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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
9月編

「体の負担が軽く?」

「うん、それぐらいしか覚えてない・・・」

いつもの体育館。

今朝は始業式が行われていたが、昼になった今は特に誰もいない。

ちょうど部活で使うところもないようなので、蝶子先生に頼んで使わせてもらうことにした。

いつもだったらすぐ練習に入るところだが、今日はその前にやることがあった。

ここに来る前に生徒会室に立ち寄ったのだが、珍しく来ていた会長から俺と目黒にコレを渡されたから、その設定をしている。

渡されたのは・・・あのスマートホン。

新橋にあそこまで関った以上、いつ襲われてもおかしくない。

そう言われたので、目黒と一緒に設定をしていた。

周りには誰もいなく、心置きなくこの話題が話せた。

「じゃああの時も・・・訳も分からないまま戦った感じ?」

「うん・・・もう無我夢中だった。それでいつの間にか気を失って、目が覚めたら布団の中で・・・」

だが、俺にはそれよりも気になるのは、あの時目黒に起こったことだ。

明らかに俺の『覚醒』とは違っていたし、それ以外の何かが起こったとしか思えない。

結局合宿中に聞くことは出来なかったし、夏休み中も会う機会がなかったため、今こうやって聞いている。

「結局・・・体の負担が軽くなる、それがあの状態の効果なのか?」

「その通りだ」

突然後ろから声が聞こえてきた。

振り向くと、そこには会長がいた。

「会長・・・あの状態が何かご存知で?」

目黒が疑問を浮かばせながら聞いた。

「ああ、あの状態は『天使』。最近確認されたばかりの現象なんだが、まさか目黒がその適合者とはな」

『天使』・・・なるほど、あの羽は確かにその通りに見える。

しかも、目黒は小柄な体にも関らず、負担の大きい『ジャンクション』のような武器をよく使う。

相性はバツグンだ。

「それよりも・・・設定、出来たかい?」

「あ、はい!」

もうほとんどの設定が俺も目黒も終わっていて、あとは実際に使えば確かめればいいだけだ。

なので、コレを持って立ち上がった。

まぁ、設定といっても、大したことはしていない。

スマートホンの裏側を『EB−ID』で触れ、その後生徒それぞれが独自に設定している数字数桁によるパスワードを入力。

それが終われば、あとは

「EB、ログイン!」

いつもの要領で叫びながらそれの画面に指を触れさせるだけ。

その瞬間、俺達2人ともログインが完了した。

その完了までの早さ・・・今までよりも段違いだ。

「このログインの早さ・・・やっぱりスゴイですね」

つい思ったことを口にした。

「そりゃそうさ、それを特化するにはそれが一番という結論になったんだからな」

俺のそんな疑問に会長が口を出してきた。

「え?」

「元々のログインの仕組みは、認証リストに触れた『EB−ID』の情報を読み込んで、そこから対応したサーバ・・・俺達の場合、学校に設置されているサーバからデータを呼び出すんだ」

「は、ハァ・・・」

「だから、元々リストよりも通信機能が発達しているスマートホンならそれが更に早く実現できる、そういうわけだ」

「わ・・・わざわざ説明ありがとうございます」

さすがは会長、神田さんを抑えて成績学年トップというのも頷ける。

とにかく、これでいつ新橋に襲われても戦わずに死ぬってことはないだろう。

・・・この際だ、いっそのこと聞いておこう。

「会長、一体新橋は何でああいう風になっちまったんですか?」

「ん?・・・あぁ、そのことか・・・」

俺の問いに会長は頭を掻きながら、チラッと目黒の方を見た。

「・・・私ならいいですよ。むしろ、上野君には知っておいてもらいたいですから」

そんな会長にすぐ気付いた目黒はそう答えた。

「・・・いいだろう。でも、聞いたからにはもう戻れないぞ?」

「もう、聞く前から戻れません、そうでしょ?」

ハッキリと核心をついてみた。

「だな、じゃあ、話そうか・・・とりあえず、座ろう」

そう言われたのでほぼ同じタイミングで座った。



「あれは確か・・・去年の今頃だったな」



1年前、始業式が終わった後の体育館。

「ハッ!」

「タァッ!」

2つの『蒼天の剣』が激しく火花を散らしながら交差した。

一方の所有者は神田、もう一方は新橋である。

その後も絶えることなく交差は続き、その度に火花が二人の間を光らせた。

そんな2人を

「2人ともスゴイですね・・・」

「そうね、というよりも、アレだけが取り柄みたいなものだし、あの2人」

目黒と大塚が準備体操をしなが見ていた。

大塚は見慣れたものだが、目黒にはまだこの光景に新鮮さを感じていた。

この頃の目黒は、生徒会に入ってまだ間もなく『ジャンクション』も合宿前にどうにか完成させたばかりだった。

大きな砲身が特徴の『ジャンクション』で動く的を正確に狙うのは、見た目どおり簡単なことではない。

そのため、目黒が『ジャンクション』を手に入れてからは

「じゃあ、今日も行くわよ」

「ハイ!」

大塚や田町に練習に付き合ってもらい、少しでも使いこなそうと努力していた。

最初は多少力を抜いて相手をしていた大塚と田町だったが、今では全力で相手をしていた。

目黒の地道な成果が出ている何よりの証拠だった。

そして今日も

「シュート!」

出力を抑えて放った光線が走り回っていた大塚に命中した。

もっとも、大塚自身は持っていた『雷鳴の闇』でそれを突き返したため無傷であったが、それは特に問題ではなかった。

スピードで相手を翻弄して戦うスタイルである大塚に当てることが出来た、それに意味があった。

「・・・目黒」

「は、ハイ!」

大塚からの呼びかけに、目黒は何か指摘を受けると思ったのか、緊張しながら返事した。

「・・・上出来よ、私から言うことは何もないわ」

笑みを浮かべながら大塚はそう伝えた。

「あ、ありがとうございます!」

嬉しさと照れから顔を赤めらせて目黒は礼を言った。

「あとは授業以外で実戦経験を積めば問題ないんだけど、そう簡単にはいかないしね・・・」

『百花高校』のカリキュラムでは、週に2回戦闘実技の授業が行われる。

しかし、それ以上に実力を求められる上、進学や軍などを進路にする生徒が多い生徒会員はこういった練習だけでなく実戦経験も必要とされる。

そのために、軍や企業からの協力を積極的に引き受けている。

だが、そのような依頼がいつも来るわけではない。

更に、生徒の都合もあるためいつでも受けれるわけでもないのがネックになっている。

そんな会話をしていると・・・

「あら、ちょうど良かったわね」

大塚と目黒の後ろから声が聞こえてきた。

2人が後ろを向くと、体育館の入り口に1人の女子生徒がいた。

腰まで伸びた髪に、少し大人のような雰囲気を漂わせていた。

「あ、目白さん」

目黒が気付くや否や、その女子生徒の名を口にした。

「ちょうどいいって、何がですか?」

大塚が率直に疑問を聞いた。

「うん、実はね、さっき政府軍から協力要請が来たの」

「え、ということは・・・」

「ええ、目黒、やってみない?」

「ハイ!是非お願いします」

活き活きとした返事を目黒はした。

「で、他に誰が行くんですか?」

再び大塚が質問した。

「ホントは牙津君が行くのがいいんでしょうけど、面接があるとかで来れないみたい。だから副会長の私は行くわ。

あと、池袋君は連れて行くつもり。牙津君、彼を会長に任命するつもりらしいしね」

「池袋・・・アイツ、来るんですか?」

当時から池袋の遅刻、サボり癖は有名だった。

それを大塚が心配するのも当然のことであった。

「だからね・・・新橋君!」

未だに神田と剣を交えている新橋に目白は声を掛けた。

それでやっと目白が来ていることに気付いたのだろう。

「・・・?目白さん」

と、神田と共に剣を動かす手を止めてから反応を見せた。

「新橋君、池袋君を引き連れて来てくれない?」

「・・・ハイ?」

急に何を言われたのか分かっていないようだ。

「実はね、今度軍からの協力要請を受けるから池袋君を連れて行きたいんだけど、それを新橋君に頼みたいの」

「いいですけど・・・なんで俺が?」

少し不満げなリアクションを新橋は見せた。

「だって・・・新橋君と池袋君、ご近所でしょ?」

新橋も池袋も同じアパートで1人暮らしをしている。

そのため、池袋を見張って連れて来るのが一番容易なのは新橋である。

「・・・分かりました、なるべく最善は尽くします」

新橋も観念したのか、すんなりそれを受け入れた。

「じゃあヨロシクね」

そう言って目白は帰ろうとしたが、

「あ、そうだ」

と言いながら目黒の方を見た。

「目黒、今日はこれからその手続きするから少し遅くなるかもって、言っておいて」

「あ、ハイ、分かりました」

それだけ言い残して、目白は今度こそ体育館を後にした。

なんでそんなことを言い残したのか、それは簡単なことであった。

目白もまた、孤児だからだ。



「誠也ー、起きろー」

新橋が池袋の部屋のドアをノックしながら呼んだ。

呼び鈴を何度も鳴らしても起きないためノックをしているが、中から何かが動いている気配は新橋には感じられない。

「おーい、誠也ー、そろそろ時間だぞー」

無駄だと分かりつつも、新橋は呼びかけ続けた。

だが、時間がただ過ぎていくだけだった。

「・・・しょうがない」

ため息をついた新橋は、一旦部屋に戻った。

そして、池袋の部屋と隔てている壁の前に立ち、

「・・・ハッ!」

思いっきり壁を蹴った。

その衝撃は壁の向こう側まで伝わり、

「・・・イタ!」

何かが崩れ落ちる音に池袋の声らしきものが新橋の耳に届いた。

それを確認した新橋は、再び部屋の外に出てから池袋の部屋のドアをノックして

「おーい、起きたか?」

先ほどと変わらぬ呼びかけをしたところ

「明(あきら)か・・・、今開ける」

弱弱しい返事が返ってきた。

そしてドアが開いた先に新橋が見たのは、大きなタンコブを作った池袋の姿だった。

「お、オハヨー・・・」

まだ眠いのか、半分目を閉じた状態でいた。

「早くしろ、もう時間がないぞ」

そんな池袋にも新橋は容赦なかった。

「すぐ支度する」

そう言って池袋は部屋の奥へと戻った。

「少しジャマするぞ」

と、池袋の後を追うように新橋も続いた。

「何も出ないぞ」

「安心しろ、二度寝しないか監視するだけだ」

それを表すかのように新橋は入り口近くで腕を組んで池袋の動向を見ていた。

「少しは信用しろよ」

洗面所で洗った顔をタオルで服ながらそう抗議した。

「その信用を失わせたのはどこのどいつだ?」

そんな抗議も新橋は正論で突き返した。

「あー、休日ぐらいゆっくり休みてえよー」

長めの髪をブラシでとかしながら池袋は本音を漏らした。

ちなみに、池袋はこれを理由によくこのような要請を断っている。

「目白さんがお前のためを思って連れて行くことにしたんだ、少しは察せ」

「・・・ふぅん」

新橋のこの一言に、池袋は何やら反応した。

「な、なんだよ?」

「いや、やっぱりお前、目白さんには弱いんだなぁ、って」

率直な感想を新橋は言った。

「な!?何言ってんだ!?そんなんじゃねえって!」

明らかに動揺しながら新橋は反論した。

「まぁ、そりゃ否定したくなるだろうな、ライバルが多すぎるし」

「だから、違うって言ってるだろ!」

既にこの時点で、会話の主導権は池袋に移っていた。

目白は成績優秀、スポーツ万能、更に生徒会副会長に優しい性格で美人。

それらが評判で、学年一の女子生徒として名高い。

それ故に、告白する男子が後を絶たないが、目白自身にその気はないことでも有名であった。

「まぁ、俺も目白さんに頼まれちゃ、断れないな」

「だろ?少しは分かるじゃないか・・・」

そこまで言って、新橋は気付いた。

ニンマリと笑みを浮かべながら見ている池袋の姿に。

「やっぱり、お前・・・」

「と、とにかく、早く準備しろよな!俺も準備してくるから!」

そう言い残して新橋は再び自分の部屋に戻って行った。

「・・・やっぱり、アイツからかうの面白いな」

そう言ってから少し考え、ふと近くにあった封筒を手に取った。

「そうなると、こいつは伝えるべきかしないべきか、だな・・・」

それを見ながら、ふと池袋は呟いた。



「未莉、準備出来てる?」

「うん!」

その頃の孤児院。

他の生徒がいないこともあり、目白は気軽に目黒を名前で呼んでいた。

既に準備が終わった目黒と目白が出かける直前であった。

「おねえちゃんたち、でかけるの?」

孤児院で暮らす男の子の1人が歩み寄って聞いてきた。

「うん、夕方ぐらいには帰ってくるからね」

男の子の頭を撫でながら目白が言った。

「かえってきたら、あそんでくれる?」

「ええ、いいわよ」

そう答えながら目白はニッコリと微笑んだ。

「じゃあ未莉、行きましょ」

「ハイ!」

2人はそのまま孤児院を出発した。



「よし、全員揃っているな」

町外れにある廃工場。

その近くの空き地で照が出欠を確認した。

その場にいたのは池袋、新橋、目白、目黒、それに照に犬彦がいた。

「・・・今回は引率が2人もいるんですか?」

池袋が単刀直入に聞いた。

通常、引率は1人だけのことがほとんどである。

このような2人の場合もあるが、あまりないパターンであった。

「いや、本当は俺だけのつもりだったんだが、犬彦先生が・・・」

「あぁ、ちょっと気になることがあってな。無理行って来させてもらった」

変わらぬ表情を浮かべながらも、どこか心を許してしまいそうな声で犬彦は返答した。

「じゃあ、早速今回の任務の確認をするぞ」

そう言って、照は全員を廃工場の近くに誘導した。

「情報によると、あの廃工場に異星人が立てこもっているらしい。今回は、その調査を行う」

「俺が先導で内部に侵入するから、目白に池袋、それに新橋もそれに続いてくれ」

照の後に続く感じで犬彦もそう指示した。

「軍の方は今回どのような行動を?」

新橋が質問を口にした。

「あぁ、軍も裏口から侵入するそうだ。どうやら、それが本命の調査チームらしい」

照がそう返答した。

「あの・・・私は?」

目黒が恐る恐る聞いた。

「目黒は俺と一緒に廃工場に砲撃して陽動。そうすれば、調査に邪魔もそうは入らないだろう」

即座に照がそう返した。

この答えに、目黒も納得はした。

「・・・お、軍の人からメッセージが着たから、ちょっと待ってくれ」

そう言って照は少し真剣な表情をして『プライベートメッセージ機能』を使用しだした。

このような連絡があるため、照だけ既にログインを行っていた。

「じゃあ、俺達も今のうちにしておこう」

犬彦にそう勧められると、4人も反対することなくそれに従った。

「EB、ログイン!!」

認証リストに『EB−ID』を押し当ててログイン、全員制服を基調とした戦闘服に変化した。

「・・・軍の人から連絡があった。陽動を開始してくれ、だと。・・・じゃあ目黒、行くぞ」

「ハイ!」

そう言って、目黒と照がまず駆け出し、廃工場に着くや否や武器を具現化させた。

目黒は『ジャンクション』を、そして照も左右の腰に大きな砲を構えた。

それは、ブースター兼用可動式光線砲『アムフォルタス・プラズマ収束ビーム砲』。

「目黒、行くぞ!」

照の一言と同時に2人は引き金を引いた。

『ジャンクション』、そして『アムフォルタス・プラズマ収束ビーム砲』から放たれた光線は、目標物として格好の的である廃工場に直撃。

すると、廃工場から今は鳴るはずのないサイレンが鳴り響いた。

そしてすぐに異星人と思わしき影があちこちで確認された。

「よし、今だ!」

「あぁ、陽動頼んだぞ」

照と犬彦がそう声を掛け合うと、そのまま工場へと突っ込んでいった。

「よし、目黒、俺達は引き続き陽動だ。接近されたらまずいから、絶対に近づけるな!」

「ハイ!」

そう言って2人は再び引き金を引いた。



「・・・始まったな」

「あぁ。俺達、今回出番あるのか?」

「さぁな。ないのが一番望ましいんだが」

「・・・全てはアイツの判断次第、ってわけか」

「アイツだったら、多分遠慮なく頼んでくるだろうな」

「だな。とりあえず、準備だけはしておくか」

「あぁ、んじゃ・・・EB・・・」

「ログイン、と」



「ここも特に無し、か」

部屋の中を確認してから犬彦は呟いた。

「これでこのフロアは全て調べましたよ」

「あぁ・・・妙だな」

目白の報告を聞き、犬彦は返答した。

「ですね、ここまで調べて何も出てこないなんて・・・」

新橋もそれに同意した。

今回、何かあると言われたために調査が行われている。

しかし、それなのにも関わらずフロア全て探しても何もない。

おかしいのは明らかだった。

そんな状況に

「・・・・・」

池袋はただ、無言で周りを見渡すだけだった。

「とにかく、次のフロアに行くぞ。早く終わらせなきゃあの2人が・・・」

そこまで犬彦は口を止めた。

「・・・来たな」

「え?」

すると犬彦の視線の先に、武装した異星人と思わしき人型の物体が角を曲がって現れた。

「クッ!」

それを見た新橋は武器を具現化させようと手を前に出した。

ところが、その手を強制的に下ろされる形で犬彦に止められた。

「え?」

「ここは任せろ、お前達は調査を続けるんだ」

「・・・わ、分かりました、お願いします!」

先生からの指示には素直に従おうと判断した目白は、3人を引き連れて上のフロアへと向かった。

「さて・・・理解できないだろうが、一応言っておく」

そう言った後、武器を具現化させ、再び口を開いた。

「俺は一切、手加減できないぞ・・・!」



「このフロアも何もないわね・・・」

「えぇ・・・」

上のフロアに来た3人は、早足ながらも調査を終えていた。

それでも、何もないと断言出来るほど、このフロアには何もなかった。

その様子に違和感を感じる2人に対し、

「・・・・・」

池袋は相変わらず無反応であった。

するとどこからともなく、大量の足音が3人の耳に聞こえてきた。

「・・・来たな」

「あぁ」

いち早く反応した池袋と新橋はすぐさまその方向に構えた。

「目白さん、ここは俺達がやりま・・・」

「いや、お前も下がってろ」

そう言って池袋は前に出た。

「な!?」

「お前の得物じゃ、ここだと振り回せないだろ?」

この池袋の指摘に、新橋は反論出来なかった。

3人がいるこの狭い通路では『蒼天の剣』は大きすぎるため、その性質を生かしきれない場所であった。

「その点、俺のコイツなら・・・」

池袋はそう言った後、武器を具現化させた。

形からはとても武器とはいえない、『自由の代償』を。

それを具現化させた次の瞬間、下に現れたのと同じ異星人たちが現れた。

数にしては、先ほどよりも若干多い。

しかし池袋はそれに臆することなく、

「こういう場所向きだ!」

言いかけていた言葉を全て吐き出した後、『自由の代償』を投げ飛ばした。

『自由の代償』はそのまま壁に何度もぶつかりながら敵に向かっていき、激突。

だが、それだけでは済まなかった。

その後も『自由の代償』は上下左右に何度も動いて壁、天井、床にぶつかって敵に襲い掛かった。

そして、その度にそれらはことごとく砕かれていった。

「お、おい、壊していいのか!?」

新橋がそんな光景を見て聞いたが、当の本人は全く聞いていないようだ。

「大丈夫よ、ちゃんとそこら辺は確認とって、いいって言われているから」

後ろから目白が新橋に声をかけた。

「でも、アレはやりすぎじゃ・・・」

「いいのよ、彼はアレぐらいの方が」

満面の笑みを浮かべて目白は言った。

「・・・でも、見ているだけもつまんないわね」

「え?」

目白の発言に新橋は疑問を感じた。

すると、目白は自分の武器である『刹那の夢』を具現化させ、拳を覆った。

「私も少し・・・相手にしてくるわ!」

「ちょ、ちょっと目白さん!?」

新橋の制止を聞かず、目白は既に池袋が圧倒している戦況に文字通り殴りこんだ。



「・・・大したことなかったな」

周りを見回しながら、犬彦は呟いた。

そこには上半身と下半身を見事に分断された異星人達が転がっていた。

ここまでの状況を作り出した当の本人は息一つ切らしていなかった。

「さて、あいつらを追っかけ・・・」

そう動こうとした時、更に大勢の異星人が通路の先から現れ、犬彦を囲んだ。

「・・・そう簡単には行かせてくれねえらしいな」

そう一言放った後、再び犬彦は戦闘に入った。



「よし」

「こんなものね」

呟く池袋と目白の周りには、倒れた異星人達が転がっていた。

既に、行動可能な異星人は残っていない。

そんな状況を見て新橋は

「・・・・・」

ただそれを見ているしかなかった。

新橋が参戦していても足手まといにしかならなかったであろう。

その気持ちが、新橋の心境を尚更複雑にさせた。

「・・・お?」

池袋が何かに気付いたらしく、自分で破壊した壁に近づいた。

「どうしたの?」

「・・・見てくださいよ、これ」

池袋が見つけたもの、それは・・・

「隠し階段?」

「おそらく、これが本命。この工場はその隠れ蓑でしょう」

そういいながら池袋はそれを降りようとした。

「お、おい池袋?」

それを新橋は止めようとした。

「調査だぞ?なら進まなきゃダメだろ?」

「そういうこと、行きましょ」

意見が重なった2人はそのまま進んだ。

「・・・あぁ、もう!」

新橋もそれに仕方なく進んだ。



「発射!」

目黒が『ジャンクション』から放った光線は向かってくる異星人達に突き進んだ。

しかし、それは避けられ、当たることはなかった。

「目黒、集中力が切れているぞ。足元だけでなく手元でも固定しろ」

照先生が目黒の射撃に指導を行った。

「は・・・ハイ!」

目黒も返事はするも、既に息は切れていた。

照も2つある砲の1つをブースターとして活用し高速で移動しながら、もう1つの砲で砲撃を行った。

その砲撃は正確で、確実に敵を撃破していったが、その数は中々減らないでいた。

「・・・ちょっとマズイかな」

当初は冷静だった照からも、少し焦りの色が出始めていた。

「な・・・なんとかしないと・・・」

目黒もその状況に危機感を覚えていた。

それでもどうにかしようと再び『ジャンクション』を握った時であった。

目黒の認証リストから音が出ると共に、モニター画面に文字が浮かんでいた。

その文字を目黒は確認したが、意味を理解することが出来なかった。

浮かんでいた文字は、この文字であった。

『WEAPON GENOCIDE MODE CALL OK!』

目黒に分かったのは、何か『ジャンクション』の能力が使用可能になったのだろうということだけだった。

今の状況を打破するにはこれしかない、そう考えた目黒は迷わず使用した。

「『ジャンクション』・・・『ジェノサイドモード』起動!」

そう言った瞬間、『ジャンクション』の砲口に通常以上のエネルギーが集まりだした。

「な!?目黒、それはよせ!!」

それを聞いて照は止めようとしたが、目黒にその声は届かなかった。

「シュート!!」

叫んだ勢いのまま『ジャンクション』の引き金は絞られた。

すると、砲口からはそれ通常以上の威力の光線が放たれた。

その光線は、異星人の集団に直撃。

半数近くの異星人たちがそれに巻き込まれ、戦闘不能に陥った。

更にその上、この光景に異星人たちは動揺を見せていた。

流れが2人に向いたのは、言うまでもなかった。

「こ・・・これでどうにか・・・」

そう呟くと共に、目黒の意識は途絶えた。



「・・・何だ、ここは?」

階段を降りてから開口一番、新橋が言った。

「・・・これは予想外ね」

目白もそれに続いた。

池袋は口には出さなかった。

だが、心の中では反応を見せていた。

(・・・やっぱりな)

3人の目の前には、いくつものガラス製の大きな筒状のケースが並んでいた。

しかも、全て薄緑色の液体が満たされている。

「何かの実験施設か?」

率直な予測を新橋は立てた。

「・・・おそらくそうでしょうね。でも何の・・・?」

目白もそれに同意しながら、そのケースを調べようとした。

その時、目白に何かが高速で飛び掛ってきた。

「危ない!」

それにいち早く気付いた新橋は『蒼天の剣』を具現化させ、その2つの間に割って入り襲撃を阻止した。

この新橋の行動によって動きを止められた物体、それは・・・

「・・・人?」

紛れも無い男性だった。

しかし、その様子は異常であった。

虚ろな目、荒げる息、そして何より左手首に付けられた認証リストがそれを物語っていた。

「・・・強化か」

それを意味するかのように、認証リストの液晶が赤くなっていた。

と、次第に相手を抑える『蒼天の剣』の剣先が、新橋の意思とは違う方向を向き始めた。

相手のパワーの方が、新橋を上回っていたからだ。

「ガァァァッ!」

そしてついに、相手の叫び声と共に新橋は壁まで吹き飛ばされた。

「グァ!」

激突した痛みから、苦悶の声をあげる新橋に相手は追い討ちをかけようと襲い掛かった。

だがそれは、池袋の『自由の代償』で止められ、更にその隙を逃さぬよう

「ハァッ!」

目白が横から拳を見舞った。

そこから放たれた衝撃が相手の腰に走り、本体ごと吹き飛ばした。

吹き飛ばされた相手は壁に激突する前に体勢を整え、着地してから3人を睨んだ。

「新橋、大丈夫か?」

「あ、あぁ・・・」

『蒼天の剣』を杖にして立ち上がりながら、新橋は答えた。

「池袋君、アレを使いなさい」

目白が突然そう言った。

「いつから知っていたんですか?」

「最初から。今までのがあなたの全力とは、とても思えないもの」

「・・・やはり敵いませんね。いいですよ」

一瞬笑みを浮かべた後、池袋は目白と共に真剣な表情に変えた。

そして次の瞬間。

2人の瞳の奥で、新橋には聞こえない音が響いた。

更に、目白は

「ウェポンチェンジ!」

武器を『両腕部Iフィールド発生器』へと変えた。

まず池袋が『自由の代償』を先ほどと同じように投げ飛ばした。

横に回転しながらそれは相手に向かっていき、そして見事に命中。

だが、それだけでは終わらなかった。

相手に当たったことにより跳ね返ったそれを池袋はキャッチし、それで

「ハァッ!」

攻撃をガードするときと同じ持ち方にし、その体勢で体当たりを行った。

更にその一瞬の間に相手の後ろ側に回った目白が

「フィールド収束!必殺!!『シャイニングフィンガー』!!!」

背中に向かって右の拳を放った。

そこから放たれた衝撃は反対側にある『自由の代償』のおかげで、全て伝わった。

「ガ・・・ア・・・」

強化されていることもあり男はどうにかその攻撃に耐えたが、それでも痛みを感じたように2人は見えた。

それでも2人を突き放して、一旦体勢を整えようとした。

だが、その間に

「ハァァァァ!!」

新橋が巨大化させた『蒼天の剣』を持って跳躍していた。

あとはそれを振り下ろせばいいだけだった。

その直前、目白は相手の腹部で何か赤く光るものを見つけた。

(アレは・・・まさか!?)



「新橋君、ダメ!」

しかし、目白の制止は間に合わなかった。

振り下ろされた『蒼天の剣』は相手の腕でガードされるも、その衝撃は十分に伝わった。

「ア・・・ァ・・・」

そして沈黙、これで全てが終わったかのように見えた。

だが次の瞬間、相手の腹部から溢れんばかりの赤い光が発せられた。

「な、何だ!?」

驚きながら新橋はそこから後ろへと距離を取った。

「マズイわ・・・まさか体内に『サイクロプス』埋め込んでいるなんて」

「え!?」

広範囲マイクロ波発生型大量破壊装置『サイクロプス』。

これが発動してしまうと、周囲20〜30kmは焼け野原になってしまうと言われている。

「こいつを・・・どうにかしないとな」

池袋が焦りを抑えつつ考えを口に出した。

今から表にいるメンバーに伝えるのはもちろん、効果範囲内の住人への避難もしなくてはいけない。

それを短時間で行うなど、まず不可能であった。

「・・・池袋君、新橋君、ちょっといいかな」

急に目白は2人を呼び寄せた。

「何ですか?」

状況が状況だけに、新橋と池袋はすぐに駆け寄った。

すると突然、目白は2人の胸に手を当てた。

その瞬間、いつのまにか変えられた『刹那の夢』から衝撃が放たれ、それを2人はまともに受けた。

「ウワッ!?」

2人はそのまま先ほど降りてきた階段まで吹き飛ばされた。

「イテテテ・・・」

「め、目白さん、何を・・・」

と、新橋がすぐ立ち上がって戻ろうとした。

だが、入り口の手前でまたしても吹き飛ばされた。

「・・・『プラネイトディフェンサー改』?」

目白はいつの間にか、部屋の隅にそれぞれ遠隔操作型エネルギー防御壁『プラネイトディフェンサー改』を設置、作動させ、部屋全体をエネルギーの壁で囲んでいた。

更に

「ウェポンチェンジ、『JSAモード』起動・・・」

目白は武器を再び『両腕部Iフィールド発生器』に戻した。

先ほど『シャイニングフィンガー』を放った右腕からも、通常以上の出力でフィールドが発せられていた。

「これで被害は最小限に食い止められるわ」

2つのフィールドによる『サイクロプス』の抑制、それが目白の狙いだった。

「そんな・・・そんなことしたら目白さんも無事じゃ・・・!」

「そうね」

「そうねって・・・なんで」

そこまで言ったところで新橋は突然気絶した。

後ろから池袋が手刀で新橋の首を叩いたからだ。

「・・・アリガト、池袋君」

「いえ、目白さんのことになるとコイツ、冷静じゃいられないですし、それに・・・」

「それに?」

「・・・悪いですが、目白さんについて少し調べさせていただきました」

その池袋の発言に、目白は反応を見せた。

「・・・ということは知っているのね、私の体のこと」

「ええ、すいません」

「いいのよ、いつかバレることだったし」

そう言って目白は服の右袖に手をかけ、そのまま引きちぎった。

するとそこには、とても人の肌とは思えないほど黒く変色した目白の肩が露わになった。

「・・・やはり目白さん、あなたは『E計画』の・・・」

「えぇ、被験者だったわ。とある人のおかげで抜け出すことは出来たけど、その人によるともうあと1年生きられないみたい・・・」

淡々と語る目白だが、その瞳には寂しさが滲み出ていた。

「・・・だからその方法を思いついたと?」

「えぇ、どうせ消える命なら、少しでも有意義に使いたいしね」

「けど・・・それを聞いてコイツと目黒はどう言いますかね」

池袋はそう言いながら新橋を抱え上げた。

「新橋君にはゴメンとだけ伝えておいて。目黒には直接伝えるから」

「・・・分かりました。じゃあ最後に、2点だけ聞かせてください」

「え?」



「・・・たく、あいつらどこに行った?」

やっと集団を追い払った犬彦であったが、先に行った3人を見つけられずに迷っていた。

「あ、犬彦先生」

と、池袋が新橋を抱えながら隠し階段から出てきた。

「お、池袋・・・目白はどうした?」

「それよりも、あと少しで『サイクロプス』が発動します、退却を」

「何?ところで目白は?」

『サイクロプス』の存在に驚きつつも、目白の不在に犬彦は気付いた。

「目白さんは・・・」

「・・・そうか、自分から決めたか」

「え?」

「いや、何でもない。行くぞ」

そう言い放ってから犬彦は走り出した。

それを見た後、池袋は

(お2人とも、出番です)

『プライベートメッセージ機能』で通信を行った。



「・・・相変わらずの数だな」

気を失った目黒の分まで照は異星人に対して攻撃を行っていた。

先ほどに比べ数は大分減っているものの、1人で対応するには多かった。

「・・・仕方ない、一気に決めるか」

そう呟いた後、照先生は砲を2つとも構えた。

「『アムフォルタス・プラズマ収束ビーム砲』、JS・・・」

と『JSAモード』の使用宣言しようとしたその時だった。

左手前方からという、照先生が全く想像していなかった方向から光線が異星人の集団に直撃。

照先生の手に負えないほどの数であった異星人が、数えられるほどの数にまで減った。

更に

「ハァァッ!」

右手前方から叫び声と共にワイヤーで繋がった何かが飛んできた。

その何かは異星人1体をガッチリ掴み、そしてそれに引き寄せられるかのように人が飛んできた。

その人はそのまま異星人と格闘戦に突入、次々となぎ倒していった。

「大丈夫ですか?」

呆然としている照先生に、おそらく先ほどの光線を放ったであろう砲を持った男が現れた。

「あなたは?」

「私は政府軍東京支部緊急特務部隊所属の雷電、彼は同じく悠矢です」

「・・・どうしたんですか、急に?」

多少の不信感があるのだろう、警戒しながら照先生は聞いた。

「あそこから『サイクロプス』反応が検知されました」

「何?」

「フィールドで装置を囲んでいるようなので被害は最小限ですが、ここは危険です。撤退をお願いします」

「わ、分かりました」

そう言って照先生は横になっている目黒を背負った。

「・・・う・・・」

それで目黒は目覚めた。

「目黒、起きたか、だが今はそれどころじゃない、しっかり掴まってろ」

「は、はい・・・」

それだけ伝えると、照先生は走り出した。

(・・・目黒)

突然、目黒に『プライベートメッセージ機能』による目白の声が聞こえてきた。

(・・・美樹お姉ちゃん?)

普段は目白をそのまま姓で呼んでいる目黒だが、孤児院や2人だけでいるときは基本的にこのように呼んでいた。

(最後に・・・最後に言っておきたいことがあるの)

(え?最後?)

(あの時・・・前の孤児院から逃げ出したときからずっと思っていたけど、ずっと言えなかったことを、ね)

(ど・・・どういうこと?)

(・・・たとえ、たとえ血は繋がっていなくても、あなたは私の妹だわ。それだけは忘れないで)

この言葉が目白に伝わりきった次の瞬間、廃工場が赤い光に包まれた。

「お、お姉ちゃーーーーーん!!」



その後、廃工場は完全に消滅。

しかし、撤退の連絡がうまく伝わったこともあり、被害は全くなかった。

目白の犠牲を除いて、は。



廃工場が壊滅して3日が経った。

その一件から初の定例会議のため、放課後の生徒会室にメンバーが集まっていた。

しかし、廃工場に参加したメンバーは誰もいなかった。

会長である牙津も、照と犬彦と共に現場検証のため欠席。

それに加え、他のメンバーも全員浮かない表情でいた。

「・・・大崎、池袋と新橋、今日見たか?」

その空気を振り払うかのように神田が口を開いた。

「・・・イヤ、朝から見ていない」

「そうか・・・目黒を今日見たやつ、いないか?」

神田のこの問いに、全員首を横に振る形で返答した。

「・・・そうか。もっとも、無理はないか」

この後に神田が言葉を続けることはなかった。

「今は・・・そっとしておいてあげましょう。そのうちきっと来るって」

大塚がそう言った、その時であった。

「こんにちはー」

そう言って生徒会室に入ってきたのは、まさに話題に上がっていた目黒だった。

「め、目黒・・・大丈夫なの?」

流石に予想もしなかったからであろう、田町がそう聞いた。

「はい、ご心配かけてすいませんでした」

いつもの笑顔のまま目黒は頭を下げた。

「・・・本当に大丈夫なのか?」

品川が疑問を浮かべながらそう聞いた。

「はい、最初は立ち直れそうにもなかったんですけど・・・」

「けど?」

「ウチの小さい子達は目白さんが大好きだったから、きっとそれ以上に寂しい思いをしているはずですし、

これ以上子供達にそんな思いをさせちゃいけないって。だから、私だけでも・・・」

そう言っている目黒の目が、次第に涙で潤んできた。

「・・・目黒、無理しなくていいんだよ?」

「え?」

大塚の一言に目黒が反応した。

「私達は・・・目黒がいつも頑張って、努力して、たまにそれで自分自身傷つけてるの知っているから」

「そんな、そんなこと」

目黒の言葉を遮るように、田町が立ち上がって抱きしめた。

「あ・・・」



「だからさ、ここでは強がらずに私達を頼って・・・ね?」

「・・・は・・・はい・・・ウワァァァァァァァ!」

ついに目黒はそのまま泣き崩れてしまった。

その生徒会室のすぐ外では、蝶子が様子を見ていた。

「・・・今は言いにくいな、これは」

そう呟いた蝶子の手には、1つの封筒が握られていた。



『百花高校』近くの河川敷。

そこに、昼近くになって登校しようとする池袋の前に、

「また重役出勤か?」

と皮肉を言いながら新橋が突然立ちふさがっていた。

「・・・そういうお前こそ、この時間に何でここにいるんだ?授業もう始まっているだろ?」

「・・・・・」

「それに、ここ最近アパート帰ってきてないが、どうしたんだ?」

質問を立て続けにする池袋に対して、新橋は

「さっき退学届けを出してきた」

突如そう言い放った。

「・・・どういうことだ?」

「こういうことだよ」

新橋はそう言ってから左腕に付けているリストを見せた。

それは、『百花高校』で支給されるものではない上に、液晶が赤く光っていた。

「強化の危険性は授業で習ったろ?忘れたのか?」

「あぁ、覚えているさ。だが、それよりも安全で確実な強化があるの、お前は知ってるだろ?」

「・・・『E計画』か」

「あぁ。調べていて知ったよ。お前、既にこの件で絡んでいたんだな」

「だったら何だ?」

今まで見せたことのない、不機嫌な顔を池袋は見せた。

「・・・お前とはしっかりと決着をつけたいところだった」

すると新橋は『蒼天の剣』を具現化させた。

「・・・この場で戦えって言いたいのか?」

「言わなくても、そうさせてやるよ」

「・・・元から、やるつもりさ」

すると池袋はすぐさま認証リストに『EB−ID』を押し当て、ログインした。

「だが、後悔するなよ・・・?」

その一言と同時に、戦闘が始まった。

まず池袋は『自由の代償』を具現化、それを新橋目掛けて思いっきり投げた。

「そう来ると思ってたぜ!」

新橋はそれを、まるで野球のバッターの要領で打ち返した。

それで逆に池袋にダメージを与えよう、それが新橋の狙いであった。

しかし、池袋は既に新橋の視界にはいなかった。

そのことに気付いた新橋は、すぐに後ろを向いた。

そこには、今にも蹴りを放とうとする池袋の姿があった。

新橋はその蹴りを『蒼天の剣』を盾にして防いだ。

「その攻撃パターンは、もう何度も見てるぜ!」

今度は池袋をさっきと同じ要領で打ち返そうとした、その時であった。

新橋の後頭部に重い衝撃が伝わった。

その要因は、先ほど池袋が投げた『自由の代償』であった。

「な・・・!?」

「そういえば言ってなかったな、コレ・・・遠隔操作出来るんだよ」

それだけ言うと、池袋は再び攻撃を始めた。

拳と蹴りによる格闘と、『自由の代償』の遠隔操作による攻撃。

この二つのコンビネーションに対して新橋は全く対応出来ず、全てその身に受けた。

「これで・・・終わりだ」

その一言を発すると同時に、池袋は『自由の代償』を手元に戻し、新橋に思いっきり体当たりした。

次の瞬間、新橋と接していた部分に凄まじい衝撃が発せられた。

新橋はそれにより吹き飛ばされ、そのまま倒れた。

「ガ・・・ハ・・・」

こうして僅か5分もしないうちに、勝敗は決した。

「・・・少し、反省しておけ。まだ引き返すことは出来るんだからな」

その一言を放ってから、池袋はその場から歩き出した。

「ま・・・待て・・・」

そう言って後を追おうとする新橋だったが、それは叶わなかった。



そして、2人は廃ビルで再会するまで顔を合わせることはなかった。



「・・・話はこんなものだ」

「・・・・・」

会長の話が終わった後、俺はすぐに何か言うことは出来なかった。

1年前に、そんな壮絶なことが起こっていたなんて、想像も出来なかったからだ。

だけど、いくつか疑問は残る。

「でも、何で新橋はその組織に?」

「・・・あいつは、あの戦いで自分が無力だって思い込んじまったんだろうな」

「え?」

1年前とはいえ、あの神田さんと互角にやりあえた人が無力だって?

「あの時・・・目白さんを前に出さないほどの力があったら死ぬことはなかった、そう考えちまったんだろうな」

だから、あれほどまでに力を欲していたのか。

だけど・・・



「・・・間違ってますよね、それ」

これが俺が思った率直な感想だ。

「あぁ。だからこそ止めなきゃいけないんだ、アイツを・・・。だけど、目黒はそれでいいのか?」

「え?」

いきなり話を振られた目黒は驚きを隠せなかった。

「・・・このままだと、新橋と真正面からぶつかっていくことになる。お前ももしかしたら」

「会長」

会長の言葉を目黒は重ねる形で遮った。

「そんなの関係ありません。いつか止めなきゃ、私のような人が増えるだけです・・・それに」

「それに?」

「止めることが、目白さんのためになると思いますから」

「・・・あぁ、そうだったな。変なことを聞いてすまなかったな」

「いえ、いいんです」

やっぱり、目黒は強い心の持ち主だ。

改めてそう思わせる一言だった。

と、ここで再び疑問が浮かんだ。

「ところで目黒、その・・・目白さんが『E計画』の被験者てことは知ってたのか?」

「・・・うん、前の孤児院が裏でそういうことをしてたっていうのは聞いたことがあるわ。私がまだ物ごころつく前らしいけど・・・」

そこを例の誰かに救ってもらったということか。

「一応言っておくが、目黒は被験者てことはまずありえない。もしそうだとしたら、体に何かしらの不調が出ているはずだからな」

確かに、目白さんの去年の状態を考えれば目黒に何かしらの兆候が分かるはずだ。

・・・それを聞いただけでも、安心した。

「さて、さっき俺がここに来る時、入り口に立ち入り禁止の看板を立てておいた」

「・・・え?」

どういうことだ?

「全力で、お互いに隠すことなく練習出来るぞ」

「・・・なるほど、そういうことですか。では、お言葉に甘えて」

その一言と同時に、俺は瞳の奥で音を感じると共に『覚醒』に、目黒も輝く翼を出して『天使』状態になった。

「よし、始めるか」

「うん」

そしていつものように練習を開始した。



「・・・またこの面子が揃うことになるとはな」

開口一番、犬彦がそう言った。

『百花高校』の1つの会議室。

そこに犬彦を始め、蝶子、音無、照、日晴。

それにこの2学期から赴任してきた5人の教師が机を囲む形で座っていた。

「5人とも、今まで何してたの?」

蝶子がその5人にそう質問した。

「私は・・・ちょっと戦線に突っ込みすぎちゃって、中々帰れなくてね」

笑いながら女教師の縫は言った。

「ちょっと、燃え尽き症候群になっててな・・・何もする気になれなかった」

全く表情を変えないまま男性教師の坂東は言った。

「何もする気になれなかったて、それはいつものことだろ?」

「・・・違いねえ」

日晴からの指摘に、坂東は笑って答えた。

「俺は・・・ちょっと言うことは出来んわな」

苦笑いしながら男性教師の田中は呟いた。

「どうせ、ろくでもないことしてたんでしょ?」

「黙秘しておく」

蝶子からの質問に田中はそう答えた。

「私は〜・・・ちょっと故郷に戻ってたわ」

のんびりした口調で女性教師のらむが言った。

「・・・まさか、あのままずっといるつもりだったのか?」

「どうだろうね〜」

音無からの追求をらむは軽く受け流した。

「俺は変わらず、ずっと戦線で暴れていましたよ」

『俺』という一人称からは想像できないしゃべり方をする男性教師、翡翠(かわせみ)はそう答えた。

「・・・アンタは相変わらずだな」

「う、うるさいですよ」

照からの指摘に翡翠は反論した。

「・・・で、何で俺達はまた集められたんだ?」

坂東が率直な疑問をぶつけた。

「・・・あいつらがまた動き出したぞ」

「何?」

音無の一言に、田中は反応を見せた。

「・・・4年ね、あれから」

何かを思い出すかのように縫先生が呟いた。

「あぁ。おそらく、ここが狙われてもおかしくない。だからそれに備えるために・・・な」

「だね・・・納得」

らむの一言に、全員頷いた。

その会議室の外で話を聞いていた羅印は

「・・・やっぱり、な」

と呟いた後、帽子を被りながら外に出て行った。