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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
4月編

「・・・ここかぁ」

『百花高等学校』と書かれた校門を見て、ふと呟いた。

今日からここに通うことになったので早速来てみたけど、来るのは昼からて言われているんだよなぁ・・・。

まぁ、下見だけなら文句も言われないだろう。

何故か分からないけど、学費も免除されるし下宿先も用意してくれるし。

とにかく、この門から先には俺の新たな学園生活の幕開けだ。

さぁ、レッツスタート!

「おい、そこのお前!」

急に俺を呼んだと思われる声が聞こえてきた。

振り向いてみると、何やらゴツい男子生徒が4、5人・・・。

「お前、見ない顔だな」

あれ? もしかして絡まれてる?

「えぇと・・・サヨナラ!」

こういう時は逃げるに限る!

学園生活始まってもいないのにカツアゲなんてゴメンだ!

「待てや!」

「え、えぇ!?」

目の前で起きたことに驚くしかなかった。

さっきまで背後にいた男子生徒が物凄い速さで俺の目の前に現れ、進路を阻んだのだから。

・・・もしかして、逃げれない?

「さぁ、観念しろよぉ」

指を鳴らしながら迫ってくる男子生徒達。

「オラァ!」

「オワッ!?」

捕まえられそうになったから、急いで転がってそれを避けた。

「待たんかいコラァ!!」

更に襲いかかってこられた。

しかも今度は2人がかり。



「待てと言われて待つヤツがいるか!」

急いで逃げようとするが・・・やはり物凄く早く立ちふさがれる。

「どうやら、お前みたいなヤツは少し痛い目を合わせないといけないようだな」

すると、男子生徒達の手に何か急に現れた。

それは剣に槍に斧に・・・あ、銃も・・・

「え・・・えぇ!?」

なんで一高校生がそんな物騒な物持ってるわけ!?

「さぁ、覚悟しとけよぉ」

ジリジリと迫ってくる男子生徒達。

ば・・・万事休すか?



『生徒会室』の窓際、1人の長髪の男子生徒が校門での騒ぎを見ていた。

「予定よりも早かったな、しかもあぁなるとは・・・ついてない」

するとその男子生徒は、隅っこにある金庫を開け、何かを取り出した。

それは、その男子生徒もつけているログイン用の腕時計とEB−IDであった。

ちょうどそこに神田、大崎、田町、目黒の4人が入ってきた。

「・・・アレ? 会長、珍しいですね」

会長という存在に気付いた目黒が真っ先に声を掛けた。

「・・・校門で転校生が襲われてるぞ、しかも野球部に」

「ハァ!? またかよ」

大崎はそう言って窓際まで迫った。

それに続くように他の3人も様子を見に窺った。

確かに転校生と思わしき男子が野球部に追いかけられていた。

「アレ?この前の人たちじゃないですよ?」

目黒が疑問を口にした。

「この前いたメンツじゃないわね、別の部員よ、きっと」

田町が状況を素早く把握して返答した。

「・・・でも、運動神経はあるようだな。野球部に捕まらずに逃げ続けているとは」

冷静に神田がその状況を分析した。

そうしていると、会長が外に出ようとした。

「お、オイ、池袋。どこに行くんだよ?」

それに気付いた大崎が声を掛けた。

「彼にコイツを渡しに行くだけさ」

先ほど取り出したばかりの腕時計とEB−IDを見せた。

「お、おい! そいつは生徒会専用の・・・」

「いいんだよ」

「え?」

この会長の一言にとした表情を浮かべた4人に、更なる確信の一言が告げられた。

「彼が・・・新たな生徒会員だ」



「さぁて、いい加減観念しろや!」

さっきまでは何とか逃げ切っていたけど、今俺の後ろは校舎の壁。

そして前方はこいつら、もう逃げ場なんてない。

「ち、ちょっと・・・そんな物騒な物持たずに話し合おうぜ、な?」

とりあえず交渉開始。

「そんな面倒くさいこと出来るか!」

そして即決裂。

「さぁて、とりあえず有り金全部出してもらおうか・・・」

「え・・・別にいいけど・・・」

そんなわけで、財布を渡した。

「お、気前がいいな。どれどれ・・・」

そう言いながら俺の財布の中身を見る男子生徒。

・・・あ、何か震えだした。

「・・・オイ、どういうことだ?」

「何が?」

「何で高校生の財布の中に17円しか入ってないんじゃー!!」

そう言いながら財布を俺に投げ返された。

そして財布の口が開いていたことによって散らばる俺の持ち金。

「しょうがないじゃんか、まだ仕送り来てないんだし、要り様で色々と買わなきゃ行けなかったんだし」

引っ越してきたばかりで、色々と買わなきゃいけないものが次から次へと出てきたし。

「ちくしょー、こうなったらてめえをサンドバックに・・・」

「上野君!」

突如こいつらの後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

そこには、目の前で取り囲んでいるのとは雰囲気の違う長髪の男子生徒。

「こいつを使いたまえ!」

するとその長髪の生徒がこいつらの頭上を越すように何かを俺に投げ飛ばした。

受け取ってみると、それは腕時計とこれは・・・カード?

「こ・・・これは?」

「その腕時計を着けて、カードをそこに当てるんだ!」

「は、はい!」

ここまで来たらヤケクソだ、とにかくやってみよう!

まずは腕時計を着けて・・・

「おい、会長!お前どういうつもりだ!?」

会長?何のことだ?

けど今はそんなことはいい、着けた後は・・・このカードを当てるんだったな。

「こ、こうか?」

とにかく言われた通り、そこに思いっきり当ててみた。

その瞬間、俺の体中が光りだした。

「うわ!?」

驚いていると、俺の着ていた制服が形を次第に変えていった。

光が収まると、着ていた学生服を基調としながらも全く見たことのないような服装になっていた。

・・・あれ?

「手が・・・」

熱い・・・何でだ?

「チッ、お前もログインしやがったか。だが関係ねえ、行くぞ!!」

そんな掛け声が上がると同時に何人かがこっちに駆け出して来た。

取り囲まれている上に背後が壁の俺に逃げ場は無い。

「さぁ、戦うんだ、上野君!」

長髪の・・・あの会長とか呼ばれていた人は応援してくれている。

でも戦うって言われても・・・。

「あぁ、もうヤケクソだ!」

とにかく、俺に向かってきている一人に対して迎えうつために駆け出したその時、異変が起きた。

「え?・・・なんだコレは!?」

急に手が火に包まれていた。

だけど気にする余裕なんかない。

俺はその手で真正面にいたヤツの振り下ろしてきた剣を思いっきり殴った。

すると殴った部分が爆発、剣は突如弾き飛ばされ、離れたところに落ちた。

そんな出来事に、俺だけでなく剣を弾き飛ばされたヤツも驚きを隠せないようだ。

そして、これが何なのかすぐ分かった。

・・・いや、分かったんじゃない、『知っていた』んだ。

初めて見たはずの、その炎の名を思わず呟いた。

「・・・運命系基本形態『運命の業火』」

手に纏った火、『運命の業火』からは熱さは若干感じられるが、それに伴う痛みは感じなかった。

「く、クソーーー!!」

今剣を弾き飛ばしてやったばかりのヤツが殴りかかってきた。

だけど、その動きを簡単に読み取ることが出来た。

その拳を紙一重に避け、カウンターでこの火に纏った拳で殴り返した。

すると殴った腹の部分が爆発し、そのまま後方に吹き飛ばされた。

な、何で爆発を?

でもそれ以上に何で、俺こんなに落ち着いてられるんだ?

・・・そうか、こいつを知っているから・・・か。

何故か分からないけれど、こいつがどんな性質の武器か理解できてしまう。

今日初めて見たばかりなのに・・・。

「怯むな!」

そんな掛け声に我に返ると、三方から襲い掛かろうとされていた。

こういう場合、まず・・・

(一方をどうにかする!)

何故かすぐ思いついたこの戦法を元に、まず右側の方に駆けて行った。

手に持っていたのは同じく剣。

だから同じような感じで剣を弾き、そして腹を殴って吹っ飛ばした。

すると、背後から何やらプレッシャーが来た。

もう二方のヤツらが攻撃しようとしていたからだ。

だが、両方とも持っていたのは剣ではなく槍。

それで目にも止まらぬ速さで突いてきた。

俺はそれを回避したが、間合いの長さから反撃に出れない。

それでも、俺は慌てなかった。

この『運命の業火』の性質を利用すれば・・・

(どうにか出来る!)

そう悟った俺は、両手を思いっきり合わせた。

すると炎が伸び、両手から大きな一本の剣が出来上がった。

その刀身は、相手の槍よりも長い。

「な!?」

それを見たヤツらは驚きを隠せないでいた。

俺はその隙を突いて剣を思いっきり横に振った。

見事に炎に斬られた2人は、先ほどと同じように爆発が起きると同時に吹き飛ばされ、そのまま倒れた。

いくら斬ったからといって、致命傷にはなってないはずだ。

「撃てーーーー!!」

また別の方向から掛け声が。

すると、背後から銃による一斉射撃が襲い掛かってきた。

「ウワッ!?」

それを俺は慌てながらも回避、銃撃が途切れたところ見計らって息を整えた。

そして炎をまた別の形で利用した。

(・・・行け!)

そしてヤツらに向けた手の平から炎の玉がいくつも飛び出した。

炎はヤツらに的確に命中、そして爆発すると同時にそれで気絶していった。

これで残ったのは、1人だけになった。

「さぁ、お前で最後だ・・・」

「ク、クソォ・・・!」

虚勢を見せるヤツを捉えながら、無意識に体が動いた。

手を地面に添え、そこに押し当てるように力を入れた。

次第に、手にまとっていた炎が触れている部分に集まっていき、熱で地面を赤くしていった。

「迸れ!」

俺の一声と共に集まっていた炎が目標目掛けて走っていった。

「う、ウワァァァァ!!」

避けることも出来なかったヤツはそれに直撃、そしてそこに大きな火柱が上がった。

その炎が収まった時、そこに残ったのは倒れこんでいるヤツだけだった。

「・・・お、終わった〜・・・」

思わず、その場で尻餅をついてしまった。

「お前ら!何をやってる?」

どこからか声が聞こえてきた。

そっちを振り向くと、どうやらここの用務員っぽい人がこっちに走ってきていた。

「あ、羅印(ライン)さん、彼は今日ここに来る転校生ですよ。案内お願い出来ますか?」

さっきの長髪の生徒がその用務員さんにそう言ってくれた。

「お、おう、分かった・・・。ほら、こっちに来い」

そう言いながら連れて行かれそうになった。

「上野君!」

再びあの声が俺を呼んだ。

「何ですか?」

「放課後、『生徒会室』に来てくれないか?」

「え?」

なんでいきなり生徒会に?

「君のクラスの目黒という子に聞けば分かるはずだ」

「は、はい・・・」

とりあえずそう返事をすると、そのまま用務員さんに連れて行かれた。



「・・・会長」

上野がいなくなった後、先ほどまで生徒会室にいた神田らが4人が現れた。

「さっきも言ったとおり、彼は今日から新しい生徒会員だ。よろしく頼んだぞ」

「いいの?本人の許可も取らずに・・・」

田町がちょっと複雑な気分で聞いた。

「大丈夫だ。それに、もう生徒会用のリストも渡しちまったしな」

当然のように答える池袋は、更に続けて言った。

「それに、資質は十分ある。そうだろ?」

「・・・確かにその通りだな」

神田はそれに対して素直に納得した。

「あ、目黒。彼には言ったんだが、彼と同じクラスになっているはずだから、放課後『生徒会室』に連れてきてくれ」

「え?あ、はい、分かりました」

いきなりの依頼に、目黒は慌てて承諾した。

「さて、授業が始まるぞ」

そう言って池袋はその場を立ち去っていった。

「・・・詳しい話はその時するか」

「だな」

その場にいた全員が放課後までその答えを待つことで一致した。



「お前ら!よく聞け!」

午後最初の授業開始前に、まず紹介されることになった。

・・・当たり前だけど、さっき襲ってきたヤツらに比べれば普通っぽい人ばかりのようだ、少し安心。

「今日からお前らの仲間となる、上野だ。よろしく頼むぞ!上野、自己紹介」

この先生・・・蝶子先生とか言ったけ?

眼鏡におさげに赤ジャージて、俺が今までいた学校にもいなかったぞ。

「えー、ご紹介に預かりました、上野 隆士(たかし)です。皆ヨロシク!!」

さっきまでの不安を消そうと、とにかく明るく挨拶した。

それに応えてか、みんなから拍手が沸き起こった。

なんか、上手くやっていけるかも。

「じゃあ・・・あそこの空いている席に座ってくれ」

「あ、はい」

空いていたのは、窓際の一番最後列。

隣には・・・お、割とカワイイ女子。

・・・それにしても小さいな、本当に同級生か?

「ヨロシク」

その子に座りながら声を掛けた。

「ハイ、私は目黒。よろしくお願いします」

笑顔で返事してくれた。

やっぱり学園生活はこうでなくちゃな。

・・・て、アレ?

目黒て、どこかで聞いたような・・・。

「ようし!お前ら、授業始めるぞ!」

蝶子先生が元気良く黒板に何やら数式を書き始めた。

とりあえず最初だし、真面目にノートを・・・

「ん?」

いつの間にか何か机の上に紙切れが置かれていた。

何だろう・・・?

『放課後、生徒会室に案内しますので、すぐ帰らないでくださいね 目黒』

可愛らしい丸文字で和まされるはずなのに、ちょっと血の気が引いた。

(え? こ、この子が生徒会?)

そんな当の目黒は、真面目に授業を受けていた。



「え、今まで通ってた高校が廃校!?」

目黒からこんなリアクションを取られた。

放課後、『生徒会室』とやらに案内されている途中で目黒からどうして転校してきたのか聞かれたので正直に答えたらコレだ。

「あぁ。何せ田舎だったから、生徒がたった6人しかいなくてね。んで、今年の春に廃校ってことに」

「でも、なんでこの学校に?」

「それがな、突然俺の家に変な人たちが押しかけてきて『入学費、授業費、下宿代を受け持つから通わないか?』て言われたから、それに乗ることにしたんだ」

「乗ることにした、って・・・よくOKしましたね」

「もちろん、ちゃんとどんな高校かぐらい調べたよ。何でも、『エンドレスバトラー』になるための学校だとか」

「え、えぇ・・・。流石にそれぐらいは知っているようですね」

「そりゃ、これぐらいは知らないと」

「でもそんな話、よく信じられましたね」

「え?入学費とかの話か?」

目黒から思いっきり頷かれた。

確かに普通は信じられないよな、こんな話。

「まぁ、あの人が来れば一緒にいれば信じちゃうって」

「あの人?」

「ほら、入学案内にも写真が載っていた、創始者って人」

「創始者・・・て、えぇ!?」

思いっきり驚かれた。

「流石にあの時はビックリしたよ。何せ学校案内に載っているのと同じ人が目の前にいたんだからな。ハハハハハ」

「わ、笑うところですか?・・・あ、着きましたよ」

「お?」

そこには、確かに『生徒会室』と書かれた部屋があった。

すると目黒は先に

「こんにちわ」

と言いながら入っていった。

「失礼します」

俺もそれに続いて中に入った。

すると中には、さっきの会長とかいう人の他に何人かいた。

「お、来てくれたようだね、上野君」

「あ、はい・・・」

何でだろ、この人の前だと何故か萎縮してしまう。

「じゃあ単刀直入に言おう。上野君、君を生徒会執行役員としてスカウトする」

「え・・・えぇ!?」

突然の誘いに、正直驚きを隠せなかった。

「な、なんで!? そもそも俺、今日から来ることになったばかりですよ!?」

「大丈夫、君なら出来るさ」

自己主張させてもらうも、あっさり一蹴されてしまった。

「出来るって・・・第一、生徒会て何するところかも知りませんよ!」

「そりゃそうだろうね、君が通っていた高校にはそういうのはなかったようだし」

「そうですよ・・・え?何で知ってるんですか?」

「悪いが、君の事は既にリサーチ済みなんだ」

「えぇ!?」

俺はもちろん、他にもそれに驚いている人がいた。

どうやら、この会長が独自で調べていたみたいだ。

「まぁ、まずはウチの生徒会の説明でもしてあげよう。他の高校の生徒会とウチとでは違うものだしね」

すると会長が説明を始めた。



「えぇと・・・つまり、今日俺に絡んできたような奴らをどうにかすると、そういうことですか?」

「そういうことだ」

とりあえず、生徒会については大体理解出来た。

たしかにこういうグループがいないと、ああいうのが現れた時に対処するのは大変だ。

でも、疑問に残ることもある。

「でも、何で俺なんですか?」

いくらなんでも、登校初日の俺にそれを任せるのは急すぎる。

「君には素質があるからさ」

「そ、素質?」

「現に昼間の時も、初めてログインしたにも関わらずまだ新品の『運命の業火』だけで野球部を倒したじゃないか」

「ログイン?何ですか、それは?」

分からない言葉が出てきたので、率直に聞かせてもらった。

「アレ?まだ説明受けてないのか?」

「明日、朝一で蝶子先生から受けることになってます」

「そうだったか・・・じゃあその前に教えてあげよう」

一息ついた後、会長は話し始めた。

「と、これがログインの説明なわけだが、分かるかい?」

「・・・まぁ、なんとなく」

とりあえず、今まで漠然としていたエンドレスバトラーの内容が大体分かった。

「それだけでどうして俺に向いているってことになるんですか?」

「そのうち分かるさ。とにかく、君に拒否権はもうないよ」

「・・・え?」

今何て言った?

「だって、もうそのリスト、使っちゃったじゃないか。特に生徒会用のリストて、一度登録すると変更するのに物凄く手間と費用がかかるらしいぞ〜」

「リスト・・・てコレ!?だってこれはあなたが・・・」

「でもそれがなかったら、いきなり病院送りになっていたんだよ」

満面の笑顔で言われた・・・。

この人、ものすごい腹黒だ。

「というわけで、これからもヨロシクな」

「・・・はい」

もう観念するしかないみたいだ。

「目黒は・・・もう自己紹介済んでいるな。じゃあ他も自己紹介ヨロシク」

「あ、ああ・・・」

いきなり言われて周りも少し焦ったようだが、順に自己紹介が始まった。



「副会長の神田さんに会計の大塚さん、書記の田町さんに品川さん、んで執行役員筆頭の大崎さんか・・・覚えられるかな?」

「それだけ言えれば十分だと思いますよ」

今日は明日蝶子先生の説明のため朝早いということで、早めに帰してくれた。

ちょうど目黒も部活がないとのことなので、一緒に帰ろうということになり、今に至っている。

「あ、上野君も何かしらの部活に入らなきゃ行けないから、早めに決めちゃった方がいいですよ」

「そうかぁ・・・でも、今までいた高校に部活なんてなかったからなぁ・・・」

全校生徒が6人だったから、部活なんてなかったしな。

「明日にでも蝶子先生に部活の資料とかもらっておいたらいいと思いますよ」

「そうだな・・・ところでさ」

「何です?」

昼間からずっと気になっていたことを突っ込んでみることにした。

「やっぱさ・・・敬語はよそうぜ」

「え?」

目黒が何故か驚いてその場で立ち止まった。

「だってさ、一応同級生だぜ?もっとぶっちゃけていこうぜ」

「・・・そうね。そうさせてもらう」

これでようやく、お互い気軽に話すことが出来そうだ。

「あぁ、ぜひそうしてくれ・・・と、俺はそこのアパートだ」

「え?あそこ?」

俺が指差したところには、2階建ての古いようなそうでないような、少なくとも新築ではない、そんな感じのアパートが建っていた。

「1人暮らしするにはそう問題ないところだから、別に不満はないし」

「じゃあ、あの時のトラックて・・・ということは隣同士だね」

「あぁ・・・て、隣?」

俺の部屋の隣って、確か普通のおっさんが住んでいたような・・・。

て、まさかそんなおっさんと・・・

「私、ここで暮らしてるから」

「え?」

俺の勝手な妄想を余所目に、目黒はすぐ近くにある、何かの施設っぽい建物を指差した。

「ここは・・・?」

「ここはね、孤児院」

「孤児院?」

「私ね、小さい頃に親を亡くしてるの」

「!?」

予想もしなかった言葉に、俺は言葉を失った。

「だからそれ以来、ここでお世話になっているの。高校卒業までだから、もう2年もいられないけど」

「そうだったのか・・・でも何でわざわざ『エンドレスバトラー』になろうと?」

「・・・今この孤児院にはね、異星人の襲撃で親を亡くした子が大勢いるの」

「え?」



「私はね、これ以上私みたいな子を増やしたくない。だからエンドレスバトラーになりたい、ただそれだけ」

「・・・・・」

「あ、ゴメンね、こんなこと話しちゃって」

「い、いや。俺も変なこと聞いてゴメン」

「それじゃ、また明日ね」

「あ、あぁ。またな」

すると目黒は孤児院の中に入っていった。

「・・・頑張っているんだなぁ」

誰にでも戦うことに理由がある、そう思いながら俺はアパートへと歩いていった。



「じゃあ俺はやることやったし、ここらで帰るわ」

もう日が落ちようとしている頃、『生徒会室』には池袋と神田の二人だけが書類整備などの雑務で残っていた。

「お疲れ。俺はまだ残っているし、待ち人がいるからもう少し残ってから帰る」

神田は池袋を見ずに目の前の書類に没頭しながら言った。

「分かった、それにしてもお前も懲りないな」

「それはあっちも重々承知さ。それに、どこかの誰かさんがよくサボってくれるおかげで俺に負担がくるんだよ」

神田はため息をつきながら池袋の問いに答えた。

「それじゃまたな」

その神田からの言葉を軽く流した池袋はカバンを手に取り、そのまま『生徒会室』を出ようとした。

「上野の情報はどこで仕入れたんだ?」

突然の神田からの質問に池袋は足を止めた。

「そんなこと聞いてどうするんだ?それに、大体察しはついてるんだろう?」

「あぁ、だが推測の域は出ていない。それにお前のことだ、聞くまで言わないつもりだろ?」

池袋を一度も見ず、神田は淡々と質問を重ねた。

「とりあえず、今はノーコメントだ。必要だと判断したら答えることにするさ」

「いつもの秘密主義、か」

「そう考えてくれ、それじゃ」

それだけ言い残し、池袋は『生徒会室』を出た。

(全く、相変わらずだな・・・)

呆れながら背伸びしてリラックスしていると、『生徒会室』に向かってくる足音が聞こえてきた。

それが待ち人の足音だと瞬時に分かった神田は、帰り支度を始めた。



「と、以上がこの学校の説明だ。何か質問はあるか?」

「・・・あの、蝶子先生・・・」

「何だ?」

「何で体育館でこんな説明しているんですか?」

朝早く、この学校のシステムを聞くために来たはいいものの、いきなり体育館に連れて来られ、普通の教室でもいいような説明を聞かされた。

「この後実戦を行うから、広い方がいいのさ」

「そ、そうですか・・・」

「本当だったらリストと認証IDの登録手続きが必要なんだが、それも出来ているみたいだしな」

はっきり言われ、これ以上追求できなかった。

本来であれば支給されたリストに使用者本人の生体情報を登録し、触れた認証IDの情報を元にログイン後のデータを呼び出すようにするための手続きが必要らしい。

しかし、昨日会長から渡されたリストを着けることで生体情報の登録は自然と出来、認証ID自体も既に手続き済みであったため、俺がすることは特になにも無いみたいだ。

あとのことは会長から聞いたとおりのことを聞かされた。

けど、初耳だったのはランクと武器のシステム、それに防具なんてのも初めて知った。

ランクはF、E、D、C、B、A、Sと来てからSS、SSS、ACE、そしてその後はNTという少し特別なランクになるようだ。

それに、エンドレスバトラー用の武器や防具も特別で、使い込めば使い込むほど更なる進化を遂げるらしい。

それらは見るだけで名前が分かり、手に持てばどのような性質か理解できるようになるとか。

昨日、『運命の業火』の性質をすぐに理解できたのはそのためらしい。

ということは、もしかして・・・

「この『運命の業火』も、進化の可能性が・・・」

「自分で確かめろ、それも1つの義務だ」

あっさり突き放された。

まぁ、それがルールなんだろうけど・・・。

となると、もう1つの疑問は・・・

「じゃあ、俺のランクはどうなるんですか?」

まだ昨日リスト着けたばかりの俺には、そのランクとはどうなるのかイマイチよく分からない。

「あぁ、それについてなんだがな」

「はい」

「・・・とりあえずログインしろ」

「え?あ、はい」

言われたとおり、リストにIDを押し当てログインした。

昨日、あの野球部とか言われていた連中を追い払って以来のログインだ。

すると、目の前で蝶子先生もログインした。

「これで、どうするんですか?」

「じゃあ武器を出せ」

俺は言われたとおり『運命の業火』を出し、手に炎を纏わせた。

「出しました、次は?」

「よし、今からお前のランクを調べる」

「わかりました・・・で、どうやって?」

「実際に戦闘して、私が判断する」

「なるほど・・・え?」

次の瞬間、蝶子先生の手に一本の刀が現れ、握られた。

「とりあえず、死ぬ気でかかってこい!」

「え?ちょ、ちょっとまだ心の準備が・・・!?」

そう言っている間にも迫ってくる蝶子先生に、俺はその刀の名前を知るのが精一杯だった。



「あ、神田さん!」

校門付近で神田を見かけた目黒は声を掛けた。

「目黒か、おはよう」

「おはようございます。早いですね」

「・・・多分理由はお互い同じだろうけどな」

「え、やっぱり神田さんも上野君の様子を見に?」

「ああ。会長の言っていたことが、ずっと気になってな。目黒は何でだ?」

「やっぱり、クラスメートだから気になりますし、ご近所だってことが昨日分かったので」

「そうか、とりあえずどうなっているか早く知りたいところだな」

「ですね」

そう会話を交わしながら、2人は蝶子先生が教えているであろう、体育館へと真っ直ぐ向かった。



神田と目黒が体育館の扉を開けると、そこには倒れている上野と刀を持って整然と立っている蝶子がいた。

「・・・蝶子先生、少しは手加減してあげましょうよ」

「大丈夫だ、これぐらいで死ぬようなやり方はしていない」

微笑みながら蝶子は言葉を返した。

「う、上野君大丈夫ですか?」

目黒は心配そうにしながら蝶子に聞いた。

「安心しな、ただ寝ているだけだ。死んじゃいない」

そう言いながら蝶子はログアウトした。

持っていた刀は消え、服装も赤いジャージに戻った。

「とりあえず、今から教務課に行ってこいつのランクを報告してくる」

「あ、はい。ちなみにこいつのランクはどうだったんですか?」

「・・・知りたいか?」

「是非」

神田は即答した。

「わ、私も出来れば」

目黒もそれに続いた。

「・・・NT1だ」

「え?」

「NT1!?」

2人とも驚きを隠せなかった。

通常、1年経ってもNTクラスのランクになれない者は多数いるのに、上野はそれをたった2日で成し遂げてしまったのだから。

「成長が本当に早い、あとしっかりとした武器を持たせれば、お前らの即戦力には十分なるはずだよ」

「そ、そうですか・・・」

「あ、ありがとうございました・・・」

すると蝶子はその場を去っていった。

「・・・目黒、お前も気抜いたらすぐコイツに抜かされちまうぞ」

「ですね、私も頑張らないと・・・」

そんな2人をよそに、上野は熟睡していた。



「ちっくしょー!あの野郎め!!」

ファミレスの一角で、テーブルにコップを叩きつけながら怒りを露にする野球部員たちがいた。

「だけどアイツ、生徒会に招きいられたらしいぜ。俺たちで敵うのか?」

「何だお前?このまま負けっぱなしでいいとでもいうのか!?」

「そうじゃねえよ!だけど、アイツに勝てる術があるのかよ!」

「・・・あると言ったらどうするかい?」

「え?」

野球部員達が振り向いた先には、全身黒いスーツに黒い帽子を被った男がいた。



「よし、今日はこれぐらいにしておこう」

「は、はい・・・。ありがとうございました」

手に持っていた『蒼天の剣』をしまう神田さんに礼を言った。

なんだかんだで神田さんと同じバスケ部に所属することになった俺は、部活がない今日神田さんに稽古を願って出た。

最初の時の蝶子先生も厳しかったが、神田さんも結構スパルタだ・・・。

転校してきてから1週間、このような感じで自主トレーニングをしている。

おかげで、あの『運命の業火』も最終進化系になったぽいし、他にもいくつか手に持った武器を使いこなした。

「とりあえず、俺はまだ用事があるから学校に残る。上野は早めに帰って体を休めておけ」

「・・・そうさせてもらいます」

俺はログアウトし、とりあえずカバンを置いてある教室に足を運んだ。



教室に着くと、何故か扉が閉められていた。

(あれ?何で閉まっているんだ?)

いつもは放課後でも空いていることもあってちょっと疑問には思ったが、躊躇い無く扉を開けた。

すると、教室にはただ1人目黒が・・・て、あれ?

あの格好て、もしかして着替え中・・・

「・・・キ、キャーーーーーーーーーーー!!」

「ご、ゴゴ、ゴメン・・・!」

素早く扉を閉めて、教室に対して背中を向けた。

「や、ヤッチマッタ〜・・・」

思わず口から漏らした。



「もう、ノックぐらいしてよね!」

いつもは気の優しい目黒も、今回ばかりはご立腹のようだ。

「ゴメン、本当にゴメン!」

俺にはただ謝るしかなかった。

すっかり忘れていたが、この学校には更衣室という類の部屋がないんだった。

実技の時間は大抵ログインしてしまうため、体育着に着替える必要がないだからだ。

だけど部活などで着替えることはあるため、必要だという声も高まっているとか。

現に、今体育館の裏では部室棟なるものの建設が既に始まっている。

バスケ部はしっかりとした部室が体育館内にあるためこんなことはあまりないが、他の部活では死活問題みたいだ。

「・・・本当にそう思ってる?」

「あぁ、思ってるって!」

その通りだが、ここで「思ってない」なんて口が裂けてもいえるわけがない。

「・・・じゃあ許してあげる」

「え?本当に?」

「その代わり!」

・・・何か言われそう。

「・・・甘い物が食べたいなぁ」

「え?」

「駅前の喫茶店で、奢ってよ」

「そ、それでいいの?」

「いいよ」

満面の笑みを浮かべてそう言われた。

やっぱり、女の子て甘い物が大好きなんだな。

「部活終わったばかりだからお腹空いていたし♪」

・・・なるほど、たくさん食べるのね。

だからその分値段も弾むのね。

考えてみたら目黒て、この性格と体格なのに陸上部だから、見た目以上に食べるんだよな。

・・・今月の生活費どうしよう。

「どうしたの?上野君」

「いや、何でもな・・・アレ?」

「どうしたの? ・・・あ」

俺たちが気付いたもの、それは校門近くにいる、見覚えある顔触れだった。

そう、俺の登校初日に突っかかってきた野球部員達。

しかも、奴らの目は虚ろだ。

そもそもこいつらは先日俺へのカツアゲが原因で今は停学中のはずだ。

「なぁ目黒、もしかして・・・」

「うん、ログインしてる」

目黒は周りのログイン状況を察知できるセンサーが内臓されている、生徒会特別製の携帯電話を持っている。

「それに、強化されてるわ」

「強化?」

「ほら、リストの液晶が赤くなってるでしょ?あれが何よりの証拠」

言われてから見てみると、確かに奴らのリストは見たことのない赤い画面を液晶に出していた。

「そしたら、何か・・・」

すると突然、野球部員達が剣を具現化して襲い掛かってきた。

俺と目黒は間一髪のところでそれを同じ方向に距離を取りつつ回避した。

「く、目黒!」

「ええ!」

そして同時に制服の内ポケットからEB−IDを取り出した。

「あなたたちを、生徒会特権によって確保します!」

凛々しい目黒の声が終わった後に、

「「EB・・・ログイン!」」

俺たちはリストにEB−IDを押し当て、ログインした。

制服が戦闘服に変り、戦闘体制に入ったのに1秒もかからなかった。

俺たちは一斉に武器を出現させた。

目黒は運命系長距離光線砲『ジャンクション』を。

そして俺は、神田さんの『蒼天の剣』より一回り小さい、先端に銃口が付いた銃剣。

運命系カウンター強化銃剣『最後の力』。

剣での攻撃だけでなく銃撃も可能な、遠近両方で対応可能の武器だ。

「上野君、一気に行こう!」

「オーケー!」

俺と目黒はほぼ同時に引き金を絞った。

互いの銃口から、一斉に強力な光線が野球部4人目掛けて走った。

このまま行けば、普通に直撃で倒せる・・・はずだった。

しかし、この前俺の火の玉を避けることも出来なかった連中が、それよりも遥かに速い光線を難なく避けたのだ。

「な!?」

「え!?」

その目の前の状況に、俺も目黒も戸惑いを隠せない。

すると、野球部員4人のうちの2人がこっちに迫ってきた。

「も、もう一度だ!」

「ええ!」

俺と目黒は再び引き金を絞った。

だが、光線は当たる気配も見せない。

このまま接近されたら、お互い遠距離攻撃のままではこちらには分が悪い。

それなら・・・

「目黒!俺が引きつけるから、隙を突いて砲撃を!」

「え?」

「そんなデカイ砲じゃ、動き回れないだろ?ここは俺に任せておけって!」

「う、うん!分かった!」

目黒の確認を見て、俺はすぐに向かって出た。

その間にも俺は『最後の力』を撃ったが、やはり当たらない。

すると、迫ってきた2人のうち1人が俺に飛び掛かりながら斬撃を振り下ろす形で繰り出してきた。

俺はそれを銃口の部分で受け止めた。

それを確認した瞬間、引き金を絞った。

その衝撃で目の前の野球部員が宙に舞った。

これが『最後の力』がカウンター特化と呼ばれている所以だ。

相手の攻撃に合わせて銃撃でバランスを崩させ、その隙を突いてトドメを刺す。

それがこの武器の特徴だ。

そしてそれをキチンと把握していた目黒がキッチリと砲撃を当てた。

「よし!まず1人・・・え!?」

俺は見て驚いた。

あの砲撃を喰らったにも関わらず、それに耐え切っていたのだ。

そいつは多少後退したものの、しっかりと着地をしてこちらを見ている。

これは・・・かなりマズイ状況か?

と、今度は呆然としている俺の隙を突かれて、迫っていたもう1人が俺を抜き去って目黒に向かっていった。

「し、しまっ・・・」

俺が振り向いた時には、その野球部員は目黒に対して剣による攻撃のモーションに入っていた。

「目黒!危な・・・」

「アル!」

俺の心配を他所に、目黒のこの一言と共にどこからともなくエネルギーによる2つの可動型のシールドが現れた。

あれは確か・・・可動双光波防壁『アルミューレ・リュミエール』。

その剣と『アルミューレ・リュミエール』がぶつかりスパークを起した。

すると突然、目黒はその『アルミューレ・リュミエール』を引っ込め、野球部員を『ジャンクション』の砲身を突いた。

そしてそのまま・・・

「行きます!」

ゼロ距離射撃を実行した。

野球部員はそれによって爆発して吹き飛ばされたが、先ほど戦闘不能にまでは至らなかった。

と、俺が目黒の心配をしていると残った野球部員からの射撃が俺に襲い掛かってきた。

「クッ!『ビームコーティング』!」

俺は先日蝶子先生からもらったばかりの防具を具現化させた。

エネルギー攻撃防御壁『ビームコーティング』。

これによってエネルギーによる射撃はどうにか防げた。

だが、それで防御している間に残ったもう1人の、迫っていた野球部員に接近を許していた。

すぐさま避けようとしたが避けきれず、また『ビームコーティング』では実体を持つ刀を防げない。

辛うじて『最後の力』の刀身で受け止めたものの押し負け、そのまま後方に吹き飛ばされ、壁に激突した。

「ガハッ・・・」

激突による痛みで、つい苦悶の声を上げてしまった。

「上野君!?」

目黒の声が聞こえてくるが、やはりかなり心配されているようだ。

だが、立ち上がったところで・・・

(勝てる・・・のか?)

そんな疑問も上がってしまう。

その時、リストからアラーム音が鳴った。

(え・・・)

液晶を覗き込むと、何か文字が浮かび上がっていた。

『WEAPON RANK UP OK!』と。

これはこの一週間で何度も見た・・・今の武器が進化可能というサインだ。

(『最後の力』が・・・最終進化系じゃない?)

この状況を打破するには、それしかない。

「『最後の力』・・・エヴォリューション!!」

そして次の瞬間、『最後の力』は放たれた光と共にその姿を変えた。

「・・・な、何だこれは?」

『最後の力』が進化した姿を見て、つい口走ってしまった。

それは、今まで進化して確認した武器とは、明らかに形が違った。

・・・イヤ、『形そのもの』がなかった。

強いて言うなら、似た武器はあった。

初めて手にした武器、『運命の業火』だ。

だが、あれとは決定的に違う点がある、それは・・・

「・・・雷」

そう、俺の手に纏っているのは炎ではなく、雷だ。

それも、その量は『運命の業火』とは段違いだった。

すると、俺の頭の中にその武器の名が入ってきた。

その名も、運命系自由創造型武器『遠雷』。

俺がそれを確認していると俺を吹き飛ばしたヤツが襲い掛かってきた。

さっきと同じ戦い方では、また苦戦するだけ。

だが、こいつの・・・

「この力を使えば!」

俺は雷を纏った二つの拳をぶつけ合わせた。

次の瞬間、そこから暗雲が俺の周囲に発生された。

暗雲はそいつを包囲し、何も確認することも出来ないために動きも停めた。

俺が今纏っているこれは雷であって、電気でない。

となれば、それを落とす雷雲も出すことは可能だ。

そして、これが雷雲なら・・・

「雷よ、迸れ!!」

俺のこの一言と共に、暗雲全体を雷撃が貫いた。

「ウギャアアアアアアァァァァァァァ!!」

ずっと声を出していなかった野球部の第一声は、このような断末魔の叫びになった。

そして暗雲が晴れると、そこには倒れたそいつが姿を現した。

これでやっと1人。

と、俺がこうやって相手している間にもう1人の前衛のヤツが目黒に迫っていた。

目黒も『ジャンクション』から光線を放ってそれを阻止しようとするが、避けられてうまくいかない。

「待てええええええ!!」

気が付いたら、それを止めようと走り出そうとする俺がいた。

「・・・え?」

その瞬間、耳には聞こえない、何か不思議な音を感じた。

・・・あれ、何でだ?

(動きが・・・遅く見える!?)

何でこうなっているのか分からない。

だけど・・・この状況を利用すれば・・・。

(何となる!)

気が付いたときには、手のひらをそいつに向け、そして・・・

「行けぇ!!」

光線のような雷撃がそいつに向かって走った。

光速で突き進むそれはそいつに直撃、先の目黒のダメージもあってか、そのまま倒れた。

あと2人・・・まだ動きは遅く見える。

俺は撃ってくる弾を避けながら接近し、そして先ほどと同じように雷雲を発生させ2人を包んだ。

だが、そう何度も同じ手が通じるというわけでもない。

1人が雷雲に包みこまれる前に跳躍して抜け出してきたのだ。

と、次の瞬間。

「『ジャンクション』、『JSAモード』起動・・・ファイヤ!」

目黒の声と共にジャンクションから、今までの光線とは分けが違うほどの光線が放たれた。

光線はその部員に直撃、そのまま吹き飛ばされていった。

『JSAモード』・・・聞いたことはある。

武器の威力と体への負担を3倍にするという代物だ。

俺はまだ使ったことはないが、まさかここまでの物とは・・・。

と、あと1人いるはずだ。

しかもそいつはさっきから後方支援に徹していたこともあって全くの無傷。

とりあえずこの雷雲で動きは止めているが、いつ抜け出されるか・・・。

「上野君! 避けて!!」

何かと思うと、再び目黒が『ジャンクション』を構えていた。



「『ジャンクション』、『ジェノサイドモード』起動・・・シュート!」

すると、再び光線が放たれた。

だが、今放たれた光線よりも格段に威力も大きさも上だった。

おそらくこれは、『ジャンクション』そのものの能力だろう。

光線は暗雲を丸ごと飲み込み、部員もその光線によって起きた爆発により吹き飛んだ。

・・・これで全員のはずだ。

「ふぅ・・・て、目黒!?」

安心したのも束の間、俺は膝をついている目黒を見てすぐさま駆け寄った。

「だ、大丈夫。久々にアレをやって疲れちゃっただけだから・・・」

明らかに疲れた顔をして目黒は言った。

「そ、そうなのか? ならいいけど・・・」

心配だったが、今の俺にはそれ以外にどうすることも出来ない。

「・・・ところで、コイツらどうする?」

所々で倒れている野球部員を見て相談した。

「あ、こういう時は決まってるわ」

「え?」



「・・・アレ?ここは?」

「ここは、って保健室に決まっているじゃな〜い」

起きた野球部員が見た先、そこには迦樓美がいた。

「え・・・」

「全く、あなた達は問題ばかり起して〜・・・でも、いい男じゃな〜い。たっっっっぷり可愛がって・・・ア・ゲ・ル・ワ」

「ウ、ウワアアアアアァァァァァ!!!」



「・・・何か聞こえた気がするけど、気のせいか?」

「きっと気のせいよ♪」

目黒が満面の笑みで答えた。

確かに普通に考えれば倒れている生徒は保健室行きだが・・・あの先生で大丈夫なのか?

まぁ、自業自得というやつだ。

とりあえず・・・

「じゃあ、約束どおり奢ってよね♪」

「あぁ、そうさせてもらうさ」

今は腹ごしらえ、だな。



この時、あまりの疲労と目黒に奢ることしか頭になかったため、目黒が言っていた強化について聞きそびれることとなった。



「また野球部が何かやらかしたみたいだな」

生徒会室に入ると同時に、池袋が中で一人書類整理をしている神田に声を掛けた。

「あぁ、さっき迦樓美ちゃんから連絡があった。懲りない奴らだ」

「全く、困った奴らだ」

ため息をつきながら池袋が言葉を漏らした。

「しかも、野球部の奴らは強化していたみたいだ。下手したら退学者も出るかもな」

「ほう、それは大変だな」

「・・・池袋、お前知っていたんじゃないのか?」

神田は普段のように『会長』とは呼ばず、池袋と本名で呼んだ。

「何をだ?」

「強化されているとなると、あの二人で野球部を相手に出来るとは思えない」

「途中で上野の武器が進化したと聞いているが?」

「それを考慮しても、差は埋まることはないだろう。そうなると、考えられるのは・・・」

「なるほど、それを問い質したいわけか」

神田の話の意図を汲みとった池袋はそう答えた。

「で、実際のところどうなんだ?」



「この前と同じ、ノーコメントだ」

池袋は即答した。

「まだ答えられない、と」

「そういうことだ、あまり深く考えない方がいいぞ。それじゃあな」

そう言って池袋は生徒会室を後にした。

「予想通りみたいだな、しかもアイツが・・・」

神田は池袋が外に行くのを見届けると同時にそう呟いた。