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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
11月編

放課後の生徒会室。

「よっ」

一足先に来て雑務をこなしていた神田に池袋が声を掛けた。

「珍しいな、どうしたんだ?」

神田はそれに対し特に驚くこともなく対応した。

「先生たちから聞いたよ、文化祭大変だったらしいな」

「あぁ、誰かさんの用意した賞品が原因でな」

嫌味を含んだ形で神田は返答した。

「そう言うなよ、奪われずに済んだって聞いてるぞ」

「結果としてはな、だが奪われても不思議ではなかったぞ」

「でも、お前が本気出せば防ぐの簡単だったんじゃないか?」

その池袋の言葉に、神田は手を止めた。

「・・・知っているはずだ、俺はあれを卒業するまで使わないてことを」

「あぁ、知ってるさ。だけど、使っても誰も咎めることはないぞ」

「かもな、だがこれは俺自身の問題だ。そう簡単に破ることは出来ないさ」

池袋のフォローを神田は軽くスルーさせた。

「そっか、じゃあそんな君に頼みたいことがあるんだ」

そう言って池袋はポケットからケースに入った武器チップを神田の前に置いた。

「これを、その文化祭で武器を壊したという彼に渡してくれないか?」

「ほう・・・」

神田はその武器チップをリストに入れて内容を確認した。

「・・・毎度毎度、何でこうも特殊な武器を用意できるんだ?」

「それは機密事項だ。それに彼だったら使いこなせる、そうだろ?」

「確かにな、だが俺もこいつを渡そうと思っていたところだ」

そう言うと神田はポケットから武器チップを取り出して目の前に置いた。

「ほぅ、どれどれ」

それを池袋はリストに入れて中身を確認した。

「なるほど、これなら確かにあの武器の代用品にはちょうどいいな」

「あぁ、俺もそう思っている。あとでそれも一緒に渡しておく」

「悪いな、面倒なことになっちまったみたいで」

悪びれない笑顔を浮かべながら池袋は言った。

「今に始まったことじゃないだろ、もう気にしないことにしてるさ」

微笑みながら神田は返答した。

「それじゃあ、俺はこの辺で」

「やっぱり定例会議は出ないのか?」

「あぁ。やることが他にもあるからな。それに、さっきその上野君と目黒君に会ってね」

「そうか、そろそろ会議が始まるが、2人はどこに行ってる?」

「1年生と一緒に練習に励んでるよ、やっと十二支の許可が得られたからね」




「行って!」

目黒が放った『スーパードラグーン』が正確無比な射撃を繰り広げた。

その光線の目標は・・・俺だ。

「ハッ!」

勢いよく飛んでそれを避ける俺。

この体育館で行われた、あの生徒会企画から1ヶ月。

やっと会長を学校で見かけたため、練習のためにあの十二支の使用許可を得ることが出来、今こうやって俺と目黒は組み手を行っている。

でも・・・これは強すぎる。

いつ、どこから飛んでくるか分からない攻撃を読むだけでも、神経をすり減らされる。

・・・それなら、

「これでどうだ!」

『遠雷』による雷雲を発生させ、目黒の視界から姿を消した。

こうすれば、俺を狙うことなんて・・・と思っていると光線が俺の腕を掠めた。

「・・・嘘だろ?」

それだけでなく、他に放たれた光線も例外なく俺に襲い掛かってくる。

これじゃさっきと変わらない。

それ以上に、あの翼の先が見えない分俺には不利だ。

ここは・・・雷雲から抜け出すしかない。

とにかく俺は、ここから抜け出した。

そして目黒の方を向いたとき、俺は身震いした。

全ての翼の先を自分の近くに集め、それを俺に向けている目黒の姿があったからだ。

おそらく、あの時新橋に対して放ったあの射撃を行うんだろう。

目標を点ではなく面で捉えるという射撃。

ダメージは期待出来ないだろうけど、命中率は格段と上がる。

この状況を打破するには・・・これだ!

俺はすぐさま駆け出し、目黒の方へと向かった。

「シューート!」

目黒の射撃の合図が発せられると同時に、俺は跳躍。

そのまま目黒の頭上を飛び越え、攻撃を回避した。

いつもの目黒の『ジャンクション』なら、これは大きな隙だ。

だけど、あの『スーパードラグーン』は足場を固定しなくていい分それが少ない。

それを示すかのように、既に俺に向かって砲を向けている。

だけど、全てのがそういうわけじゃない。

こっちが攻撃を行うなら今だ。

「行けええ!」

俺が雷撃を掌から放とうとした、その時だった。

「そこまでだ」

突然制止の声が耳に入り、放とうとしていた雷撃を放たずそのまま着地した。

その声の主は、いつの間にか姿を現していた会長だった。

「え?」

俺も目黒も、何が起きたのか分からなかった。

「2人とも、それだけ相手が出来れば十分だろ?それに、そろそろ時間だ」

そう言われて時計を見ると、確かにそろそろ定例会議の時間だ。

「・・・そうですね」

目黒がそう言ってログアウトするのを見てから、俺も続けてログアウトした。

「じゃ、俺はこれで失礼するな」

「え?」

会長・・・まさか・・・。

「俺はこれからちょっと用事があってな、先に失礼する」

「・・・分かりました」

どうせ止めても無駄だ。

ここは無難に送り出すことにしよう。

「それじゃあな」

それだけ言って会長は体育館から出て行った。



「・・・やっぱり凄いね」

「ですね・・・」

同じく体育館、上野と目黒がいるスペースの反対側で、同じく渋谷、五反田、代々木の3人が練習していた。

しかし、目黒が使う十二支の凄まじさを目の当たりにし、練習どころではなかった。

「・・・五反田、アンタあそこまでなれる自信ある?」

「・・・いえ、正直ないです。代々木さんは?」


「え?私?・・・ゴメン、ない」

1年生の3人も次第に実力をつけていた。

現に、生徒会企画において最後まで残り続けるほどの実力はあった。

しかし、その時襲撃してきた3人に全く歯が立たなかったことにより、それによる自身は消え失せていた。

残っていたのは、今の上級生と同等以上に成長出来るのかという不安だけであった。

「3人とも、行くぞー」

体育館の入り口から、上野の声が聞こえてきた。

「あ、ハイ!今行きます!」

3人ともすぐそこから駆け出していった。

しかし、3人は気付かなかった。

そのすぐ後ろの、外への出入り口で

「・・・フ、若いな」

聞き耳立てていた用務員の羅印がいることを。



「お待たせしました」

生徒会室に入ると、既に神田さんに大崎さん、大塚さんが着席していた。

「お疲れ、どうだった十二支を使った感想は?」

神田さんが俺の後ろにいる目黒にそう聞いた。

それを知っているということは・・・会長から聞いたのか?

「はい、改めてかなり強力な武器ていうのは分かりました」

聞かれた目黒はそうハキハキと返事した。

「そうか、だがその分扱うのも難しい武器だから、使う際は慎重にな」

「はい!」

神田さんからの忠告にも笑顔で返した。

「さて、上野。『両腕部Iフィールド発生器』のことだが」

言われて思い出した。

先月の生徒会企画で壊れてしまったそれを神田さんを通して修理の依頼をしていたんだ。

「はい、直りましたか?」

「それがな、あれもう修理不可能みたいだ」

「・・・え?」

予想外の言葉に思わず聞き返してしまった。

「お前のやったJSAモードからのフィールド強制二重収束、あれが想定の範囲外での使用方法だったみたいでな」

「うっ・・・」

たしかに、フィールドをあんな形で使ったら負荷も半端ないだろう。

現にその壊れ方も普通ではなかった。

「じゃあ上野君、しばらくは『遠雷』だけで依頼にあたるてこと?」

目黒が心配そうに俺を見る。

今まで『シャイニング・フィンガー』があったから多少手強い相手でもどうにかやってこれた。

『遠雷』は形を変えれて状況に合わせることが利点で、決め手に欠く武器だったからだ。

それがないとなると、これから苦戦が強いられるのは確実だ。

だけど・・・

「一応、代案は考えているさ」

「代案?」

「あぁ、ちょっと試したいからさ、あとで付き合ってくれるか?」

「う、うん、いいよ」

戸惑いながらも目黒は笑顔で答えてくれた。

「そうか、じゃあ俺からも一応餞別だ」

その神田さんの言葉と共に机の上に武器チップが入ったケースが置かれた。

「え、これは・・・?」

「ここ最近使ってない俺の武器だ。お前の経験も活かせるだろうから、使うといい」

「い、良いんですか?」

いくら実力があるとはいえ、簡単に自分の武器を渡すのは良いとは言えない。

それに対する戸惑いが一瞬言葉に表れた。

「あぁ。俺は今は『蒼天の剣』だけで十分だ」

「え?」

「だから心配するな」

「・・・分かりました、ありがとうございます。」

礼の述べてから俺はチップをリストにセットした。

「お待たせー」

タイミング良く田町さんと品川さんが入ってきた。

「よし、じゃあ全員そろったし会議を始めるか」




「・・・よし、定例会議は以上だ」

神田さんの口から会議の終わりが告げられた。

あの生徒会企画での出来事があってからも、校内では平穏な日々が続いていた。

現に、今日も問題なくこの定例会議は終わっている。

・・・もう一度先月みたいなことが起こらないのが一番だが。

「次に、久々に軍から依頼が入っているから、その件に関してだ」

そう言う神田さんの手には、1つの封筒が俺たちに見える形で上げられていた。

「へぇ、どんな内容なんだ?」

大崎さんが興味津々に聞いた。

「特にこれと言って変わった物じゃない。そこの河川敷の一部から、異星人の基地と思われる熱源が見つかった。

そこの調査が今回の内容だ」

河川敷・・・前にサッカー部の連中とやりあった場所か。

あんな場所に基地があったとは・・・意外だな。

「なるほどな・・・で、何人ぐらいがいいんだ?何だったら久々に俺が行くぜ」

余程退屈していたんだろう、大崎さんが肩を回しながら張り切っている。

「いや・・・今回は1年生3人に行ってもらおうと思っている」

神田さんのこの発言に、当の1年生3人は

「「「え!?」」」

驚きを隠せないでいた。

「少しは3人に経験を積んでもらいたいからな。それに、今回は軍の人が2人も来るらしいから、大丈夫だろ」

そう言う神田さんに対し、

「・・・・・」

不安そうな表情を浮かべる3人。

まぁ、普通はそうだよな・・・。

「ところで、引率は決まってるの?」

大塚さんが率直な疑問を上げた。

「あー、それなんだけどな・・・」

「どうしたんですか?」

「・・・今回は迦樓美ちゃんだ」

この一言で、生徒会室にどよめきみたいなものが起こった。

・・・なんでよりにもよって迦樓美ちゃんに?

「どうやら他の先生たちは用事があるらしくてな。空いているのが迦樓美ちゃんぐらいなんだ」

「・・・なるほど、じゃあ仕方ないな」

品川さんはどうにか納得した・・・ようだけど、どこか腑に落ちないような顔をしている。

「とにかく、3人とも頑張ってくれ。何か決まったら連絡するからな」

「・・・了解です」

五反田はどうにか返事は出来ていたけど、他の2人はただ頷くのが精一杯のようだ。

「じゃあ、今日のところは解散、皆お疲れさま」

この一言と同時に、皆散り散りに帰り始めた。

今日は・・・確かどの部活も体育館を使わないはずだよな。

それなら、

「目黒、さっきの続き、やろうぜ?」

とにかく今は練習しなきゃな。

「いいけど・・・会長いないから十二支は使えないよ?」

「いいぜ。ちょっと試したいこともあるし」

「え、もしかしてさっきの?・・・分かった、行こ」

そこから立ち上がってその場を去ろうとした・・・その時だった。

「上野、ちょっと待て」

「え?」

突然背後から神田さんに声を掛けられた。

「ちょっと話したいことがある、いいか?」

「・・・先に行ってるね」

この神田さんの一言を聞いてから、目黒はそう伝えてきた。

ここは・・・それが良さそうだな。

「あぁ、なるべく早めに行く」

「うん、じゃあまた後で」

そう言って目黒は出て行った。

「・・・それで神田さん、どうしたんですか?」

わざわざ会議が終わって、人が少なくなった後に止めるぐらいだ。

何かあるのは明らかだろう。

「上野・・・お前、新橋と何回か接触しているらしいな、先月も含めて」

「!?」

神田さんの口から新橋の名前が出てきたことに、驚きを隠せなかった。

「別に咎めるつもりじゃない。どうせ会長・・・池袋に巻き込まれたんだろう?」

「・・・はい」

「んで、この生徒会とは無関係な戦いを何度かしている・・・と言ったところだ、違うか?」

「・・・その通りです」

さすが神田さん、的確に読んでいる。

「お前はそれでいいのか?多分、今後も先月以上の戦いを強いられることになっても?」

確かに、それは始めから予想している。

どうにか会長の手から逃げ出す方法も一時期考えた。

だけど、今は違う。

新橋や、先月襲ってきた奴ら・・・ああいうのを止めるための戦いをしなくちゃいけない。

だから、自信を持って言える。

「大丈夫です、問題ありません」

「そうか・・・」

この俺の一言を聞いてから、神田さんは腕の認証リストに手を掛けた。

そこから取り出したのは・・・武器チップ?

それも、さっきのとはどうも違う。

「神田さん、それは?」

「・・・これは、去年の生徒会企画で俺が手に入れた武器チップだ」

「き・・・去年の?」

確かに、去年の生徒会企画の優勝者は神田さんだというのは聞いている。

だけど・・・それを使っているところを見たことはない。

目黒の十二支を見ても、神田さんがもらったという賞品も凄い武器に間違いないはずなのに、何で?

と、俺が考えを巡らせているうちに、神田さんはそのチップを専用のケースに入れた。

「・・・こいつを、俺が卒業するまでお前に貸しておく」

神田さんの言葉と共に、俺の目の前にそのケースが差し出された。

・・・正直、理解が出来ない。

「ど・・・どういうことですか?」

「言っただろ、この先もっと過酷な戦いがお前を待っているって。ならば、持っていて損はないはずだ」

確かに、一理ある。

現に『遠雷』による雷雲の目くらましも奴らに通じなかった。

『シャイニングフィンガー』でも通じるか疑問だ。

それらを考えると、もっとランクが上の武器は持っていたほうが断然いい。

だけど・・・

「じゃああの時、何で神田さんはそれを使わなかったんですか?」

それを使っていれば、あの時の戦況はまた違っていたはずなのに・・・。

「コイツは・・・今の俺には手に余る代物だ」

「え?」

「確かに、これをあの時使えば楽になっていたかもしれない。だが・・・」

「・・・何があるんですか?その武器に・・・」

神田さんがここまで1つのことを拒む姿を、俺は初めて見たかもしれない。


「こいつの力は・・・強大過ぎる。生半可な気持ちで扱えるものじゃ決してない」

「え?」

「だからコイツを手にしたとき、俺は決めた。卒業するまで、『蒼天の剣』1つで戦い抜くとな」

そこまでの決意を神田さんにさせるほどの力・・・一体何なんだ?

「そ・・・そんな武器を、俺が預かっていいんですか?」

聞いているうちに、自然と身震いしている自分がいた。

「あぁ、ただ俺のリストに入れているだけより、その武器のためになる。それに・・・」

「・・・何ですか?」

「お前だったら、それを使うときを自然と見つけられるはずだ」

「そ、そうですか?」

いくら神田さんだからといって、それには説得力が感じられなかった。

「とにかく、俺が卒業するまで、こいつを頼んだぞ」

「分かりました、では大事に使わせてもらいます」

俺はそう言ってそのチップを受け取った。

・・・まだ、このチップはリストに入れない方がいい。

そう考えた俺は、ケースごと学ランの内ポケットに入れた。

「さて、折角だ。さっき渡した武器の練習に俺も付き合おう」

神田さんはそう言って立ち上がった。

「は、はい。ありがとうございます。」

そしてそのまま神田さんと共に生徒会室を後にした。



翌土曜日。

『百花高校』近くの河川敷に、渋谷、代々木、五反田の3人と、

「どうも〜よろしくおねがいしま〜す♪」

引率で同行してきた迦樓美ちゃんが軍から赴いてきた2人に挨拶をしていた。

「どうも、政府軍東京支部の青野と申します。そしてこちらが・・・」

「蛇行って言う、よろしくな」

一方が丁寧に対応する中、もう一方はそんな気を全く見せずにいた。

「今回の任務なのですが、基本は調査最優先でお願いします」

「あら、その理由は?」

「何せ、場所が場所ですから、ここにわざわざ基地を作った理由から探らなければならないのです」

「なるほどねぇ、一理あるわよねぇ〜」

体をくねらせながら、迦樓美ちゃんは辺りを見回した。

周りは閑静な住宅街で、ここに基地を建設する理由は見当たらなかった。

「なので我々3人で内部の調査を行い、学生さんには逃げ出そうと表に出た敵を対処して欲しいのです」

「なるほど、了解♪3人ともわかった〜?」

「「「はい!」」」

迦樓美ちゃんの間の抜けた問いに、3人はビシッと引き締めながら答えた。

「よし、では行きましょう・・・蛇行、頼む」

「あいよ」

そう言われて、蛇行は足元の土に手を掛けた。

すると次の瞬間、蛇行が手を上げると同時に地面を模様をした蓋が取れ、その下に階段が見えた。

「・・・では、行きましょう」

「は〜い♪」

そして3人は階段を降りて行った。



「・・・・・」

俺は今、久々に任務も練習も部活も、何もない休日を満喫している。

何気なく部屋のベランダに出て、この前神田さんから渡された武器チップを眺めていた。

あまりにも天気がいいから、体が勝手にそうさせた。

しかし、一体この武器チップにはどんな武器が入っているのだろうか。

神田さんが好んで使うのをためらうほどの力を持つ武器・・・。

はっきり言って、気にならない方がおかしい。

・・・気になると言ったら、先月襲ってきた奴らもそれだ。

新橋と一緒に攻めてきたところからすると、あいつの組織の一員ていうのは分かるけど・・・。

それ以上に、先生たちと何かしら関係性がありそうなのが引っかかっていた。

いつかそれが分かる日が、来るのか?

「お姉ちゃん、早く早く〜」

前から声が聞こえてきた。

何かと思って見てみると、隣の孤児院で目黒が外へ出される子供たちに引っ張られていた。

「分かったから、そんな引っ張らないで」

そう言う目黒の顔は、心なしかいつも以上に笑顔に見えた。

・・・きっと、目黒にとって今が一番安らげる時間なんだろうな。

そう考えていると、テーブルの上に置いていたケイタイが鳴りだした。

「え?」

普段のケイタイならともかく、鳴っていたのはEB用のスマホ、つまり会長から渡されたものだ。

不思議に思いながらも、俺はケイタイを手に取った。

とりあえず、出てみよう。

「はい。上野です」

「よう」

会長の声だ。

「こ、こんにちは。どうしたんですか?」

少し動揺しつつも、聞いてみた。

「・・・今、時間空いているか?」

「え?あ、はい・・・」

・・・嫌な予感しかしない。

「ちょっと話があるから、河川敷まで来てくれないか?」

河川敷て・・・今日1年生達が任務に行っているあそこか。

何でか気にはなるが、中々会えない会長と話す機会だ、ここは乗っておこう。

「わ、分かりました。今行きます」

と、そのまま切ろうとしたところ

「あ、スマホも忘れずにな」

会長からこう釘を刺された。

・・・やはりあの組織関連か。

「分かりました」

そう一言言って、スマホをそのままポケットに入れた。

これがあれば、すぐにログインはできる。

「よし、行くか」



アパートを出て河川敷に向かう道を歩いていると、目の前にボールが転がってきた。

「お?」

何だと思いながら拾い上げてみると、それが何かすぐ理解出来た。

「すいませーん・・・あれ?上野君?」

その声からそれは確信に変わった。

孤児院の子供が遊んでいたボールが外に飛び出してしまい、それを一緒に遊んでいた目黒が拾いに来た、ただそれだけのことだ。

「これか?はい」

「ありがとう」

ボールを手渡すと目黒は笑顔でそれを受け取った。

「みりおねえちゃん、このひとだあれ?」

視界の外から急に幼い声が聞こえてきた。

声のする方を見ると、目黒の足元から隠れてこちらを見ている男の子がいた。

「やあ、こんにちわ」

笑顔でその男の子に挨拶した。

「・・・みりおねえちゃんのこいびと?」

いきなりの男の子の発言に、俺も目黒も驚いてしまった。

「ちょ、ちょっとコウ君!」

俺以上に、目黒が動揺しているのは明らかみたいだが。

これは俺が答えるしかないみたいだな。


「そうだな、どちらかというと『仲間』かな」

「ナカマ?」

首を傾げながらその子は疑問符を頭の上に浮かべた。

「あぁ、友達よりももっと大事な人ってことだよ」

しゃがみ、その子の頭を撫でながら答えた。

「そっか!」

どうやらそれが通じたらしく、その子は満面の笑みを浮かべた。

「ほら、ここは危ないから中に入りな」

「うん!」

するとその子は駆け足で中へと入っていった。

「・・・ああいう回答で大丈夫だっただろ?」

その子が離れるのを確認してから目黒に聞いた。

「え?あ、うん、そうね」

目黒も落ち着いたのか、やっと受け答え出来た。

「さて、俺はそろそろ行くな」

「あれ?どこ行くの?」

「あぁ、会長に呼ばれてな」

「え?・・・私も行こうか?」

会長に呼ばれたというのに何か感じたのだろう、目黒がそう聞いてきた。

「いや、俺だけしか呼ばれてないし、目黒はいいんじゃないか?」

「でも・・・」

「それに、さっきの子が待ってるぞ?」

俺が視線をさっきの子に向けると、目黒はそれを見て俺の言いたいことが分かったみたいだ。

「・・・ありがとう、でも何かあったら連絡ちょうだいね」

「あぁ、分かった。それじゃ」

それだけ言い残して俺はその場を後にした。



視界に河川敷が入るのと同時に、会長の姿も確認出来た。

河川敷といっても広いから着いてから連絡を入れようと考えていたけど、その手間は省けた。

だけど、1年たちが任務が行っている場所からは少し離れている。

ここに・・・一体何が?

「いやぁ、悪いね」

開口一番、会長からそう労われた。

「いえ、それより、一体ここに何があるんですか?」

俺もまずはそう質問した。

「・・・昨日、雷電さんから連絡が来てな」

雷電さん・・・前に廃ビルで一緒に任務を行ったあの人か。

「・・・何かあったんですか?」

「今日の任務で向かっている先、何の施設か分かったんだ」

「え?」

「あそこは・・・異星人の基地じゃない、例の組織の実験場だ」

「実験場?」

聞くからに物騒な名前だ、何もいい予感がしない。

「要は、強化のために必要な実験を行う場所だ」

「え!?」

前にその組織は、強化による成果を試すために存在するといったことを聞いた。

ということはここは・・・

「奴らの重要拠点・・・ということですか?」

「その通りだ。だから、ここが破壊されないためにも、やつらはそれなりに力を使ってくるはずだ。

この前の文化祭の時と同じか、それ以上か・・・」

そ、そんなに力を・・・?

確か今日は、1年3人に迦樓美ちゃん、それに軍から2人来るらしいから・・・

「今、あっちにいる人たちで太刀打ち出来ると思いますか?」

「おそらく難しいだろう」

「じ、じゃあ早く助けに行かないと!」

俺が慌てて任務が行われている方へ行こうとすると、

「その必要はない」

落ち着いた口調で会長が止めてきた。

「ど、どうしてですか?」

「やつらは・・・ここに現れる」

そう言ってから会長は土手の方を向き、こう言った。

「そうだろ、新橋!」

その言葉を聞いたと同時に俺も土手の方を向くと、そこには確かに新橋がいた。

「池袋・・・」

新橋の表情は、明らかな怒りに満ちていた。

だけど、この前みたいに自我を失っているようには見えなかった。

今日は・・・まともに会話出来そうだ。

「この前は上野と目黒に負けたそうだな」

軽い挑発ともとれる発言を会長は口にした。

これで・・・奴はどうでる?

「あぁ、確かにやられたさ・・・だが、それ以上にお前にまたやられたみたいだな」

口調では冷静を装っているように聞こえるが、語気まではそれが出来なかったみたいだ。

だけど・・・

「会長にやられた・・・?どういうことだ?」

そこが引っかかり、つい聞いてしまった。

「・・・・・」

会長は何も答えてくれそうにない。

だけど、新橋はそうはいかなかったみたいだ。

「教えてやるよ、そいつはな・・・先月お前たちと戦っている間に俺たちの拠点を1つ破壊しているんだよ!」

「え?」

あの時・・・会長はいつものようにさぼっていたんじゃないのか?

「主戦力がいなかったからな。攻略そのものは簡単だったぞ。もっとも、そのための準備も大変だったけどな」

「・・・もしかして、あの賞品の十二支って・・・」

「そうさ、そいつが俺たちをおびき寄せるために仕組んだんだよ!」

あの十二支は会長が調達したものだとは後から神田さんから聞いてはいたが、それが・・・。

「それだけじゃねえ。8月だって、俺がいる目の前で拠点を再起不能にしやがったんだ!」

「8月って・・・まさか・・・」

「あぁ、君たちと合流する前に、一仕事やってきたんだ。代々木さんもしっかり働いてくれたぞ」

今まで、俺は会長が噂どおりのサボり癖で定例会議とか出てないのかと思っていた。

でも、もしかしてそれを聞くと・・・

「まさか・・・ずっと前からそんなことを・・・?」

「・・・気付かれたなら仕方ないな。その通りさ。中々苦労する仕事だぜ、これは」

首を鳴らしながら、疲れたような素振りを見せる会長。

「笑わせてくれるぜ、今まで散々心配してやったのに、影ではそんなことしていやがったんだからな」

当時のことを思い出して嫌な気持ちになったのだろう、顔にしわを寄せながら新橋は言った。

・・・俺の気持ちは違った。

今まで俺は会長は自由奔放で身勝手な性格なのだろうと思い込んでいた。

だけど、実際そうじゃなかった。

「会長・・・俺は・・・」

「気にすることはないさ。普通に見られていたらそう思われて仕方ない」

まるで俺の心を見透かされているように言われた。

「それよりも、ここまで君を巻き込んでしまったことには申し訳ないと思っている」

「え?」

「最初は・・・あの廃ビルで『シャイニングフィンガー』を使ってくれるだけで良かったんだ」

・・・言っていることが理解できない。

「どういうことですか?」

「前に少し話しただろう、あの『両腕部Iフィールド発生器』は・・・前に目白さんも使っていたんだ」

「あ・・・」

そういえば、たしかに前に聞いたことがある。

「それを見て、少しは昔を思い出してもらえれば、こっちに引き戻すことが出来ると思っていたんだが・・・」

「・・・ハッ。その程度のことで戻れるとでも思っていたか」

まるで会長を見下すかのように新橋は言ってきた。

「あぁ、だから・・・お前をいい加減止めてみせる!」

そう言ってから会長はあのスマホを取り出した。

「面白い、やれるもんならやってみな!」

もう新橋はログインが済んでいるのだろう、武器を具現化させようとした。

「行くぞ、上野君!」

「あ、はい!

言われて、俺は慌ててスマホを取り出した。

と同時に画面に指を当て、そして

「「EB、ログイン!!」」

声を発すると共にログインした。

すると新橋も武器の具現化が完了した。

あの廃ビルで見せた『エクスカリバー』だ。

「行くぞぉ!」

そしてまだ武器を具現化させていない俺たちに向かって新橋が駆け出そうとした。

その時だった。

「待ちたまえ、新橋君」

突然新橋の背後から声がしてきた。

ふとスマホを取り出し、画面を見てみると、新橋の後ろからもう1つのログイン反応が近づいてきていた。

俺はその新橋の背後に注目した。

するとすぐに、1人の老人の姿が現れた。

背は高くなく、立派なアゴヒゲをたくわえている。

新橋はその姿を見ると、その名を口に出した。

「す・・・巣鴨さん」

「全く、近頃の若いもんは気が早くて困るわい」

片手でその髭を自慢げに触りながら、その巣鴨という老人は言ってきた。

「・・・あなたが巣鴨か、初めてみるな」

その姿を見るなり、会長がそう口にした。

・・・て、あれ?

「会長、知っているんですか?」

「あぁ、この前襲ってきた3人がいただろ?あの3人と同格の幹部だ」

「え?」

あの中にガキがいたことにも驚いたが、まさかあんな老人までいるなんて・・・。

「で、あんた達だけで拠点の破壊を止めにきたのか?」

会長がいきなり本題を切り出した。

「いや、ワシは今日は戦うつもりはないわい」

「え?」

ここまで来て戦わない?

どういうことだ?

「ワシは、真正の『覚醒』適合者を直に見たかっただけじゃ」

「え?」

それって・・・俺のこと?

「ふむ、いい目をしておる。新橋の苦手なタイプじゃな。こりゃ手こずるわけじゃ。けど・・・」

「・・・けど、何だ?」

その後が物凄く気になる上に、嫌な予感がしてならない。

「さっき、拠点の方へ『ASLR−3F』を何体か手配しておいたわい。そっちは止めなくていいんかい?」

「『ASLR−3F』・・・?」

一体何のことだ?

「・・・前に君も戦ったことのある、あの巨大ロボットだ」

俺が戦ったことのあるロボット・・・?

まさか・・・

「あの屋上で戦った、異星人のロボット・・・?」

「そうだ。それが何体も、となると、1年生達で止められるか・・・」

あの3人には悪いが・・・

「難しいでしょう」

「だな。早く助けに行くぞ」

「ホッホッホ、いい具合に慌ててきたのう。では私はここで失礼する」

そういい残して老人・・・巣鴨は立ち去っていった。

「ま、待て!」

「上野くん、今は放っておいていい。それよりも、助けに行くぞ」

「は、はい!」

幸い、もうログインは済んでいる。

あとは向かうだけだ・・・!

その俺たちの急に目の前に何かが飛び込んできて、小さな爆発を起こした。

考えるまでもない、新橋だ。

「行かせると思うか?」

「ク・・・」

まずはこいつをどうにかしないとダメか。

早く済ませないと・・・。

俺がそう考えている間に、新橋が何かの衝撃を受けて、吹き飛ばされた。

衝撃の正体、それもすぐに分かった。

『ZEROシステム』を使って肉体強化を図った会長の飛び蹴りだった。

「上野くん。コイツは俺が止めておく」

「え?でも・・・」

「俺は1人でどうにかコイツを止められるが、君にはまだそれは荷が重過ぎるだろう」

・・・確かに、今の俺にはそれが一番の選択のようだ。

「わ・・・分かりました!行ってきます!」

俺はそのまま拠点の方へ向かって走り出した。



「・・・言ってくれるじゃねえか」

新橋は上野がその場が立ち去って、池袋1人になったところで起き上がり、話しかけた。

「いつまでも、俺がお前に負け続けるとでも思っているのか!?」

怒りによって、新橋の周辺に軽い地響きのようなものが発生した。

「・・・俺が嘘をつくとでも思っているのか?・・・そのことを含めて、な」

「・・・どういうことだ?」

池袋の発言に、新橋は疑問を浮かべた。

「俺は上野くんにお前を『倒せない』じゃなくて、『荷が重過ぎる』って言ったんだぞ?」

「何が言いたい!!」

急に謎掛け的なことを言われ、新橋を苛立ちながら叫んだ。

「もう・・・彼はお前を超えている、ってことさ」

「・・・言ってくれるじゃねえか、じゃあそうでないことを教えてやる!」

すると新橋は池袋に対して斬りかかった。

池袋はそれに慌てることなくそれを横に移動することで避けた。

「!?」

その直後、『エクスカリバー』を振ったことによる衝撃が池袋に襲い掛かってきた。

咄嗟に池袋は腕でそれから身を守り、どうにか防いだ。

「ほう、少しは成長しているみたいだな」

感心しながら池袋は再び構えた。

「いつまでもお前に負けていられるわけにはいかなくてな」

新橋も答えながら再び『エクスカリバー』を構えた。

「そうか・・・じゃあ、俺も少し本気をだすことにするか」



「・・・ここって、結構ヤバい施設なんじゃな〜い?」

異星人の基地を調査していた迦樓美ちゃんが、蛇行と青野の2人に言った。

「ですね。最近の使用形跡はありませんが、これはちゃんと調査を進める必要があるかと」

迦樓美ちゃんの言葉に、青野も賛同した。

「だな。だけど、外の学生が待ちくたびれなきゃいいけどな」

蛇行は地下であるその場所から上にある地上を見上げるように言った。

「じゃあ、早めに終わらせよう」

「さんせ〜い」

そう言葉を交わした、その時だった。

部屋中を急に騒がしいサイレンが鳴り響いた。

「・・・どうやら、そうはさせてくれねえみたいだな」

「ですね」

警戒心を露にする3人の周りに、続々と人型のロボットが姿を現した。

「・・・さっさと片付けようぜ」

蛇行がそう言ってから武器を具現化させた。

「ですね」

続いて青野も武器を具現化させるのを見て、

「あら〜、2人とも分かってるじゃな〜い」

迦樓美ちゃんも自身の武器『禍ノ生太刀』を具現化、背中に装着した。

「じゃあ、行くぜ!!」

まず先に出たのは蛇行であった。

手に持った、シールドとビームソードが一体となった武器を構えて敵の集団に駆け出した。

それに対し、ロボット達は蛇行目掛けてビーム砲を一斉に発射した。

前方から隙間なくくる攻撃、通常であれば回避は困難であった。

しかし、蛇行は

「甘いんだよ!!」

とビームソードを伸ばしてしならせることで鞭のように扱い、そのビームの弾を振り払った。

それにより跳ね返された弾は例外なく射出したロボット本体に命中、爆発していった。

そんな一見無茶な戦闘をする蛇行の武器、それは攻防一体型エネルギー収束兵器『沖津ノ鏡』である。

だが、蛇行の攻撃は終わっていなかった。

「行くぜ、オラーーー!!」

更にそのままロボットの集団に突入し、『沖津ノ鏡』から放たれたビームを振り回し、次々とそれを斬り倒していった。

その勢いと攻撃範囲の広さに、ロボット達は近づけず、ただ倒されるだけであった。

仮にビーム砲でその範囲外から射撃しても

「無駄だ!!」

とすぐに蛇行によって跳ね返され、返り討ちに遭うだった。

一方、青野はロボットに対して

「ハァッ!!」

自ら具現化した、両腕に装着した伸縮自在のクローで圧倒的に長い間合いからの攻撃を繰り出していた。

だが、クローで行うのはあくまでロボットを掴むことだけ。

その後、それを振り回して周りの敵を容赦なく破壊していった。

それが青野が使う両腕伸縮自在義手『ダブルドラゴンハング』主な使用目的である、。

だが、その間足を止めていることもあり、相手からしてみれば絶好の的であった。

そこに漬け込み、ロボット達は一斉に青野に対して射撃を放った。

「悪いですけど、見えてますよ!」

それを感知した青野は伸ばしていたクローを縮めて、自分の下に引き寄せた。

そして、掴んでいた敵でその攻撃を全て受け止めた。

いくつもの攻撃を受け止めたこともあり、そのロボットがボロボロになったのを見てから青野はそれを手放し、

「次、行きますよ!」

青野は再びクローを伸ばした。

クローは直前の相手から受けた攻撃によって発生した煙によって死角となり、敵がそれに気付いたのは目前に迫ったときであった。

そして再び同じ攻撃を行い、敵を壊し続けた。

「さすが軍人〜、いい仕事してるわね〜」

2人の姿を、迦樓美ちゃんは『禍ノ生太刀』で掴んだ相手からエネルギーを吸い上げながら眺めていた。

その迦樓美ちゃんの周りには、既に破壊されたロボットの残骸が散らばっていた。

あとは蛇行と青野に狙いを定めており、他に迦樓美ちゃんを狙う敵はいなかった。

その狙いを定めているロボット達も、もう数えるほどしかいないのを迦樓美ちゃんは確認していた。

「これなら、すぐに終わらせるわ〜・・・アラ?」

迦樓美ちゃんはすぐに察知した。

背後の通路から、新たな敵の集団が近づいていることを。

「もう〜、少しは休ませてほしいわ〜」

そう言って大きくため息をついた後、

「マ、変わらないけどね〜」

そのまま集団へと突撃していった。



「・・・嘘でしょ?」

「僕も・・・そう思いたいです」

入り口で待機していた1年生3人の前に、信じ難い光景が広がっていた。

5月、渋谷と五反田が任務で対峙したあのロボットが、数にして5体も降りてきていたのだから。

「でも・・・ここは私達で食い止めなきゃ」

渋谷は拳に『刹那の夢』を身につけ、構えた。

「ですね、やれるだけのことはやりましょう」

五反田も『砕かれた世界』を構え、

「・・・うん」

少し遅れて代々木も『自由の代償』を構えた。

そして、ロボット達が着地したと同時に

「行くわよ!」

渋谷の掛け声と共に戦闘が開始された。



「間に合った!」

俺の視界の奥で、あの時の巨大ロボットが5体下りてくるのに身構える1年生3人の姿が映った。

そのロボットの内、一番早く降りてくるロボットは既に拳を振るおうとしている。

しかも、背中のブースターは今にも点火しそうだった。

あの距離から攻撃されれば、避けるのは難しい。

しかも、3人には背中にあるブースターは死角だった。

これは・・・すぐ止めなくては!

(・・・この距離なら!)

そう確信した俺は、走ったそのままの勢いで跳躍。

そのままロボットに対して会長さながらの蹴りを見舞った。

会長のように吹き飛ばすとまではいかなかったが、体勢を崩し攻撃を中断させるには十分だった。

「上野さん!?」

突然の俺の登場に、1年生から驚きの声があがったのが聞こえてきた。

とりあえず俺は3人の目の前に着地した。

「ど・・・どうして?」

そんな俺に疑問をぶつけられた。

まぁ、当然といえば当然か。

だけど・・・

「話は後だ。今は・・・こいつらをどうにかするぞ!」

そう言ってから、俺は『遠雷』を両手に纏い、構えた。

だがそうしている間に、ロボット達は先ほどの奴らとは違い、腹に備わっている砲を放とうとしていた。

とりあえず、ここは・・・

「散るんだ!」

一旦その場を離れて、攻撃を避けるしかない。

そうやって離れた直後、4体によるビームの砲撃が放たれた。

砲撃は先ほどまでいた場所に集中砲火され、一瞬で荒れた。

だけど、この隙はチャンスだ!

「五反田!」

「はい!」

お互い遠くに離れたが、なすべき事は分かっていた。

俺は雷撃を、五反田が『砕かれた世界』による砲撃を、それぞれこの隙に放つだけだ!

「迸れ!」

「発射!」

俺と五反田は、同時にそれを行った。

この攻撃は、全て当たるものだと思っていた。

しかし・・・

「な!?」

「え!?」

雷撃も砲撃も、ロボットに当たる寸前で途切れてしまった。

これは間違いなく・・・

「・・・フィールドか」

以前戦った奴らには備わっていなかった。

おそらく・・・改修されたんだろうな。

思えば、さっき言われた『ASLR−3F』のFはフィールド搭載型て意味だったんだろう。

そうなると・・・俺も五反田も非常に厳しい戦いになりそうだ。

なら、早速アレを試すときが・・・そう考えたその時だった。

「ハァァァ!!」

渋谷が単身、俺がさっき蹴飛ばしたロボットに突っ込んでいった。

それはあまりにも・・・無謀だ!

「渋谷!早まるな!!」

そう言った頃には、渋谷はロボットの顔面目掛けて殴りかかっていた。

その拳から放たれた衝撃で、ロボットは少し傾いた・・・が、それだけだった。

ロボットは傾いた体勢から拳を固めて、渋谷に殴りかかろうとした。

渋谷は殴った直後で、すぐには動けなかった。

これはもう攻撃を受ける・・・そう俺が思ったその時だった。

その拳に何かが当たり、その拳をはじき返した。

当たったのは・・・代々木が投げた『自由の代償』だった。

これで渋谷はそのままロボットから離れて、難を逃れた。

だけど、今度は今の攻撃を行った代々木が攻撃の対象となってしまった。

ここは・・・練習の成果を見せるときか。

「五反田!援護射撃を頼む!」

「え?でも・・・」

「いいから!信じてくれ!」

「わ、分かりました!」

そのやり取りの直後、俺は駆け出し、五反田は砲撃を放った。

放たれたいくつもの光線は、先ほどと同じようにフィールドでかき消された。

だけど、それでいい。

あくまで目的は、目くらまし。

その砲撃の間に俺は別方向から近づき、奴の頭部まで飛び乗った。

そして更に跳躍し、奴の攻撃範囲から一気に離れた。

ここからが・・・本番だ!

ずっと考えていた、『両腕部Iフィールド発生器』を使わずにフィールドを持つ相手とやり合う手段を。

そのために考え付いた方法・・・まず、宙に浮いたままの状態で体を屈め、両手で足を掴んだ。

結果的に体の重心が変わり、自然と回転してしまったがそれは別に問題ない。

むしろ、周りから見て少し格好良く見えるだけいいだろう。

そして頭が下になったときには、手に纏っていた雷の半分が足に移った。

その足を使い、ブースターの要領で雷撃を放った。

それで勢いを付けた俺は、そのままロボットへ落下した。

あのフィールドを『遠雷』のような武器で破るには、かなりの破壊力を有する攻撃じゃないと無理だ。

なら逆に、それを使わない攻撃、ずっとそれを考えた結果がこの方法だ。

これならフィールドの影響で雷撃が消されても付けられた勢いは消されない。

と、ロボットがこっちに指を向けてきた。

指の先には穴・・・つまり砲が装備されている。

それを俺に向けて撃ってくるのだろう。

だから俺は撃たれる寸前でこいつを発動させた。

昨日『ビームコーティング』から進化したばかりのこいつを。

「『ビームバリア』!!」

対強力エネルギー遮断壁『ビームバリア』。

性能は『ビームコーティング』と同じだが、その効果の程は歴然だ。

それが相手の放ったビーム弾を防ぎ、俺へのダメージを無くした。

だから俺は、思う存分本命のこの攻撃に専念出来る!

「『遠雷』、収束!!」

右手に残っていた遠雷をまとめて威力を上げた。

これにより右手は直視出来ないほどに輝きを増した。

元々『遠雷』は自由創造武器と言われているだけあって、このぐらいの応用は全然問題ない。

だから『両腕部Iフィールド発生器』がなくても、これが使える!

「必殺!シャイニング・フィンガーーーーー!!!」

勢いをそのままに、光輝く右手をロボットに向けて押し当てた。

触れた装甲は勢いと収束された『遠雷』の威力で粉々に砕け、右手は簡単に内部へと達した。

更に『遠雷』による雷撃でそして内部も次々と破壊されていき、それを感じた俺は右手を引き抜き、そのまま離れるように跳んだ。

地面着地し、ロボットの方を見ると・・・見事に爆発。

よし、これでフィールド相手に戦う術を見つけた。

残り4体・・・全く同じ方法は通じないだろうが、何とかなる範囲だ。

「上野さん・・・」

後ろには、1年3人がいた。

・・・酷なことだが、ここは言うしかない。

「3人とも、あとは俺がやるから下がってろ」

「え?でも・・・」

「悪いが、お前達がいても足手まといだ。1人でやった方が早い」

「・・・・・」

見なくても分かる。

3人ともショックを隠しきれないのが・・・。

だけど、このまま戦っても3人が無事で済むとはとても思えない。

だから後は俺が・・・。

「見くびらないでください」

「え?」

渋谷のその声に反応して後ろを向くと、そこにはショックを受けている顔とは思えない3人がいた。

「ボクたちだって・・・これぐらい出来ます!」

そう言った瞬間、渋谷は再びロボットに向かう形で駆け出した。

「ま、待て渋谷!」

先ほど同様、俺の制止は渋谷に通用しなかった。

そして

「ハァァァッ!!」

ロボットの直前に跳躍し顔面へ拳を見舞った。

だがその結果は、先ほどと同じようにロボットの体勢を崩すだけに留まった。

そして、ロボットがカウンターのパンチを放つ構えを取った。

今から俺が動いても・・・間に合わない!

「渋谷!」

俺の叫びも空しく、ロボットの拳が渋谷に当たろうとした。

その時だった。

渋谷が突然消え、ロボットのカウンターは空を切った。

じゃあ・・・渋谷はどこに?

「ハッ!」

するとロボットの背中側に渋谷は姿を現し、再度ロボットの頭部に拳を放った。

それをまともに食らいつつも、体勢を崩しただけに留まったロボットは再びカウンターで渋谷に拳を放った。

だが、また当たる寸前に渋谷は消え、ロボットの攻撃は意味を成さなかった。

これは・・・もしかして『刹那の夢』の本当の力なのか?

他の運命系の武器を考えても、拳が当たったところに衝撃が走るだけが武器の性能とは考えにくい。

拳による攻撃だということを考えても、残像を残すほどのスピードを放つのが『刹那の夢』による本当の戦い方。

俺にはそう思えた。

「上野さん、下がっててください」

俺がそれに夢中になっていると、五反田が『砕かれた世界』を構えていた。

それが効かないと分かっているはずなのに、一体・・・何をするつもりだ?

「『砕かれた世界』・・・『デストロイモード』起動!」

『デストロイモード』・・・?

その響きを聞いて真っ先に思い浮かべたのは目黒の使う『ジェノサイドモード』だ。

それを彷彿させるかのように、『砕かれた世界』の砲口に強力なエネルギーが次第に集まっていった。

だが、アレを撃つということは五反田は・・・

「おい、五反田待て!!」

「発射!!」

俺の制止は間に合わず、五反田は引き金を引いた。

『砕かれた世界』からは、いつもと同じようにいくつもの光線が一斉に放たれた。

だが、その1本1本の威力はいつものそれとは比べ物にならないほど上がっていた。

それを裏付けるかのように、五反田はその反動で大きく後ろに下がった。

一方で光線は渋谷の攻撃で動きを止められ、しかも衝撃でフィールドの動作を消されたロボットは胴体に光線が直撃。

それを見た渋谷はその場を大きく跳躍して離れ、ロボットはその後大爆発を起こした。

これで残り3体・・・思った以上に早く済みそうだ。

だが、すぐに俺はその考えを撤回した。

爆発によって発生した煙が晴れた向こうに、ロボットが3体共砲撃を行おうと構えていたのだ。

すぐにその場を離れたいところだが、五反田が今の反動でまだ動けそうにない。

・・・ク、どうする?

「任せてください!」

「え?」

声がすると同時に、代々木が俺の目の前に着地してきた。

そして『自由の代償』を構えたが、あの3体の攻撃を同時に受け止めるなんて・・・

「無茶だ!」

「大丈夫です、信じてください!」

そう代々木が言うと同時に、『自由の代償』の最下端から3本の刃が飛び出し、地面に突き刺さった。

と同時に、盾から緑色の膜状のものが広がり始めた。

これは一体・・・?

俺がそう疑問を感じた次の瞬間、ロボットがこちら目掛けて一斉にビームを発射してきた。

もう避けても間に合わない・・・ここは代々木を信じよう。

そして3本のビームと緑色の膜が接触したとき、急にビームが分散され、無効化された。

あの膜状のものは・・・どうやらフィールドのようだ。

『両腕部Iフィールド発生器』と全く似た現象だ。

と、俺がここであることに気付いた。

ロボットが3体とも、今の砲撃を撃ちつくし、その反動で動きを止めたのだ。

しかもエネルギー不足なのか・・・フィールドも切れたようだ。

この隙はチャンスだ!

「ウェポンチェンジ!」

俺のこの宣言で、武器を変えた。

この前神田さんからもらった、こいつの出番だ。

それは、『蒼天の剣』と同じほどの大きさである剣。

大きな違いは、実体剣ではなく刃をビームの刃で構成していること。

しかも、ただの刃ではなくビームの刃で一番威力のある噴出孔のものを両側に計14個並べらている。

更に、剣先にはビーム砲まで装着されている。

14刃1砲一体型大型剣『ムラマサ・ブラスター』。

それを持って俺はロボットに向かって駆け出した。

まだ反動でまともに動けないロボットに対し、俺は剣を振るった。

剣の刃がロボットの胴体に命中、中に斬り込もうとした。

だが、ロボットの装甲が想像以上に堅く、刃が通らない。

そこで俺は、コイツの能力を使うことにした。

今斬りかかっている間、ロボットに接してない刃には直接的な攻撃力はない。

だけど、その刃にはもう一つの役割が存在した。

「ブースター、オン!」

それは、剣を振る速度を強制的に上げるブースターとしての役割だ!

これにより破壊力が増した『ムラマサ・ブラスター』によりロボットは完全に分断された。

あと・・・2体!

「上野さん!渋谷さん!五反田君!」

代々木が俺達を急に呼んだ。

その代々木の手には、先ほどの刃が出たままの『自由の代償』。

すると突然、『自由の代償』の周りから更に刃が一斉に出現。

更に、先ほどのフィールドが収束されている・・・そうか!

ここで俺はようやく代々木の意図がつかめた。

そして代々木はそれを思いっきり投げた。

俺もそれに続くように駆け出し、

「五反田!渋谷!もう1体を頼む!」

俺のこの声で、渋谷も五反田も俺が向かっているのとは逆のロボットへ狙いを定めた。

ロボット2体はその『自由の代償』を撃ち落とそうと指からビームを放ったが、フィールドによって無効化された。

そして『自由の代償』はロボット2体の頭に立て続けに直撃。

収束されたフィールドの反発力による衝撃で、2体のロボットのフィールドは停止された。

俺はそれを確認した後、ロボットに向けて駆け出し、そして

「くらえ!」

腹部の砲に『ムラマサ・ブラスター』を剣先から刺し込んだ。

この時点で、俺はまだビームの刃を発生させていない。

それを発動させれば・・・!

「いけーーーーー!!!」

そしてそのままビームの刃14個、更にビーム砲から砲撃も行った。

内部からそれだけの攻撃を受けて無事な訳がなく、俺が飛び退くと同時に爆発した。

一方、渋谷は先ほどと同じように相手を翻弄しながら動きを止めていた。

ずっと衝撃を受け続けているロボットはフィールドを発生することが出来ずにいた。

そしてロボットが体勢を崩した瞬間、五反田は

「『JSAモード』起動!発射!!」

すぐさま『砕かれた世界』による砲撃を行った。

渋谷もそれに気付いてすぐさま離脱。

放たれた光線はフィールドによる影響を受けずロボットにそのまま直撃。

そして当たり前のように爆発した。

もう・・・残ってないな。

「ふぅ、お疲れ様」

ログアウトしながら俺は3人にそう声を掛けた。

「お疲れ様です・・・ところで、なんで上野さんここにいるんですか?」

五反田が率直に聞いてきた。

「ん?あぁ、たまたま近くを歩いてたらあのロボット達を見つけてな。これは危ないと思って駆けつけたんだ」

「そ、そうだったんですか、わざわざありがとうございます」

適当に思いついた理由だけど、どうにか納得してくれたみたいだ。

(上野さん、もしかして会長から・・・?)

代々木から『プライベート・メッセージ』が聞こえてきた。

そうか、代々木はある程度会長から訳を聞いていたんだったよな。

(あぁ、簡単には聞いたよ、代々木も色々と頑張ってくれたみたいだな、ありがとう)

(いえ、頑張っていたのは主に会長でしたから)

その言葉を聞いて、改めて会長の凄さを理解できた。

「さて・・・折角だ、俺もこのまま手伝っていくよ」

まだ攻めてくる可能性もあるし、俺もこのまま残っていた方が良さそうだ。

「はい、ありがとうございます!」




「・・・あっちは終わったようだな」

新橋と交戦していた池袋が、上野の向かった方向を見て言った。

「・・・・・」

しかし、新橋は全くそれに興味を持つ様子を見せず、ただ池袋をにらみ続けた。

「・・・早く帰った方がいいんじゃないか?今頃あのロボット工場、やられていると思うぜ?」

「何?・・・ま、まさか!」

「そう、今回俺達が囮。もっとも、巣鴨は気づいてたみたいだけどな」

「ク・・・いいだろう、今回は退いてやる」

そう言って新橋は踵を返した。

「・・・だが、これで勝ったと思うな?俺達にはまだ戦力はある」

「・・・何?」

「じゃあな」

新橋はそのまま立ち去っていった。

「・・・ついに完成したのか、アレが・・・」