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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
8月編

「引率だけでなく運転までしてもらって、どうもありがとうございます」

「気にするな、これも仕事だしな」

「それに、お前達のためだ。遠慮なんていらないぞ」

運転する日晴先生と助手席に座る蝶子先生、その後ろに座る神田さんが会話を交わしていた。

今俺たち生徒会は、3泊4日の夏合宿のため学校が用意してくれたマイクロバスで移動している最中だ。

場所はなんでも日本海側沿岸とからしく、移動だけで4、5時間ほどかかるらしい。

なので、全員思い思いの時間を過ごしている。

大塚さんと品川さんは、先ほどまで起きていたけど今は寝ている。

何でも、夏休みの宿題を全て仕上げるために夜遅くまで起きていたらしく、あまり寝ていないのだとか。

その2人から少し離れたところでは・・・

「おい、そこは鬼縛りだからスペードのQしか出せねえぞ!」

「そもそも、イレブンバックですからお流れですよ」

大崎さんに田町さん、それに渋谷と五反田が4人で大貧民をしているようだ。

・・・場所によっては大富豪というようだが、気にしないでおこう。

そんな名前そのものが違う場合があるこのゲーム。

だから地方ルールも存在するのに、ルール確認せずに始めるから混乱が生じるんだろう。

んで、俺の隣では・・・

「・・・・・」

目黒が黙って窓側の席から外の景色を眺めていた。

先月の風呂の一件以来、目黒とは会話を交わしていない。

夏休みに入って会う機会が少なくなったというのもあるが、生徒会の定例会議などの時もこれだ。

一応声を掛けようとしてはみるが、

「あとどれくらいで着くんだろうな?」

「・・・2時間はかかるんじゃない?」

「そ、そうか。まだまだ時間がかかりそうだな」

「そうね・・・」

・・・こんな感じで非常に気まずい。

一応、事情を知る田町さんや渋谷には合宿前に相談してみたが、

「あの時はタイミングがちょっと悪かっただけ。気にしない気にしない♪」

「時間が解決してくれますよ、きっと♪」

と、まるで相手にされない。

・・・この合宿中、ずっとこんな空気を感じなきゃいけないと考えると、正直気が重くなる。



「よし、荷物置いて少し休んでから砂浜に集合な」

「オーケー♪」

約4時間の長旅の末、やっと宿に着いた俺たち。

どうやら、部屋は4つ取っているようだ。

1つは男部屋、もう1つは女部屋、残り2つを蝶子先生と日晴先生がそれぞれ使うことになっている。

とりあえず、準備だったな。

事前に聞いた話によると、この合宿の目的は実戦経験を積むことがメインらしい。

1学期のことを考えても、普通に『百花高校』の生徒として過ごすよりも戦闘を多くこなす必要があるのはよく分かる。

・・・でも、こんなところで本当に経験が積めるのか?

周りは海とちょっと大きな道路がある以外は、あとは民家がいくつかある程度だ。

そういえば、コンビニも見なかったような・・・。

「上野、ちょっといいか?」

そんなことを考えていると、神田さんから声を掛けられた。

「あ、はい、何です?」

「お前、昼型と夜型どっちだ?」

「・・・え?」

突然の質問に、正直戸惑った。

「お前の場合、どっちのシフトに入れても大丈夫だからな。で、どっちだ?」

・・・そういえば、この合宿は昼の部と夜の部で分かれているって言ってたな。

何で俺はどっちでも大丈夫なのかは疑問だが、とりあえず正直に

「どちらかといえば、昼型ですね」

「そうか・・・とりあえず、昼型のシフトに入れておくな」

「はい、お願いします」

部屋を出ていく神田さんを見送る形でそう声を掛けた。

・・・この合宿も一筋縄ではいかない。

何故かは分からないけど、そう直感で思った。

と、既に俺も準備が出来ている、のんびりしているわけにはいかない。

そう思いながら部屋を出ると、廊下で目黒とばったり会った。

「お、目黒も行くのか?」

「・・・うん」

それだけ返事をすると、目黒は振り返ってその場を離れようとした。

相変わらず、不機嫌であることには変わらないようだ。

どうしたものか・・・と考えていると、目黒のポケットから何か紙が一枚落ちるのが見えた。

「お、おい目黒、何か落としたぞ」

声を掛けながらそれを拾うと、それは一枚の写真だった。



「か、返して!」

詳しく写真の中身を見る暇もなく目黒はそれを強引に取り返した。

「ご、ゴメン」

「・・・こっちこそ、ゴメン」

それだけ言い残して、目黒はその場を去った。

だけど、あの写真に写っていた人って誰なんだ?

一瞬だけど、目黒と長髪の大人びた女性が一緒に写っているということぐらいは分かった。

でも、俺の知っている限りあのような人と目黒が知り合いという話は聞いたことがない。

・・・考えるだけ無駄みたいだな、とにかく今は行こう。



「よし、全員揃ったな」

会長がいないので、今日も指揮は神田さんが執っていた。

「俺は夜の部に回るから、昼の部は品川の指示で動いてくれ。夜の部のメンバーはこれから軽く模擬戦だ」

そういうと、夜の部のメンバーが神田さんの方へと行った。

行ったのは神田さんを始め大崎さん、大塚さん、渋谷の4人だ。

「さて、じゃあ俺たちも始めるぞ」

指揮を任された品川さんが話し始めた。



(上野、そこから300m左前方に目標発見、射撃を頼む)

(了解です)

品川さんから『プライベートメッセージ機能』で指示を受けた。

まずは、右手側の『遠雷』にそれ相応の力を溜め、言われたとおりに・・・

「いけえ!!」

雷撃を放った。

それは一瞬にして目標に到達、そして轟音と共に水柱を高々と昇らせた。

今の目標は、主に2つ。

1つはこの時期になると現れ、観光客に悪影響をもたらす『エイ』の退治。

あまり直接的に退治すると自然に影響が出てしまうので、ここから遠ざける程度に威嚇するのが基本らしい。

もう1つは、『EB−ID』を悪用してここらで密漁を行う輩への対処だ。

ここからそう遠くない場所にそれの製造工場の一つがあるらしく、どこからか漏れ出しているというのだ。

両者とも、沿岸からの遠距離射撃が出来なければ基本的に行うことが出来ない。

昼の部に選ばれたメンバーは俺以外に目黒、田町さん、五反田、そして品川さん。

遠距離への射撃が得意なことが選考基準らしい。

それに合わせ、戦闘指揮専門科に所属する品川さんによる本格的な指揮で作業は順調だ。

ちなみに、夜の部のメンバーは、少し離れた場所で組み手を行っている。

4人とも接近戦がメインだから、選ばれたのは当然といえば当然か。

夜、4人はどんなことをするかは今は気にしないでおこう。

んで、気になるのは・・・引率で来た蝶子先生と日晴先生だ。

俺たちから大分離れた場所で、わざわざパラソルを準備して、その下で寝ている。

・・・まさか、それをするために引率を引き受けたのか?

でも実際そんなことを聞けるわけがないから、考えないことにする。

「あの・・・」

急に背後から声がしたため、かなり驚いた。

高鳴る心臓を抑えながら振り向いてみると、そこには女の子が1人立っていた。

セーラー服を着ていることと、背丈や顔立ちを考えると、地元の中学生に見えた。

「はい?」

それが分かっているにも関らず、思わす敬語で聞いてしまった。

「あなた達が・・・『百花高校』の人たち?」

「え?えぇ・・・まぁ」

何で分かったのか疑問に思ったが、合っているので正直に答えた。

「ふぅん・・・」

そんな俺を、少女はマジマジと見てきた。

「な・・・何か?」

「・・・別に」

そう言い残して、少女は立ち去っていった。

・・・一体、何だったんだ?

(上野、聞こえるか?)

お、品川さんからの通信だ。

(はい、聞こえてます)

(たった今、密漁船が発見された。今から田町と2人でその船に乗り込んで制圧してくれ)

(え?ここから狙撃しないんですか?)

(船が盗難物でな、下手に傷つけたら何言われるか分からないからだ)

(なるほど、了解です)

(今そっちに田町が迎えに行ったから、一緒に行ってくれ)

と言っている傍から、田町さんが文字通り飛んできた。

飛行支援メカ『Gアーマー』に乗ってきたのだ。

「上野、お待たせ」

「いえ、十分早いですよ。それより、行きましょ」

俺がそう言いながら『Gアーマー』に飛び乗ると、それに合わせるかのように発進した。

「田町さん、目黒未だに話すらあまりしてくれないんですけど」

『Gアーマー』を操る田町さんの後ろからそう質問をした。

「そうねぇ、私たちには普通に接しようとしているけど、あんたへの警戒心でどことなくぎこちないし」

笑いながら田町さんは返した。

「笑い事じゃないですよ、さっきも写真拾っただけで不機嫌になりましたし」

さっきのことを思い出すだけでも、目黒の不機嫌さは手に取るように分かってしまう。

「写真?・・・あぁ、目白さんのね」

「目白さん?誰ですか、それ」

初めて聞く名前だ、一体誰のことだ?

「ん〜、話すべきなのかなぁ、これ」

「そんなに話しにくいことなんですか?」

「私はそうでもないんだけど、あの子が何ていうか・・・あ、もう時間切れみたいね」

何のことかと思うと、目標となる密漁船が視界に入ってきていたのだ。

「私は上空から援護してあげるから、上野は直接乗り込んで乗組員を叩き落として」

「一応聞いておきますけど、手加減はいらないんですよね?」

「モチ♪」

「了解です!」

それだけ確認して、俺は『Gアーマー』かた飛び降りた。

すると早速、甲板にいる乗組員からビームによる射撃が向かってきた。

それを俺は『ビームバリア』で防ぎつつ、船上に着地した。

(・・・もしかして・・・)

今の射撃の仕方に違和感を感じた俺は、そのまま目の前の乗組員に向かって駈け出した。

やはり同じように射撃を俺に対して放ってきたが、それで俺の『ビームバリア』を撃ち抜く気配はなかった。

それで確信した、この乗組員は『エンドレスバトラー』としてのランクは低いということを。

おそらく、CかBクラスが妥当といったところだろうか。

それに対して、俺は期末試験終了時でNT5まで上がっている。

こうなると、状況をひっくり返されるということはなさそうだ。

あとやらなければならないのは・・・船を傷つけさせないようにこいつらを倒すことだ。

「よし、行くぞ」

その後、田町さんの援護もあって、船の制圧に5分とかかることはなかった。



「もしもし、私・・・うん・・・予定通り、来ているみたい・・・とりあえず、今夜決行するとみてみる」



「よし、昼の部はここまで」

「お疲れ様でした」

陽が沈み始めたと同時に、訓練も終わった。

夜の部の4人は、夜に備えて先に宿に戻ったらしい。

俺も今日だけで3隻の密漁船を制圧したから、さすがに疲れた・・・。

全て同じようにランクの低い奴らだったから手間はなかったが、その度に岸と沖を往復する必要があったため、決して楽ではなかった。

と、ふとケイタイを見てみると、メールが届いていた。

差出人を見てみると・・・会長からだ。

何か嫌な予感を感じながら、そのメールを開いた。

『今日の夜中、呼び出すから周りに気付かれないように外に出てくるように』

・・・いろんな面で引っかかることが多すぎる。

一応、覚悟だけは決めておこう、いろんな意味で。



夜10時。

海沿いの道路で、激しいエンジン音を轟かせている暴走族がいた。

この暴走族、ただの暴走族ではない。

どこからともなく流れた違法な『EBーID』を用いて、ログインした状態でバイクを走らせている。

それにより、通常では考えられないほどのスピードを彼らは平気で出していた。

「今日も最高だぜ!」

「だよな、ハハハハハ」

暴走族が、今の状況に高々と笑った。

これによる騒音により、付近の住民は大変な迷惑を被っていた。

住民は愚か、警察にも手のつけようが無い。

軍やEB関連の民間会社に頼めば何とかなるかもしれないが、田舎故に中々それが通らない。

「・・・ん?」

暴走族の1人が、何かに気付いた。

彼が見た先には、誰かが1人ポツンと立っている。

「何だありゃ?」

疑問に思いながら走っていくと、急にその人影が動き出した。

「唸れ、『驕れる牙』!」

その人影―――大崎が両手に付けられた『驕れる牙』を大きく左右に振った。

それに寄って発せられた斬撃は、先頭を走る2台のバイクの前輪を本体から切り離した。

「う、うわあああああ!?」

コントロールを失った2台のバイクはそのまま転倒した。

「な、何!?」

これに驚いた他の暴走族たちは急いでバイクを停めた。

すると、その瞬間を見計らったかのように、横から

「ハァァァァ!!」

『雷鳴の闇』を手にした大塚が飛び出し、それで1台のバイクを一刺しした。

更にそのまま突き刺さったバイクを搭乗者ごと持ち上げ、他の1台目掛けて投げ飛ばした。

バイク同士は見事にぶつかり、爆発、炎上。

搭乗者2名は、ログインしていたこともあり無事であった。

更に、大塚の反対側からは渋谷が飛び出し、

「トリャアアアア!!」

『刹那の夢』で覆われた拳で搭乗者を思いっきり殴り、そのまま道路脇へ吹き飛んでいった。

「う、ウワァァァァァァ!!」

最後に残った1人が、この光景を見てすぐさま引き返していった。

それを見た大崎はすかさず

(神田、予定通りそっちに向かったぞ)

(OK)

『プライベートメッセージ機能』で連絡をとった。

すると、その逃げ出そうとしている先から上野が現れた。

ホバー型戦闘支援機『メガライダー』に乗った形で。

「クソォォォォォォ!!」

せめてもの抵抗をと、その1人が銃を具現化し、神田に向かって発砲した。

それに対し神田は片手で『蒼天の剣』を持って防いだ。

「あ、あぁ・・・」

この現状に、暴走族はもはやブレーキすることすら出来なかった。

そんな暴走族に対し神田はすれ違いざまに『蒼天の剣』でバイクを水平に斬り込んだ。

その瞬間、神田は『メガライダー』の頭を思いっきり上げ、そのまま上昇した。

ある程度上がったところで、そのまま急降下。

そして、そのまま暴走族を思いっきり地面に叩き付けた。

その攻撃をまともに受けた暴走族は、バイクに下敷きにされる形で気絶していた。

「いやぁ、久々に見たぜ、神田のそれ」

大崎が神田に近づきながら声を掛けた。

「あぁ、こういう時にやっておかないと、いざという時に鈍るからな」

いつものように淡々と神田は答えた。



「ヘ、未来の白バイ警官は違うな」

「言ってろ」

神田は既に、警察への内定が決まっていた。

このような暴走族などの事態に対処するため、来年度から警察にも『エンドレスバトラー専門課』が新設される。

神田は、その第1期加入メンバーとして配属されることになっている。

(2人とも、次のが来たわよ)

大塚からのプライベートメッセージが2人に入ってきた。

「よし、行こうぜ!」

「あぁ!」

そう声を掛け合うと共に、大崎は真っ先に駆け出し、神田は『メガライダー』に跨り、発進させた。



「よぉし、一抜け!」

「ちょっとー、英語上がりは無しでしょー!?」

部屋の傍らで、バスでやっていた大貧民と同じ要領でウ○が行われていた。

・・・あれも地味にローカルルールが存在したりするんだよなぁ。

見ていても、やはりそれで色々と揉めている風にも捉えられる。

俺は夏休み直前に神田さんから手渡された近距離戦の心得が書かれた本を読んでいた。

読めば読むほど、この奥の深さがよく分かる。

と、感心しているところにケイタイが震えだした。

液晶を見ると、会長からのメールだった。

メールを開いてみると、

『昼間いた浜辺に来てくれ』

という短い一文だけ書かれていた。

そういえば、さっき来たメールには誰にも気付かれないように、って書いてあったな。

今部屋にいるのは俺を含めて田町さん、渋谷、五反田、それに品川さんだ。

目黒は今風呂に入っているようだ。

目黒・・・風呂・・・

いかん、イヤなことを思い出してしまった。

それはともかく、品川さんは読書、他の3人はウ○に熱中。

・・・出るなら今だな。

俺はそっと立ち上がり、部屋を出た。

一応服装は私服、前の一件もあるからリストと『EB−ID』は所持しておくことにした。

外に出てみると、既に陽は沈み、辺りは真っ暗だった。

時刻は夜9時、当たり前のことではある。

この宿から浜辺までは一直線、迷うことはない。

すると、遠くの方から爆音が僅かながら聞こえてきた。

そういえば、夜の部の内容は暴走族の鎮圧とか言っていたな。

どうやら、それが何事もなく行われているようだ。

と考えているうちに、浜辺に着いた。

周りを見渡して、会長の姿を探してみるが、見当たらない。

明かりも月明かりぐらいしかなく、探すだけでも難しそうだ。

「待ってたよ」

突然後ろから声が聞こえてきた。

驚きながらも振り向くと、会長と代々木がいた。

「ど、どうも・・・で、一体どうしたんですか?」

挨拶すると同時に早速本題に入らせてもらった。

「・・・前に言われた聞きたいこと、この場で色々答えてあげようと思ってね」

いつもの微笑を浮かべながら、会長は答えた。

とにかく、あの時色々と疑問は残った。

この際だ、そうさせてもらおう。

「・・・じゃあ、色々聞かせてもらいます。まず、あの組織って、結局のところ何なんですか?」

俺が会長から聞いた話だと、『異星人に地球を襲い掛かるよう仕向けている組織』としか分からない。

でも、それ以外にも何かある、俺はそう考えていた。

「基本的には前にも言ったとおり、地球に対して裏切り行為を行っている組織だ。だが、他にもう1つの顔がある」

「もう1つの顔?」

「・・・違法な『エンドレスバトラー』への実験だ」

「違法な?」

何をもって違法なことか、詳しくは分からないが良いことをしているとは思えない。

「上野君、君はたまに相手の動きをスローで捉えられたり、狙うべき場所が分かるときがあるらしいね」

「あ、はい・・・」

野球部との再戦、それに異星人の巨大ロボットとの戦いの時になったあの状態のことか。

「一部の『エンドレスバトラー』にだけ、そのような状態になることがあるらしい。これを一部では『覚醒』と呼んでいる」

「『覚醒』・・・ですか」

俺自信でもよく分からないあの状態。

急に言われても、正直何といっていいか分からない。

「その組織はな、その状態を人工的に作り出そうとしている」

「人工的に?」

「薬物投与や遺伝子操作は当たり前、直接的な肉体改造までも何も思わずにやっているらしい」

「!?」

とてつもない単語の連続に、戸惑いは隠せなかった。

違法以前に、人道的な問題だ。

「実は昔、これらのことを軍がやろうとしていたんだが、実行前に上層部にバレて、その関係者は全員追い出されたらしい」

「追い出された?」

軍でこれらのことをしようとしていたのもどうかと思うが、当たり前といえば当たり前だ。

「その時、既にこの実験計画の名前は付けられていたんだ」

「名前?」

「『エクステンデッド・プロジェクト』・・・通称『E計画』」

「い・・・『E計画』?」

それって、確か前に羅印さんが言っていた・・・。

「あの組織は、その関係者を中心に結成。その実験材料として、異星人に襲撃を仕掛けさせている」

そんな事情があったなんて、初めて知った。

・・・となると、1つ疑問が浮かぶ。

「じゃあ・・・この前の新橋ていうのは・・・もう・・・」

「やっぱり、新橋さんが絡んでたんですね」

突然背後から声が聞こえてきた。

聞き覚えがはっきりとする女声。

それはもう、見る間でもなく分かった。

「目黒・・・どうして?」

格好を見ると、髪が若干濡れている。

どうやら、風呂上りだろう・・・。

・・・また妙なことを連想してしまう。

とにかく、ここは目黒の話に集中しよう。

「上野君がこんな時間に1人外へ出て行くのを見て不思議に思って、ついて来たの。そしたら、会長までいて・・・」

「・・・目黒君、率直に聞こう。どこまで知ってる?もしくは感づいてる?」

会長が質問を投げかけた。

「新橋さんが絡んでるって気付き始めたのは例のサッカー部の事件です」

「・・・・・」

目黒の言葉に、代々木が少し反応した。

代々木も関っている事件だ、無理もない。

「あれだけ力を求め続けていた人が突然学校を辞めたんです。きっと強化関係の何かに関っている、それが立て続けに起こったんですから、まさかと思って・・・」

目黒の話を聞いて、前々から疑問に思っていたことがもう一つ浮かんだ。

「目黒、前から思ったんだけど、その強化っていうのは・・・?」

「そうか、君は強化関係の授業を受けてないんだよな。一年の時に受けるものだから仕方ないだろうけどね」

会長が納得したかのように答えてきた。

「それが、違法な『エンドレスバトラー』への実験の1つだ」

「え?」

「ログイン用のプログラムに手を加えることで、一時的に当人の能力以上の力を発揮出来るようになる、そういう代物だ」

「・・・それ以外に何かあるんですね?」

そうじゃなきゃ、違法に指定する理由がない。

むしろ、一時的とはいえ能力を強化出来るのだから、利用するべきだろう。

「あぁ、その通りだ。これを行うとその当人は効果が続く限り理性を失い、本能のまま行動する」

「・・・え?」

とても予想できなかった言葉が飛んできた。

だけど、その状態で野球部は俺に復讐を、サッカー部は女子に手を上げようとした。

それを考えると、納得できる。

「・・・会長、なんで新橋さんの今を知っているんですか?」

目黒が真剣な顔で会長に聞いた。

目黒と新橋・・・何かあったんだろう。

「・・・今度ゆっくり話すさ」

いつもの軽さで会長が答えた、その時だった。

「その必要はねえよ」

突然頭上の方から声が聞こえてきた。

上を見ると、そこには新橋がいた。

よく見ると、昼間田町さんが使っていた『Gアーマー』のような飛行物体の上に立っている。

「・・・新橋さん」

目黒が複雑そうな表情を見せた。

「久しぶりだな、目黒」

そんな目黒に不適な笑顔を浮かべながら新橋は答えた。

「どうして・・・どうして急にいなくなったんですか!?」

らしくない、荒げた声を目黒は出した。

「・・・もうあんなことを二度と起こさないよう、力を求めている。ただそれだけさ」

「そんな・・・だからって、そんなことしても目白さんは戻ってこないんですよ!」

目白?それって昼間田町さんが言っていた人・・・だよな?

「・・・だったら目黒、お前も来いよ」

「え?」

急な新橋のスカウトに、俺を含めた全員が驚きを隠せなかった。

「俺のところに来れば、もうあんな犠牲者は出さない力が手に入るんだぞ?お前が『エンドレスバトラー』になるのは、そういう理由なんだろ?」

「それは・・・」

確かに、前に目黒は言っていた。

これ以上自分のような孤児を作りたくないから戦う、って。

「さぁ、目黒、どうするんだ?」

「わ、私は・・・」

すると、目黒の足が自然と新橋の方へと動き出した。

「・・・上野君?」

気がついたら、目黒の前に出てその歩みを止めている俺がいた。

そんな俺を見て目黒は素直に立ち止まった。

「・・・新橋、目黒を惑わすのはやめろ」

こいつが元先輩だっただろうが関係ない。

その考えを表すように、俺は口調を荒げ、呼び捨てた。

「惑わす?今目黒は自分の意思で動いた、違うか?」

相変わらずの癪に障る言い方をする新橋。

流石にもう、我慢の限界だった。



「目黒はそんな弱いやつじゃない!少なくとも、目の前から逃げ出さないだけお前より強いはずだ!!」

「・・・・・」

俺の言葉に対して、新橋は何も言い返してこない。

「う・・・上野君・・・」

そして目黒は不思議そうに俺を見る。

「目黒・・・お前達に何があったか知らない、だけど・・・」

ここまで言ったところで一息つき、そのまま続けた。

「お前を苦しめたり、悲しませたりするなんてことは絶対にさせない、絶対にな・・・!」

「・・・うん!」

いつもの、目黒らしい強い返事が返ってきた。

「言ってくれるじゃねえか・・・だが、死んじまえば意味ねえよな?」

突然新橋が巨大な銃を具現化させた。

そして銃口付近に光の玉状のものが発生し、次第に大きくなっていった。

あの銃は・・・アレ?

いつものように武器の名前が分からない。

(・・・し、しまった!)

ここで重大なことに気付いた。

俺も、目黒も、会長も代々木も・・・ログインできていない。

今の俺達は、ただのどこにでもいる学生と何も変わらない。

このままだと、成すすべなくやられるだけだ。

急いで俺が胸ポケットから『EB−ID』を取り出し、認証リストに押し当てようとしたが

(間に合わない・・・!)

リストに『EB−ID』を押し当てたところで、ログインが完了するまでに僅かながらタイムラグがある。

引き金にかける新橋の指には、既に力がこめられつつあった。

それでもログインしようとした、その時。

「EB、ログイン!」

後ろにいた会長が駆け俺を抜き去っていった。

その右手には・・・スマートホン?

会長がそれの画面に指を当てた瞬間、会長のログインが完了した。

その時間、通常のログインの半分もかかっていない。

そして会長はそのまま跳躍し、宙に浮かぶ新橋に蹴りを放った。

「な!?」

新橋も会長の異常な速さのログインに驚きを隠せなかったのだろう。

その会長の蹴りを後ろに仰け反りながら避けた。

だが力をこめていた指にストップがかからなかったんだろう、そのまま銃口から光線が放たれた。

そして、無理な姿勢で発砲してしまったため、反動を制御できずにそのまま勢いよく海へと突っ込んでいった。

「・・・え?」

あまりにも一瞬に色々なことが起き過ぎて、一瞬呆然としてしまった。

その間に、俺のログインはいつの間にか完了していた。

「か、会長・・・今のは?」

俺と同じくログインが完了した目黒が聞いた。

「ん?ああ、こいつのことかな?」

すると会長は俺達の方を振り向きながら右手に武器を出す要領であの携帯電話を出現させた。

俺のクラスでも最近持っているやつが増えてきている、スマートホンのようだった。

「こいつは、新型の認証ツールだ。ログイン検知機能と大幅なログイン時間短縮が可能になっている」

・・・聞くだけで大層なものだって判断できる。

でも、ふと疑問が浮かび上がった。

「でも、そんなものどこで手に入れたんですか?」

大方の予想だと、前に会った悠矢さんと雷電さんかと思った。

「ああ、牙津さんから貰った」

「牙津さん・・・ですか」

意外な名前が出てきたからちょっと驚いたが、よく考えてみたらもっともなことに気付いた。

会長に後を継がせているし、そもそも牙津さん自体そういった企業に勤めているわけだし。

と話しているうちに、新橋が海中から再び姿を現した。

「チッ、油断したぜ、だが・・・」

新橋のこの言葉と同時にすぐ近くの砂浜からロボットが何体も姿を出した。

その大きさ・・・大体5メートルぐらいか。

四足歩行の妙な形のロボット達。

「これだけいれば、お前達もただじゃ済まないだろ?」

新橋が不敵な笑みを浮かべながら聞いてきた。

前に戦ったあの巨大ロボットよりも楽そうだが、数が数だけに苦戦しそうだ・・・。

「・・・3人とも」

会長が俺達に声を掛けてきた。

「はい?」

「新橋は俺がどうにかするから、あのロボットたちをどうにかしてくれ」

確かにそれが妥当なところだろう。

今の俺達じゃ、まともに新橋と相手しても会長の足を引っ張るだけだ。

「分かりました!」

俺は『遠雷』を、目黒は『ジャンクション』を、代々木は『自由の代償』を具現化させ、一斉に駆け出した。


「予想通り、あいつ仕掛けてきたわね」

宿の部屋から双眼鏡で砂浜を覗く蝶子が呟いた。

「あぁ。本当だったみたいだな、あいつらが動いているという情報は」

その後ろで日晴が携帯電話を操作しながら返答した。

「どうする?一応彼らには連絡しておいたけど、私たちも行った方が良いんじゃない?」

「その必要はないことぐらい分かるだろ?それに、俺達以上に過保護なやつがいたみたいだ」

そう言って日晴は蝶子に持っていた携帯電話を投げ渡した。

「・・・なるほどね、じゃあ私たちは静観していましょうか」

蝶子は携帯電話を返してから、再び双眼鏡で砂浜を覗き始めた。



「上野さん、目黒さん、今です!!」

敵の機関銃による攻撃を受け止めながら代々木が俺達に伝えた。

「あぁ!『遠雷』・・・」

「『ジャンクション』・・・」

「『JSAモード』起動!!」

それに応えるかのように、俺と目黒は全力で

「いけえ!!!」

同時に遠距離攻撃を仕掛けた。

俺の雷撃、目黒の砲撃は一つの目標に命中。

この衝撃に耐え切れなかったロボットは大爆発を起こした。

これでまず1体・・・いや。

「やっと1体、だな」

「えぇ・・・」

俺達の目の前には、まだ何体ものロボットたちが稼動していた。

それも、今の1体も一度の攻撃で倒せたわけじゃない。

目黒の援護射撃、代々木の囮役、俺の暗雲による翻弄を何度も行ってやっと攻機を見出せた。

これをずっと行えればいいが、俺には『遠雷』の『JSAモード』をこいつらを全滅させられるほど使えない。

それに・・・

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

なんだかんだで、目黒が一番攻撃を行っている。

体への負担は、この中ではダントツで一番のはずだ。

この状況を打開するには、どうしたらいいか・・・。

「上野さん、危ない!」

そんな俺の考えは、代々木の声で遮られた。

それに気付いて周囲を確認すると、俺のすぐ横までロボットが迫ってきていた。

「クッ!」

俺はその場で跳躍。

間一髪、ロボットの足による踏み潰しを避けた。

それと同時に

「シュート!」

目黒の『ジャンクション』から放たれた光線がそのロボットに直撃。

フィールドはないのだろう、それをもろに受けている。

俺は空中で姿勢を整え、そのまま

「迸れ!」

雷撃を放った。

狙った箇所は、今『ジャンクション』によって攻撃された箇所。

これも命中、被弾箇所は爆発を起こし、相手の動きも一瞬止まった。

俺はこれを逃さなかった。

「ウェポン・チェンジ!!」

武器を『両腕部Iフィールド発生器』に変え、その流れで

「フィールド展開!収束!!」

拳にフィールドをまとめ上げ、輝かせた。

あとはやることは一つだけ。

「必殺!シャイニング・フィンガーーーーー!!!」

その拳で被弾箇所を殴ると、衝撃が装甲を破り拳が内部まで突き抜くことを容易にさせた。

内部を破壊されたロボットは、流石に耐え切れなかったのだろう。

俺が拳を引き抜き、その場から離れると同時にロボットは大爆発を起こした。

運良く一体倒せたが、あと何体こんなのが残っている・・・

「・・・ん?」

おかしい、さっきに比べて1体少なくなっている。

一体どこに・・・?

俺がそれを考えていたその時。

その姿を消していたロボットが砂浜の中から姿を現した。

目黒の後ろという最悪な位置から。

「目黒!」

目黒もこの事態に気付いたようだが、今の状態じゃ満足な行動を起こせないはずだ。

俺も代々木もどうにか出来るならしたいが、距離が離れすぎている。

遠距離攻撃が出来ない今ではとてもじゃないが、間に合わない・・・。

それでも諦めずに駆け寄ろうとしたその時だった。

突然ロボットの周りを黒い霧のようなものが包み込んだ。

俺の『遠雷』の暗雲に似ているが、何かが違う・・・。

(まさか・・・動きも?)

『遠雷』の暗雲は、本当に視界を遮るのが手一杯だ。

暗雲の中では、至って普通に行動できる。

だが、今暗雲に包まれているロボットは、全く動こうとしない。

正確には、動こうとしているが動けないように見える。

一体、あれは?

「危なかったですね」

突然俺と目黒の間に誰かが現れた。

・・・あれ?

「君は・・・昼間の?」

姿を現したのは、昼間俺に話しかけてきたセーラー服の少女。

・・・というか、こんな夜中なのに今もセーラー服のままだ。

だが、普通の女の子とは大きく違う点がすぐ見つかった。

それは、背丈ほどある大きなビーム系の鎌を持っていることだ。

すると、女の子はしゃべり始めた。

「私の名前はかよこ、こう見えて・・・『エンドレスバトラー』です」

「え、『エンドレスバトラー』!?」

外見からはとても予想の出来ない実情に驚きを隠せなかった。

「驚くのも無理はないですね、国内では最年少らしいですし」

国内?

・・・なるほど、日本ではそれなりに安全だけど、外国だとそう言っていられない事情があるんだな。

「そんなことよりも・・・」

するとかよこちゃんは持っていた大きな鎌をなぎ払った。

次の瞬間、他のロボット達が同じように霧のようなもので動きを封じられた。

「このロボット達、どうにかしましょう」

先ほどから崩さない、落ち着いた口調で言われた。

「どうにかって、それが難しいんですけど・・・」

代々木が自信なさ気に答えた。

たしかに、今の状態じゃこいつらの動きを停めたところで倒せるほど攻撃出来るだけの力は残っていない。

「・・・あなた達2人、どうしてその力を使わないんですか?」

「え?」

あなた達2人?その力?

一体何のことだ?

すると、かよこちゃんは俺達をジッと見てきた。

「・・・そう、あなたは一度も使ったことないんですね、それなら仕方ないですね」

まず目黒を見てそう言ってきた。

そしてすぐさま俺に向かって

「でも、あなたは何度も使ってますね。どうしてですか?」

と言われた。

・・・俺にある力、もしかして・・・

「もしかして、『覚醒』のことですか?」

さっき会長から教えてもらったそれのことを思い出し、聞いてみた。

「えぇ、その通りです」

なるほど、その『覚醒』が出来ればどこを狙えばいいか分かって、今残っている力でも倒せるかもしれない。

だけど・・・

「でも、どうやって使えるかが・・・」

問題はそれだ。

今までだって、何でなったのか分からずに戦ってきたし・・・。

「思い出してください」

「え?」

「『覚醒』した時の感覚、それを思い出してください。そうすれば自然と出来るはずです」

あの時の感覚、それはたしかに普段と違うものだった。

それを思い出せば・・・

「じゃあ・・・私はどうすれば?」

目黒が聞いてきた。

思えば、今まで目黒が『覚醒』したところを見たことがない。

そもそも、目黒に出来るのか?

「私が伝えます」

「え?」

伝える?

どういうことだ?

「私があなたにその感覚を直接伝えます。そうすれば、力を使えるはずです」

すると、かよこちゃんは目黒の胸の辺りに手をそっと当てた。

当てたその瞬間、目黒とかよこちゃん2人の体が輝き始めた。

「・・・さぁ、あなたも早く『覚醒』を。ロボットがそろそろ動き出しますよ」

そう言われてロボット達を見ると、たしかに微々ではあるが動いている。

「あの時の・・・感覚・・・」

俺は目を閉じ、必死にその感覚を思い出そうとした。

それは、肌に触れる空気が軽く感じ、視界に入ってくる光景が広く見える・・・。

何よりも・・・今すべきことが一瞬で把握出来た。

それらの考えをまとめ、一気に目を開けた。

その瞬間、『覚醒』出来たことが把握できた。

「出来たようですね」

後ろからかよこちゃんの声が聞こえてくる。

「えぇ・・・」

いつもと同じように返事したつもりだが、何せ普段と違う感覚だ、それが出来たかどうかは正直分からない。

「こちらはもう少しかかります、それまで耐え切ってください」

「・・・そっちも早めに!」

俺はそう言ってから駆け出した。

とほぼ同時に目黒の後ろに出てきたロボットを除いて黒い霧を振り払った。

だが、行動を迷うことはなかった。

やるべきことは分かっていた。

まず、1体のロボットの足元に入り込み、そこから見える腹部目掛けて蹴りを見舞った。

だが、装甲を突き抜けることもへこむこともなく、その巨体が浮き上がっただけだった。

俺はその浮き上がっている間に体勢を整え、フィールドを収束させた拳でタイミングを見計らって

「必殺!シャイニング・フィンガーーー!!!」

振り上げる形でそれを放った。

ただでさえ威力の高いこの攻撃が、ロボットの落下の勢いも相まって威力は増加。

そのため、ロボットの装甲を突き破ることが出来、更に先ほどと同じように内部まで衝撃を伝えることが出来た。

耐えることの出来なかったロボットはそのまま爆発を起こし、木っ端微塵になった。

俺もこの爆発に巻き込まれたものの・・・

(まだ・・・平気だ!)

ロボットを破壊したところで待ち受けていたのは他のロボット達の機関銃とミサイルによる一斉発射だった。

四方から放たれ、一見逃げ道がない状況。

だが、今俺は『覚醒』している。

1秒間に何十、何百も放たれる機関銃の弾も、1つ1つ弾道を把握することが出来た。

そして、見つけた。

どの弾も通らない、『穴』のある場所を。

俺は迷わず、そこへ向かって駆け出し、飛び込んだ。

そこから着地したところで、俺の体にはかすり傷1つついていない。

後ろでは、ミサイルの爆発音が空しく聞こえてきた。

でも今はそれには構わない。

すぐ目の前にいたロボット1体に対して

「ウェポン・チェンジ!」

フィールドをしばらく発生することの出来ない『両腕部Iフィールド発生器』から『遠雷』に変え、雷撃を躊躇い無く放った。

さっきから何度も行っている行動だが、決定的に違う点が1つ。

狙ったのは・・・一番脆そうなレンズ部分。

目標が小さいだけに当てにくい箇所だが、今の俺には容易い。

レンズを割って内部に侵入した雷撃はロボットのそれを隅々まで破壊。

そして言うまでも無く爆発して木っ端微塵になった。

今の2体と同じ攻め方をすれば、勝機は見えたも同然。

だけど、問題点が1つだけある。

(倒しきれるほどの力・・・残っているか?)

俺に残っている力は、おそらく『遠雷』の雷撃3発分。

『JSAモード』で放ったら、たったの1発分だ。

だが、俺の目の前にいるロボット達は明らかにそれ以上残っている。

これに加え、まだ目黒の後ろに現れたヤツが・・・

(しまった!)

すぐさま目黒の方を振り返ると、先ほど動きを停められたロボットが、包まれた霧を振り払ってまさに動こうとしていた。

一方の目黒とかよ子ちゃんは、まだ動けそうに無い。

もう、残っている力に構うヒマなんかない。

俺はすぐにでも破壊して助けようと雷撃を放つ構えをとった。

その時だった。

いきなり2人から発せられていた光が更に強くなった。

その光があまりにも強く、2人の様子を目視できない。

すると、その光の中から何かが垂直に飛び上がった。

よく観察すると、それは・・・目黒だった。

けど、いつもと違う点が明らかにあった。



(・・・羽?)

目黒の背中から実体の無い輝いた羽が浮かび上がっていた。

しかも、実体がなくても効力があるのか、宙に浮かんでいる。

すると目黒は、持っていた『ジャンクション』を下にいるロボット目掛けて

「シュートォ!」

思いっきり放った。

光線はロボットに直撃したが、それぐらいでは破壊出来なかった。

そもそも、体への負担は大丈夫なのか?

「『ジャンクション』、『JSAモード』起動!シュート!!」

そんな心配をよそに、更に負担の大きい攻撃を仕掛ける目黒。

・・・て、大丈夫なのか!?

ロボットは同じ箇所に一層大きな衝撃を受けたからか、そのまま爆発して粉々になった。

そんな結果を生んだ目黒を放置できないと判断したのか、他のロボット達は一斉に機関銃で目黒を狙った。

それに対して目黒は体を傾け急降下。

迫ってきた弾を避け、地上スレスレのところで浮遊状態のまま体勢を整えた。

そして再度

「シュート!」

『ジャンクション』の引き金を絞った。

放たれた光線はロボット1体に直撃するも、破壊には至らなかった。

あの光の中にいたから、回復したのか?

そう考えるのが一番自然だが、それにしては撃てすぎにも感じられる。

ただ言えるのが、俺の『覚醒』とは違うことが目黒の中で起きているということだ。

と、俺が考えを巡らせている内に、目黒は再度上空に飛び、『ジャンクション』を構えた。

「『ジャンクション』、『ジェノサイドモード』起動!」

高々と目黒がそう宣言すると、『ジャンクション』の砲口にいつも以上のエネルギーが集まり始めた。

『ジェノサイドモード』・・・前に見たことがあるが、その威力は『JSAモード』を遥かに上回っている。

・・・チャンスは、もしかしたらこれが最後かもしれない。

俺も、全力でいこう。

「『遠雷』、『JSAモード』起動!」

起動と同時に、『遠雷』の出力が一気に上昇した。

狙うのは・・・

「シュートォ!」

「迸れ!」

目黒が放った『ジャンクション』の光線の行く先。

そして、その行く先は・・・ロボット達の集団の中心地。

そこで光線と雷撃が交錯したその瞬間。

今まで見たことのない、大爆発が起こった。

「や・・・やったか?」

煙で視界を遮られているためロボットの破壊を確認出来ないが、あの爆発だ。

巻き込まれてタダで済むわけがない。

『遠雷』と『ジャンクション』のエネルギー同士の衝突による爆発。

もし『覚醒』していなかったら、思いつかなかっただろう。

俺がそう考えていると、突然聞いたことの無い音が耳に入ってきた。

その音の元は・・・目黒の羽が散っていく音だった。

そのまま目黒は気を失い、落下・・・

「目黒!」

思わず叫びながら落下地点に飛び込んだ。

その甲斐あって、地面に激突する寸前に目黒の体に手が届いた。

俺はそのまま抱き寄せ、背中から着地した。

多少の衝撃を感じたが、全く問題ない。

それよりも目黒は・・・

「・・・・・」

・・・大丈夫、気絶しているだけだ。

でも、一体目黒に何が起きたんだ?

例え『覚醒』だとしても、あの羽の説明がつかない。

ここは目黒をそうした張本人である、かよ子ちゃんに聞くのが一番だな。

そう思いかよ子ちゃんに声を掛けようとしたが・・・

「・・・あれ?かよ子ちゃん?」

周りを見渡しても、どこにも見当たらない。

どこに行ったんだ?

まさか、今の爆発に・・・?

「先輩、危ない!」

そんな声と共に代々木が突然俺の横まで来て『自由の代償』を構えた。

次の瞬間、煙から一本のビームが俺達に向かって飛んできた。

ビームは『自由の代償』に当たって防がれたため、直撃は免れた。

だが

「キャア!」

その衝撃で代々木は吹き飛ばされた。

「代々木!」

代々木に心配の声を掛けると、その煙から何か巨大な物体が砂浜を踏む音が聞こえてきた。

恐る恐る煙の方を見てみると、一体のロボットが頭にビーム砲を構えていた。

だが、全体的に見ても相当なダメージを負っているのが見て分かった。

次第に煙が晴れてきたため確認出来たが、生き残ったのはコイツだけのようだ。

あと一発攻撃できれば倒せるが、もうそんな力もない。

その上・・・

(感覚が・・・戻ってる)

既に『覚醒』も効力を失っているようだ。

そう考えていると、ロボットのビーム砲がエネルギーを充填し始めた。

もう・・・万事休すか?

そう考えたその時、突然ロボットの様々な箇所が爆発。

そしてそのまま爆発し、やっと再起不能となった。

でも、一体何が?

「どうにか間に合ったみたいだな」

砂浜脇の道路から声が聞こえてきた。

その声の主は・・・

「お、音無先生!?」

そう、紛れも無いウチの教師の音無先生だ。

「・・・でも、どうしてここに?」

「帰省先が隣の県でな、ちょっとこっちに様子を見に来たんだ」

そういえば、音無先生がここの隣の県の出身だっていうのは、割と有名な話だ。

「なるほど・・・って、そういえば会長は!?」

そう言って会長の方を見てみると、まだ戦闘の途中のようであった。

具体的な会長と新橋の状況は分からないが、どう見ても会長が押していた。

「・・・近所迷惑になるのもアレだし、さっさと止めてやるか・・・おい、池袋!」

音無先生がそう声を掛けると、会長はそのまま新橋と大きく距離を取った。

「元先生だからって・・・割って入るんじゃねえ!」

そんな先生に怒りを露にしながら、新橋はこっちに銃口を向けた。

「・・・新橋、周りを見てみろ」

腕を上げながら音無先生は忠告した。

「え・・・な!?」

新橋の周りには・・・既に『フェザーファンネル』による包囲が完成していた。

「少し、頭冷やせ」

その一言と同時に、音無先生は上げていた手を一気に下げた。

と同時に、フェザーファンネル達は一斉に新橋に向かっていった。

その状況を新橋が打破出来るわけも無く、そのまま言うまでも無く無数の爆発の餌食になった。

これで倒したかのように思った。

だが、新橋は乗っていた飛行物体共々助かっていた。

もっとも、ダメージは相当なものと容易に判断できたが。

「ク・・・次こそはこうは行かないからな!!」

そう言い残して、新橋は飛行物体の全速力を出して去っていった。

「・・・なんとかなったな。じゃあ俺も行かなきゃいけないから、後はヨロシクな」

音無先生もその場から去ろうとした。

「え?まだいいじゃないですか?」

「そうも行ってられないさ、これから半分仕事で北海道まで行かなきゃいけなくてな」

『北海道』という単語も気になるが、『半分仕事』というのにも引っかかる。

「お土産楽しみにしてますね♪」

「あぁ、任せておけ」

会長には特に気にならない問題らしい・・・。

と、そんな会話をしているうちに音無先生は行ってしまった。

「・・・さて、俺達も退散しようか。これだけやってれば、神田達に気付かれちまうかもしれないしな」

やはり、神田さんとかに知られるのはまだ控えたほうがいいみたいだ。

俺は目黒を抱えたまま、会長達と共に宿へ戻った。



「もしもし、お疲れ様です」

音無は携帯電話で日晴に連絡を取っていた。

「お疲れ様です、どうでした?」

「やはり上野も目黒も適合者に間違いなかったみたいです、プロが言ってたんですから間違いないでしょう」

「そうですか・・・これから更に狙われやすくなるでしょうね」

「それについては手を打ってあります、安心してください」

「何かあるんですか?」

「えぇ、詳しくは今度学校で会った際に。では、俺はここら辺で」

それだけの言葉を交わし、音無は電話を切った。



翌朝。

「オハヨー」

「あ、おはようございます」

たまたますれ違った五反田に軽く挨拶しながら、俺は洗面所のある1階へと降りた。

と、降りた先の玄関に、立ち尽くしている目黒を発見した。

あの後、周りに怪しまれないよう目黒の非戦闘状態からの自然ログアウトを待ってから、代々木に頼んで女子部屋に運んでもらった。

俺も会長も何事もなく宿に帰ることが出来たし、あの浜辺での出来事は気付かれていないらしい。

「お、目黒オハヨー」

「あ、おはよう。それよりも・・・コレ見て」

「ん?何何・・・」

目黒が見ていたもの、それはコルクボードに写真の数々。

その中の1枚に、見た顔があった。

それは・・・

「か・・・かよ子ちゃん?」

そう、昨日会ったかよ子ちゃんに間違いなかった。

でも、なんでこの写真がここに?

「おや?かよちゃんを知っているのかい?」

声が聞こえてきたので振り向くと、そこには宿の女将さんがいた。

「あ、すみません、この子って・・・」

「あぁ、かよちゃんだろ?可愛そうにねえ、あんな最期で」

「最期?」

・・・何でだろう、嫌な予感しかしない。

「実は一昨年、暴走族のひき逃げにあってね。ああいう暴走族を止めるためにアンタ達と同じ百花高校に通って、エンドレスバトラーになるって張り切っていたんだけど・・・」

・・・この女将さんの話と俺らが昨日見たこと。

それらを統合すると・・・

「・・・上野君、もしかして私達み」

「目黒、それ以上言うな」

「・・・うん、ゴメン」

この夏、俺達はエンドレスバトラーになっても分からないことがあるということを、身をもって学ぶことが出来た。



今日も昨日と同じように、岸からエイの退治と密漁船の取り締まりを行っていた。

昨日の成果が表れているのか、比べると明らかに減っている。

この調子で進んでいけばいいんだけど・・・

(上野、また密漁船だ、頼む!)

品川さんから指令が来た。

(了解です)

(今回のは船がデカい。一人じゃ大変だろうから、田町に加え目黒とも一緒に行ってくれ)

(あ、はい、分かりました)

そう答えると、田町さんが『Gアーマー』に乗ってこちらに向かってきた。

その後ろには、既に目黒が乗っていた。

「お待たせ!・・・と悪いんだけど、もう上に乗る場所がないから、ぶら下がって乗ってくれる?」

「りょ、了解です」

俺は言われるがまま、『Gアーマー』の船体につかまる形でぶら下がった。

「それじゃ行くわよ!」

すると、『Gアーマー』はものすごいスピードを出して飛行しだした。

いくらログインしているとはいえ、このスピードの中つかまり続けるのは厳しい・・・。

「上野君、頑張って」

目黒から、明るい声が聞こえてきた。

もう、昨日のような不機嫌さは微塵も感じられなかった。

・・・これでしばらくはあんな重い雰囲気を感じることはなさそうだな。

そんな束の間の安心を感じて、俺は更に強く船体を握る力を強めた。
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