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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
7月編

「今回の試験、どうにか乗り越えられて良かったね〜」

「そうですね、神田さんに教えてもらった成果が出て良かったじゃないですか」

「ボクも今回は五反田に色々教えてもらったから、どうにかなりましたよ」

「あれ?渋谷ちゃん勉強苦手な方?」

「はい・・・実技の方は得意なんですけど」

「じゃあ田町さんと同じタイプですね」

「目黒ちゃん、私本気で傷つくよ」

「・・・あのぉ、お三方」

「え?」

・・・うん、いい加減この素朴な疑問をぶつけた方がいい。



「何で俺の部屋でそんな悠長にくつろいでいるんですか?」

風呂掃除して、湯船にお湯が入るのを確認してから居間に来たら、目黒、渋谷、田町さんの3人が何故かいた。

「だって、試験の打ち上げに最適そうなのってここぐらいしか思いつかなかったんだもの」

それにしても一人暮らしの男子の部屋を選ぶのはどうかと思うが・・・。

「・・・各々の家は?」

一応そういう指摘はしてみた。

「ウチは親がうるさいから無理」

「私も子供達がいるし」

「ボクも親戚の家に下宿させてもらっている身だから・・・」

「・・・そうですか・・・」

もうこれ以上突っ込むのもムダに思える。

「でも、お茶ぐらいしか出せませんよ?」

「あ、お菓子と飲み物ならこっちで用意しているから大丈夫」

良く見ると、確かに3人に囲まれる形でコンビニの袋がある。

・・・それもかなりの量の。

「じゃあとりあえず、あまり騒がないようにお願いしますね」

「は〜い」

こうなると、もう止めることは出来ない。

当面は、俺自身の夕飯の準備でもしていよう。

「じゃあまずは乾杯しよう♪飲み物何がいい?」

俺の背後で缶を袋から出す音が聞こえてくる。

「じゃあボクはレモンで♪」

そういえば前々から渋谷はレモンが好きな傾向があるな。

「私はピーチをお願いします」

目黒にピーチか、確かにイメージは合う。

「じゃあ私は〜・・・残ったカシスオレンジで」

そうか、田町さんはカシスオレンジ・・・て、それって!

「ちょっと待っ」

「かんぱ〜い」

俺の指摘は遅く、目の前でプルタブを上げて盛大に鳴らしながら飲まれていた。

3人が持っている缶ジュース、それは紛れもないチューハイ、つまりアルコール飲料だ。

「ん?どうしたの上野?」

平然と田町さんが聞いてきた。

「・・・田町さん、あなた達年齢いくつですか?」

「なぁに〜、上野〜?アンタ女の子に歳聞くの〜?」

・・・もう酔い始めたのか?

「そうじゃなくて、缶に書いてあるでしょ、『未成年の飲酒は法律上で禁止されています』って」

「大丈夫だって、今流行りのノンアルコールカクテルだから♪」

「あ、なるほど」

確かにそれなら納得出来る。

そもそも目黒もいて酒を選ぶこともそうはないか。

「そうですよね、目黒がいて酒を選ぶこともないですよね。なぁ目黒・・・」

「・・・ふぇ?」

目黒の意識が完全に飛んでいる・・・まさかと思い持っていた缶を奪い取ってみると、確かに「アルコール3%」と書かれていた。

「あ、いっけな〜い、間違えて本物を買ってきちゃった」

田町さんが俺の後ろでその缶を見ながら舌をペロッと出した。

・・・反省している様子は全く感じられない。

「ハハハ♪目黒さん弱いんですか〜?」

渋谷、お前も十分弱いと思うぞ。

「3人とも、本当に大丈」

そう心配していると、ポケットに入れていたケイタイが鳴り出した。

急いで取り出してみると、液晶に表れていたのは神田さんからの着信を表す画面だった。

とりあえず部屋の外に出て、俺は電話に出た。

「もしもし」

『よ、上野。お疲れ』

「お疲れ様です、どうしたんですか?」

神田さんからの連絡は珍しくはないが、こんな時間に、それもメールでなく通話というのは珍しいとしか言えない。

『実はな、今生徒会の男共で軽い試験の打ち上げやろうてなって集まっているんだが、来れるか?』

「・・・あの、実は・・・」

俺は神田さんに今の状況を伝えた。

『なるほど・・・それは大変だな』

「はい、なのであまりここを離れることは気乗りしないんですが・・・」

『分かった、じゃあまた別の機会に』

「はい、すいません」

そう言って電話は切られた。

あっちに生徒会の男子は全員集まっている・・・そう考えた時、ふとした疑問が浮かんだ。

(そういえば、大塚さんは?)

あっちに男子全員が集まるなら、こっちに女子全員が集まってもおかしくない。

しかも、普段から田町さんと大塚さんは仲が良いからこういう時は自然と集まると思っていたのに何で・・・。

そう考えを巡らせていると、またケイタイが鳴りだした。

まだ手に持っていたそれの液晶を見てみると、目を疑った。

(着信・・・しかも会長から?)

珍しいことこの上ない。

生徒会に初めて行ったときにアドレス交換して以来、全く連絡を取っていなかったからだ。

「もしもし」

『もしもし、上野君か』

間違いない、会長の声だ。

というか、この会長の声を最後に聞いたのはいつ以来だ?

そう思えてしまうほど、最近は会っていない。

「はい、どうしました?」

『今暇かい?』

「・・・えぇと・・・」

暇といえば暇だが、あの3人の監視を考えるとそうでもない。

でも会長のことだ、ここで下手に断れば何を押し付けられるか分かったものじゃない。

ここは様子見も兼ねて・・・。

「1時間ぐらいなら空けれそうです」

逆に言うと、それ以上の放置は危ない。

さて・・・どう出るのか?

『まぁ大丈夫だろう、そんなかからないと思うから、来てくれないか?』

「わ、分かりました、どこに行けば?」

『君のアパートの近くにある、新大久保公園だ。それと、リストとIDも忘れずにな』

「え?・・・あ、はい、分かりました」

通話を切ってから、部屋の中を見た。

・・・相変わらず3人が酔っている。

「ちょっと急用が出来たんで行ってきますけど、あまり散らかさないでくださいね?」

「はぁ〜い」

さっきの返事より力が抜けている・・・本当に大丈夫なのか?

何はともあれ、今はとりあえず会長の所に行かなきゃ。

・・・にしても、リストとIDがいるほどの用事って、何だ?



「ふぅ〜」

『百花高校』職員室。

その中で、蝶子がただ1人だけいた。

目の前の机には、自分のクラスの生徒達の通知表。

数日後の終業式までに、これらを全て書き上げなくてはならない。

「おつかれ」

そうやって蝶子先生の後ろから声を掛けてきたのは、同じく『百花高校』の犬彦。

「おつかれ。担任を持つと、この仕事は大変よね」

ため息をつきながら蝶子はぼやいた。

「そりゃそうだろうな。コーヒーでも飲むか?」

「うん、お願い」

そういうやり取りをし、犬彦はまず手に持っていた荷物を自分の机に置き、コーヒーメーカーの方へ向った。

すると、職員室に音無と、同じく戦闘実技科目を担当している照が入ってきた。

「お、2人ともお疲れ」

「お疲れ様〜」

心なしか疲れて見える蝶子と犬彦に対し、今入ってきた2人にはまだ活力が顔に表れていた。

「おつかれ・・・。いいなぁ、担任持ってない奴らは気軽で・・・」

「確かに、な」

恨めしそうな顔をしながら2人は言った。

「おいおい、俺らだって大変なんだぜ」

「そうですよ、補習の生徒達の日程調整に審査基準とかを考えないといけませんし」

すぐさま反論が飛んだ。

「・・・この仕事って、本当に大変よね」

「そうだな、生徒達の夏休み中にも色々やることあるし、な」

「あ、そういえば照先生、例の車、用意出来そうですか?」

急に思い出したかのように、蝶子が聞いた。

「ええ、無事出来ましたよ。後は当日、蝶子先生と日晴先生にお任せします」

「了解、任せて」



「お、来てくれたか」

『新大久保公園』に着くと、確かにそこに会長が待っていた。

「お待たせしまし・・・アレ?」

つい驚いてしまった。

その理由は単純だ、会長の隣に・・・

「えぇと・・・代々木?」

あのサッカー部での一件以来だ。

「あ、はい、その節はどうも」

丁寧に挨拶までされた。

しかしここで思い浮かぶ疑問。

「な、なんで代々木がここに?」

「え、えぇとですね・・・」

「率直に言うと、一応彼女も生徒会役員だからだ」

あぁ、なるほど・・・て

「え、えぇ!?」

「せ、正確には会長秘書って形で・・・」

秘書って・・・。

「そもそも、いつ会長と代々木顔見知りに?」

「この前のサッカー部との一悶着の後、神田が改めて代々木に事情を聞いているところにちょうど居合わせてな」



「そこで会長に『サッカー部の監視を強化したいから入らないか?』て誘われたので・・・」

「誘われたので、て・・・」

誘う会長も会長だが、それを受ける代々木も代々木だ。

「まぁ、安心したまえ。戦闘に関しては俺が教えてあげたから」

「そ、そういう問題ですか?」

「でもおかげで、今回のテストで2階級上がりましたよ」

何故か楽しそうにいう代々木。

・・・そんなに嬉しいのか?

もっとも、俺も今回のテストで2階級のランクアップが出来たのは嬉しかったが。

「で、会長。まさかそれだけのために呼び出したわけじゃないですよね?」

「あぁ、実は・・・君には伝えておきたいことがあるんだ」

「え?」

急に会長の顔が真剣になった。

その顔からは、今までのサボってばかりいる会長とは思えない気迫を感じた。

「・・・な、何ですか?」

「とりあえず、待たせている人がいる。歩きながら大体のことを話そう」

そう言うと会長は踵を返し、公園の出口へと向って歩き出した。

それを見た代々木もついて行くのを見て、俺もそれを追った。

「上野君、君は不思議に思ったことがないかい?」

「え?」

公園を出たところで、いきなりそう切り出された。

「未来から来たサイボーグ、あいつらはどうやって来たかは知らない。だが、問題は異星人だ」

「・・・どういうことですか?」

話の流れが、見えそうで見えない。

「何で、わざわざこんな場所を襲撃してくる?利益なんてまずないだろう?」

「えぇと・・・この地球の土地が欲しいとかは?」

授業ではそういう風に聞いたことがある。

「それなら、もっと別の方法があるはずだろ?襲撃なんて無闇にすれば、その土地の価値を下げるだけだ」

「あ、なるほど・・・。じゃあ、本当はどういう理由で?」

「そこが本題だ」

「・・・え?」

どういうこと?

「襲撃するからには、何かしらの理由があるはずだ。だが、これといって理由が見当たらない」

「つまり・・・何を意味してるんですか?」

「・・・地球人の誰かがこの星を襲うように異星人に仕向けている、としたらどうだ?」

「!!?」

その発想はなかった。

だけど、言われてみれば否定は出来ない。

しかし、ここで1つの疑問が浮かぶ。

「だ、だけど何でそんな話を俺に?」

そんな重大な話を、わざわざ俺1人だけ呼び出してやらなくても会議とかで言えば・・・。

「まだ正確な情報でないから、あまり大きく公言はしたくないのが1つ。もう1つは・・・」

「も、もう1つは・・・?」

「君に言えば、この件に関して断れなくなるだろう?」

「・・・・・」

そういうことか。

いつもながらのブラックストマック、ね。

「でも、何でそんなことに会長が関わってるんですか?」

「ん〜、何でって言われても、ただ単に就職先がそういうやつらをぶっ潰す組織だから、かな」

「・・・へ?」

「と、着いたな」

そう言われて来たのは、1棟の廃ビル。

その入り口付近に、男の人が2人いた。

「どうも、お待たせしました」

会長が気軽に挨拶をした。

「遅いぞ」

「もしかして、見捨てられたかって思ったぜ」

1人は少しキレ気味に、もう1人は冗談交じりに応えた。

この人たちは一体・・・?

「紹介する、俺が卒業後お世話になる組織で既に活躍している・・・」

「悠矢だ、ヨロシク」

「雷電って言うんだ、よろしく」

「ど、どうも、上野って言います・・・よろしくお願いします」

いきなり自己紹介する形になったが、これから何が始まるんだ?

「・・・池袋、彼はこれから何をするか知っているのか?」

俺のリアクションを見てそう思ったのだろう、雷電さんが会長に聞いた。

・・・あまり聞かないから忘れがちになるけど、会長の苗字って池袋なんだよな。

「いえ、何も」

「ハァ、相変わらずだな、お前は」

「どうもです」

「いや、褒めてないからな」

相変わらずの会長の受け答えと、それに半ば呆れる雷電さん。

・・・ここは俺から聞こう。

「で、俺は一体何をすれば?」

「え?ああ、それなんだが・・・」

そう答えながら悠矢さんと雷電さんは目の前の廃ビルを見上げた。

「地球人の誰かが裏切り行為をしていることは池袋から聞いているだろ?」

「あ、はい・・・」

「で、この廃ビルにそのうちの一派が潜伏していることがこの前分かった」

「え?」

何となく予想は出来ていたけど、まさか本当にそんな展開になるとは・・・。

「んで、今から俺たちはそいつを取り押さえる、ていうわけだ」

手短に悠矢さんから説明を受けた。

そして、自分が会長にリストとIDを持ってくるよう言われた理由も理解出来た。

・・・もうここまで来たら、逃げ出せるわけない。

腹を括ることにしよう。

「・・・作戦はどんな感じなんですか?」

「お、乗り気になってくれたみたいだね」

微笑みながらそう応えた雷電さんは、懐から何やら棒状の物を取り出した。

「君たちが来る前に、この廃ビルを囲む形で簡易式のフィールド発生器を取り付けた」

「フィールド発生器?」

俺の使う『両腕部Iフィールド発生器』と同種なのだろうか。

「それを発動させれば、相手は逃げられなくなるし、周りにも被害は出ない」

「あ、なるほど」

効力を考えると、理屈はすぐ理解出来る。

それに周りを避難させることが出来ないことを考えると、それが妥当な手段だ。

「おそらく、前半で大勢に一気に襲われるだろう。そこは俺と悠矢で抑えるから君たち3人で先に進むんだ」

「了解しました」

「よし、じゃあとりあえずログインするぞ」

その悠矢さんの一声と共に、俺たちは一斉にログインした。

ログインが完了し、戦闘体制が整った俺たちは

「よし、行くぞ!」

と言う悠矢さんについて行き、そのまま目の前の廃ビルに駆け込んだ。

中は特に何も無い・・・いや、何も無さすぎる、そんな異質の空間が広がっていた。

俺がそれに気を取られている間にアラームが辺りに急に鳴り響いた。

「・・・いきなりか」

そう呟きながら、雷電さんが先ほど取り出した棒状の物を構えた。

そしてその先端を親指で押した。

すると、今入ってきた出入り口から見える外が何やら赤い壁で閉じられた。

どうやら、これが例のフィールドなんだろう。

と、俺が思っている間に、人型のロボット達がゾロゾロと現れた。

「早速来たな・・・」

何やら微笑みながら、悠矢さんと雷電さんが武器を構えた。

悠矢さんは、3本のクローが目立つ武器を。

雷電さんは、何やらデカい長距離砲を。

「よし、予定通りここは俺らが抑えるから、お前らは先に行け!」

「わ、分かりました!」

言われるがまま、俺たちは上を目指して目の前の階段を駆け上った。



上野たちが上に行くのを見届けた悠矢と雷電は

「よし、行くぞ!」

「OK!」

一斉に戦闘に入った。

まず、悠矢が持っていた武器を思いっきり前に突き出した。

すると、クローが何やらワイヤーのようなものに繋がれながら飛び出した。

クローはそのまま閉じた状態でロボット1体を見事に貫通。

そしてクローはいきなり開き、悠矢はそれをワイヤーを操作して戻そうとした。

するとクローはと貫いて作った穴から抜け出せず、引っ掛かってしまった。

だがこれが悠矢の狙いだった。

「いけぇぇぇ!!」

そのままロボットをまるでハンマーのように振り回した。

これによりロボットとロボット同士が激しく衝突。

次々と粉々に壊れていった。

悠矢が操る武器、それは貫通捕獲機能搭載クロー『ピアサーロック』である。

一方、背中側にいる雷電は

「オラァッ!!」

と気合を入れると共に長距離砲の引き金が引かれると、砲口から巨大な光線が発射された。

光線はロボット達を次々と巻き込み、破壊していった。

その威力は、目黒の『ジャンクション』を遥かに凌ぐものを持っていた。

そして壁をも貫通、そのまま外に出ようとしたが、それはフィールドが抑えた。

その光線を放った長距離砲の名は、破壊力特化型砲『超高インパルス長射程狙撃ライフル』。

「ふぅ・・・」

砲身の放熱のため放たれた蒸気を見つめながら、雷電は一息ついた。

もう一方の悠矢も、捕まえていたロボットを壁に激突させて粉々に砕いていた。

そして開放されたクローをワイヤーを巻いて戻していた。

「・・・雷電」

「あぁ・・・予想していたより数が多いな」

2人の今の攻撃だけで相当のロボットが破壊されたのにも関わらず、ロボットは減る気配がなかった。

それを見て雷電は

「・・・ふ」

顔から笑みをこぼした。

「おい、何が嬉しいんだ?」

そんな雷電に悠矢がつっこんだ。

「いや、ただ楽しいからさ、それが何かあるか?」

「・・・ったく、相変わらずだな。俺は逆にかったるいぜ」

大きく息を吐きながら、悠矢は呆れた。

「こういうのはな、楽しまなきゃ損だぜ」

「へいへい、分かった分かった。どっちにしろ今は・・・」

そんな会話をしている間に、下手したら3桁はいるのではないかというロボットが2人を囲んでいた。

「こいつらをぶちのめすことだ!」

「言われなくても、そのつもりだぜ!」

そして2人は戦闘を再開させた。



「ただいま帰りました・・・」

玄関のドアを開けながら、大塚は自宅に入った。

その玄関は、とても一般的とは言い難い、広大なものだった。

「・・・・・」

しかし、その広大さから大塚の声は誰の耳にも入らなかった。

とりあえず靴を脱ぎ、自分の部屋に行こうとした時だった。

「お、帰ってきたか、聖」

玄関から見えるいくつもの扉のうちの1つから、大塚の父親が開けて顔を出した。

「はい、遅くなって申し訳ありません」

普段の学校での大塚とは思えないほど、礼儀正しい返事をした。

「うむ、それなら別にいい」

口元に蓄えたヒゲに触れながら、そう答えた。

「そうですか・・・」

大塚はそう言ってその場を離れようとした。

「だが、あの男と未だ付き合っているのは見過ごせん」

「・・・・・」

その言葉に、大塚は足を止めた。

「お前がどういう生き方を選ぼうと、私は黙認してきた。だが、最終的にはこの家の跡取になることを忘れるな」

大塚の家は、先祖代々から続いてきた名家。

そのため、小さい頃から様々な英才教育を受けてきた。

だが、それにも関わらずエンドレスバトラーになるための『百花高校』に入学。

それ以来、大塚は家族を始め親戚からもいいように見られていない。

わざわざそんな道を何故選んだのか、真実は大塚以外の誰も知らない。

そのためもあってか、この父親からの言葉にも



「私は私のやり方で生きていきます。口出ししないでください」

と、平然な態度を取った。

「・・・ふむ、そうか」

それ以上、父親は何も言おうとしなかった。

大塚はそれを見て、その場を後にした。



「ハァァァァ!!」

前方から襲い掛かってくるロボットに対して、俺は『遠雷』で雷撃を放った。

この雷撃を避け切れなかったロボット達は、たちまち破壊されていった。

「流石だな、上野君。転校初日の時に比べて大分成長している」

俺の後ろから会長の声が聞こえてきた。

・・・イヤなことを思い出させてくれる。

「上野先輩、やっぱり凄いですね」

すぐ傍から聞こえてくる代々木の声。

・・・嬉しいんだが、喜ぶほどの余裕が無い。

今俺達は最上階を目指しているわけだが、俺は先頭で駆けている。

会長に仕向けられたというのもあるが、俺としてもその方がやりやすい。

『遠雷』だと近づかれると防御出来ない分不利。

『両腕部Iフィールド発生器』だとどうしても接近戦、それも防戦主体になるため状況的に向いていない。

そう考えると、こうやって

「どけえ!」

雷撃で迫ってくる相手を押しのけていく。

それが一番手っ取り早い方法だ。

まだ最上階での戦闘があるが、そこは会長や代々木に任せることにしよう。

俺はただ、目の前に活路を開くだけだ。

「・・・ん?」

新たな階に到達したところで、思わぬことになった。

今まで3体ぐらいのまとまりで攻めてこられてたが、今目の前には15体ほどで迫ってきていた。

あれをいちいち雷撃で破壊するのは手間がかかる。

それなら・・・

「『遠雷』、『JSAモード』起動!」

発動と共に、手の『遠雷』の激しさが増した。

だが、以前異星人の巨大ロボットにやったようにこれを振り下ろすという使い方は出来ない。

天井が低い屋内じゃ威力が半減してしまう上に、それでこいつらを一掃出来るとは思えないからだ。

だから俺は両手を合わせて、『遠雷』を縦ではなく横に伸ばした。

そしてそれを思いっきりなぎ払った。

この一撃で、目の前にいた相手は例外なく両断。

再び、俺達の前に活路が開かれた。

「よし、行きましょう!」

俺は再び後ろの2人を先導する形で走り始めた。

あの時とは違い、『JSAモード』を使ってもまだまだ底に尽きそうにない。

むしろ、もう1発か2発はやっても大丈夫だ。

・・・あれから本当に成長したんだな、俺。

「・・・お?」

更に新しい階に上がったところで、また人型のロボットがいた。

しかし、いるのは1体だけ。

「・・・上野君、気を引き締めた方がいいぞ」

突然会長が口を開いた。

「え?」

「アイツは・・・最新型だ」

「最新型?」

言われてみると、今まで見たこと無い型だ。

ボディを覆う金属も、ピカピカで新しい。

だけど・・・倒すことに変わりは無い!

「ハァ!」

まずは『遠雷』で雷撃を一閃。

こいつが直撃すれば・・・。

「え?」

雷撃がロボットの前で突然途切れた。

あの現象、俺はよく知っている。

「・・・フィールド?」

「そう、あの最新型はフィールド搭載仕様。エネルギー系の攻撃はほとんど無効化される」

「な!?」

そういうことは早く言って欲しい・・・。

と、そんなやり取りをしているうちにロボットが腕に搭載しているマシンガンを撃ってきた。

だけど、あの銃口から放たれているのは・・・。

ならばここは久々にこいつだ!

「ビームコーティング!!」

俺の前で弾丸が消えていく。

あのマシンガンから放たれているのは実弾ではなくビーム。

だから俺の『ビームコーティング』である程度なら防げる。

ここ最近『両腕部Iフィールド発生器』を使うようになってから、こいつを使う機会が一気に減ってしまった。

と、その『ビームコーティング』が度重なるビームの弾に耐え切れなくなってきた。

「危ない!」

俺の一言と共に、俺を含めて全員その場から離れた。

あのまま行ったら、あの弾幕に直撃を受けただろう。

フィールドを持った相手には、その内側に入り込むのが一番だ。

だけど、あの弾幕を掻い潜りながら近づくのは難しい。

俺も実態を持った攻撃が出来ればいいけどそれはない、何か他に手はないだろうか・・・。

「上野君、1つヒントをあげよう」

後ろから会長が声を掛けてきた。

「え?」

「あいつは、衝撃を受ければ一瞬の間だけフィールドが停止する」

「つまり・・・その間なら俺の雷撃も通じると?」

「その通り」

確かに嬉しい情報だが、その衝撃を与える方法が見つからない・・・どうしたらいいんだ?

「・・・う、上野先輩」

さっきから黙っていた代々木が声を掛けてきた。

「な、何だ?」

「・・・私がどうにかします」

「え?でも・・・」

突然の志願に、少しだけ戸惑った。

「私の武器なら、その衝撃を与えられます」

・・・ここは、それに賭けるしかない、か。

「よし、頼んだぞ」

「ハイ!」

すると代々木は武器を具現させた。

だが・・・それは見た目武器ではなかった。

代々木の体を覆ってしまうかと思うほど大きな・・・盾。

その名は、運命系攻防兼用大盾『自由の代償』。

「行きますよ!」

「あ、ああ!」

代々木は盾の端を持ち、それを思いっきり投げ飛ばした。

その盾がロボットに当る時間を推測し、それを見計らって俺も

「ハ!」

雷撃を放った。

しかし・・・ロボットがその盾の攻撃を簡単に避けた。

そして雷撃も、ロボットの目の前でフィールドにより途切れた。

このままでは、またさっきの二の舞になってしまう。

そう思った時だった、盾が途中でUターンし、ロボットの後頭部に直撃した。

直前に代々木は腕を手前に引く動作をしたことから、おそらく狙ったのだろう。

そしてフィールドが停止したのか、雷撃がそのまま突き進みロボットに直撃、見事にロボットは爆発した。

「ふぅ、何とかなったな、代々木」

そう言って振り返ると、代々木は戻ってきた盾を受け取り

「え、わ、ワワワ!?」

その勢いに翻弄され、体を回転させながら転んだ。

「だ・・・大丈夫か?」

「は、はい、なんとか・・・」

・・・本当か?

だけど、今はそんなことを気に掛けている場合ではない。

とにかく、道が目の前に開いた以上・・・。

「行きましょう、先に」

「あぁ、そうだな」

俺達は再び最上階を目指した。



「テスト、お疲れー!」

「あぁ、お疲れ」

「・・・おつかれ」

「お、お疲れ様です」

『百花高校』の近くに構える、とある小さな食堂。

今ここに神田、大崎、品川、五反田の4人がいた。

しかし、他に周りにはいない。

大崎の実家であるこの食堂で、4人はほぼ貸切状態で使っていた。

そして、4人の目の前には大量の料理が並べられている。

ほとんどがこの日の残り物であるが、それに対して文句を言う者はいない。

「いやぁ、今回もお前のおかげで助かったぜ、神田!」

隣に座る神田の背中を叩きながら大崎は言った。

「気にするな。こうやって美味いメシ食わせてくれるなら、問題ない」

「全くだ」

神田、大崎の向かい側で静かにコップの中のジュースを飲みながら品川も賛同した。

「で、でも僕も良かったんですか?」

一人だけ1年の五反田は明らかに委縮していた。

「問題ないさ。上野が来れなくて残念だが、こういうのは人数が多い方が良い」

「そ、それなら良いんですが」

そうは言われても、五反田のそれが解けることはなかった。

「ところで神田、今日はアイツと一緒じゃなくていいのか?」

「・・・そういうお前はどうなんだ?大崎」

大崎の質問を神田は上手くかわした。

「俺らは大丈夫さ。あっちはあっちで盛り上がっているだろうし」

「みたいだな」

「で、結局お前らは大丈夫なのか?」

答えた大崎は再び質問した。

「あぁ。アイツ、門限が厳しいしな。それに、家まで送るとオヤジさんがうるさいし」

そう言いながら、神田は少し寂しい顔を浮かべた。

「お前って、本当に苦労人だな」

まるで他人事のように品川が呟いた。

「俺もそう思う」

何のためらいもなく、神田は答えた。



「上野君、ここを上れば最上階だよ」

「はい!」

やっとここまで来たか。

ここまで、一体何発の雷撃を放ったことか・・・。

でも、まだまだ撃とうと思えば撃てる。

つまり、最上階に誰かいようと対処は出来るはずだ。

そう考えながら、俺は階段を上りきった。

すると俺の目の前には広い空間と、そこにポツンと佇む人影が1つ確認出来た。

(なんだ、アレは・・・)

さっきまでとは違って電気の灯りはなく、人影の判別には月明かりが必要だった。

しかし、今は生憎月は隠れていた。

その僅かな光を元に、俺は必死にそれを見つめた。

と、次の瞬間、突然人影が俺達の方へ駆けてきた。

「クッ!」

俺はそれに対応する形で、雷撃を放った。

しかし・・・先ほどのロボットと同じく雷撃が途切れた。

つまり・・・

(フィールド!?)

俺がこう戸惑っている間に、人影は俺達の目の前まで来ていた。

更に、パンチのモーションまで入っている。

このタイミングじゃ、回避も防御も満足に行うことはできない。

その時だった、相手が振り下ろした拳を代々木が俺との間に割って入り、『自由の代償』で受け止めていた。

『自由の代償』からはその衝撃を物語る轟音を、代々木の表情も歯を食いしばる苦痛の表情を浮かべた。

「代々木、ナイス!ウェポンチェンジ!」

代々木に礼を言うと共に、武器を『遠雷』から『両腕部Iフィールド発生器』に変えた。

今代々木が止めてくれているから、すぐには動けないはず。

だから、相手の側面に回りこみ、フィールドを展開させてから

「オラァ!」

思いっきり殴った。

だが、それを軽く跳躍されて避けられてしまった。

しかもそのまま、会長の方へと向っていった。

「会長!」

思わず俺は叫んだ。

だが、その心配はいらなかった。

相手の振り下ろした拳を、会長は軽々と受け止めたのだ。

それで諦めたのか、相手は再び跳躍。

そして俺達から少しばかり距離をとった場所に着地した。

ここで、ようやく月が雲から姿を見せ、月明かりで相手を映し出した。

すると、相手は明らかに”人間”だというのが分かった。

俺がそれに戸惑いを見せていると、口を開いてきた。

「久しぶりだな、池袋」

・・・池袋、たしか会長の名前だったな。

すると会長も口を開いた。

「あぁ、久しぶり、新橋」

「・・・知り合いですか?」

お互いの名前を呼び合うんだ、そう考えるのは当然だ。

「あぁ、あいつは新橋。元『百花高校』の学生で・・・元生徒会役員だったやつだ」

「え!?」

アイツが・・・ウチの元生徒?

「そんなこともあったな、懐かしいぜ」

笑みを浮かべながら新橋が言ってきた。

「な・・・何で『百花高校』を辞めて、こんな組織に!?」

真っ先に浮かんだ疑問を俺はぶつけた。

「何で?簡単なことだ」

そう言うと、更に笑みを浮かべて答えてきた。

「これだけの力が簡単に手に入るんだぞ?これさえあれば、あんな所に通う必要なんてねえだろ?」

力を込めて開いた片手を見つめながら、自信満々に言われた。

・・・何故かは分からないが、はっきり思えた。

(何を考えているんだ、こいつは?)

エンドレスバトラーは、『人を守るための力』だと聞いているし、俺自身もそう思っている。

だが、こいつはなんだ?

その力に溺れて、色んなものを見失っている。

よくそれで、『百花高校』に入ろうなんて考えたものだ。

「・・・新橋、お前忘れてないか?」

会長が再び口を開いた。

「何?」

「その力を手に入れたのに、俺にボコボコにされたろ?」

「!!!」

新橋の表情が一気に豹変した。

どうやら、触れられたくない過去だったんだろう。

「ゆるさねえ・・・お前は殺さねえと気がすまねえ!!」

「いいだろう。どうやらここの設備とかは既に運び出されてるらしいし、それにお前もそうしたくて残ってたんだろ?」

言われてみれば、ここまで来る間に相手をしていたロボット以外に何か見た覚えはない。

既に本来の目的の物は移動させられたと考えるのが妥当だ。

すると会長は俺達の前に出て、武器を出現させた。

だがそれは・・・武器には見えなかった。

形状はただの球、それが会長の目の前で浮かんでいる。

「上野君、代々木さん」

「は、はい」

「・・・2人とも手を出さないように」

「え?」

「じゃなきゃ・・・無事を保証出来ないからね」

すると次の瞬間、浮かんでいた玉が会長の胸の中に飛び込み、まるで水面に沈み込むかのように溶け込んだ。

そして新橋に向って一気に駆け出した。

「イクゾーーッ!!!」

一方で平静を失っている新橋も武器を出現させて駆け出した。

その武器は、柄の両端からビームの刃を出現させた剣。

二対一刀破壊力重視接近兵器『エクスカリバー』。

まず2人が接近しあった直後に会長の拳と新橋の剣がぶつかりあった。

そしてその衝撃が周りに大きく伝わった。

双方とも、破壊力は凄まじいものだ。

あの『エクスカリバー』、似たような形状の武器はたくさんあるが、その中でもトップクラスの威力を持つようだ。

と、会長はすぐさま離れ、再び駆け出した。

会長の動きは新橋より圧倒的に速く、翻弄しているのは明らかだった。

「ク、ナメルナーー!!」

すると新橋は柄を2つに分け、二刀流で構えた。

身軽になった新橋は、そのまま会長目掛けて斬りかかった。

『エクスカリバー』は会長に命中・・・したかのように見えた。

だが、その会長の姿は斬られた瞬間に幻かのように消えてしまった。

「ナ!?」

その現象に驚く新橋。

次の瞬間、いつの間に新橋の後ろに回りこんでいた会長が頭に飛び蹴りを見舞った。

その衝撃で壁際まで吹き飛ばされる新橋。

そしてそれを見ながら平然と着地する会長。

だが、その会長の目には意識があるようには見えなかった。

と、ここでやっと会長の武器・・・あの玉の正体が分かった。

未来予測型戦闘支援ツール『ZEROシステム』。

見る限り、未来予測だけでなく、身体能力も飛躍的に上昇させる武器だろう。

でなきゃ、あそこまで翻弄できる説明がつかない。

(・・・上野君)

頭の中に突然、会長の声が聞こえてきた。

おそらく、ログインしていることにより使える『プライベートメッセージ機能』で通信してきているんだろう。

(会長?)

(俺がギリギリまで引きつけるから、トドメを任せたい)

(・・・え?)

予想もしなかった。

まさかそんなことを頼まれるなんて・・・。

(な、なんで俺が?)

(心配はいらない、ちょっと考えがあるんだ)

・・・考え?



「へぇ、田町さんと大崎さんてそういう関係だったんだぁ」

「あれ?知らなかったぁ?」

上野の部屋の中で、目黒、田町、渋谷の3人の宴は続いていた。

既に空き缶がいくつも転がっていて、そこから3人がどれだけ酔っているかは誰でも容易に想像できた。

「知らなかったですよ、全く」

「そういう渋谷ちゃんも、五反田君と仲良いじゃない。そういうのじゃないの?」

「ち、違いますよ!た、ただアイツが近くにいるというか・・・」

五反田とのことを渋谷は強く否定した。

「そ、そういえば、目黒さんはそっち方面のことはどうなんですか?」

「え、私?」

渋谷からの問いに、酔いが誰よりも回ってボォっとしている目黒が反応した。

「そういえばそういう噂聞いたことないけど、どうなの?目黒ちゃん男子に人気あるでしょ?」

「そ、そんなことないですし、そもそもそういう話もありませんよ」

目黒も渋谷と同じほどに否定した。

「そう〜?きっと何かあると思うんだけど〜」

意地悪そうに田町が追求した。

「本当ですって」

「そうなんですか〜」

渋谷も田町に便乗した。

すると、

「ほ、本当ですって・・・」

突然目黒は涙を流し始めた。

「ち、ちょっとどうしたの、目黒ちゃん!?」

「な、何かあったんですか?」

流石に酔いが回っている2人も、これには動揺を隠せなかった。

「だ、大丈夫です・・・」

「大丈夫って・・・」

「とてもそうには見えませんよ・・・」

とにかく2人は目黒を心配した。

「本当に大丈・・・ウッ!」

突然目黒は口を押さえた。

「・・・あ、まさか!」

この状況に田町はいち早く察し、そのまま目黒を立ち上がらせた。

それを見て渋谷も察し、トイレへ向ってドアを開けた。

「目黒さん、本当にお酒弱すぎ!」

「ご、ゴメンナサイ・・・ウッ」

「はいはい、はやく歩いて!」

そう言いながら田町は目黒を歩かせた。



(・・・わ、分かりました、やってみます)

(頼んだよ)

『プライベートメッセージ機能』でのやり取りが終わると同時に、新橋が立ち上がり、

「ウォォォォォ!!」

再度飛び掛ってきた。

すると会長も同時に駆け出したかと思うと、すぐさま行動を表した。

「ナ!?」

新橋は戸惑いを隠せなかった。

会長が起こした行動、それは新橋の周りを高速で移動することだ。

その速さは、いくつもの残像を残すほどのものだった。

この調子だと、俺が行動を起こせばいいのは・・・

(あと5秒・・・4・・・3・・・2・・・1・・・)

その瞬間だった。

会長の姿が残像ごと突然消えた。

それに対して新橋は動きを止めた。

(今だ!)

俺は一気に駆け出した。

そして新橋の張っているフィールドの内側に飛び込み、両腕一緒に

「フィールド収束!」

させ、まずはそのまま左の拳を振るった。

だがそれを止めようと新橋も右側の『エクスカリバー』を振ってきた。

その双方が衝突し動きを止めている間に、俺は右腕のフィールドを更に収束させ、思いっきり放った。

「必殺!シャイニングフィンガー!!」

この渾身の一撃に対して新橋は

「ナメルナーー!!」

もう片方の『エクスカリバー』を振り下ろして対抗してきた。

普通にぶつかれば、今の左手のように動きを止めるだけになるだろう。

だけど、この収束している状態なら訳が違う。

『エクスカリバー』から発せられるエネルギーの集まりを打ち消しつつ、収束したフィールドを保っていた。

そしてその右手を思いっきり新橋にぶつけた途端、衝撃音と共に吹き飛ばした。

手応えは確かにあった・・・だがそれにも関わらず、難なく着地された。

おそらく、『エクスカリバー』と衝突した際威力を殺されたのだろう。

そんな中途半端な技を受けただけなのにも関わらず、新橋の顔からは

「・・・・・」

くやしさを浮かび上がらせていた。

「これで分かっただろう?」

この様子を、少し離れた場所で見ていた会長が言葉を発した。

「どういうことだ?」

「彼はこう見えて、今年ウチに転校してきたばかりだ。そんな彼にやられた、意味は分かるだろう?」

「クッ」

「結局、力を追求したところで、得られるものなんてその程度なんだよ」

「・・・・・」

会長の言葉を受けてから少しの沈黙をおいて、新橋が再び口を開いた。



「だが・・・あの時力があればあの人は・・・」

「お前・・・やっぱりあの時のことを引きずっているんだな」

「・・・・・」

会長の言葉に、無言で回答する新橋。

・・・『あの人』て、一体誰のことだ?

「気持ちは分からなくはないが、もうあの頃には・・・」

「知っている!知っているさ!!」

いきなり新橋から強い反論が示された。

「だから・・・俺はそうさせないために力を求めている、それの何が悪い!」

「・・・それ自体は悪くない。だけど、方法が間違っているんだよ」

たしかに会長の言うとおりだ。

どこぞの訳の分からない組織に属してまで手に入れる力なんて、いいわけがない。

「・・・やっぱり、お前には分からないようだな」

すると、新橋はこちらに背を向けた。

「どこに行く?」

「決まっているだろ?帰るんだよ」

「これだけのことをして、帰らすと思うか?おとなしく来てもらうぞ」

そう言って会長は新橋に歩み寄ろうとした。

「じゃあな・・・もう会うこともないだろうがな」

新橋の一言と共に急に天井が開き、新橋の元に人一人が乗れそうな飛行機が飛んできた。

それに乗るとすぐに飛んで行った。

この建物を囲んでいるフィールドも、上には張られておらずそこから逃げることが可能だったみたいだ。

「・・・逃げられましたね」

「あぁ、準備がいいな」

でも、もう会うことがないってどういうことだ?

そう疑問に思っていると、急に建物が震えだした。

「な、なんだ?」

どう考えてもイヤな予感しかしない。

「どうやら自爆装置が発動したみたいだな」

「えぇ!?」

自爆装置って・・・それなのに何で会長はそんな冷静でいられるんだ?

「は、早くだ・・・脱出を!」

それとは反対に動揺を隠し切れていない代々木。

「大丈夫、すぐ迎えが来るさ」

「え、迎え?」

疑問を感じた直後、突然床下から緑色の光線が飛び込んできた。

更にその直後、何やら黄色い3本のクローがワイヤーに繋がれながら上がってきて床をガッチリ掴んだ。

あのクローは確か・・・

「よし、降りるぞ」

そう言うと会長がワイヤーを伝って降り始めた。

「は、はい!」

俺と代々木もそれに続いて降りた。

降りた先には、悠矢さんがあの武器を頭上目掛けて構えていた。

その武器の先端部分から、ワイヤーが繋がれている。

やっぱり、あのクローは悠矢さんの物だったのか。

「よし、脱出だ!」

悠矢さんの素振りを見る限り、どうやら今の状況が分かっているようだ。

「もう出口の部分だけフィールドを解除しているから、そこから出るぞ!」

雷電さんも仕事が早い・・・とにかく、早く脱出だ!



「今日は済まなかったね、突然呼び出してしまって」

「い、いえ、別にいいですけど・・・」

爆発で跡形もなくなった廃ビルから少し離れた路地で、歩きながら会長と話していた。

横には代々木がいるが、悠矢さんと雷電さんは報告しに行くとかでどこかに行ってしまった。

一応、無事に終えることが出来たが・・・

「会長、色々聞きたいことがあるんですが・・・」

この1時間ちょっとの間に、色々と疑問が出来た。

流石にこれを放置しておくわけにはいかないな。

「だろうな」

それを分かっているのか、会長も即答してきた。

「じゃあ・・・」

「来月、生徒会の夏合宿があるだろう?」

「あ、はい」

そういえば、この前から定例会でもその話題が出ていたな。

「俺も遅れはするが、ちゃんと参加する予定だから、その時ゆっくり説明するさ」

「わ、分かりました・・・」

会長のいう参加するという言葉はイマイチ信用出来ないが、今はそうするしかないだろう。



「あ、しまった・・・」

部屋の前まで来て思い出した。

すっかり忘れてたな、部屋にあの3人を放置していたことを・・・。

とりあえず、玄関のドアを開けた。

「ただいま・・・」

開けた先には、3人の姿はなかった。

残っていたのは、片づけられていない宴会の跡。

別にそれを期待していたわけじゃないが、これは酷い。

でも、まだ何か忘れているような・・・。

その何かを必死に思い出そうとしていたところ、浴室からの水の音で思い出した。

「そうだ、お湯入れっぱなしだ・・・!」

俺は焦って風呂場に入った。



「・・・はぁ、私何やってんだろう・・・」

目黒は1人、自分のやったことに対して自己嫌悪に陥っていた。

「もしかしたら・・・あの人が・・・」

先の会話の中で思ってしまったことに、目黒はひたすら自分に言い聞かせた。

「・・・そんなことを言ってられない、ちゃんと前を向かないと!」

そう言って浸かっていた浴槽から思いっきり立ち上がった。

ちょうどそのタイミングで、浴室のドアが突然開かれ、上野が入ってきた。



「あれ?渋谷ちゃん、なんでここに?」

上野のアパートからそう離れていない場所にある自動販売機の前で、田町と渋谷が遭遇した。

「あ、田町さん。目黒さん用のジュース何本か買おうと思って」

「なるほど。でも、それじゃ今は目黒ちゃん1人?」

「えぇ、とりあえず今はお風呂に入ってもらってます。あんな汚れた服でいるのはアレだったので」

「なら、早く着替えさせてあげよう。家から私の服、持ってきたから」

「はい、それにしても上野さんがお風呂の準備していてくれて助かりましたよ」

「そうね。でもいつになったら帰ってくるのだろう」

そう会話を交わしていた最中に

「キャーーーーーーーー!!!」

「ご、ゴメン!!」

どこからともなく、そんな声がした。

「・・・何か聞こえた?」

「ん〜・・・聞こえたようなそうでないような・・・」

その後、2人は戻ってからいなかった間に起きた出来事を聞くことになる。