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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
3月編(前編)

「・・・なんとか終わったな」

「・・・うん」

俺と目黒は体育館へと続く廊下を歩いていた。

先ほどまで実技の進級試験をグラウンドでやっていたその足で向かっているのだが・・・

「・・・なぁ、去年の進級試験もあんなにしんどかったのか?」

「去年は音無先生だけだったから、まだマシだったわよ。でも卒業試験は先生全員だって」

聞いた瞬間、背筋が寒気に襲われた。

ちなみに、今回の試験の課題は『10分間攻撃を耐え抜いて、且つ全員に一撃でもダメージを与えること』だった。

その相手は音無先生に照先生に縫先生。

更には途中蝶子先生が乱入してくるオマケ付き。

『予測不可能な介入の対処に対する評価』とか言っていたけど、無茶苦茶すぎる。

・・・俺、よくアレに合格出来たな。

いくら『神の領域』に達したとはいえ、実戦経験豊富な先生達を相手にするのは非常に厳しい。

何はともあれ、俺も目黒もそれは無事達成できたから進級には問題は無さそうだ。

あとは・・・

「先輩達は大丈夫だと思うか?」

いつも定期試験の度に苦しんでいる先輩達はどうなのか非常に不安だ。

「大丈夫よ、だって卒業試験は実技だけだし」

それを聞いて安心した。

先月からの訓練で先輩達は全員『神の領域』に達していたし、そこで仕損じることはまずないだろう。

「・・・それにしても、何で今日は生徒会室じゃなくて体育館集合なんだ?」

「あれ?聞いていない?」

「あぁ、1年の3人も知らないみたいだったしな」

この話題をした時の、3人の疑問に感じている顔が頭の中で浮かんできた。

「でもそんな難しい話じゃないはずだから、安心して」

「そうなのか?ならいいんだけどな・・・」

でもこういう時に安心出来た試しがない・・・。

と不安を感じていたら体育館に着いた。

入ってみると既に3年の先輩達が揃っていた。

「お疲れ様でーす」

「お疲れ様です」

「お疲れ、試験はどうだった?」

神田さんからいきなりそれを聞かれた。

「大丈夫・・・だったはずです」

一応課題はクリアしたが、苦戦したのは事実だから自信を持っては言えなかった。

「アンタ達なら大丈夫でしょ・・・あとは1年生だけね」

大塚さんがそういうと、入り口から

「お疲れ様です」

1年の3人が入ってきた。

「お疲れ、じゃあ揃ったことだし始めるか」

そう言って神田さんは一歩前に出た。

「今日はな・・・来年度の役職の引継ぎを行う」

役職の引継ぎ?

・・・そうか、もうそんな時期になっていたんだよな。

あと1ヶ月もしたら、3年生たちはいない。

それを考え、少し寂しい気持ちを感じた。

「まずは会長だが、これは池袋から誰に引き継がせるか既に聞いているから、それを発表する」

来年度の会長、か。

これは経験とか考えると、目黒が妥当だろうな。

芯も強いし、判断も的確だから問題ないはずだ。

「来年度の会長は・・・上野、お前に任せるだってさ」

「・・・・・」

俺の名前が神田さんの口から発せられた瞬間、状況を判断出来なかった。

「・・・え?」

ようやく発せたのは、この一言だけだった。

「お前になら安心して任せられる、というアイツからのご指名だ。頑張れよ」

「え、いや、・・・え?」

神田さんからの一言を聞くも、まだ状況が把握しきれない。

そんな俺に

「大丈夫、上野君なら私も安心して任せられるから」

隣にいた目黒からもそんな言葉をかけられた。

正直、その目黒の方が適任な気もする。

・・・だけど、そう言われたらそれに応えるしかないよな。

「わかりました、出来る限りやらせてもらいます」

「あぁ、そうしてくれ。じゃあ続いて副会長だが・・・」



その後、役職の指名は続いた。

結局、副会長には目黒、これは確かに妥当なところだ。

続いて会計が五反田、書記に代々木、そして執行役員筆頭に渋谷が就いた。

どれも適職だなと俺は思う。

俺は・・・それをまとめなきゃいけないんだよな。

3年生が抜ける穴は数字以上に大きい。

今年は今まで以上に頑張らないといけない、それを痛感した。

「さて、一通り済んだところで、恒例行事と行くか」

恒例行事?

一体何のことを言っているんだ?

「じゃあ上野、ログインするんだ」

「え、は、はい」

言われるがまま、俺はログインした

それに合わせるかのように神田さんもログインしてそのまま『蒼天の剣』を構えた。

「さぁ、お前も『遠雷』で構えろ」

「わ、分かりました」

言われるがまま俺は手に『遠雷』を纏わせた。

「・・・聞いてないと思うから説明しておくな」

「あ、はい」

それは大変有り難いが、この時点でもう嫌な予感しかしない・・・。

「毎年のこの引継ぎの際、現会長と新会長が運命系の武器を用いて全力で一騎打ちすることになっている。

相変わらず会長はどこか行っているから・・・俺が代わりを務める」

それを強調するかのように神田さんは武器を構え直した。

神田さんとの一騎打ち・・・実力も経験も段違いだから結果は明らかだ。

だけど、俺もこの数か月かなり鍛えられた。

おかげで、かなり自信もついた。

あとは・・・それをちゃんと出せるか、だけだ。

「・・・さぁ、どこからでも来い」

その言葉を聞いて気づいた。

神田さんは・・・既に『覚醒』している。

それに対応するべく、俺もすぐ『覚醒』した。

あの神田さんが振り回す『蒼天の剣』の間合いに入るのは自殺行為。

それなら、その外から攻撃するのが的確だ。

「迸れ!」

だから俺はこの離れた間合いから雷撃を放った。

だが『覚醒』している神田さんに難なく避けられた。

そしてその直後に剣を振り上げた神田さんは

「ハッ!」

それを思い切り振り下ろした。

ただの素振りに見えるこの行動、だが俺にはそれがすぐ理解できた。

振り下ろしたことによって発生した衝撃波がこっちに飛んできたからだ。

幸いにも神田さんとの練習でこの攻撃を見ていたから予想するのは簡単だった。

俺も神田さんと同じように回避行動をとり、再び雷撃を放った。

今度はさっきのような片手で手の平から放つ攻撃ではない。

両手、それも指先からそれぞれ細かい雷撃だ。

威力はさっきよりも落ちるが、それよりも手数を重視した方がいい今では最適だ。

それでも神田さんはそれらを全て避けた。

『覚醒』の効果と神田さんの実力、その二つがうまく噛み合っているのだろう。

そして神田さんは一瞬の隙を見つけてくると更に『蒼天の剣』を振るってきた。

しかも今度は1回だけでなく隙が続く限り何度も。

神田さんも俺と同じことを考えたようだ。

そして、その後に考えている行動も一緒だった。

それはこの攻撃の合間に、距離をお互い徐々に詰めることだ。

今の攻撃方法では、決定打になりにくい。

それなら、確実な一発を仕掛けるのが妥当だ。

俺も神田さんも、今の攻撃はそれを狙うためのジャブに過ぎない。

仕掛けるのはKO狙いのストレート、それしかない。

そしていよいよ神田さんの間合いに近づいてきた。

この時を待っていたかのように、神田さんが最後の一撃を繰り出すのが剣を一瞬持ち変える仕草で分かった。

だから俺も最後の一撃を繰り出すことにした。

「伸びろ!」

片手で雷撃を放って牽制しつつ、もう一方の手で雷の剣を伸ばした。

簡易版の『シャイニングフィンガー・ソード』・・・とでも言えばいいだろうか。

ある程度収束しているけど威力は普段のそれより控えめ、だが長さは『蒼天の剣』にも匹敵する。

これで間合いの大きさによる不利はない。

「ハァッ!」

ほぼ同じタイミングで、お互い斬り抜けた。

俺も神田さんも、ずっと窺って見つけたチャンスに全力を込めた一撃だ。

お互い背中を向け、しばらく立ち止まった後・・・

「・・・グッ」

俺は膝をついた。

神田さんの一撃で俺は腹部に決定的なダメージを受けていたからだ。

やはり神田さんにはまだ敵わない・・・そう思っていたところ、急に背後から音が聞こえた。

何かが地面に刺さる音だ。

その正体を知るために振り返ってみると、神田さんが『蒼天の剣』を杖のようにして倒れるのを堪える姿が見えた。

「・・・引き分け、てところか」

俺の方を振り返りながら神田さんが話しかけてきた。

その神田さんの空いている手は腹部に添えられていた。

神田さんが俺に与えていたように、俺も神田さんに一撃を与えていたみたいだ。

「いえ、俺は膝をついてしまいました、俺の負けです」

「だが、俺は『蒼天の剣』だったから堪えることが出来た、実力は既に俺と同等だ」

それだけ言うと神田さんは再び立ち上がった。

「そうだぜ、ここまで神田とやりあえるなら胸張っていいはずだ」

「去年の会長と牙津先輩との一騎打ちも凄かったけど、お前もそれに負けず劣らずだったわよ」

大崎さんと大塚さんからも労いの言葉をもらった。

「あ、ありがとうございます」



「これで俺たちも安心して卒業出来る」

こちらに歩み寄った神田さんが俺に手を差し出しながら声をかけてきた。

「・・・俺もそれに応えられるよう頑張ります」

その神田さんの手を握りながら立ち上がった。

「さて、じゃあ生徒会室で打ち上げだ、もう準備も出来ている」

神田さんの一言で、その場にいた全員が一斉に出口へと足を向けさせた。



「さて、乾杯しようか」

生徒会室に着き、全員に飲み物が回ったところでこの声を聞き、一斉にコップを持った。

俺が持っているコップにも、ウーロン茶が注がれている。

「じゃあ皆、1年間お疲れ様!乾杯!」

「かんぱーい!!」

全員コップを上げると同時にそれを重ね合わせた。

本当にこの約1年間色々あったな・・・。

そう思いながら一口ウーロン茶を飲んだ。

「!?」

な、何だこれ!?

味がウーロン茶じゃない・・・変な苦さがある?

(まさか・・・これって・・・)

「どうした、上野?」

「どうしたって、これってウーロンハイじゃないんですか!?」

「そうだが、それがどうした?」

どうしたって・・・そういえば、女子陣はオレンジジュースを選んでたな。

(ま、まさか!?)

「ハハハ、渋谷ちゃん相変わらずいい飲みっぷりね♪」

「そんなぁ、田町さんには負けますよ〜」

あのテンション上がり様は・・・見覚えがある。

やっぱり、あれは色こそオレンジジュースだけど中身はスクリュードライバー・・・。

ウーロンハイと同じく、アルコール飲料だ。

「どうした、上野?飲まねえのか?」

後ろから大崎さんが首を腕で巻きつけながら聞いてきた。

「・・・大崎さん、こんなの呑んで大丈夫なんですか?」

「何だ、お前?俺の酒が呑めないっていうのか?」

なんて典型的な絡み方だ・・・大崎さんらしくはあるけど。

「いや、そうじゃなくて、校内で呑んでたら先生に見つかったら・・・」

「よっ」

・・・なんてことを言っている傍から、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

振り返ってみると、蝶子先生に音無先生が立っていた。

この惨状を見たら、何が起こっているか一目瞭然だろう・・・。

「いや、あの、これは・・・その・・・」

この状況、俺は何ていって弁解すればいいんだ・・・?

「・・・・・」

あ、顔を見合わせている。

折角卒業できそうだって言うのに、こんな形で取り消されることになるんて・・・。

「・・・フッ」

「・・・ニィ」

急に二人とも笑ったかと思うと、何か取り出してきた。

・・・ビール1ケースに、一升瓶?

「え、それって・・・」

「お前達は1年間、他の生徒より何倍も頑張ってくれたからな。今日ぐらい無礼講だ」

教育者としてそれはいいのか?

「というわけだ、お前も遠慮せずに呑め」

どこからともなく現れた神田さんに、コップから溢れそうなほどにウーロンハイを注がれた。

「え、あ、ちょっと!?」

「さぁ、呑めって」

そしてそれを半ば強制的に口に運ばれた。

・・・苦い、あまり好きな味じゃないな。

「どうだ、酒の味は?」

「えぇ、まぁ・・・」

「何だ?チューハイは好みじゃないのか?蝶子先生、コイツにその日本酒呑ませてやってくれません?」

「分かった、お前にはトコトン付き合ってもらうぞ」

いきなり話が進んだと思えば、気がついたら目の前に日本酒が並々と注がれたコップが置かれた。

「え?え?」

「いい酒だ、味わって呑めよ」

「は、はぁ・・・」

言われるがまま、俺は酒を口にした。

「な、いい酒だろ?」

・・・正直、酒の味なんて分からない俺にはこれがいいのか悪いのかも分からない。

こういう場合、やはり素直に言った方がいいのだろうか。

「いや、酒の味は正直分からないので何とも・・・」

「そうか、じゃあトコトン今夜は教えてやる、音無先生、手伝ってください」

「あぁ、そうさせてもらう」

・・・火に油を注いでしまったみたいだ。

「さぁ、呑め呑め」



「どういうことだ!!」

薄暗い部屋の中、新橋が泉岳寺に詰め寄っていた。

「急に決まったことだからな。お前は黙って従え」

聞く耳を持たない泉岳寺に、新橋はただ怒るしかなかった。

「そう言われて『はいそうですか』て聞けるか!」

駒込という指揮系統を失い、更に強化による影響を受け新橋は既に暴走気味になっていた。

「お前に歯向かう権利はない、とにかく従え」

「・・・断る」

泉岳寺の話すことで話が進展しない、そう判断した新橋はその場を後にしようとした。

「言っておくが、もうお前の戦う意味はなくなるぞ」

その一言を聞き、新橋は歩みを止めた。

「・・・どういうことだ?」

「今巣鴨達が別行動をしている、目的は『百花高校』の制圧だ」

「な・・・それを何で俺に言わない!」

再び新橋は怒気を露にし、駒込にそれを向けた。

「あくまで今回の目的は制圧だ。お前が行ったら破壊しかねない、そうだろう?」

「・・・あぁ、そうさ!俺がしたいのはあそこを壊す・・・」

「それがいけないのさ」

新橋の言葉を遮る形で駒込は言葉を発した。

「どういうことだ、何が言いたい!!」

「あそこには・・・ぜひとも抑えておきたい物があるんだ。それに」

「それに・・・何だ?」

「既に行動は開始されている」



「・・・ン・・・寒・・・」

目が覚めると、もう外は暗くなっていた。

スマホを取り出して時計を見てみると、もう夜の9時を示していた。

部屋の中の明かりが妙な不自然さを感じさせている。

・・・酔いはほとんど残ってない、眠ったおかげで醒めたのか。

周りには・・・横になっている皆の姿が目に映った。

どうやら皆、相当呑んだみたいだ。

先生たちは・・・いない、もう帰ったのか?

辺りを見回していると、あることに気付いた。

「目黒?」

目黒の姿が、どこにも見当たらない。

・・・ドアは開いている。

どこかに行ったのかな?

ちょうどいい、散歩のついでに探してみようか。



・・・初めて、夜の学校を歩き回ったかもしれない。

月明かりが照らすところしかよく見えないこともあって、噂どおりの不気味さはあった。

そんな校舎内を歩き回って、ようやく目黒を見つけることが出来た。

見つけた場所、それは・・・屋上だった。

1人フェンス越しに、町灯りが浮かぶ夜景をジッと眺めていた。

「目黒」

とりあえず、一声掛けてみた。

「あ、上野君・・・」

俺に気付いた目黒はこっちを向いた。

と、ここでふと気付いた。

「・・・酒、呑んでないのか?」

いつもと同じぐらい反応がいい上に、意識も保っているように見える。

前に見た時は、そんな強くなかったという記憶があったから尚更だ。

「うん、田町さんと渋谷さんに止められたの。私が呑むと大変なことになるから、て」

その2人の名前が出たとき、思い出した。

目黒を含めた3人が俺の部屋で期末の打ち上げを行っていたことを。

そしてその時、俺は故意でなかったとはいえ目黒の・・・

「ねえ、何考えているの?」

「え、いや、その・・・」

急な目黒の問いに、思わず慌ててしまった。

「もしかして、あの時のことを・・・」

目黒の視線が、自然と鋭くなった。

「や、えぇと・・・ゴメン」

ここは素直に謝ることにした。

下手に弁解したところで、目黒が簡単に許してくれるはずがない。

それは、あの時も身をもって知ったことだ。

「・・・ううん、いいの」

その一言と共にいつもの目黒の目付きに戻った。

「え?」

あまりにあっさりと許してもらえて、少し拍子抜けした。

あの時は結構長い間目黒を不機嫌にさせていたのに、何故?



「今の上野君なら・・・それぐらいなら許せちゃうから」

一瞬、目黒が何を言ったのか理解出来なかった。

もしかして、それは・・・

「それはどういう意味・・・」

「取り込み中すまないな」

急に別の声が聞こえてきた。

俺も目黒も、その方向へすぐ振り向いた。

そこにいたのは・・・会長だった。

「会長・・・どうしたんですか、今頃?」

もうとっくに打ち上げは終わってしまっている。

それなのに今更来るのは、何か訳でもあったのか?

「あいにく、俺は下戸でな。呑まされないよう少し時間をずらして来たんだ」

少し、てもう皆酔いつぶれて寝ているのに?

・・・もしかして、そこまで計算しての登場か?

「それよりも、伝えておきたいことがあるんだ」

「え?」

「例の組織の件だ」

組織という単語を聞いた瞬間、俺も目黒も表情を固くした。

「何かあったんですか?」

「あぁ。奴らの本拠地として使われていた場所を発見した」

「ほ、本当ですか!?」

それが分かれば、後は取り押さえればもう組織の思うようにされないで済む。

「あぁ。太平洋上に人口島を作ってそこを拠点にしていたみたいだ。

だが、既にそこは廃棄された後だった」

「廃棄?」

「どうやら、本拠地を移したみたいだ。今早急に調査している」

だけど・・・そう簡単に見つかるものなのか?

「何か手がかりでもあるんですか?」

「・・・一応あるにはある」

「え?」

「人工島の地下から戦艦の建造ドッグが見つかった。使用形跡を調べる限り、3隻は作られている。

それも・・・宇宙航行の可能なのをな」

「宇宙・・・ということは・・・」

「あぁ。拠点を宇宙に移したというのが一番可能性が高い」

・・・とてもじゃないけど、規模が大きすぎる。

「それは・・・俺達に手の負える範囲なんですか?」

「安心しろ。この学園の生徒なら、その点に関しては問題はない」

ここの生徒だったら?

「どういう意味なんですか、それは?」

「やっぱりアンタは知っていたんだね、池袋」

また予想しなかった方向から声が聞こえてきた。

そこにいたのは・・・蝶子先生に音無先生だった。

「はい、一応は」

「そうか・・・久々にやることになるとはな」

「やってもらえますか?」

「あぁ。朝になったら正規の手続きをしてやる」

「ありがとうございます」

俺も目黒も、この3人の会話についていけなかった。

一体、何が始まろうとしているんだ?

「会長、先生、一体何の話をしているんですか?」

とてもじゃないけど、この3人の会話についていけない。

ここは質問しなきゃ益々取り残されてしまう。

「・・・実はこの『百花高校』には隠された戦力ってのがあるんだ」

「隠された戦力?」

聞くだけで、穏やかな話じゃないことは察せた。

「というのも、ここの理事長や校長は創立前から色んな輩に狙われていてな。

いつどんなことをされても対抗出来るよう準備だけはしっかりと行っていたんだ」

「準備?それはどういう・・・」

俺が更に質問を行おうとした、その時だった。

急に校舎全体が大きく揺れた。

「な!?」

「こ、これは!?」

俺と目黒が慌てふためいていると、会長がリストを見ながら呟いた。

「先手を取られたか」

「先手?どういうことですか!?」

「リストを見てみな」

蝶子先生にそう言われて、俺はリストを見てみた。

そこには、いつも何か表示されているはずの液晶に何も表示されていないリストがあった。

「まさか・・・故障?」

「いや、リストの電源は入っている・・・サーバーをやられたんだ」

「サーバー?」

サーバーて、確か・・・俺達のログインした際のデータを呼び出す大元・・・。

それがやられたということは・・・

「もしかして、俺達はもうログイン出来ないと・・・?」

「いや、うちのサーバーは電源と直結しているから電気も停められているはずだ、だが・・・」

音無先生の一言を聞いてふと校庭を見てみた。

職員室からと思われる光が照らされていた。

ということは・・・

「サーバーは壊されたんじゃなくて、停止したということ・・・ですか?」

「あぁ。壊したらさっき言った戦力も使えなくなるからな。それを知ってのことだろう」

「じゃあ、私達どうしたら・・・」

「簡単なことだ、もう一度サーバーを動かせば問題なく俺達はログイン出来る。そうすればこの問題もすうぐ解決だ」

確かに言っていることは分かる、すごく単純な問題だ。

だけど・・・

「・・・途中でその停止させた奴らから妨害されますよね」

ここまでのことが出来るんだ、相手は十中八九ログイン出来る相手。

絶対にどこかしらでそいつらを相手にするはずだ。

それを全くログイン出来ない俺達が行うというのは・・・

「安心しろ、そういう時のための対策は、既に考えられている」

「何か・・・手があるんですか?」

この状態を打開出来る手段・・・そんなのがあるっていうのか?

「あぁ。ここのサーバーは電源を停められても、内部で蓄えられた電力で1時間だけ密かに動く仕組みになっている」

「ということは・・・1時間だけならログインも可能なんですか?」

もしそうなら、まだ光明が見える。

「だが、ログインには条件がある」

「条件?」

ただでさえキツい状況なのに、更に条件があるというのか?

「ログイン出来るのは・・・その生徒会専用リストからログインした人物だけだ」

「え・・・これですか?」

確かにこのリストは生徒会専用で、設定を解除するのに費用と時間がかかると会長から昔聞いた。

・・・俺が生徒会に入るきっかけとなったコイツにまさかそんな秘密があったとは。

「今他の奴らは酔いつぶれて寝ている。まともに動けるのは・・・お前達3人だけだ」

「俺達だけ・・・ですか」

流石にこの状況は、俺達にとって分が悪すぎる。

だけど・・・迷ってられない。

俺達がやらなければ、他に誰もいない。

「分かりました、やってみます」

その決意を表すよう、俺は胸ポケットから『EB−ID』を取り出した。

「・・・お前ならそう言ってくれると思っていたよ」

蝶子先生からそんな一言をもらうと、先生2人が屋上の出口へ向かおうとした。

「アレの確保、ですね?」

「あぁ。どう考えても相手の狙いはそこだろう。お前達はサーバーの方を頼む。サーバーは・・・あそこだ」

音無先生が会長の質問に答え終わると、そのまま指をさした。

その先にあったのは・・・校舎の真ん中にある時計台。

まさかあんなところにあったとは、予想もしなかった。

「頼んだぞ」

そう言い残し、2人はその場を後にした。

「・・・さて、早速お出ましのようだ」

会長がそう呟くと、この屋上に次々と何かが降りてきた。

・・・あの目黒のクローンだ。

だけど、こいつらはクローンではなくただの機械。

そうと分かれば、俺には特に支障はない。

ただ・・・

「・・・・・」

目黒本人がどう思っているか、それが問題だ。

現に、複雑な表情を浮かべている。

そんな目黒の肩に俺は手を置いた。

「う・・・上野君?」

「安心しろ、何があっても・・・俺はお前を信じる」

「・・・うん、ありがとう」

目黒はそう答えてから、俺と同様にスマホを取り出した。

「じゃあ2人とも、準備はいいかい?」

会長もいつの間にか取り出していたスマホを手に持っていた。

「はい」

同時に答え、ログインする構えを見せた。

「よし、行くぞ。EB・・・」

「ログイン!!」

そして3人同時にログイン、ここからは・・・時間との戦いだ。

「行くぞ」

「はい!」



「何故だ・・・どうして俺に何も言わなかった!!」

「お前では足手まといだ。そんな奴にこの重要な作戦を任せられるか」

「クッ!」

泉岳寺とのやりとりに苛立ちを露にしながら、新橋はその場を後にしようとした。

「どこへ行く気だ?」

「決まってるだろ、『百花高校』にだよ」

「もう打ち上げ準備は完了している、今行ったら間に合わないぞ」

「うるせえ!!俺にとってお前らの作戦より、アイツと決着をつけることの方が大事なんだよ!!」

声を荒げ、泉岳寺に敵意すら見せた。

「・・・いいだろう、気が済むまで行けばいい。だけど、作戦の邪魔だけはするなよ」

「努力だけはしておいてやる」

それだけ言い残し、新橋はその場から姿を消した。

それを確認した後、泉岳寺はふと呟いた。

「・・・捨て駒はどこまで役に立ってくれるか。期待はしていないけどな」



「迸れ!」

「発射!」

俺の雷撃と目黒の光線が同時に放たれた。

あのクローン達はそれを避けることが出来ず、そのまま直撃。

跡形もなく消え去った。

「これで全部か」

周りを見渡しながら会長が呟いた。

かなり悠長に言っているが、敵のほとんどを倒したのは会長だ。

『ZEROシステム』で相手の動きを的確に読み、敵を尽く倒していた。

流石は会長・・・としか言いようがなかった。

「じゃあ、あとは・・・」

「あぁ、サーバーの確保だ」

次の目標を確認するのに、そう時間はいらなかった。

互いに目標を確認した俺達は、そのまま屋上を後にした。

目指すは、あの時計台の中・・・。



「ここね」

『百花高校』地下深く。

どこまでも続く通路を鶯谷、恵比寿、田端の3人が足を進めていた。

3人の目の前のドアの奥にある『隠された戦力』を強奪するためだった。

「ソイツがあれば、俺達の勝ちなんだろ?」

「そうなんだなぁ。もう誰にも邪魔されないんだなぁ」

恵比寿と田端が軽く言葉を交わした、その時だった。

「やらせるかよ」

この一言と共に3人にいくつもの光線が襲い掛かった。

3人はそれを歩みを止める形で避け、警戒態勢に入った。

そんな3人の前に姿を現したのは、羅印だった。

それも、既にログインし『ピーコック・スマッシャー』を具現化した状態で。

「あらあら。サーバーは停めたはずなのに、おかしいわね」

不思議そうな表情を浮かべながら鶯谷が呟いた。

「あいにく、俺のデータは理事長の計らいで別の場所に保管されていてな。ここのサーバーとは関係ない」

それだけ言うと、羅印は手に持っていた『ピーコック・スマッシャー』の砲口を3人に向けた。

「ここからは先には行かせない、観念するんだな」

そう言う羅印に対して、3人は焦る様子を全く見せていなかった。

それどころか、余裕すら感じさせる表情を浮かべていた。

「・・・何がおかしい?」

「おかしいのはあなたですよ」

「俺達を一編に相手出来るとか」

「思わないんで欲しいんだなぁ」

それだけ言うと、3人は一斉に羅印に攻撃を仕掛けた。

「お前らこそ、3人だけで俺を相手出来ると思うな!」

羅印もそれに負けじと迎え撃った。



「ここだ」

屋上を一旦出て、今まで全く使ったことのない階段を上ると、そこに時計台の中に通じる扉があった。

扉には南京錠がかかっていて、ドアノブを回しただけでは開けられそうにない。

だけど、今は時間がない。

「ハッ!」
 
ログインによって身体能力が上がっていることを利用し、俺はそれを蹴破った。

緊急事態だ、これぐらいだったら先生達も多めに見てくれるだろう。

「この戦いが終わったら直すようにね」

「・・・心得ておきます」

会長からの釘を刺すような言葉を一応受け止めながら、中に入った。

中には、大きなコンピューターが奥にあるだけのシンプルな構造となっていた。

他に不思議な点は何もない。

それだけに、疑問点が1つあった。

「一体、どこからここのサーバを停めたんだ?」

周りを見渡しても、侵入されたような跡はない。

何か他に手段はあったのだろうか?

「・・・ハッキングされたんだろうな」

コンピューターに近づきながら会長が呟いた。

「ハッキング?」

「外部からこのコンピューターにアクセスして、意図的に停めたんだろう。それぐらいしか考えられない」

確かにそう考えるのが自然だ。

しかし、それはそれで・・・

「そんな手段があるんなら、まずくないですか?」

一度こうなってしまうとなったら、また狙われてもおかしくない。

またこんな緊急事態になるのは、正直ゴメンだ。

「それについては大丈夫だ。まずはこいつを動かすぞ」

そう言って会長がコンピューターに触れようとした。

その時だった。

「ム!」

何か感じ取った会長はすかさず天井に向かって飛んだ。

あまりにも一瞬の行動であったため、その行動の理由が何を意味するか理解する時間はなかった。

だけど、目の前で起きた出来事を見てその必要はなくなった。

天井を壊しながら、新橋が『エクスカリバー』を構えて飛び込んできたからだ。

だけど会長の装備している『ZEROシステム』は基本素手、そのままじゃ止められないはずなのに一体どうするつもりだ?

そう心配している俺を他所に、2人は激突した。

新橋の『エクスカリバー』は、会長が出した剣で防がれていた。

あの剣は・・・多関節伸縮自在高熱剣『ヒート・ロッド』。

『ZEROシステム』の進化前の武器だ。

そうか、俺の『クジャク』と同様に、同じ系統の武器を同時に使えるものがいくつかあるとこの前聞いた。

きっとこれも、その内の1つなのだろう。

2人の間で激しいスパークが起きた後、距離を取るように離れた。

「チッ、防がれたか」

会長に奇襲を防がれたことで、あからさまに不機嫌な顔を新橋は見せた。

「腕上げたな、こいつを具現化させたのは久々だよ」

手に持った『ヒートロッド』を見つめながら会長はそれに応えた。

「新橋・・・」

「・・・上野か、この前はよくもやってくれたな」

剣先を俺に向けながら言ってきた。

明らかな挑発・・・だけど今はそれどころじゃない。

「今はアンタの相手をしている暇なんかない。さっさと退いてくれ」

今はとにかくサーバーをもう一度動かすことが先決だ。

「そんなことで・・・納得するとでも思ったか!」

いきなり新橋は俺に向かって突進してきた。

「ウェポンチェンジ!!」

俺はすぐさま『クジャク』を具現化し、同時に腕に装着された『Iフィールド発生器』からフィールドを展開。

『エクスカリバー』を左手一本で抑え、そして

「ハッ!!」

右手で構えた『クジャク』で斬りかかった。

「チッ!!」

咄嗟の判断で新橋は後ろに跳ぶことによりそれを避けた。

・・・今の攻撃の手応え、今の判断能力、これはまさか。

「・・・『神の領域』に達したのか」

「あぁ、そうさ。この2か月間必死に訓練した結果だ。更に・・・俺にはこれがある!」

その言葉を発した瞬間、新橋から力が更に溢れてくるのを感じた。

もう新橋のリストを見なくても分かる、『強化』の効果を引き出したんだ。

このまま普通にやりあえば、能力の差で押し負けるだろう。

だけど今の俺には・・・

「会長、ここは俺に任せてサーバーをお願いします」

「あぁ、元からそのつもりだ。頼んだぞ」

そう言って会長はそのままサーバーの操作に戻った。

「目黒、下がっていてくれ。この狭い場所なら、1対1じゃないとやりづらい」

「・・・分かった、任せるね」

俺の言葉を聞いた目黒は後ろへ一歩下がった。

「なめやがって・・・何度も同じようになると思うなよ」

俺に怒りの眼差しを向けながらそう言い放ってきた。

「・・・今度こそ決着をつけるぞ」

そして俺はやりあえるよう『覚醒』した。

これで能力の差はないに等しい。

あとは・・・ぶつかった際の結果だけが全てだ。



「どうしたんです?もう終わりですか?」

3人を1人で相手をしていた羅印。

最初のうちはうまく立ち回れていたものの、次第に体力を失っていき、今では窮地といってもおかしくない状況だった。

「ま・・・まだやれるさ」

平然を装おうとする羅印であったが、表情からはそれが虚勢だというのが誰にでも分かるほど表れていた。

「じゃあ、死ぬんだなあ」

その一言と同時に、恵比寿が『トリプル・メガソニック砲』を放つ構えを見せた。

戦っているのは狭い通路、そこで幅の広いそれを放たれては羅印も避ける術はなかった。

(仕方ない、あれを使うか・・・)

羅印がそう決意し、行動を起こそうとしたその時だった。

3人の背後から全く違う銃声が響いた。

それは機関銃の発射音であり、3人を狙ったものというのは全員すぐ理解できた。

3人に当たったものの全く通じず、弾が床に散らばったからだ。

そしてその機関銃を放ったのは、蝶子先生と音無先生だった。

「羅印さん、大丈夫ですか?」

「な!?あなた達は来るな!ログイン出来ないあなた達が敵う相手じゃない!!」

羅印は必死に2人に撤退を促した。

「安心してください、すぐに生徒会がサーバーを動かしてくれるはずです」

「それまで、俺達で時間稼ぎを行うまでです!」

そう言いながら2人は弾倉を換え、再び構えた。

だが2人が構えているのはあくまで普通の機関銃。

ログインによって身体能力が強化されている相手に通じる武器ではなかった。

「あんな奴らに期待しているのか?馬鹿かアンタらは」

田端からの皮肉に対し、2人は

「何言ってんの、私達は教師よ」



「教師が生徒を信じずに、何を信じろって言うんだ!」

そして戦いは再開された。



「調子に乗るな!!」

新橋の突進に合わせるように俺も駆け出した。

そして俺の『クジャク』と新橋の『エクスカリバー』が同時に振り下ろされ、激しいスパークを起こした。

お互いに威力は同程度、どちらかが一方的に押し負けることはなさそうだ。

だが、すぐに新橋の行動が読み取れた。

『エクスカリバー』を二つに分断し、二刀流の構えをしてきた。

すぐさま『クジャク』にぶつかっていないもう一方の剣で俺に振り下ろそうとした。

このままではやられる・・・それを避けるための行動を俺はすぐに思いついた。

「ブースターON!!」

『クジャク』に勢いをつけ、バットを振る要領で新橋を吹き飛ばした。

距離を取ってしまえば、新橋の得意な間合いでなく俺にしか利用できない間合いになる。

その理由が、剣先に備わっているビーム砲だ。

すぐにそれを新橋に向け、迷わず引き金を引いた。

あくまでこの砲撃は補助的なもの、光線自体は大したことない。

現に新橋はそれを危なげなく避けていた。

だけど俺もそれで倒せるとは思っていない。

あくまでこれは時間稼ぎ、この一瞬を利用して・・・

「スマッシャーモード!!」

弧状の銃、スマッシャーモードに切り替えて再び引き金を引いた。

先ほどの射撃とは違い、今度は一度に15本の光線が新橋に向かっていった。

「ク!?」

流石に新橋もこれは防ぎきれないのだろう、何発か直撃し吹き飛ばされた。

手応えのある結果だけど・・・気がかりな点がある。

「・・・何でフィールドを発生していない?」

今までだったら、光線が途中で途切れていてもおかしくない。

それでも何本か効果があると思い放ったのだが・・・まさか直撃した全てがダメージを与えるとは思っていなかった。

「・・・たしかにあれは有効な防御策だ、だが俺に・・・もっと合っている装備が見つかってな」

新橋のその言葉と共に、それは具現化された。

具現化されたのは、正面から見ても存在感の分かるバックパック。

機動力特化型支援装備『ブースターウィザード』。

「これで・・・終わりだ!!」

そこから俺に対策を考えさせる暇もなく突撃してきた。

背後の『ブースターウィザード』を点火させ、更に加速させた形で。

「!ブラスターモード!!」

咄嗟に『クジャク』を元の剣の状態にし、構え直した。

それが出来た直後に、再度俺たちの武器がぶつかり合った。

だが今度は、新橋の勢いがまるで違う。

俺からは全く押すことが出来ず、逆に新橋からの攻撃に押されていた。

「ぶ・・・ブースターON!」

どうにかその勢いを相殺しようと、俺も『クジャク』のブースターを点火させた。

だが押されるのを和らげただけで、押し返すどころか止めることすら出来ていなかった。

このままでは、背後のサーバーに到達してしまう・・・。

「諦めろ、これで俺の勝ちだ!」

新橋が笑みをこぼしながら俺に言ってきた。

そう、俺の最優先事項はサーバーを守ること・・・それを達する手段・・・。

(・・・あった!)

この状況での打開策が、唯一あった。

そのためには、俺がもう少しこの状況に耐える必要がある。

「『クジャク』、『JSAモード』起動!」

この宣言で『クジャク』のブースターが更に勢いを増し、ギリギリ新橋の勢いを止めた。

「やるな・・・だけど、いつまで持つか?」」

優位な状況を見て新橋は余裕の表情を見せた。

確かに俺の『JSAモード』はそう長いこと持つものではない。

だけどもう少しだ、もう少しだけ持てば・・・。

「さあ、もう終わりだ!『エクスカリバー』、『JSAモード』起動!!」

『エクスカリバー』から発せられるビームの刃の出力が更に上がった。

ブースターの勢いと相まって、俺への圧力が再び強まった。

「コレで・・・最後ーーー!!」

先ほどと同じく、『エクスカリバー』を分断させてもう一方の剣で攻撃を仕掛けてきた。

さっきと同じように弾き飛ばすことは出来ない。

それならもう1つの手段・・・『クジャク』を両手から片手に持ち直し、空いた手で『エクスカリバー』を抑えた。

いくら出力を上げたとはいえ、俺の『両腕部Iフィールド発生器』はこれを止めるには有効な手段だ。

だけどこれも長くは持たない、現にブースターの勢いも徐々に衰えていた。

持ちこたえれるのもあと少し・・・しかしそれも杞憂で済んだ。

俺に向かって突き進んでいる新橋に、左右からいくつもの光線が襲い掛かったからだ。

「な!?」

新橋には何が起きたのかすぐ分からなかっただろう。

だが俺には分かっていた。

動きを止めている間に、こうやって目黒に『スーパードラグーン』で射撃するよう頼んだのは俺なのだから。

そしてこれに怯んだ新橋の腕を押し上げる形で『エクスカリバー』を弾いた。

これで俺と新橋による鍔迫り合いは終わったが、奴のブースターは点火したままだ。

俺に突き進んでいることには変わりない。

その勢いを利用しようと、俺はこの一瞬で『クジャク』を構え直した。

そして間髪入れずに

「ハッ!」

新橋に向かって斬り抜けた。

『クジャク』の威力に加え、ブースターの加速で更に大きいダメージを受けた新橋は残った勢いで少し前に進んだ後

「ガハッ!?」

そのまま倒れこんだ。

「・・・目黒、ありがとな」

目黒に礼を言いながら『クジャク』から発せられるビームを止めた。

「それにしても、よくこんな方法思いついたね・・・」

目黒から若干呆れられたような言い方をされた。

たしかに、一歩間違えれば俺が危なかった。

ただの1対1だったら他にも方法があったが、サーバーを守るという目的があったからこの方法を選んだ。

他の方法だと、どうやってもサーバーに危害が加わる可能性があったからだ。

「ウ・・・ウエノ・・・メグロ・・・」

倒れこんでいた新橋が再び立ち上がろうとしていた。

「新橋さん・・・」

そんな新橋に目黒が声をかけた。

「め・・・メグロ・・・何故・・・ココヲ守ロウト・・・スル・・・メジロサンハ・・・ココガ無ケレバ・・・」

強化の影響からか、新橋は片言のように声を出しながら目黒に問いかけた。

「・・・目白さんが・・・お姉ちゃんが好きだったからですよ。ここも、そして・・・新橋さん、あなたも」

「え?」

それを聞いて俺は思わず声を出した。

「ウ・・・嘘ダ・・・!」

「嘘じゃありません!少しでも強くなりたくて、いつも必死に練習するあなたの姿を・・・お姉ちゃんは好きだったんです!!」

「ソ・・・ソンナ・・・」



「だから・・・お願いです!目を覚ましてください!!」

感情が高ぶったのか、後ろからその姿を見る俺からも、目黒の目から大粒の涙が流れるのがはっきりと見えた。

「・・・どうやら、変な夢でも見ていたみたいだな」

今まで聞いたことのない口調で新橋が口を開いた。

「新橋さん・・・強化が!?」

「あぁ、どうやら解けたみたいだ。そうか・・・俺は力を追い続けるあまり、大切なことを見失っていたみたいだ」

「新橋さん・・・」

目黒がそう声を出したとき、

「グ!?ガハッ!」

急に新橋は吐血した。

「新橋さん!!」

「・・・どうやら強化の影響が出ちまったみたいだな。安心しろ、一時的なものだ」

弱弱しく声を出しながらも、新橋は『エクスカリバー』を杖にして立ち上がった。

「ようやく戻ってこれたな、新橋」

会長がこっちを向きながら声をかけてきた。

「あぁ、色々と済まなかった・・・それよりも、早くサーバーの再起動を!」

頭を下げた新橋がすぐ思い出したかのようにそれを促した。

「安心しろ、もう起動している」

そう言った会長の後ろでは、静かに音を発しているサーバーの姿があった。



「フフフ、どうやら弾切れのようね」

いくら引き金を絞っても弾が発射されない蝶子と音無の機関銃を見て、鶯谷はささやいた。

「チッ・・・」

この状況に、流石の2人も打つ手がなかった。

「じゃあ・・・トドメを刺してあげるよ!!」

そんな2人に向かって田端は全力で駆け出した。

「待て!」

羅印は助けようとしたが、

「行かせないわよ」

鶯谷が操作する『Bit・ラスヴェート』2体がそれを阻んだ。

「く、どけ!」

その2体をすぐに振り払うも、既に羅印がどうにか出来ないほどに田端は迫っていた。

2人もとにかく避けようと構えたその時、2人の腕に付けられた認証リストから音が出ると共に液晶にメッセージが表示された。

そのメッセージは、サーバに再接続したことを意味するものだった。

「間に合った!」

それを確認すると同時に、2人は『EB−ID』を取り出し、

「EB、ログイン!!」

そしてすぐさまログインした。

「やらせるかよ!」

だがすぐ近くまで迫っていた田端は『デファイアント』を思いっきり突き出した。

その穂先が2人のどちらかに突き刺さろうとした。

まさにその瞬間、金属が衝突し合う音が廊下に響いた。

蝶子が『山紫水明』を瞬時に具現化し、それを抑えたのだ。

「危なかったわね」

「あぁ・・・だが、反撃はここからだ!」

そして先ほどまでの借りを返すかのように、音無は大量の『フェザーファンネル』を放った。

それはすぐ近くにいた田端はもちろん、離れていた恵比寿や鶯谷もそれに被弾した。

「い、痛いんだなぁ」

「さて、これで状況は五分だ、それでもやるか?」

「いいわ・・・トコトンやってあげる!」

鶯谷がいきこんで言ったその時だった。

「すまないが、五分にはならないぜ」

廊下の奥から声がすると同時に2本の光線と2つの砲弾が飛んできた。

それはどれも組織の3人を狙ったものであったが、すぐに避けられてしまった。

そしてそれを放った正体はすぐに姿を現した。

照に坂東であった。

光線は照が放った『アムフォルタス・プラズマ収束ビーム砲』のもの。

砲弾は坂東の肩に背負った、大型ウィング兼用2連電磁砲『70−31式電磁加農砲』のものであった。

「遅いですよ、2人とも」

「済まないですね、こっちも別の連絡を受けていたもんで」

「別の?」

「それは置いといて・・・お前達、これでもまだやり合うつもりか?」

この言葉に、組織3人の顔は曇り始めた。

「どうやら・・・時間内に奪取は難しいみたいね」

「そうなんだなぁ、ここは一度撤退するんだなぁ」

「仕方ないか、じゃあな」

それだけ言うと、恵比寿が上方目がけて『トリプル・メガソニック砲』を発射。

光線は天井に穴を開け、逃げ道を作った3人はそこに入り撤退していった。

「ま、待て!!」

羅印が追おうとしたが、既に姿が見えなくなっていた。

「・・・全く、逃げ足速い奴らだぜ」

「ですね・・・ところで、さっきの別の連絡ていうのは?」

「えぇ、実は異星人の大軍がここに向かってきているとの通報が・・・」

「・・・ついに動き出したか」

「みたいね」

ここが襲われるというにも関わらず、その場にいる者全員落ち着いていた。

「とりあえず、アレを動かすぞ」

「ですね、どう考えてもそれが狙いですし」

「でも、今サーバ室には生徒会のメンバーが3人・・・」

「いや、連れて行こう」

蝶子の発言に、周りが驚きの反応を示した。

「何を言っているんですか?連れて行ったらあいつらの無事の保証は・・・」

「もうあいつらはそんなことを言っていられないところまで首を突っ込んでますよ。

何かあったら私が責任を持って守ります、それに・・・」

「それに?」

「なんとなく、分かるんです。あいつらが最後までこれを見届けなきゃいけない感じが・・・」



「よし、これで完了だ」

そう言いながら会長はサーバーに差さっていたメモリーを取り外した。

「会長、それは・・・?」

「未来製のセキュリティソフトだ、今の技術力はもちろん、俺の時代の技術力でもこれを突破するのは不可能に近い。もうハッキングは出来ないはずだ」

それを聞いて、ようやく安心することが出来た。

普通にログインが可能になっても、その後他の設定やら何やらをずっと会長が行っていたから、何かあったのかと冷や冷やした。

「じゃあ、これで一安心ですね」

「・・・まだ終わりじゃない」

目黒の安どの声に対し、新橋が静かに言葉を発した。

「え?」

「組織が異星人にここを襲うよう誘導している、もう間もなく大軍がここに押し寄せるはずだ」

「な!?」

そんな大軍がここに来たら、ここもタダじゃすまない。

「は、早く、先生達にも連絡を・・・」

ここは先生達にも指示を仰いだ方がいいと思い、そう言ったその時だった。

(3人とも、聞こえる?)

『プライベート・メッセージ機能』による声が頭の中に聞こえてきた。

声の主は・・・蝶子先生だ。

(はい、聞こえます)

(うん、サーバの再起動ありがとう。まだそこにいる?)

(あ、はい、まだ3人ともいます)

(そう、じゃあそのまま動かないでいて)

(え?)

その言葉に疑問に思ったその時だった。

「ウワッ」

急に部屋が揺れた。

何かと思うと、体に変な感覚が襲った。

この感覚・・・もしかして・・・

「部屋が・・・降りている?」

まるでエレベーターのように、部屋が下の方に移動していた。

「・・・どうやら、動かすみたいだな」

「え?」

動かす・・・一体何のことだ?

と思っているうちに、部屋が動きを止めた。

「よし・・・行くぞ」

「え、あ、はい・・・」

俺も目黒も、言われるがまま会長の後に続いて部屋を出た。

新橋も、俺が肩を貸す形で一緒に歩き出した。

その目の前には、更にエレベーターがあり、俺達はそれに乗って今度は上に上がった。

今度は先ほどよりも時間がかからずに目的地に到達した。

その目の前には、無数の機械にいくつもの座席、そしてそこに蝶子先生と音無先生がいた。

「先生!」

「お、来たか」

「こ、ここは?」

「これがさっき言った『隠された戦力』・・・戦艦だ」

「せ、戦艦!?」

この高校には、そんなものがあったのか!?

「型自体は古いが、単独で大気圏脱出が可能な戦艦だ。今すぐ奴らに対抗出来る唯一の手段であることは間違いない」

単独で大気圏脱出・・・それを聞いただけでも狙われる理由がよく分かった。

「今ここに異星人の大軍が迫っている。サーバを安全な位置に移すためにも、このまま戦艦を緊急発進させる」

先生達も既にそれを把握していたみたいで一安心した。

「そ、それはいいんですけど、どこに?」

「このまま敵の本拠地を潰す・・・と言いたいところだが、まだ場所が分からないし、ひとまずはこの大軍の対応だな」

「・・・場所なら分かります」

この一言を聞いて、俺と目黒は思わずその言葉を発した新橋を見た。

「わ、分かるんですか?」

「あぁ、端末まで肩を貸してくれ」

「は、はい」

俺は新橋をいくつもある端末ある席の一つに座らせた。

新橋はそれを操作し、画面上に何か表示させた。

その場にいる全員がそれに注目した。

「これは・・・座標?」

「そこに、本拠地があります」

「本当か!?」

「はい・・・」

「決まりだな、よし、発進するわよ!」

「了解!」

すると蝶子先生と音無先生はそれぞれ座席につき、何やら操作し始めた。

「お待たせ!」

「待たせたな」

間もなく、今度は日晴先生にらむ先生、更には羅印さんまで姿を現した。

「すぐに発進させる、手伝ってくれ」

「分かった!」

すると今来た3人とも席に座り、物凄い勢いで操作し始めた。

「え、えぇと・・・」

そんな光景を俺達はただ見るしかなかった。

「まぁ、見ておけ。滅多にこんな光景見られないからな」

「は、はぁ・・・」

会長からの言葉を受け止めていると、

「発進準備完了!!」

「よし、戦艦『ハンドレッド・フラワー』、発進!!」

蝶子先生の凛々しい声が部屋の中に響いた。

すると今まで暗かった目の前が明るくなると同時に、急な振動が部屋全体に襲った。

そして次第に前方の光は大きくなり、光を通過したとき、目の前に先ほどまで屋上で見えた夜景が広がった。

と、俺はそれですぐ確認できた。

確かに異星人の大軍がこっちに迫っていた。

一瞬夜空かと思っていた夜景は、空を覆いつくすほどの異星人達だ・・・。

こんなのに攻められたら、学校は!?

「先生、あれは・・・」

「大丈夫よ、他の先生達も残っているし、それに・・・ほら」

蝶子先生が指を指す方向、そこには校庭で構える制服を着た生徒が何人か見えた。

・・・いや、ちょっと待て、あれは・・・

「せ、生徒会の皆!?」

「あぁ。お前達が一番信頼できる仲間だ。安心しただろ?」

確かにそうだけど・・・俺はすぐに『プライベート・メッセージ機能』を使って連絡を取った。

(み、皆!!)

(お、上野か。どうやら本当に戦艦の中にいるみたいだな)

この声は、神田さんか。

(ここは俺達に任せておけ。あとでまた祝勝会でもやろうぜ)

今度は大崎さん。

(そういうこと♪心配しないで行っておいで)

(私達があんな奴らにやられると思う?)

田町さんに大塚さん・・・確かにその通りだ!

(・・・はい、気をつけて!)

(当たり前だ、そっちも気をつけろ)

品川さんのいつもの皮肉だ。

(私達も頑張ります!)

(だから先輩達も頑張ってください!)

(やられたりしたら、承知しませんよ!)

代々木に五反田に渋谷・・・1年生に負けてられない!

(あぁ!行ってくる!!)

それだけ言って、俺は『プライベート・メッセージ機能』を切った。

「上野君」

目黒からの声に、俺は目を見て思いっきり頷いた。

「大丈夫さ、俺達なら出来る!」

「・・・うん!」