まだ異星人との実戦経験はないし、それにまだ進路なんてロクに決めてないだろ?」

・・・ご名答です。

「はい・・・」

「じゃあ決定。あとは・・・」

「私も行きましょうか?」

「いや、目黒は今回は裏でのバックアップに回ってくれ」

「え?でも・・・」

バックアップ・・・要は手続きや交渉などの裏方の仕事に回ることか。

「あまりお前にやらせたことなかったしな、ここら辺で一度やった方が後々役立つはずだ」

「そうですか・・・わかりました」

口では納得していたが、表情はとてもそうには見えなかった。

「あと一人は大塚、頼めるか?」

「しょうがないわね、いいわよ」

やれやれといった感じで大塚さんは了承した。

「じゃあ何とかなりそうだな。牙津さん、その案件引き受けます」

「そうか、じゃあ詳細が決まり次第連絡するわ。それじゃあな」

そう言って、牙津さんは部屋をあとにした。

・・・あれ?

「ところで、残りのメンバーはどうするんですか?神田さんと引率の先生がいてもあと1人は・・・」

「何言ってるんだ?俺は行かないぞ」

「え?」

どういうことだ?

「俺が行くことになったら、それまでの準備とか大変じゃないか。そうなったら、こいつら・・・どうなると思う?」

その一言に、『こいつら』の対象と思われる3人が恐怖みたいな物にビクッと震えた。

「でも、あと誰が行くんですか?まさか会長・・・!?」

「あの人が来るわけないだろ」

「じゃあ誰が?」

「残り2人だろ?さっきお前がスカウトしに行ったっていう例の1年は?」

「あ」

なるほど、そういうことか・・・。

「1年なら、進路をどうするにしろ経験は必要だろ?だから連れて行けばいい話だ」

「なるほど・・・でも大丈夫なんですか?まだ入学してそんな経ってないですよ?」

「それはお前も同じだろ?それに、これは経験が何より大事なんだ、少しぐらいの無茶がちょうどいい」

「そうですか・・・分かりました」

あいつら、明日この話聞かされたらどう反応するんだろうな・・・。

「それにしても、人数不足がより深刻になってきましたね」

湯呑みを片付けながら目黒が呟いた。

「確かに、何でここまでに・・・」

「まぁ、原因は大方、牙津さんに会長だろうね」

大塚がふと呟いた。

「え?何で?」

「まぁ、それは今度ゆっくり話してあげるわ。アンタは今のうちに準備でもしておきな」

「あ、はい・・・」

何が原因なんだ、非常に気になるな・・・。



「はい、これ」

「え?」

大塚さんから、生徒会専用のリストを受け取った渋谷と五反田はキョトンとしていた。

既に蝶子先生に頼んでリストには2人の情報が登録されている。

「とりあえず、その中に『運命の業火』ていう武器が登録されているから、それをさっき言った日までにそいつらを最終形、もしくはそれに近いものに仕立て上げなさい」

相変わらず、ズバズバとこちらの用件をズバズバと要求している大塚さん。

生徒会室を予告どおり訪れた2人に昨日の牙津さんの依頼を話し、今こうやって体育館を使って自主練習をしている。

俺もその近くで『遠雷』を手に纏い、シャドーボクシングをして使い方に慣れようとしている。

「そ、そんな急に言われても・・・」

「大丈夫、まだ1週間あるから」

「い、1週間て・・・」

それは短い、と言いたげな顔を渋谷と五反田は見せた。

「ったく・・・。上野、お前は1週間で最終形まで行ったよな?」

いきなりこっちに話を振られた。

「え?はい、そうだったと思いますけど・・・」

答えてから、再びシャドーに戻った。

「ということだ、前例もある。頑張れよな」

「わ、分かりました・・・」

もうこれ以上粘ることは出来ない、そう2人は判断したのだろう。

そうしていると、2人とも渡されたばかりのリストに自分のIDを押し当てた。

そして例のごとく制服が戦闘服調に変り、ログインが完了した。

既に登録されていたからであろう、『運命の業火』が2人の手に纏われた。

「な、何コレ!?」

「え?え!?」

2人ともこれに慌てふためいている。

考えてみたら、2人とも最初の1ヶ月は授業を通して普通の武器に慣れ親しんでいるはず。

そこから急に、こんな得体の知れない武器を目の当たりにして、驚きを隠せないのだろう。

と言っても、俺の『遠雷』も十分得体がしれないけどな。

「とりあえず、そいつをこの1週間の間に使いこなしなさい」

「使いこなせって、出来るんですか?」

五反田が率直な疑問をぶつけた。

「出来るかじゃない。やれ」

全く迷いを見せない大塚さんからの一言。

・・・この人、やっぱり容赦がなさすぎる。

「やれって、そう簡単に出来るはずないじゃない!」

やはり納得が出来ないのだろう、渋谷が食い下がった。

「・・・お前達、今ランクはいくつだ?」

ふと一息ついてから大塚さんが聞いた。

「ランクですか?この前のテストでAをもらいましたけど」

「ボクも」

A、か。

この前目黒から教わったけど、最初のテストで付けられるランクはどんなに頑張ってもSが最高だとか。

つまり、2人ともそれなりに才能みたいなものがあるんだろうな。

だからであろう、俺の最初からNT1というランクはどう考えてもおかしいみたいだ。

「この案件に絡む異星人は平均でNT2。最高でNT7はいると思われている」

「!!?」

いつそんな情報を仕入れたのだろうか。

でも大塚さんの言うことだ、信憑性は高い。

ちなみに俺はこの前のテストでどうにかNT2へランクアップ出来た。

それを考えると、俺も少し頑張らないとダメだな・・・。

「これで分かるだろ?こいつらに対抗するためには、少しでも力をつけ、性能のいい武器を持たなきゃダメだ、って」

「・・・わかりました」

五反田は静かに返事した。

渋谷も無言を貫いていたが、納得させられたようだ。

「よし、じゃあ早速特訓開始だ!」

2人も頑張り始めた、俺も頑張らなきゃな。

「戻りましたー」

お、目黒が帰ってきた。

さっき引率を引き受けてくれる先生を探しに行ったけど、戻ってきたということは・・・

「おう、目黒。誰か見つかったか?」

「はい、どうにか」

おぉ、それは良かった。

聞いた話によると、この引率の役割は先生方からは避けられているらしい。

基本的に休日に依頼することが多いためだからとか。

そんな中、引き受けてくれる先生がいて良かった。

「で、誰なんだ?」

「えぇと・・・戦闘実技科目の音無先生です」

「あぁ、あの先生ね、よくOKしてくれたな」

大塚さんは知っているようだが、俺は知らない。

どんな先生なんだろう・・・。

「じゃ、あとはこっちの準備するだけだな。目黒、この2人の相手してやってくれないか?」

「え?分かりました・・・でも大塚さんは?」

「私は上野をマンツーマンで鍛える」

「え?」

いきなりそんなことを言われ、つい驚いてしまった。

「神田も言ってたけど、今回は異星人と初めて戦うのよ。前みたいな野球部とは訳が違う、そこら辺をちゃんと理解してる?」

「は、はい、しているつもりです」



「口ではいくらでも言えるけど、実際はそうじゃないのよ。私はそんな人たちを何人も見てきた」

言葉の途中で大塚さんの瞳に寂しさのようなものがにじみ出た。

「お、大塚さん・・・?」

「だから、この一週間の間に、きちんと覚悟させてあげる!」

すると大塚さんの手に『雷鳴の闇』が握られた。

それと同時に瞳の寂しさは一瞬で消え、闘志が一気に入った。

「わ・・・分かりました!」

俺もそれに呼応するように構えた。

あと1週間、気を引き締めないとな・・・。



「生徒会の依頼、引き受けたそうですね」

職員室で黙々と仕事をしていた音無に蝶子が声を掛けた。

「えぇ、ちょうどその日の予定が潰れてしまったもので」

「・・・例の件、調べに行くつもりですか?」

言いながら蝶子の顔が少し曇った。

「あくまでもそれはついでです。きちんと引率の仕事をしてくるので、安心してください」

「音無先生が仕事をサボるとは思ってませんが・・・何か分かったら教えてください」

「えぇ、もちろんです」

音無しは笑顔で返答した。



「や、やっと・・・完成したわね・・・」

「そ・・・ですね・・・」

渋谷と五反田が体育館の床で倒れこみながら話していた。

2人とも息を切らしながら話しているところから、その疲労は容易に理解できた。

そんな2人のいる体育館の外からは・・・

チュンチュン

目覚めたばかりのスズメの鳴き声が聞こえてきた。

現在、朝の7時。

管理者である蝶子先生に特別な許可をもらい、夜通しで訓練をしていた。

しかし、最後まで残っていたのはこの2人だけ。

大塚も上野も途中で帰ったからだ。

2人は何故残っていたか、理由は簡単である。

実行日前日になっても『運命の業火』を最終系に出来なかったからだ。

ちなみに、集合時間はこの日の午後。

「実際に使って性能を試せませんが・・・」

「・・・とりあえず・・・」

「寝ましょう」

そう言って2人は瞼を閉じ、そのまま眠りに入った。

「・・・全く、無茶しやがって」

その様子を入り口から見ていた蝶子は、二人にそっと毛布を被せ、その場を後にした。



依頼通りに俺達が来たのは、学校近くにそびえ立つビルの屋上。

ビルの中にはショッピング街や多数の会社の事務所が入っている。

確かに、襲撃するならこういう明らかに人が集まる場所を選ぶよな。

でもこの屋上、妙に広すぎる気がする・・・。

下手したら、学校のグラウンド以上に広いかもしれない。

ヘリポートとしての役割もあるって聞いてはいたが、それでもこの広さは異常だ。

「今回引率で来ました、音無 麗です。よろしくお願いします」

「牙津と共に遂行に来ました、まりんです。こちらこそよろしく」

俺がこの屋上に見とれている間に、引率の音無先生と牙津さんと一緒に来たという現役の人が挨拶していた。

・・・あれ?そういえば牙津さんは・・・

「やぁ、この前行った時に君いなかったよね。新入り?」

声がする方を振り向いてみると、牙津が渋谷に話しかけていた。

そういえば、この前も大塚さんや目黒に積極的に話していたような。

もしかして・・・

「あれで分かっただろ?」

突如背後から大塚さんに声を掛けられた。

「え?」

「生徒会に人が入らない理由」

「どういうことですか?」

何となく気付いてはいた。

でも、確信が持てない以上聞くしかなかった。

「牙津さん、学生時代はとにかく女好きでね。校内一のナンパ師で有名だったのよ」

「ナンパ師?」

「そんな会長がいる生徒会に、普通人が入ろうなんて思わないだろ?」

「それは確かに・・・あ、でも何で今の会長になっても人が入らないんですか?」

「・・・ウチってな、役職は選挙制じゃなく指名制なんだ」

「指名制?」

「何せこういう仕事だろ?だから他人に任せるよりも自分らで選んだ方がいいんだよ。んで、牙津さんが選んだのがあの会長」

「でも、何でそれが人が入らない理由に?」

「何でって、あのサボリ癖だよ。あれも校内じゃそれなりに有名なんだよ」

「・・・よくそんな人が会長に指定されましたね」

「まぁ、『類は友を呼ぶ』っていうの?きっと牙津さんにも何か考えがあったんだろうけど、今のところ何でかは分からないままよ」

「はぁ・・・」

そんな牙津さんをふと見てみる。

「なぁ、せめて名前ぐらい教えてくれよ♪良ければ電話番号とアドレスも♪」

「・・・・・」

相変わらず渋谷に話しかけている。

そんな渋谷は全く相手にしていない。

渋谷のことだ、おそらくこの手のナンパは効かないだろう。

「牙津、そろそろ来るわよ」

さっきまで音無先生と話していたまりんさんが話しかけてきた。

「お、もうそんな時間か。じゃあ準備に入るか」

すると音無先生もこっちにやってきた。

「じゃあ皆、準備にかかれ。あと、くれぐれも油断するな。下手したら命だって落としかねないんだからな」

そう言いながら、懐からEB−IDを取り出していた。

それを見てから、俺達も一斉に取り出し、そしてログインした。

戦闘状態に入った俺達は、それぞれの武器を取り出した。

まず、渋谷と五反田の武器が何か見た。

渋谷は拳を覆うナックルガード、五反田は特殊な形をしたバズーカ砲。

どうやら雰囲気からして、最終形には出来たようだ。

もっとも、俺の時のようにまだ進化出来たなんて事態にならなきゃいいけどな。

一方で音無先生と牙津さんは結構騒々しい武器だ。

音無先生は肩から羽毛のようなものを掛け、牙津さんは周りに何やら物騒な物体が浮かんでいた。

おそらく、外見通り凄い武器なんだろう。

一方でまりんさんの持つ武器には拍子抜けした。

それは、俺も知っている武器だったからだ。

田町さんも愛用している『届かぬ想い』。

運命系の武器は、学生が使う物としては高性能だが、現役が使うのにはやや見劣りするという。

それなのに何で・・・。

すると、そのまりんさんが口を開いた。

「さて、作戦の説明をするぞ」

まりんさんが空を指差しながら説明を始めた。

「今から数分後に、異星人の派遣部隊が乗っている宇宙船が大気圏突入を開始する。その最中なら、相手は全くの無防備。そこを長距離攻撃で叩く」

すると、まりんさんがリストのボタンを操作し、スクリーンを浮かばせた。

それを見て、何かを確認してから閉じた。

「それが出来そうなのは牙津、上野、五反田の3人ね。頼んだわよ」

「オーケイ」

「了解です」

「分かりました」

俺達はそれぞれ返事した。

「だけど、これだけでは終わらないはず。どこからか援軍が来ると予想されているから、『グングニール』をここ中心に半径100mの領域で発生するように手配してあるわ」

大規模戦闘用行動強制中断兵器『グングニール』。

授業で聞いたことがある、一部の識別信号を除く目標の動きを一定時間停めることの出来る兵器だ。

だけど、停めるだけで倒せはしないはず。

つまり、それに対して攻撃をする人が必要な訳だ。

「動きを停めている間にトドメを刺す役割、それを音無先生に頼みます」

「了解しました」

無表情のまま音無先生は答えた。

「次に、撃墜された宇宙船から飛び降りてこちらに襲い掛かってくる奴らをどうにかする役割を残った私達3人でどうにかするわよ」

残った3人、要はまりんさんに大塚さん、そして渋谷のことか。

「はい、分かりました」

「ハイ!」

大塚さんと渋谷がそれに対して返事をした。

するといきなり、どこからか大音量の警報が聞こえてきた。

何の警報か、すぐに理解できた。

「来たか」

「ですね」

深い青みを浮かべた空から、いくつもの赤い点が見えた。

大気圏突入の最中である、宇宙船だ。

数は・・・それほど多くはない、10隻程度だろう。

だけど、こいつが全て下に降りてきたら大変なことになるのは目に見えていた。

「よし、作戦開始だ!」

そのまりんさんの掛け声と共に俺、牙津さん、五反田が武器を構えた。

それと同時に、俺は2人の武器の詳細を確認した。

まず牙津さん。

色々浮かんでいる物騒な物体。

名称は、脳波遠隔操作型エネルギー射出兵器『ファンネル』。

『ファンネル』はいくつも種類が存在すると授業で聞いたことがあるが、どうやら牙津のはその中でも強力な部類に入る『N型』というものだ。

次に五反田。

あのバズーカ砲から放たれる雰囲気は、明らかに『運命の業火』の最終形だ。

その名は・・・

「3人とも!そろそろ射程距離内よ!」

俺が五反田の武器を把握する前に、まりんさんに号令を掛けられた。

「カウント終了と同時に攻撃開始よ、いいわね!」

「はい!」

「よし・・・3・・・2・・・1・・・開始!!」

その瞬間、まず俺は

「迸れ!!」

『遠雷』を纏った手から雷撃を放った。

それは一直線に宇宙船の方へ向かって行き、まず1隻撃墜。

その間に、牙津さんがいつの間にか放った『ファンネル』が、遠く彼方の宇宙船の方まで接近していた。

次の瞬間、宇宙船の周辺で急に何やら線が出現した。

どうやら、『ファンネル』から放たれた光線のようだ。

すると宇宙船は次々と爆発、煙によりあと何機残っているか判別出来なかった。

その煙に目を凝らしていると、何やら落下する、宇宙船以外の物もいくつか見えていた。

最初は、降りてきた異星人かと思った。

だが、それにしては大きい物体だ。

・・・まさか、アレは・・・。

「ば、爆雷だ!爆雷が落ちている!!」

「何!」

宇宙船が爆発する直前に爆雷を投下したのだ。

それが落下し向かっているのは普通の住宅街、そんなのが落ちれば被害は想像も出来ないほど凄まじいものになる。

とにかく、あれをどうにかしないと・・・!

「僕がやります!」

そう申し出たのは、五反田だ。

するとバズーカ砲を構えた五反田は、その爆雷の方へ光線を発射した。

バズーカから出たのは、細い光線。

とてもじゃないが、威力が高いとは思えなかった。

だが次の瞬間、目を疑う光景が入ってきた。

ある程度進んだ光線が、急にいくつにも枝分かれして進みだしたのだ。

それぞれの光線は全ての爆雷に当たり、そしてそれらを地上に到達する前に破壊した。

俺はその武器の正体を知るべく、改めて五反田の持つ武器を見た。

その名を知って、少し納得した。

運命系拡散追尾レーザー砲『砕かれた世界』。

「四方から熱源反応確認、援軍よ!」

まりんさんが周りに唐突に伝えた。

周りを見渡してみると、遠くの方から何かが迫ってきているのが良く分かった。

まりんさんの予想通りの援軍が、それも前後左右からこちらを囲むようにやってきたのだ。

「全ての対象が範囲に入り次第『グングニール』を発動させます。音無先生、頼みましたよ」

「えぇ」

そう言いながら音無先生は、肩からかけていた羽毛に手を添えた。

次第に、その何かが近づき大きく見えてきた。

「・・・カウント始めます・・・3・・・2・・・1・・・『グングニール』発動!!」

次の瞬間、周りに何やら激震のようなものが伝わると共に稲走りも起こった。

と同時に、もう姿形をはっきりと目視出来るまで接近していた援軍がピタリと動きを停めた。

「音無先生、お願いします!」

「了解した!」

そう言って、音無先生は持っていた羽毛を高々と投げ上げた。

すると羽毛は四方八方へ無数に飛び散った。

飛び散った羽は援軍に当たり、次々と爆発を起した。

その爆発の数は尋常ではなく、まるで俺達の中心に爆炎の輪が出来ているようにも見えた。

この状況を起した、音無先生の武器もやっと把握出来た。

対大群特化型脳波遠隔操作羽『フェザーファンネル』。

名前から察するに、牙津さんの『ファンネル』の派生系のようなものだろう。

「・・・こんな感じでいいですか?」

余裕たっぷりに音無先生はまりんさんに聞いた。

「はい。でもまだ気を許せません、引き続き周囲の警戒をお願いします」

「了解しました」

最後までその冷静さを保ちながら音無先生は警戒に入った。

と、その間に宇宙船の第二波が来たようだ。

だが、今度の数は先ほどより圧倒的に多い。

「まりん!やっとお前達の出番っぽいぞ!!」

「そのようね。大塚さん、渋谷さん、いくわよ」

「はい!」

そうやり取りが行われている間に、援軍はこちらの射程距離に入った。

俺達は先ほどと同じように遠距離攻撃を開始した。

しかし、何回やっても数が減る気配がない。

すると、爆発寸前の宇宙船から異星人が飛び降りてきた。

どうやら船を捨てて、先に俺達をどうにかしようという算段みたいだ。

そして飛び降り着地してきたのは細い体形に重厚な装甲を纏った、明らかに地球人ではないフォルムが印象的な奴らだ。

「よし、行くわよ!!」

まず先手を撃ったのはまりんさんだ。

降りて間もない異星人に『届かぬ想い』による一発を放った。

見事に直撃、一発でその異星人は爆発した。

だが、次々と異星人が降りてきたため、それぐらいでは掃討したうちには入らなかった。

まりんさんはそれに構わず『届かぬ想い』を連射。

その射撃は一寸の狂いもなく異星人に命中し、撃破していった。

それに続くかのように大塚さんと渋谷が接近していった。

まず大塚さんが『雷鳴の闇』を突き出した。

相手は持っていた盾でガードしたものの、大塚さんはそれを見事に突き破った。

もちろん相手は言うまでもなく、それにより致命傷を受け、そのまま爆発した。

そしてそれに続くかのように渋谷が

「タァァァッ!」

目の前にいた異星人目掛けて拳を振るった。

それを喰らった相手はそのまま吹き飛んだ。

渋谷の装備している武器、それは運命系衝撃集中拳護具『刹那の夢』。

見る限り、打点に衝撃を起してダメージを与える武器のようだ。

だけど・・・

「なッ!?」

渋谷が驚きを露にしている理由、それは吹き飛んだ異星人が難なく着地。

しかも、全くダメージを受けていないようだからだ。

いくら1週間かけて『運命の業火』を最終形にしたからといって、結局は渋谷も五反田もランクはA。

NT以上の強さを誇るヤツがざらにいる異星人達相手には、まだまだ力不足なのは目に見えていた。

出来るなら手助けしてやりたいところだが、俺も宇宙船の迎撃で手一杯、とてもそれどころではない。

すると、異星人が再び襲い掛かってきた。

「クッ!」

渋谷も構えはするが、動揺は隠せ切れていない。

そんな渋谷に構うことなく、異星人が持っていたビームサーベルで攻撃のモーションに移った。

その瞬間、異星人に何本かのレーザーが直撃した。

そのダメージで異星人が怯んだ隙に、渋谷は先ほど殴った場所目掛けて、今度はアッパーの形で拳を振り上げた。

今度は異星人もダメージの蓄積で、衝撃により体を真っ二つに分断された。

ちなみに異星人に直撃したレーザー、それは言うまでもなく

「五反田、サンキュ!」

そう、五反田の『砕かれた世界』による援護射撃だ。

拡散したレーザーの8割方を宇宙船への迎撃に回し、残りの2割で援護をしたのだ。

「五反田!」

「は、はい!」

牙津さんが五反田に荒い声を上げてきた。

単純に考え、作戦を無視したことに対する怒りだろう。

「・・・もう宇宙船の数も少なくなってきた」

「え?」

「こっちは俺と上野でどうにかするから、渋谷の援護にでも行って来い!」

「は、はい!了解しました!」

そう言って五反田は渋谷の方へと向かった。

「さて、上野、残りの奴らを片付けるぞ!」

「はい!」

そう言って、俺は再び上空を見た。

すると気が付いた、残っている船はあと一隻だということに。

「これで・・・ラストだぁ!!」

俺の掌から放たれた雷撃によって、その最後の一隻が撃墜された。

雷撃は最後の宇宙船に直撃、そして炎上し爆発した。

宇宙船を表す赤い点は、もう見当たらない。

「よし、俺達も残った奴らを掃討するぞ!」

「はい!」

牙津さんに返事すると同時に振り向いた。

視線の先では、まりんさんに大塚さん、そして渋谷に五反田が奮闘していた。

しかし、宇宙船の迎撃に集中している間に降りてきていた敵の数はあまりにも多かった。

敵の数が、減っている気配は・・・ない。

「一気に決めるぞ!」

すると牙津さんがまず仕掛けてきた。

それも、いつの間にか遠くに飛ばしていた『ファンネル』を周りに集めていた。

そして敵陣に突っ込み、全方位に攻撃を開始した。

一見無謀に見えるこの戦法、だが・・・

「オラオラオラーーー!!」

牙津さんの狙いは正確無比、外す気配が見られない。

そんな中、1人の異星人が攻撃を受けながらも牙津さんに突撃してきた。

しかも牙津さんの背後、このままだと危ない。

俺が雷撃で援護しようとしたその時、それよりも早く牙津さんが振り向き、そいつに手を出される前にアイアンクローで掴んだ。

「それぐらいで倒せるとか・・・」

牙津さんの握力で、異星人の顔にヒビが入った。

「思うんじゃねえ!」

そして高々と投げ飛ばし、『ファンネル』の斉射を見舞った。

もちろん全弾命中、耐え切れる訳がなかった。

だが、その牙津さんの活躍にも関わらず敵の数は減る気配はない。

俺がたとえここでまともに出ても戦況を覆すのは難しいだろう。

敵の平均的な強さと俺のランクはほぼ同じだしな。

ならここは・・・

(倒さず、サポートする!)

まず、敵陣に突っ込んだ。

もしここで牙津さんのように戦っても、返り討ちに遭うだけだ。

だから俺は、拳同士をぶつけ合わせた。

そして『遠雷』の能力である雷雲を発生、敵たちを覆った。

俺と、これに少し巻き込まれかけた牙津さんがそこから抜け出すと同時に、

「迸れ!」

雷雲に雷を走らせた。

その中で、敵たちが電気によるダメージを受けているのが音からして分かった。

そしてある程度雷を放ったところで

「今です!」

俺の掛け声と共にまりんさんが『届かぬ想い』、牙津さんは『ファンネル』、そして五反田も『砕かれた世界』、それぞれ一斉に掃射した。

雷雲に阻まれ狙いは付けられないが、それでもこれだけの掃射ならば関係がないはずだ。

そして掃射が済み、雷雲も自然と消滅した。

そこに現れたのは敵の残骸、ただそれだけだった。

「・・・任務終了、ね」

まりんさんがそれを見て呟いた。

「だな、あとの処理は専門班に任せるとしよう」

牙津さんもそれを確認しながら、その専門班に連絡しようと携帯電話を取り出した。

「それはそうと、百花高校の皆、お疲れ様。お礼と言っちゃなんだけど、どこかうまいものでも食べに行かない?」

任務中は全く見せる素振りがなかった笑顔がまりんさんの顔に表れた。

「いいんですか?じゃあお言葉に甘えて・・・」

礼を言おうとしたその時、急に甲高い警告音が聞こえてきた。

「な、なんだ!?」

「・・・どうやら、最後の敵が来たようですね」

音無先生が空を見上げながら言った。

俺達も見上げると、何かがこちらに降りてきているのが分かった。

大きさからして、宇宙船かと最初は思った。

だが・・・形がそうではなかった。

「あれは・・・まさか!?」

そしてソイツが俺達の目の前に降り立った。

ソイツは、10メートルはあると思われるロボット・・・。

あまりの重さに、地面は耐え切れず少しめり込んでいた。

「・・・任務は続行ね」

まりんさんが構えるのを見て、俺達も続けて構えた。

だが、見た目からして普通に戦って勝てるのか。

少なくとも俺にはそう思えた。

「・・・牙津」

まりんさんが牙津さんに声をかけた。

「何だ?」

「本部に、アレの使用許可要請を出して」

「アレ?いいのか、奥の手だろ?」

「問題ないわ、それに手加減して勝てるとは思えないしね」

「分かった」

すると牙津さんはリストに備わっているボタンを操作した。

「・・・これでよし」

「ありがとう・・さぁ皆、少し時間を稼いで!」

「は、ハイ!」

俺達はまりんさんの号令と共に、駆け出した。

先手を打ってきたのは相手だった。

背中のブースターを点火させ、こっちに突進してきたのだ。

「散開!」

まりんさんの号令と共に俺達はその場を離れた。

が、ちょうど真ん中にいた大塚さんが出遅れてしまった。

「大塚さん!」

思わず叫んでしまったが、今から回避行動をとっても避けるのは難しい。

大塚さんもそう考えたのだろう、持っていた『雷鳴の闇』を構えた。

「ハァッ!!」

そしてロボットが振り下ろしてきた拳に向かってそれを突き出した。

ぶつかり合った双方間に、激しいスパークが起こった。

うまくいけば、『雷鳴の闇』の能力で拳を貫いて破壊することが出来る。

だが・・・

「わっ!?」

ロボットのあまりのバカ力に、逆に大塚さんが吹き飛ばされた。

うまく体を回転させ、着地した大塚さんだが、ロボットはその隙を見逃さなかった。

大塚さん目掛けて再び突進してきたのだ。

今の状態の大塚さんじゃ、迎え撃つのも難しい。

駆けて助け出そうとした、その時、ロボットの四肢が突然爆発した。

俺はその爆発の瞬間を確かに見た。

4つの羽がロボットに当たっていた。

考えるまでもない、音無先生だ。

現に、反対側に避けていた音無先生は何かを放ったような構えをしていた。

そして、ロボットも今の爆発でよろけていた。

俺はその隙に大塚さんのところまで駆け込み、抱えてそのまま音無先生のいる反対側に移動した。

「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ、ありがとう」

大塚さんにこうやって礼を言われたのは初めてかもしれない。

「・・・後は任せたぞ」

突然音無先生に言われた。

「え?」

「今ので、用意していた羽は全て使い切った。今回は他の武器を用意してないしな」

「そ、そんな・・・」

「まぁ、手助け出来るのはここまでだ。後はお前らでどうにかしてみろ」

どうにかって言われてもなぁ・・・。

「あ、まさか!?」

そう思い、反対側でまりんさんといる牙津さんを見た。

既に『ファンネル』を格納させていた。

あの宇宙船を迎撃していた際、俺より圧倒的に撃墜していた。

その分、弾薬の消費も半端がなかったはずだ。

一方のまりんさんも、何やらじっとしている。

だけど、さっきの会話を聞く限り秘策はあるようだ。

なら、それに答えるだけのことをするしかない。

そうなると、俺が出来るのは・・・

「・・・あれしかない」

なんだかんだで、俺も宇宙船の迎撃で力を相当使ったため、そう何発も『遠雷』で攻撃は出来ない。

精々3、4発が限度だ。

それなら、選択肢は一つ。

やるのは初めてだが・・・悩んでいられない!

「・・・『遠雷』、『JSAモード』起動・・・!!」

発動と共に、手の雷が激しさを増した。

初めてコイツを使ったが、やり方は頭の中に入っていた。

この両手を、思いっきり握り合わせた。

そしてそのまま上にあげた瞬間、その雷は神田さんの『蒼天の剣』のように伸びた。

あとはコイツを思いっきり振り下ろせばいいだけだ。

・・・だが、そう簡単にはいかないようだ。

このエネルギー量に気付いたのだろう、ロボットがこっちに気付いたからだ。

俺の今の実力では、おそらく返り討ちに遭うだけだ。

何か手はないのか・・・。

「ハァァァァァ!!」

俺が考えを巡らせていると、突然渋谷がロボットの背後から『刹那の夢』で頭部を殴った。

だが、言うまでもなくダメージはほぼ無かった。

続けて五反田の『砕かれた世界』によるレーザーが何本も飛んできた。

これもダメージらしいダメージは見受けられない。

一見、何の意味も無い2人の行動。

しかし、俺には十分あった。

これで攻撃するタイミングが生まれたのだから!

「渋谷、離れろ!!」

俺は渋谷が離れたのを確認したのと同時に、振り上げていた両手をロボットの脳天目掛けて、伸びた『遠雷』を振り下ろした。

『遠雷』はロボットに直撃、激しいスパークが起こった。

だが、想像通りに行けば普通は両断出来るはずなのに、それが出来そうに無い。

ただ単純に、俺の能力が低いからだと容易に想像出来た。

次第に、『遠雷』のエネルギーも少なくなってきている。

これが尽きた時、こちらを狙われるのは目に見えている。

(ここまでか・・・)

そう頭に過ぎった時、同時に牙津さんとまりんさんの声も聞こえてきた。

「まりん、使用許可が降りたぞ!」

「分かったわ、ウェポンチェンジ!!」

と同時に『遠雷』のエネルギーが尽き、俺はまりんさんの方を見た。

すると、まりんさんの持っていた『届かぬ想い』が光ながら姿を変えていた。

「な・・・何だ、アレは・・・」

それを見て俺はつい呟いてしまった。

まりんさんが『届かぬ想い』から変えた武器・・・それは武器ではなかった。

黄色い毛皮を身に包んだ獣・・・虎だった。

そんな獣からは、異様なほどのエネルギーがみなぎっていた。

そのエネルギーに反応したのだろう、ロボットがまりんさんの方を向いた。

すると心なしか、まりんさんの口が笑った気がした。

その直後、虎が急に輝きだし、そして光に拡散された。

それに構うことなくロボットは拳を振るおうとしてきた瞬間、ロボットの頭部で爆発が起こった。

俺はモチロン、当のロボットも何が起きたか分かってないようだ。

それを示すかのようにロボットが爆発が起きた方を向こうとしたところ、再び爆発が反対側で起きた。

またロボットがその方を向こうとした。

だが、今度は背中で爆発が2回起こった。

まりんさんによる攻撃で翻弄されているのは分かるが、どうやっているのかはよく分からない。

と、まりんさんの背中の方から何やら2本のロープ状の物が出ていることに気付いた。

それを俺は目でたどってみた。

すると、その先では何かが高速でロボットの周りを移動していた。

「ま、まさかあれは・・・」

近くにいた大塚さんが口を開いた。

「え?どうかしたんですか?」

「えぇ。まさか、まりんさんが十二支の所有者だったなんて・・・」

「十二支?」

初めて聞く言葉だ・・・。

「えぇ、名前に干支の名前を冠した、特殊な武器よ」

そう言われて、まだあの武器の名前を確認するのを忘れていることに気付いた。

俺はあの武器をジッと見て、その名前を確認した。

・・・なんだコレは?

十二支系量子通信制御ビーム砲『寅:プリスティス』。

寅・・・確かにさっきまで、あの武器は虎の姿をしていた。

・・・だけど、1つ思うことがある。

「で、でもそれってスゴイことなんですか?」

「えぇ、現役のエンドレスバトラーでさえ、それ手にしている者が少ない、希少な武器よ」

そ、そんな凄い武器とは・・・。

と、会話を交わしているうちにロボットが動きを完全に止めた。

だが、まだ微かに起動音が聞こえる。

いつまた動き出すか分からない、ならここでトドメを刺すのが無難だ。

そうなると、出来る限り集中砲火するのが一番いい。

俺のエネルギーは・・・どうにか

「1発だけ・・・撃てる!」

俺がそう決めて構える横で、大塚さんも横で

「『JSAモード』起動!!」

と宣言しつつ『雷鳴の闇』を構えた。

次第に刃は光出し、今まで黄色かったそれが白く輝いた。

そしてモチロン、まりんさんも『プリスティス』の砲口をロボットに向けた。

「2人とも、合わせてね!」

まりんさんがこちらでも構えているのが分かったのだろう、そう声掛けてきた。

ここで失敗したら・・・もうチャンスはない。

緊張が、俺を縛るのがよく分かった。

「・・・え?」

その時、瞳の奥で何かが聞こえてきた。

・・・あの野球部の時と同じ感覚だ。

何故だろう、一度経験しただけの全然慣れない感覚なのに不思議と落ち着く。

「行くわよ・・・1、2、ファイア!!」

耳に入ってきたまりんさんの掛け声と共に、俺は掌から雷撃を放った。

隣の大塚さんも、『雷鳴の闇』をロボット目掛けて投げた。

そしてまりんさんも、『プリスティス』による掃射を行った。

まずまりんさんの掃射は、ロボットの頭部を集中的に破壊した。

次に大塚さんの『雷鳴の闇』はロボットの背中から腹部を貫通した。

最後に俺の雷撃は、ロボットの胸を撃ち抜いた。

これらが全てロボットにダメージを与えた瞬間、大爆発が起こった。

あまりの爆発に、俺たちは腕で自らを庇った。

そして爆発が止むと、残っていたのは木っ端微塵となっていたロボットの姿だけだった。

「・・・皆、今度こそお疲れ様」

まりんさんが武器を格納しながら言った。

「とにかく、今度こそラーメン、行きましょ」

「そうしようぜ、俺も腹減ったぜ」

「・・・牙津、アンタは自腹よ」

「ハァ!?何で!?」

「学生と違って、金持っているでしょ?文句言わないの」

「ちぇ・・・」

「ハハハ」

そんなまりんさんと牙津さんのやりとりを笑いながら眺めていると

「・・・上野」

後ろから大塚さんに話しかけられた。

「ハイ?」

「アンタ・・・覚醒出来るの?」

「覚醒?何ですかソレ?」

「・・・そう、知らないならいいわ」

そう言い残して大塚さんは歩き出した。

「・・・何だったんだ?」

気にしていると、あまりの空腹にお腹が鳴ってしまった。

疑問には残るが、とりあえず今は飯だな。





(あの爆発は、コアを貫いたことによる爆発、ダメージの蓄積じゃない。となると・・・まさか)

そう大塚が心に思っているなど、誰一人として気付くわけもなかった。



「どうもお疲れ様です」

「お疲れ様です、何か分かりましたか?」

一人帰路についている音無は、携帯電話で蝶子に連絡を取っていた。

「予想通り、上野は適合者みたいですね」

「そうですか・・・やはり理事長もそれを知って?」

「可能性は高いですね。あのテストの結果からもそれが伺えますしね」

それを聞いて、少し考えてから蝶子は口を開いた。

「・・・助っ人が必要かもしれませんね」

「えぇ、何か起こるのは明確です。私もそれを進めていきます」

「お願いしますね」

そして通話は切れた。



「・・・さて、まずはアイツからかな」

そう呟いて音無は再び電話をかけた。



「神田君、いつも済まないね。ウチのバカ息子のために」

「いえ、俺も好きでやっているわけですから」

百花高校の近くにある食堂。

その一角で神田は追試を受ける3人の面倒を見ていた。

この食堂自体、大崎の実家ということもありスペースの提供は容易であった。

「・・・お袋、バカ息子は言いすぎだろ?」

「何言ってるんだい!毎回毎回赤点取ってきて!たまにはそんなことなくやってみなさい!!」

「わかったわかった、期末はそんなことのないよう頑張るって」

「言ったわね剛(つよし)、もし赤点取ってきたら卒業するまで小遣い無しだからね!」

「ハァ!?何だよそれ!!」

「当たり前でしょ!それぐらい勉強も真剣にやりなさい!!」

大崎親子の言い合いをしている間に、大塚が食堂に入ってきた。

「こんばんわ」

「あら、大塚ちゃんいらっしゃい」

「大塚お疲れ、どうだった?」

「えぇ、無事依頼は達成したわ・・・それより神田、ちょっと」

大塚は神田を手招きして外へと呼び出した。

「・・・3人とも、とりあえずその問題やっていてくれ」

大塚の雰囲気を察した神田は席を立ち、大塚と共に外に出た。

「どうした、聖(せい)?」

人目を気にすることがなくなったため、神田は大塚を名前で呼んだ。

「上野のことよ」

「・・・何かあったのか?」

上野と聞き、神田の表情はより真剣になった。

「率直に言うわね。アイツ覚醒の適合者よ」

「やはりな」

それを聞いて神田は納得した。

「驚かないの、正也(まさや)?」

神田と同じく、大塚も人目を気にする必要がなくなったため名前で聞いた。

「あぁ。単純にアイツは天才肌だ。この前の勉強法を聞いて確信した」

「この前のって・・・授業を聞いているだけっていうの?」

「理屈では確かにその通りだが、そんな簡単にできるものじゃない。アイツ自身の素質のおかげだ」

「なるほど・・・確かにね」

「そして・・・その裏で池袋が何かやっている」

「アイツが?」

池袋の名前を聞いて大塚は驚いた。

「ここまでの素質の奴を一目で見抜いてスカウトするなんて、出来すぎている。そうだろ?」

「確かにそうね」

「・・・このまま何も起きないなんてないはずだ。しばらくは警戒しておこう」

「えぇ、そうするわ」

神田の意見に大塚は賛同した。

「ところで聖、門限は大丈夫か?」

「まだ大丈夫よ。だからあいつらの面倒、少し見ていくわ」

「助かる、じゃあ戻るか」

そう言って二人は食堂の中へ戻っていった。