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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
序章

西暦201X年。

異星人からの侵略、未来からの襲撃。

現代を遥かに凌ぐ技術で様々な脅威に晒される地球。

だが、人類もやられるわけにはいけなかった。

それらから鹵獲した兵器を解析。

それを自身の軍事力として使用していくうちに、

人類の技術力は飛躍的に向上した。

そして、その技術力により作られた兵器を駆使し地球への脅威を守る者たち、

『エンドレスバトラー』が誕生した。

これに従事する者は脅威と日夜戦い続け、

地球壊滅という危機を回避している大きな要因となった。

そこまで重要な職となった『エンドレスバトラー』。

そのため、それらを育成する機関が発足するのは、もはや自然の流れであった。

そして日本、東京のとある市街地に建つ一つの高等学校。

この物語は、その育成機関の一つである『私立百花高校』で過ごす、

明日へと育つ戦士達の汗と涙と青春の1ページである・・・。



『私立百花高校』

その校庭でキレイに桜が花びらを散らしていた。

それを校舎の『生徒会室』と札が書かれている部屋の窓際で眺めている男子生徒がいた。

耳が軽く被さるほどの長さの髪、特に大きくもなければ小さくも無い背丈。

そして制服である学ランは前のボタンが全て開けられていた。

「・・・キレイだな」

そう呟きながら男子生徒は湯呑みに淹れられたお茶を口にした。

ガチャ

「ちぃ〜す! ・・・お、神田。もう来てたのか?」

「ホントだ、はや〜い」

男子生徒と女子生徒がそう言いながら部屋の中に入ってきた。

男子の方は逆立った短髪にガッチリした体格で、神田よりも一回り大きかった。

一方女子生徒の方は肩までかかる長い髪に少し染髪のあとがあり、更にルーズソックスと、今時の女子高生の雰囲気が出ていた。

「そんなことはない、2人が遅かっただけさ」

微笑しながら神田がそう答えた。

「な〜んだ、今日の掃除がなかっただけかぁ」

女子生徒が不満そうにそう言った。

「じゃあ、他の皆は?」

男子が聞いた。

「とりあえず会長はいつも通りもう帰った」

「またぁ!?」

怪訝な顔を浮かべる2人。

「いつものことだ、気にすることはない」

「だな。で、他は?」

「品川はお前達と同じ掃除。大塚は先に部活の方に行っている。目黒は・・・」

と話していたその時、急にドアが開かれた。

元から部屋にいた3人に比べちょっと小さめな女子生徒が息を切らせて入り口付近で膝に手を付いていた。

少し短めの髪に、まだ微妙に幼さが残る顔立ちである。

「お、目黒・・・て、どうした?」

神田があまりにも息を切らす女子生徒を見てたまらず質問した。

「ま・・・また野球部の人たちが!!」

息を切らせながら目黒が報告した。

「・・・たく、また野球部か。で、今度はどこの誰が?」

「多分、あれは戦略指揮専門科の日暮里さんだと・・・」

「日暮里て、もしかして・・・」

「あの科の中でも学年上位の成績の日暮里・・・だろうな」

それを聞いた神田が立ち上がった。

「田町、ここに残って連絡の方を頼む。品川と大塚が来たらこのことを伝えてくれ」

「OK、分かった!」

長髪の女子生徒がそう言われて返事をした。

「目黒、済まないがそこまで案内してくれ」

「は・・・はい!」

目黒が息を整えてから返事した。

「大崎・・・いいよな?」

「あぁ、言われるまでもないぜ!」

ガッチリとした体格の男子生徒が両手の拳同士を打ち合わせながら答えた。

「よし、行くぞ!」

そして3人はそのまま部屋を後にした。



地球を脅威から守る、『エンドレスバトラー』。

力を行使する職業がために、その力を過った方法に使う者も少なくはない。

そのため、これに関連した組織ではそれを抑えるための内部組織が存在する。

もちろん、この『私立百花高校』でもそれは例外ではない。

だが、他の組織と大きく違うのは、それをまだ精神的にも未熟な生徒に任せていることである。

教育的一環として扱われ、他の高校で言う風紀委員の役割を受け持つ組織。

それが『私立百花高校』の『生徒会』である。



「おい!何度言えば分かるんだ!いいから金寄越せよ!!」

「だ、だからそれしか持ってないんですって・・・」

体育館の中で、1人の男子生徒が9人近い男子生徒の集団に囲まれて、更に襟首を掴まれている。

しかも金銭の要求、誰がどう見ても恐喝である。

「高校生の財布に300円しかないってことがあるかよ!他に隠し持ってんだろ!」

「本当にそれしかないんですって・・・」

背も低く、見るからにひ弱そうな男子生徒に対し、恐喝している生徒達はガッチリとした体格を持っていた。

「そこまで言うなら、力づくでも出させてやるよ!!」

襟首を掴んでいる男子生徒が拳を振るおうとしたその時。

「お前ら、そこまでだ!!」

そんな叫びと共に体育館の扉が開かれた。

その先に姿を見せたのは神田、大崎、目黒の3人だ。

「・・・野球部からは、既にログイン反応があります」

目黒が携帯電話を見ながら2人の後ろからそう伝えた。

「OK」

そして3人は集団に歩みを寄せた。

「チ、生徒会か」

集団の1人が吐き捨てるように言った。



「野球部!これで何回目の恐喝だ!いい加減にしろ!」

大崎が怒りを露にしながら叫んだ。

「うるせえな。これぐらいしなきゃ俺たちの学生生活は充実しねえんだよ!」

「・・・その様子だと、反省する気はないようだな」

「だからどうだってんだ!?」

それを聞いて微笑しながら神田はポケットから何やら円形の物体を取り出した。

「何だそれは?」

「ポケットサイズのマイクロフォンだ。今の会話は確かに録音させてもらった」

「!!??」

この神田の発言に野球部は全員驚愕した。

「これでお前達に最低でも停学処分は確定だな。さぁおとなしくしてもらおうか」

「く、クソォォォ! こうなったらそいつを力づくでも奪ってやる!」

すると恐喝されていた日暮里を遠くに投げ飛ばした。

そして、集団の生徒の手に突如何かしらの武器が現れた。

それは銃、剣、槍と様々だ。

「恐喝、反省なし、そして私的目的のログイン及び武器の使用。十分な理由だな」

「ああ」

「はい」

すると神田、大崎、目黒の3人は左手を胸の前に持ってきた。

その手首には特殊な形の腕時計が付けられていた。

そして3人ほぼ同時に制服の内ポケットからカードのようなものを取り出した。

「今からお前らを、生徒会特権により取り押さえる!覚悟しろ! EB・・・」

「「「ログイン!!!」」」

そういうと同時に3人はカードを腕時計の表面に押し当てた。

すると3人の制服とカードが急に光となり、戦闘服調に変化した。

いくら成長途中とはいえ、彼らもまた『エンドレスバトラー』。

その力を発揮するためには、『EB−ID』と呼ばれるカードを認証リストに当て、ログインする必要があった。

そして、学生という身分の彼らには、ログインを行って良いタイミングも限られていた。

主に授業などでエンドレスバトラーの訓練を行うとき。

もしくは目の前で緊急を要する戦闘が行われているとき。

そして、生徒会特権としてログインが必要と彼らが判断したときである。

「いつものように、俺と大崎が突っ込む。目黒はサポートを頼む」

「あぁ!」

「了解です!」

そして3人は手を前に出し、一瞬で武器が目の前に現れた。

武器を取ってから真っ先に行動に移したのは神田であった。

とてつもないスピードで野球部に向かって駆け出した神田、その手には巨大な剣が握られていた。

運命系大型破壊剣『蒼天の剣』。

神田は剣先を突き出す形で持ち、凄まじい速度で野球部の集団を突き抜けた。

すると神田が駆け抜けた軌道上にいた野球部員3人がその衝撃で上空に高々と上げられた。

抜けた神田はすぐさま集団の方を振り向き、集団をキッと睨みつけた。

一方の野球部はそんな神田に脅えを隠せなかった。

「ひ、怯むな!」

その部員1人の声に応えるかのように、部員のうち銃を持っている者が神田に向けて発砲しようとした。

「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」

野球部のすぐ傍で大崎が構えていた。

それぞれの手の甲には、禍々しい大きな3本の爪がつけられていた。

運命系高速格闘爪『驕れる牙』。

その爪を大崎は左右共に大きく横に一閃。

爪からその本体以上の斬撃がすぐそばにいた銃を持った野球部員2人を襲い、吹き飛した。

「う、うわああああーー!!」

今の攻撃を見たにも関わらず、1人の部員が恐怖を振り払うかのように刀を大崎に対して振り下ろした。

すると右手に付けられた爪の一本一本が微妙に前後にスライド、そして振り下ろされた刀が隙間に入った瞬間に再びスライドし、ガッチリと刀を捕らえた。

「な!?」

これに驚いた野球部員は、必死にそれを抜こうとするが刀はビクともしなかった。

そんな野球部員に対し、大崎は空いているもう片方の爪を構えた。

「・・・度胸は認めるが、ただそれだけだ!!」

そしてその爪で一閃、その衝撃に野球部員は刀を手放し、そのまま体育館の壁まで吹き飛ばされた。

「い、今のに続けぇ!!」

号令と共に大崎に対して残った3人の野球部員が襲い掛かった。

すると大崎は軽快にステップしてその場を離れ、そして

「目黒、今だ!!」

と後方の目黒に声を掛けた。

その声に反応し、飛び掛っている野球部員が目黒の方を見た。

するとそこには、大きな砲を構えている目黒がいた。

運命系長距離光線砲『ジャンクション』。

すると砲口に出来ていた赤い玉が次第に大きくなっていった。

「行きます!!」

そして目黒の一声と共に引き金が引かれた。

砲口からは人1人軽く飲み込んでしまいそうな光線が野球部員目掛けて走った。

光線はそのまま野球部員2人に直撃。

砲口が斜め上を向いていたためもあって、光線は天井に激突するまで直進。

飲み込まれた野球部員2人は天井にめり込まれる形で気絶した。

そして残った野球部員はただ1人であった。

目黒は再び『ジャンクション』を、大崎は『驕れる牙』を構えた。

「どうする?まだやるか?」

「ク、クソォォ!!」

すると残った野球部員は逃げだそうと2人に対して背を向けた。

次の瞬間、彼の目にとんでもない物が映った。

刀身が先ほどとは比べ物にならないほど巨大化している『蒼天の剣』を高々と掲げ上げている神田の姿がそこにあった。

「あ、あ・・・」

この姿に流石に恐怖を覚えたのか、野球部員の目に戦意は残っていなかった。

「これで・・・おわりだぁあああ!!」

そして神田は野球部員に剣を振り下ろした。

足が竦み、身動きすら取れなかった野球部員はそれに直撃、轟音と共に『蒼天の剣』に押し潰された。

それを確認した神田は、『蒼天の剣』を元の大きさに戻した。

野球部員は床にめり込み、白目を剥いて気絶していた。

これで、もう周りに戦える野球部員はいなかった。

「これで全員だな」

神田が辺りで倒れている野球部員を見ながら言った。

「だな・・・で、この荒れ様、どう報告する?」

大崎が周りを見ながら聞いた。

戦いの場となった体育館は、3人の攻撃によって所々壊れてしまっていた。

「体育館なら、管理は蝶子先生だろ? きっと大目に見てくれるって」

「あぁ。あとはこいつらの処遇・・・て、それは考えるまでもないか」

と2人が会話を交わしている間に、目黒は先ほど投げ飛ばされた日暮里に駆け寄っていた。

「大丈夫ですか?」

日暮里の顔や服に汚れていることに気づいた目黒はハンカチを差し出した。

「す、すいません・・・。わざわざ手を煩わせてしまって」

そのハンカチを受け取りながら日暮里は謝った。

「気にしないでください、これが私達の仕事ですから」

笑顔で目黒は答えた。

「その通りだ、それに個人的にもアンタを応援しているんだ、日暮里」

大崎が続けるように言った。

「え?」

「戦闘指揮専門科3年日暮里。常に成績は学年の中で指折りに入る。その背後には、貧しい家庭と7人兄弟の長男としての想いがある」

「!?」

神田の口から出た、どこで知ったのか分からない、事実を聞いて日暮里は驚きの表情を見せた。

「エンドレスバトラーにもなれば、危険との代償で多額の報酬をもらえる。

だが、元々体の弱い君は戦闘指揮専門科に入学。指揮なら、体の弱さは関係ないからな。

それで家族のために努力し、現在の好成績に至る。応援しない方がおかしいだろ?」

「そ、そんな・・・それほどのことは・・・」

照れがあったのだろうか、日暮里は顔を伏せた。

「それに、卒業後はお前に命を預けることになるかもしれないんだ。ここで何かトラウマを残されるとそれに関わってくるしな」

「え?」

「・・・いい指揮、期待しているぜ」

そう言い残して、3人はその場から去っていった。

「・・・そうだよな、頑張らなくちゃ」

そんな3人を見ながら、日暮里は呟いた。



この時、誰が知っただろうか。

この日暮里が、後の戦場において『優眼の日暮里』という異名を持つ、常勝の指揮官となってその功績を残すことを・・・。



「ほぅ、あれが例の生徒会か」

「あぁ。中々興味深いだろ?」

「だな。ところで、さっきの奴らのデータはあるのか?」

「あぁ。まず剣を使っていたのは神田、NT6クラス。爪が大崎、同じくNT6クラス。最後に砲撃手は目黒、NT4クラス。こんなところだな。」

「砲撃手だけランクが低いんだな」

「神田と大崎は3年、目黒は2年だ。ちなみに目黒が唯一の2年だ」

「ほぅ、それでNT4か。ではこれからが楽しみな逸材だな」

「・・・お前が言っていたアレの適合者も、おそらくアイツだぞ?」

「何で分かる?」

「似たような境遇で過ごした人を知っていてな、ほぼ間違いないだろう」

「そうか・・・これはやり甲斐がありそうだな」

「あぁ。ゆっくりと進めていこうぜ。この『計画』を、な・・・」



「あ、おかえり〜」

生徒会室に帰ってきた神田、大崎、目黒に田町が声を掛けた。

「ただいま・・・お?」

最初に入ってきた神田は気付いた。

先ほど出る時にはいなかった、眼鏡の男子生徒とポニーテールの女子生徒の存在に。

「もう着いてたのか。品川、大塚」

そんな2人が視界に入った大崎は声を掛けた。

「君たちが遅かっただけだ」

「ホントよ、待ちくたびれたわ」

カウンターのように2人が一斉に返答した。

ちなみに男子生徒が品川、女子生徒が大塚である。

「それなら手伝いに来いよ。田町から聞いているだろ?」

不満げに大崎が答えた。

「アンタ達が野球部程度に遅れをとるとは思えないもの」

大塚が即答したが、その言葉には3人に対する信頼も滲ませていた。

そんなやり取りをしている間、目黒は淡々と用意されていた茶葉を使って人数分のお茶を淹れていた。

お茶を用意するのは、最年少である目黒の役目でもあった。

「とにかく、さっさと始めようぜ」

神田の一言を機に、その場の全員が部屋の中央に設置されている大机を囲む形で座った。

その前に目黒が入れたばかりで湯気が立つお茶を置いていった。

「お、目黒、サンキュ」

神田がそれを受け取りながら言うと、目黒は笑顔でそれを返し、そのまま席に着いた。

「それじゃ、定例報告と行こうか」

定例報告。

『百花高校』の『生徒会』に属する者は、必ず何かしらの部活所属しなくてはならない。

生徒一人では何かを企むことは滅多にないが、部活という隠れ蓑と同志でそれを行いかねないからだ。

どの部活が不穏な空気を出しているのか、この定例報告でそれを報告し合い、それを知るための情報網を広げ、何かあった時にすぐ対策をとることが出来るようにしている。

「じゃあまずは文化系の部活だな・・・田町、大塚、どうだ?」

まず美術部所属の田町が聞かれてすぐさま答えた。

「今のところはどこも問題ないわよ。どこも平和よ」

そして続けるように吹奏楽部の大塚も答えた。

「そうね、ただその分誰が何を考えているか分からないから、注意は払っておくわ」

「そうか、次に屋外の運動系部活、目黒、どうだ?」

陸上部所属の目黒もすぐさま答えた。

「野球部は相変わらずアレですが、他は大丈夫です。ちょっとラグビー部の血気が気になりますが・・・」

「アイツらは昔からアレだ、今は気にすることないだろう。じゃあ次は体育館内の運動系部活・・・俺だな」

バスケ部所属の神田は一息ついてから報告しだした。

「今のところ問題はない。だが遊んでいる奴らが多いだけに、注意は必要だな。次は道場使用の運動系部活・・・大崎、どうだ?」

空手部所属の大崎は腕を組んで答え始めた。

「やっぱりこっちはラグビー部同様、血気盛んな奴らが多い。一応注意は払っておくことにするさ」

「あぁ、頼む。じゃあ最後は同好会か・・・品川、どうだ?」

鉄道研究会所属の品川は眼鏡を上げてから答えた。

「とりあえず、相変わらずミステリー研は何を考えているかが分からないな。他は大丈夫だが、ここだけは要注意だ」

「了解、じゃあ皆もそこは心得ておいてくれ。・・・じゃあ報告はこれで終わりだな、次の課題にいくか」

神田は近くに置いておいたカバンの中から、1つの封筒を取り出した。

「政府軍の東京支部から例の協力要請が来ているぞ」

「お、来たのか」

今地球上では、異星人やサイボーグ等の侵略が耐えない状況である。

それは日本も例外でなく、全国各地でその対処が行われている。

この『私立百花高校』の『生徒会』も、近所でその対処を行われる際に手伝うことがある。

周囲の状況や地理などを良く知り、且つそれなりの実力がある者がいた方がいいのだ。

「で、やっぱり目標はあの基地?」

「その通りだ」

「あそこ、確かに放置するのは危険ですからね・・・」

最近、『百花高校』からそう遠く離れていない空き地にサイボーグが基地を建設した。

もちろん、侵略活動の拠点として利用するためだ。

これを排除するのはもちろんエンドレスバトラーの任務である。

「支部からは誰が来るんだ?」

「えぇと・・・山本さんていう人が一人で来るらしい。あと・・・」

「あと?」

そこまで言って、神田は一度口ごもったが、再び口を開いた。

「迦樓美ちゃんが引率として同行することになった」

「えぇ!?」

この一言に、生徒会室に激震が走った。

迦樓美ちゃん、この学校の保健室の先生である。

普通に先生としては問題ないのだが、その風潮に色々と問題がある。

「その山本さんの情報を聞きつけて、引率を志願したそうだ」

「・・・分かった。で、俺たちの誰が行くんだ?」

「とりあえず、俺は副会長として行かなきゃいけないだろ?」

「会長じゃなくていいのか?」

「来るとでも思うか?」

投げられた疑問に神田は即答した。

「・・・だな。他のメンバーは?」

「近接戦は俺と迦樓美ちゃん、遠距離はその山本さんが出来るらしいから、中距離戦が出来るやつがいいな」

そう言いながら神田はその場にいる全員を見渡した。

「大塚、田町、お願い出来るか?」

「分かったわ」

「オッケー♪」

頼まれた大塚と田町は嫌な顔せず即答した。

「とりあえず、来週の日曜ってことになっているから、忘れるなよ」

神田の言葉に、2人は黙って頷いた。

「じゃあ最後に、新会員のことだが・・・」

「そうか、もうそんな時期になったか」

「今の私達には、死活問題よねぇ・・・」

生徒会は現在、7人で構成されている。

だが、そのうち3年生は6人。

それ以外は2年の目黒だけとなっている。

そのため、今の3年生ほどに新戦力を確保しなければならない。

それも、ちゃんと戦力となるほどの逸材を。

「とにかく、いい人材を見つけたらすぐにスカウトするように」

「了解」

全員が口を揃えて返事をした。

「じゃあ今日はここまで。部活があるやつはそっちに行ってくれ」



駅前の喫茶店。

そのテーブル席で、長髪の男子生徒がホットコーヒーを飲みながら読書をしていた。

すると、騒がしい店内に1人の身なりのいい男が入ってきた。

男は迷わず男子生徒の前の空いている席に座った。

「スマン、待たせたかい?」

「いえ、大丈夫です。それよりも、例のデータを」

笑顔でその男子生徒は手を差し出した。

「うむ、これだ」

男はスーツの中から、1つのカードのようなものを取り出した。

男子生徒はそれを受け取ると、着けていた腕時計に差し込んだ。

するとその腕時計から、顔1つ分ほどの大きさのスクリーンが浮かんだ。

そこには、どこかの高校生とも取れる男子の顔が載っているデータが映し出されていた。

「・・・なるほど。確かにいいですね」

「あぁ。是非とも君たちに必要な人材だと思うのだが、どうかね?」

「はい、ありがとうございます」

「いや、これぐらいのことは当たり前さ。君には期待しているのだからね、池袋君」

そう言いながら浮かべた男の笑みには、安らぎのようなものも含まれていた。



日曜日。

目標である基地からそう遠く離れていない空き地に神田、大塚、田町の3人が既に到着していた。

そして、その傍らに

「あぁ〜〜、早く来ないかしら、山本さん〜〜」

と大げさに体をくねらせながら話す、性別不詳の者が約1名いた。

「迦樓美ちゃん、少しおとなしくしようよ〜」

田町が優しく声をかけた。

この性別不詳の者、所謂オカマが迦樓美ちゃんである。

保健の先生としてこれはいいのかよく問われるが、生徒にも何故か人気があるため今のところ問題はないらしい。

「だって〜、データによればイケメンだっていうんだもの〜」

「迦樓美ちゃんて、大抵それで行動決めるわよね」

大塚が溜め息つきながら言った。

「もぉ〜、褒めたって何も出ないわよ〜」

「・・・褒めてないし」

「『私立百花高校生徒会』の皆さんですね、お待たせしました」

迦樓美ちゃんと大塚が会話している間に、1人の男性が来ていた。

「政府軍東京支部の山本です。本日はよろしくお願いします」

会って早々、まず挨拶をしてきた。

だが、その目は何故か笑っていなかった。

それに続けるかのように神田、大塚、田町と挨拶をしていった。

そして最後に

「どうも〜☆ 今回引率で来ました迦樓美で〜す♪ よろしくお願いしま〜す」

と迦樓美ちゃんが挨拶した。

「よ、よろしくおねがいします・・・」

流石に山本もこれには引き気味であった。

「と、とにかく現場に行きましょう」

それを振り払うかのように山本は言い出した。

「はい、では案内します」

そう言って神田たち4人が山本を先導する形で出発した。



「こいつか・・・」

現物を見た山本は、まずそう口から漏らした。

その基地の外見は、『ただ鉄くずを集めて繋ぎ合わせただけ』、全員がそのようなイメージを思い浮かべるほど無骨な作りであった。

「来ます!!」

基地を観察していた大塚がそう言った。

すると、基地の中から明らかに機械で出来た人形がゾロゾロと出てきた。

おそらく、5人に気付いたのであろう。

その数、30体は軽く超えていた。

「とりあえず、ログインだな」

「はい」

すると、5人一斉に腕時計にEB−IDを押し当て、ログインした。

「近接は俺と迦樓美ちゃんでどうにかします。山本さんは確か支援が得意でしたよね、なので・・・」

「いや、違う」

「え?」

神田の言葉を遮ると、山本の手に武器が具現化した。

それは身の丈ほどの銃身を誇る大型の、銃口が2個ついたライフル銃であった。

「俺は・・・どっちでもいける」

「で、でもそれはどう見ても長距離用の銃じゃ・・・」

「それに、あいつらはおそらく強さ的にはNT3クラス。君たちでもせいぜいNT6クラス。一度にあの数は相手に出来ないだろう。俺が先行して一気にぶっ潰すから、散ったやつらを各個撃破してくれ」

「先行て・・・その銃じゃ明らかに不利ですよ!」

神田の発言を聞いて口元を緩ますと、こう言い放った。

「学生諸君、いい物を見せてあげよう」

「え?」

すると、山本は銃口を相手に向けた。

そこが次第に大きくなっていった。

「銃はな、長距離戦だけが能じゃないのさ!」

すると山本はサイボーグたちに向かって駆け出すと同時に、銃の引き金を絞った。

2つの銃口からは凄まじい破壊力を持った光線が勢いよく放たれた。

光線はサイボーグの集団の中に直撃、大爆発を引き起こした。

何体かのサイボーグがその餌食になる中、神田達は別のところを見ていた。

(は、反動がほとんどない・・・!?)

同じく長距離砲を使う目黒は、その反動を抑えるためにしっかりと足場を固定してから発射する。

それに対して山本は全く固定させていないにも関わらず、尚も直進を続けていた。

更に山本は、撃ったばかりの銃でもう一度光線を放出した。

同じように光線は集団の中に命中、爆発を引き起こした。

だが、やはり神田達の見ているところは別にあった。

(れ、連射した!?)

この手の銃は、基本的に一発撃ったら反動でしばらく硬直してしまう欠点がある。

そのため、今のような連射は基本的にありえなかった。

山本は更にもう一発発射し集団に穴を開け、そこに飛び込んだ。

それを待っていたかのように、一体のサイボーグが飛び掛ってきた。

すると、山本はそれを待っていたかのように銃口をサイボーグに突き刺した。

「惜しい、あと一歩だったんだがな・・・!!」

その慰めと共に銃口から放たれた光線は、サイボーグを分断させる形で突き進んで行き、背後にいたサイボーグ達も巻き添えにした。

(ま、まさかあの銃は・・・!?)

ここまで見た神田達は、その銃が何かやっと理解することが出来た。

二重銃口破壊力重視光線銃『ツイン・バスターライフル』。

それも、現役でも一部の者しか持っていないと言われている、『連射型カスタム』と呼ばれる仕様だ。

その名の通り、ただでさえ威力の高い光線を連射が可能なようにカスタマイズされている特別製だ。

あまりにも珍しいそれを見ていた神田達であるが、ターゲットを変更しこちらに向かってくるサイボーグ達にはすぐ気が付いた。

「よ、よし、応戦するぞ!」

「ええ! ・・・あ!!」

「どうしたの? ・・・あぁ!!」

3人が目にしたもの、それはそんなサイボーグに突っ込んでいく迦樓美ちゃんであった。

「久々に燃えてきたわよ〜」

どうやら、山本の戦いぶりを見て何かに火がついてしまったらしい。

しかも、背中には既に武器とも取れる禍々しい2本の何かが背負われていた。

「ザマスザマスザマ〜〜ス!!」

その何かを振り回し、サイボーグたちを一撃で破壊していった。

ある者はそれで殴られ、またある者はその2本に挟まれ潰されるといった形で。

ある程度破壊したところで、迦樓美ちゃんは動きを停めた。

「も〜、これ使うの疲れるのよね〜」

大げさに肩を回しながら迦樓美ちゃんは呟いた。

すると、その背後からサイボーグが1体飛び掛ってきた。

その直後、奇妙な音がそのサイボーグから発せられた。

迦樓美ちゃんの背中にある何かがサイボーグをしっかりと捕えていたのだ。

「ちょうど良かったわ、ちょっと吸わせても・ら・う・わ♪」

するとその何かがサイボーグからエネルギーを吸い取り、迦樓美ちゃんへと流し込んでいった。

迦樓美ちゃんが背中に背負っている武器、それは動力源吸収機能付加翼『禍ノ生太刀』である。

「さぁ、来たわよ〜!!」

エネルギーがなくなり動かなくなったサイボーグを投げ捨てた迦樓美ちゃんはサイボーグの集団へと再び突入していった。

「さ、流石は迦樓美ちゃんね・・・」

そんな迦樓美ちゃんの様子を見ていた3人であるが、他のサイボーグがすぐそこまで迫ってきていることにすぐ気付いた。

「よし、俺らも負けずに行くぞ!」

すると、3人は同時に武器を具現化させた。

まず神田と大塚がほぼ同時に駆け出した。

神田は『蒼天の剣』を持って。

そして大塚は黒の長い柄に黄色の刃が備わった槍を持っていた。

運命系突刺貫通槍『雷鳴の闇』。

一番最初に仕掛けたのはその大塚であった。

その『雷鳴の闇』をサイボーグ1体に向けて投げた。

目標となったサイボーグは急いでそれを備えていたシールドで防御。

その瞬間、『雷鳴の闇』とシールドの交差点で激しいスパークが起きた。

すると次第に『雷鳴の闇』がシールドの内部へと進入していった。

そしてついにはシールドを見事に貫通、そのままサイボーグ本体に刃が突き刺さった。

大塚は神田よりも前に出てその槍を再び手に持ち、サイボーグから抜き取った。

その瞬間高々と跳躍、それと同時にサイボーグは爆発した。

「神田! 今よ!」

その大塚の掛け声と共に、まず神田が『蒼天の剣』を横に一閃。

間合いの中にいたサイボーグ2体がそれにより真っ二つになった。

すると、今の攻撃によりバランスを崩した神田にサイボーグ数体が襲い掛かろうとした。

「田町! 頼んだ!」

その一声とほぼ同時に、神田を掠るかのように光線が何本も飛んでいった。

光線は襲い掛かろうとしたサイボーグそれぞれに直撃、大破した。

光線を放ったのは、右手に自身の腕ほどの長さの銃身を誇るライフルを構えている田町であった。

運命系無反動光線砲『届かぬ想い』。

「よし、残りは・・・あ」

再び構え直した神田は、敵の集団の方を見て動きを止めた。

残った敵は全て山本と迦樓美ちゃんによって殲滅されていたのだ。

「あ、3人とも、お疲れ様〜♪」

満面の笑みを浮かべながら迦樓美ちゃんは3人に声を掛けた。

「さて、と・・・。じゃあこいつを始末するか」

すると山本は基地に『ツインバスターライフル』を向けた。

光の玉が銃口近くで大きくなっていき、そして引き金を絞ると同時に光線が放たれた。

基地に直撃すると同時に、山本は間髪入れずに再び発射。

今の光線で既に要塞は半壊状態になったにも関わらず、更に発射。

そして無言のまま、最後にもう一発放たれた。

結果、要塞は音を立てて崩壊を始めていった。

役目を終えた『ツインバスターライフル』は銃身から大量の蒸気が放出された。

「よし、これで終了だ。協力感謝する」

4人に対して山本は礼を言った。

「いえ、こちらこそ現役の仕事が見れて何よりです」

すぐさま神田が返答した。

「そう言ってくれると有難い。では帰還するか」

そして5人はその場を後にした。



「ところで山本さ〜ん、連絡先教えてくれる? もちろんこ・じ・ん・の♪」

「・・・それは勘弁願いたい」



その頃、『私立百花高校』の体育館にて。

そこで、目黒はログインし『ジャンクション』を構えている状態でいた。

そこから大分離れた場所には品川もログインし、何やら大きな弾頭を構えていた。

運命系高性能誘導弾頭『リフレイン』。

「・・・よし、目黒。始めるぞ」

「はい!」

すると品川はそのリフレインを発射した。

「ハッ!」

放たれた『リフレイン』目掛けて、目黒は真っ先に『ジャンクション』の引き金を引いた。

轟音と共に放たれた光線は、寸分の狂いも無い狙いであった。

だが、光線が弾頭に当たらなかった。

弾頭を放った張本人である品川が、それを遠隔操作していたからだ。

その弾頭は、目黒の周りを旋回しながら飛行を続けた。

それに対して目黒は無暗に乱射せず、弾頭に対して意識を集中させた。

この対峙は、弾頭が3、4周するまで続いた。

そして、弾頭が目黒の背後に達した時、行動を起した。

突然90度回転し、そのまま目黒に向かって突進していった。

だが、目黒もそれに反応していた。

気づくと同時に弾頭の方へ振り向き、そのまま引き金に力を入れた。

「そこっ!」

光線が放たれた時、弾頭は目黒のすぐそばまで迫っていたため、弾頭は放たれた光線を避けることが出来なかった。

光線は弾頭に直撃、そのまま爆発を起した。

このままであったら、目黒はその爆発に巻き込まれていたであろう。

だが、目黒は巻き込まれずに済んだ。

いつもは固定している足場をそうせず、発射の反動で後方へ自分自身を吹き飛ばしていたのだ。

そうすることによって、爆発から逃れることに成功した。

「・・・よし、上出来だ目黒」

離れたところでそれを見ていた大崎が目黒に近づきながらそう言った。

「だな、この調子なら今度の試験でNT5へのランクアップも問題なさそうだな」

「は、はい。ありがとうございます」

2人に褒められた目黒は照れながらそう答えた。

『百花高校』の生徒には、それぞれランクが付けられている。

卒業先の主な進路は関連大学への進学か、就職のどちらかである。

その中でも関連大学への進学と政府軍への就職はこのクラスや授業の成績が一定以上ないと適わない、狭き門となっている。

目黒はその進学を目指しているため、こうやって日曜にまで訓練を積んでいるのだ。

「やっているようね、3人とも」

入り口の方から突如声が聞こえてきた。

そこにいたのは、赤いジャージに眼鏡を掛けた教師であった。

「あ、蝶子先生。どうもです」

3人は一礼した。

この教師こそが、この体育館の責任者も務めている蝶子先生である。

ちなみに、神田が所属するバスケ部の顧問であり、目黒の担任でもある。

「ところで目黒。ちょうど来ていることだし、お前にちょっとした速報を教えてやろう」

微笑みながら蝶子は言った。

「何ですか?」

首を傾げながら目黒は聞いた。

「明日、転校生がウチに来ることになったぞ」

「・・・えぇ!?」

突然の報せに、目黒だけでなく他の2人も驚きを顔に表した。

「話はそれだけだ、じゃあ頑張りな」

それだけ言って蝶子は去っていった。

「・・・転校生、ですか」

まだ実感が湧かない目黒は呟いた。

「いっそのこと、生徒会に入ってくれると有難いな」

笑いながら大崎が言った。

「そんな簡単なものじゃないのは分かってるだろ?」

そんな大崎に品川は釘を刺した。

「ですよね・・・じゃあ品川さん、続き、お願いします」

「あぁ」

そう言って2人は再び訓練を始めた。



「お客さん、着きましたよ」

「・・・ん」

いつの間にか眠っていたみたいだ。

外を見てみると、目的地であるアパートが目の前に建っていた。

ここまでの長旅も、やっと終わりか。

あとは荷解きをして掃除して明日の準備をして・・・やることは山のようにあるな。

でもこれも、これからの高校生活を楽しむために必要なことだ、我慢しよう。

さて、早速始めるか。



「・・・アレ?」

帰宅した目黒は、隣のアパートに大きなトラックが停まっていることに気付いた。

「誰か・・・引っ越してきたのかな?」

疑問に思いながら、扉に手を掛けようとしたところ、

「あ、みりおねえちゃん!」

目黒の足ほどの身長の子供に抱きつかれた。

『みり』とは目黒の下の名前、漢字では『未莉』と書く。

「あら、ただいま」

笑顔を見せながら子供の頭を撫でた。

「おかえりなさい!ねえあそぼ!」



「ふふ、いいわよ。でもその前に着替えさせてね」

「うん!」

そう会話しながら2人とも建物の中へと入っていった。



この時、目黒は知る由もなかった。

目撃したトラックで引っ越してきたのがこの日聞いたばかりの転校生で、その転校生がこの後の『生徒会』を大きく動かすことを・・・。