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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
2月編

空の澄んだ青、山を覆い隠す雪の白、川の流れる音。

一応去年の夏休みに一度戻ってきているはずだったが、どことなく懐かしく感じる。

正月は帰る気力がなかったから戻ってこなかったが、この2月の連休を利用して戻ることにした。

昨日の授業後にそのまま高速バスに急いで乗り、夜遅くに帰ることは出来た。

そこで待っていたのは。

「・・・何もあそこまで怒らなくてもいいだろ」

ついぼやいてしまうほどの親父からの説教だった。

今でもゲンコツされた頭が痛い。

確かに帰らなかった俺も悪いが、それでもあれは行き過ぎだ。

そう思いながら、俺は久々に地元の道を歩いていた。

明日の昼にはまた高速バスで帰ることになっている。

それまではここでゆっくりするつもりだ。

と言っても、田舎故に遊ぶような場所は特にない。

ゲーセンもファーストフード店も、更にはコンビニもない。

だからやることと言えば、こうやって歩き回ることだけだ。

昔からの友達も俺みたいに転校していて今はここにはいないから、尚更そうなってしまう。

「・・・そうだ、あそこまだあるか?」

遊ぶことから連想して、ふと思い出した。

昔、小さいころに遊んだ廃屋だ。

親からは危ないから行くなと言われていた場所だった。

でもそれを無視したくなるほど遊び場としては魅力的なことは確かだ。

もうそんなところで遊ぶ年ではないが、懐かしさに浸るならちょうどいい。

俺は自然とその廃屋へと足を向けていた。

だが、当時からしてかなりのボロさだった、今あるかどうかもわからない。

そんな不安があったが、着いてみると何の変りもなくその場所に存在した。

中に入ってみても、その中は何も変わっていなかった。

壁の所々に穴が開き、コケやクモの巣があちらこちらに点在していた。

少し山の中に入った場所にあるこの廃屋は、一体誰の所有物で誰が住んでいたのかも誰も知らないらしい。

だがそれ故に、子供の秘密基地としては絶好の場所だった。

よくここで、木の枝を拾ってはチャンバラごっこをしたりして遊んだのが懐かしい。

そんなことを考えていると、足元にちょうどいい大きさの木の枝を見つけた。

拾い上げてみて、当時のように振るってみた。

懐かしい、それだけが俺の感想だった。

エンドレスバトラーとして色んな武器を使っているが、こうやって原点に戻るのもたまにはいいかもしれない。



「・・・そろそろ出るか」

昔だったらずっと遊んでいたかもしれないが、今は長居しても仕方ない、そろそろ戻ることにしよう。

踵を返し、外に出ようと足を運ぼうとした。

だが、その途中で気づいた。

外に出そうと踏み出した足が見えない壁に遮られたのだ。

「え?」

思わず声を出すと、周りの壁が急に色を変えだした。

この光景、俺には記憶があった。

(これは・・・バーチャル空間!?)

前に先生達から試験中のそれを利用させてもらったことがある。

だけど、これはまだ実用化されていないと聞いている。

それが何でこんな廃屋に?

とにかく、バーチャル空間と分かった以上、俺のやることは決まっている。

「EB、ログイン!」

すぐさまスマホを取り出し、ログインを行った。

これで何が起きても対応は可能だ。

そして身構えていると、いつの間にか元いた廃屋から完全にバーチャル空間へと移っていた。

目の前には壁はもちろん、空も土もない。

どこまでも続く白い空と透明な床だ。

以前見たことがあるからそれに驚きはしないが、なぜ急に?

「やはりそういうことだったか」

後ろから声が聞こえてきたためすぐに振り向いた。

そこにいたのは、知っている顔だった。

「・・・駒込」

そう、あの12月に廃工場で出会った駒込だ。

「覚えていてくれて光栄だよ」

不敵な笑みを浮かべてそう応えてきた。

だけど、それ以上に気になることがある。

「そういうことって、どういうことだ?」

こいつは俺を見て確かにそう言った、それが何のことか非常に気になる。

「上野君、君のことは色々と調べさせてもらったよ、出身がここであること、『覚醒』の適合者であること、

そして・・・最初からNT1クラスだと認められたこととね」

確かに全て当たっている、だけど・・・

「それがどうした?」

一体何を指しているのか、その意図が分からない。

「君は不思議には思わないのかい?このEBのシステムは、使えば使うほど能力が上がっていく。

たとえ赤ん坊でも年寄りでも、初めてログインすれば能力にそう大差はない。

なのに君は最初からNT1だという、明らかに矛盾しているんだよ」

そういえば、1年の最初は良くてSクラスだと聞いたことがある。

俺もその法則に従えば最初の能力はそんなものだったはずだ。

「・・・それが何だっていうんだ」

俺は率直にそれを聞いた。

それが何だったとしても、俺の力であることには変わりない。

「・・・10年以上前、EBシステムの開発チームはある実験をしていた。それがこのバーチャル空間だ」

「え?」

そんなに前から?

だけど、EBシステム自体は20年以上前に完成していたと聞いている、不思議ではない。

「そしてこうやって全国の様々な場所で普段の生活をしながら疑似的にログイン状態になることで、

自然と初期能力を高めるよう仕向けていたのさ」

「高める?」

「いつ異星人やサイボーグが襲撃し始めるか分からないからな、それに備えていたというわけだ」

そんなことをしていたのか・・・。

でも、それで俺が最初からNT1クラスだった理由も納得出来る。

現に俺は渋谷や五反田、ほかの友達よりも長くこの廃屋に出入りしていた。

皆で遊ぶことはもちろん、何かあったときはここで過ごすことも多かったからだ。

「そして、もう一つ目的があった」

「もう一つ?」

「『覚醒』の適合者・・・そう、君みたいな逸材を探し出すことさ」

「な・・・!?」

言われて驚いたが、すぐ納得は出来た。

何せこいつらはそれを人工的に発動させる『強化』の研究をしていたのだから。

「それもすぐに打ち止めにされてしまったのだが、君の情報を知って調べてみたらここに行き着いたわけさ。

そのおかげで・・・ここで思う存分情報収集出来るしね」

駒込の言葉が終わると、急に殺気を感じた。

それに反応するかのように、俺は『ネバーエンディング・フューチャー』を具現化させ、手に纏わせた。

「『ネバーエンディング・フューチャー』か・・・まさか私のこれとぶつかり合うことになるとはね」

何のことを言っている・・・と考えているうちに、駒込は構えを取った。

また前みたいに衝撃波が来る、そう感じ身構えたがそれは来なかった。

代わりに目に映ったのは、俺と同じように光を手に纏っている駒込の姿だった。

「まさか・・・それは!?」

「気づいたようだね。この『ワールズエンドフラッシュ』も同じく『遠雷』の発展形として作られた武器さ。

少々威力は君のより落ちてしまうが・・・」

と言葉の途中で光を1本の大きな剣に変えて俺に襲い掛かってきた。

だけど、それは実体のないエネルギーだけの状態。

そのことを考えると、俺の最適解がすぐ導かれた。

片方の手にはエネルギーの剣を、もう一方の手には実体のある剣に形を変えた。

これを同時に振るうことで、エネルギーの剣で攻撃を止め実体剣で相手の武器をすり抜けダメージを与えられる。

真正面からまともに斬られればこいつもタダじゃ済まないはず。

そして俺は駒込の攻撃に合わせて両方の剣を振るった。

だが、俺の思惑は外れてしまった。

目の前で俺の剣は2本とも駒込の剣に止められてしまったからだ。

エネルギーの剣はもちろん、実体剣も。

「な!?」

「この状態でも実体を持っているという特性がある、だから君みたいにエネルギーの状態と実体の状態を分ける必要がないのさ。

更に・・・」

目の前の状態に集中していると、今度は駒込の剣から更に眩い光が放たれた。

その眩しさに俺は思わず目を瞑ってしまった。

この一瞬の隙を突かれ、俺は駒込に押され負け、そのまま吹き飛ばされた。

「このように閃光を放つことで、『遠雷』のような暗雲による目くらましも再現されている。より『遠雷』の力を受け継いでいるのは

この武器の方なのさ」

吹き飛ばされながらも態勢を立て直した俺はその言葉をどうにか聞くことが出来た。

だけど・・・これは非常にまずい。

ただでさえ実力差がある上に、武器もほぼ同等。

更に、相手から仕掛けてきたバーチャル空間だから逃げることも助けを呼ぶことも出来ない。

助かる手段は、こいつを倒すことしかない・・・。

「さぁ、君の本気を見せてみたまえ」

「く!!」

とにかく、ここは戦うしかない!



「バーチャル空間の出現を確認・・・例の『覚醒』の適合者と例の組織の者の反応があります」

「・・・向こうから仕掛けてきたか。早く彼を助けに行かないと、奴らの思うツボだ」

「しかし、私たちがすぐここまで行ける権限はありません」

「いや、彼女なら行けるだろう」

「彼女ですか・・・気が進みませんが、依頼しましょう」

「ちょっと待ってください」

「・・・池袋君か、何か不服かね?」



「いえ、むしろ賛成です。ただ、これを届けてほしいんです」



「どうした?もう終わりかい?」

戦い始めてからどれだけの時間が経過しただろうか。

予想はしていたが、奴との力の差は歴然だ。

辛うじて直撃だけは防いでいるが、徐々にダメージは受けている。

それに対して奴は無傷・・・状況は非常に悪い。

「来ないなら、こちらから行くよ」

そう言い終わると、距離を一気に縮めてきた。

「クソ!」

俺は『ネバーエンディング・フューチャー』を2つの銃に変え、何度も引き金を引いた。

この前の新橋との時と違い、実弾だけでなくエネルギー弾も混ぜての発砲。

それをこれだけ放てば、すぐにどう対処すればいいか分からず何発かは当たるはずだ。

だが、その銃弾は全て片腕を振るわれることで弾かれてしまった。

そして勢いそのままに俺に剣を振るってきた。

すぐに俺も銃から剣に形を変えそれを受け止めた。

一旦はそれで防げたが、徐々に押され始めた。

「まだ本気じゃないんだろ?早くあれを使ったらどうだい?」

こいつがいう本気、それは『覚醒』のことだろう。

たしかにこの状況、『覚醒』すれば少しは改善されるはずだ。

だけど、それを使うわけにはいかない、なぜなら・・・



「それが狙いなんだろ?」

「ほぅ」

図星なのか、一瞬攻撃している手の力が緩んだ。

俺はその隙を突いて駒込を蹴飛ばし、距離を取った。

そう、こいつは俺の『覚醒』のデータを欲しがっている。

この状況でそれを使えば、こいつの罠にハマってしまうことになる。

だが、このままでは俺もやられてしまう。

何か考えるしかない、この状況を打破するための策を・・・。

「だけど君も気づいているんじゃないか、もう手段はそれしかないと」

「ク!」

今度は俺の図星を突かれた。

「気づいていると思うが、私はもう『神の領域』に到達している。まだそれにも達していない君では相手にならないよ」

それも薄々と気づいていた。

攻撃だけがそれに達していた神田さんにも、俺は勝てなかった。

全てが到達しているこいつには勝つ術はないに等しい。

だけど、今の攻防で1つ分かったことがある。

こいつは・・・フィールドを使っていない。

使っているのなら、さっきのエネルギー弾が弾かれることなく消えているはずだ。

それなら、実体のある武器よりも応用の利くエネルギー系の武器がいい。

更に、今の実力では量より質を求めた攻撃がいい。

生半可な攻撃ではさっきみたいに弾かれるのが目に見えている。

これらを総合的に考え、俺は両手を握り合わせ、

「収束!伸びろ!」

大振りの剣、『シャイニングフィンガー・ソード』を出現させた。

今俺に出来る、最大の一撃だ。

「なるほど、いい判断だ。もっとも、結果は変わらないだろうけどね」

そう言い放ち、駒込はまた構えた。

俺も構えつつ、次の行動を考えた。

攻撃、防御、敏捷、精度・・・これら全て上回れている以上、真っ正面から行ってもやられるだけだ。

それならば、どうにかして隙を見出すしかない。

こういうときは、あの先輩達からの特訓で身に着けたカウンター戦法しかない。

意識を集中させ、駒込の動きを見極めることにする。

「来ないなら・・・こっちから行かせてもらうよ」

その言葉が耳に入ると同時に駒込は俺の目の前まで距離を詰めていた。

「ク!?」

あまりの速さに、俺は動揺しながらも防御態勢に入った。

だが、ここまで距離を詰められてしまうと大振りの『シャイニングフィンガー・ソード』では対応できない。

しかも、駒込はいつの間に光の形を剣から拳に纏う形に変えていた。

よく見ると光の輝きが更に強くなっている。

これは・・・まさか『シャイニングフィンガー』!?

「終わりだ!」

確かに、これをまともに受けたら終わってしまう。

だから俺は・・・それを紙一重で避けた。

「!?」

予想外な結果だと言いたげな顔を駒込は見せた。

だけど、俺は練習も含めて数え切れないほどそれを放っている。

動きが見切れないわけがない。

俺の技を使うことで動揺を誘おうとしたのかもしれないが、それが仇となったわけだ。

逆に俺は、光を伸ばす前の状態、両手で握り合わせて収束させた状態に戻した。

「必殺!『ダブル・シャイニングフィンガー』!!」

この隙を突いて懐に入り込み、俺は駒込の胴体にそれを放った。

まともに受けた駒込は、そのまま後方へと吹き飛ばされた。

前に『遠雷』で同じように放った時に比べると手ごたえはあった。

その証拠に、吹き飛ばした距離は前よりもあるし、何より

「ク・・・」

態勢を立て直しながらも駒込から苦悶の表情が見られた。

だけど、これは予想以上の効果だ。

今の実力差を考えると、ここまでダメージを与えられるとは思っていなかったからだ。

と、俺はここでリストの液晶画面の表示に気づいた。

『AT&SP GOD COMPLETE』

GOD・・・まさかこれは・・・

「・・・まさかこんなに早く『神の領域』に達するとはね」

駒込はそんな俺を見て言ってきた。

それを聞いて俺は確信した。

ATとSP・・・つまり攻撃と敏捷が『神の領域』に達したんだと。

だけど、先輩たちがやっと一つの項目を達しているというのに、俺は2つも一度に達している。

一体どういうことだ?

「・・・一体何を仕組んだんだ?」

駒込も俺と同じ疑問を思ったんだろう、そう聞いてきた。

俺自身もわからないことに、答えようがない。

「それがその武器の効力だからですよ」

急に声が聞こえてきたかと思っていると、駒込が急に黒いオーラのようなもの包まれた。

「な!?」

駒込自身も予想外だったのか、中々動けないでいた。

・・・前に同じのを見た記憶がある。

「お久しぶりですね」

そう言って俺の横に現れたのは・・・

「か、かよこ・・・ちゃん?」

あの夏合宿の時に助けてもらった、あのかよこちゃんだった。

「あの頃に比べて大分成長されているみたいで良かったです」

この緊迫した状態にも関わらず、微笑みながら俺を見て言われた。

それよりも・・・

「でも、武器の効力って、一体・・・?」

その一言が俺には非常に気になっていた。

「『ネバーエンディング・フューチャー』は、『遠雷』の発展形という名目の一方でもう一つ重要の役割があるんです」

「役割?」

「使用者自身の成長促進です、『神の領域』に達する速度はもちろん、継戦能力の強化も担っているんです」

そう言われて気づいた。

戦い始めてから大分時間が経っているのに、俺自身全然疲れていない。

今までのような途中での息切れが全く感じられなかった。

・・・そうか、だから会長はこれをなるべく使うようにって言ったのか。

「たしかに今のあなたなら、これを使いこなせるはずです」

かよこちゃんはそう言いながら、俺に何か手渡してきた。

「・・・武器チップ?」

渡されたということは、使えということなのだろう。

俺はそのままリストにチップをセットした。

「ウェポンチェンジ!」

そしてすぐに具現化させると、それはあの『ムラマサ・ブラスター』だった。

先月の戦いで一部損傷したこともあり、修理に出していた。

それを物語るかのように、ヒビが入っていた部分に修復の跡がある。

だけど、リストに気になる表示が出ていた。

『WEAPON RANK UP OK!』

進化可能・・・最終進化だったはずなのに、どういうことだ?

「これは・・・?」

「あなたの戦闘データを元に、進化形態が開発されました。『ネバーエンディング・フューチャー』は基本性能は高くても、

『遠雷』同様に決め手に欠ける武器ですから、それを補ってくれるでしょう」

確かに言われた通りだ、色んな状況に対応出来るがここ一番という攻撃が難しい。

現にさっき『ダブル・シャイニングフィンガー』という必殺技を放っても倒しきれなかった。

それを補ってくれる武器、そう考えただけで期待が増してきた。

「ありがとうございます、『ムラマサ・ブラスター』・・・エヴォリューション!!」

俺の宣言と共に、握られていた『ムラマサ・ブラスター』は輝きだし、形を変えだした。

・・・と思ったが、大した変化もなく元の形のままで進化が終わった。

「え?」

意外な結果に驚いたが、入ってきた武器の情報で納得はした。

「それが・・・それがどうした!」

黒いオーラに包まれていた駒込がそれを振りほどき、再び戦闘態勢に入った。

「私に出来ることはここまでです、あとは自分の手で決着をつけてください」

かよこちゃんはそう言って一歩後ろに下がった。

「分かりました、でも後で色々と話聞かせてくださいね、気になっていることが山ほどあるんですから」

俺はこの新たな武器を構えながらそう伝えた。

「はい、こうなった以上そのつもりです」

この一言に安心し、俺はビームの刃を発動させ身構えた。

「行くぞ!」

そして先手を打とうと駆け出した。

「いい気になるな!」

駒込もそれに対応するかのように向かってきた。

そしてお互いの武器が衝突し、間に激しいスパークが起きた。

でも押しているのは俺の方だ。

攻撃が『神の領域』に達し互角になり、武器も『ネバーエンディング・フューチャー』と同等以上の破壊力を持っているんだ。

真っ正面からぶつかり合えば有利なのは俺に決まっている。

「やるね・・・だけどこれなら!」

すると今度はさっきと同じように、奴の剣から閃光から発せられた。

思わず目を瞑ってしまい、さっきの俺がやったのと同じように蹴りを入れられた。

「更にこれだ!」

無理に距離をとっての攻撃・・・光線の類を放ってくるのが妥当だ。

それなら俺もそれに対抗する!

「スマッシャーモード!」

俺の意思に反映され、持っている武器が形を変えた。

直線状の刀身は弧状の銃身になり、ビームの刃の噴出孔はビーム砲になった。

それは目黒や羅印さんが使う『ピーコック・スマッシャー』そのものだった。

「行け!」

引き金を絞ると同時に全ての銃口から光線が発せられ、駒込へ集中的に向かっていった。

「な!?」

この攻撃の変化に戸惑ったのだろう、攻撃を止め防御行動に移った。

本来の刃から放たれる箇所からビーム砲14本に元々付いていたビーム砲1本、計15本の光線を防ぐのが手一杯だったのだろう。

全ての光線は駒込に対し追尾し、外れる気配はなかった。

その光線1本1本を駒込は光を纏った手で弾き飛ばした。

たとえ俺の攻撃が『神の領域』に達していても、奴は防御でもそれに達している。

この結果は驚くべきことではない。

そしてこの攻防を利用し、駒込は再び俺との距離を取った。

「なるほど、『ムラマサ・ブラスター』と『ピーコック・スマッシャー』の複合兵器か」

冷静に俺の武器を分析された。

たしかに言われた通り、こいつは変形することでその2種類を使い分けることが出来る。

可変型遠近対応破壊力重視光学兵器『クジャク』。

『ネバーエンディング・フューチャー』に比べると対応力は劣るが、破壊力という点ではこっちの方が優秀だ。

一撃を狙うという今なら、尚更いい。

「どうする、もうお前の楽勝ムードじゃないぞ」

ここまで来ればもう互角・・・とまではいかないが、それなりに抵抗出来る。

俺のさっきまでの敗戦ムードはもはやない。

「それはどうかな・・・こいつなら君もお手上げのはずだ」

その言葉と共に、駒込は俺に手の平を向けた。

「『ワールズエンドフラッシュ』、『JSAモード』起動」

宣言と共に、駒込の手に纏っている光が輝きを増した。

そしてあの構え・・・あの時放ってきた衝撃波と同じだ。

だけど、今となってはその正体は分かっている。

目くらましの閃光を放ちつつ、光による波のような光線を放つ、それがあの攻撃の正体だ。

だけど、それが分かったところで避ける方法がない。

視界全てが襲い掛かってくるのと同じこの攻撃・・・避けるのではなく防ぐ手段を考えないといけない。

普通なら難しい問題だ、今はまだ防御で『神の領域』に達していないから普通にやっては防ぎきれない。

だけど、今のこの武器なら対抗出来る。

おそらく、奴は今の武器の強烈さでこの存在にまだ気づいていないだろう。

そして、この手段で俺が欲していた隙を突くことが出来る。

「ブラスターモード!」

武器の形を再び剣にし、更に

「『クジャク』、『JSAモード』起動!」

ビームの刃の出力を更に上げ、それを構えた。

「ほう、真っ向勝負を挑むつもりかい?」

俺の構えを見て、駒込は笑みを浮かべた。

衝撃波による遠距離攻撃を行おうとしているのに、接近戦の構えを見せる俺を馬鹿らしく思ったのだろう。

だが、これで更に成功率が上がったはずだ。

この一瞬に・・・勝負を賭ける!

そのためにも、俺は『覚醒』した。

「ふ、わざわざ思惑にハマってくれたか」

自分の思い通りになったからだろう、駒込から更に笑みがこぼれた。

たしかに、これで倒せなかったら俺は罠にかかったことになる。

でもそれは倒せず、しかも逃げられてしまった場合だ。

要はここで倒し、捕まえればいいという話だ。

その手段が、今ここには揃っている・・・!

「さぁ、終わりだ!」

俺がそんな思惑を張り巡らせていると、その一声と共に、俺に閃光が襲い掛かってきた。

だけど、最初に来るのはただの目くらまし。

ダメージはないと分かっている、だから俺は何も持っていない手を前に突き出しながらその方向へと駆け出した。

そして、その後に来るのが本命の衝撃波だ。

衝撃波と言っても、実際のところは光線を津波のように放ってそう見せているだけだ。

本質が分かっていれば、今の俺には通用しない。

突き出した手に一瞬衝撃が伝わった後、光線は俺を通り過ぎていった。

予想通り無傷でその光線を乗り切って、攻撃の間合いに入った。

「!?」

俺が無事ここまで来れたことに驚いたのだろう、駒込は戸惑いを隠せないでいた。

咄嗟に避けようとしたが、『覚醒』している俺にはどう避けようとしているか手に取るように分かる。

これこそ俺が待ち望んていた一瞬の隙、逃しはしない!

「ブースターON!!」

そして剣を振る速度を更に上げ、そのまま渾身の力を込めて振り下ろした。

先を読まれた駒込は避けることが出来ず、そのまま斬撃を食らうことになった。

「ガッ!?」

それが致命的な一撃になったのだろう、そのまま駒込は倒れた。

「今です!」

俺の呼び声をすぐに察し、かよこちゃんがすぐに駒込を先ほどと同じ黒いオーラで包み込んだ。

先ほどと違い、もう駒込にこれを振り払える力は残っていないはず。

「ク・・・!」

現に、駒込自身意識はあってもそれを振り払えずにいた。

「・・・ありがとうございます」

それを確認してから、俺はビームの刃を収めた。

「いえ、こちらこそ助かりました。それに、その腕に気づいてくれて良かったです」

かよこちゃんがそう言って俺の両腕を見た。

「俺も驚きました、まさかこれまで付いていたなんて」

俺が驚いている理由、それは武器本体である『クジャク』だけでなく、あの『両腕部Iフィールド発生器』まで発現していたからだ。

これのおかげで、さっき俺はあの衝撃波を防ぐことが出来た。

「あまりにもその『クジャク』の出力が大きかったので、自衛用にそれも付属されたみたいです。

ただ、あくまで自衛用なので『シャイニングフィンガー』は使えませんけどね」

「いえ、それだけでも十分です」

元々、『シャイニングフィンガー』は決め手不足を補うために使っていた技だ。

『クジャク』の高出力がある以上わざわざそれを使う必要性はない。

「さて・・・駒込さん、あなたはもう逃げられません、おとなしく捕まってもらいます」

「・・・何も話すつもりはないぞ」

未だ黒いオーラに包まれている駒込は、そう抵抗するしかなかった。

「尋問する気はそれほどありません。拘束することで組織の戦力削減、そして種の回収、それだけで十分です」

表情を変えず、淡々とかよこちゃんは言い渡した。

「なるほど、最初からそれが目的だったのか」

「はい、特にその武器はあまり野放しにしていい武器ではありませんからね」

淡々と駒込の両手に纏われているその光を見ながらかよこちゃんは伝えた。

「もうすぐあなたを連行するための部隊が到着します、それまでおとなしくしていてください」

「チッ・・・」

この状況に駒込は完全に諦めた、俺からもそういう風に見えた。

「それは困るな」

突如声がどこからかしたと思った瞬間、急に人が現れ駒込を背後からオーラごと刀のような武器で切り裂いた。

「ガハッ!?」

その駒込の苦痛の叫び声を聞くまでもなく、今のが致命傷になっているのは目に見えていた。

だがそれ以上に・・・あれは一体誰なのかという方が気になる。

「これは返してもらう、お前はともかくこの武器はまだ利用価値があるんでな」

駒込のリストを強引に引きちぎり、そこからチップを取り出すとリストを何も思っていないかのように投げ捨てた。

「せ・・・泉岳寺・・・貴様・・・」

怒りと悔しさを滲ませながら最後の力を振り絞るかのように、駒込は背後にいるそいつの方を振り向こうとした。

「安心しろ、これ以上苦しませたりしねえよ」

その一言を放った後、武器を奪ったばかりの『ワールズエンドフラッシュ』に変え、光線を放って駒込を飲み込ませた。

駒込は跡形もなく消え去り、生存を確認する必要すらなかった。

「なんてことを・・・」

俺以上に、かよこちゃんがその行動に対し怒りを露わにしていた。

「こっちとしては感謝して欲しいぐらいだ、口を割らないはずのあいつを拘束するなんて無駄を省いてやったんだからな」

冷酷なセリフをそいつは言い放った。

「何だと!」

それに対し今度は俺が怒りをぶつけた。

するとそいつはこちらを振り向いた。

見る限り、親父と年齢が同じくらいに見えた。

「今回はお前たちとやりあうつもりはない、俺の目的は達成したからな」

その一言だけ言い放ち、そいつは消えてしまった。

「バーチャル空間から抜け出したみたいですね、これでは後を追う手段がありません」

悔しさを滲ませながらかよこちゃんは言い放った。

「・・・一体奴は誰なんですか?」

単純な疑問を投げかけた。

「『E計画』の黒幕、私はそう聞いています」

「黒幕?」

こいつらより更に上のやつらがいるってことか?

「もうしばらくしたら例の部隊の人達が来るはずです、その人たちが教えてくれるでしょう」

そう言われて少し安心した、だから俺はもう一つの疑問を聞くことにした。

「でも、どうしてここに?確か交通事故に遭って・・・」

「・・・そういえばその話を聞いたみたいでしたね、確かにその通りですよ」

「え?」

じゃあどうしてここに・・・?

「瀕死の重傷を負いましたが、奇跡的に命だけは助かりました。もっとも、回復しても日常生活出来るかどうかというレベルでしたけど」

「日常生活て・・・でも今・・・」

今目の前で普通に立っているし、更に戦闘まで行っていた。

「そこで政府軍が私の適性を見て提案してきたんです、このバーチャル空間の管理者としてエンドレスバトラーにならないかって」

「適性?」

「このバーチャル空間のです、そこに存在を置くことで助かることが出来たんです」

ということは、この中なら普通に生活が出来るということか。

そうなると、疑問がもう一つ浮かぶ。

「でも、あの時どうして現実に?」

8月にあの浜辺で見たとき、確かに一緒に戦闘していた。

今の話からするとあり得ない状況だ。

「たまにですが、現実世界に戻ることを許可されているんです。そうすることで徐々に現実世界での生活に戻ることが出来るみたいで。

もっとも、完全に戻れるまでに10年以上かかるみたいですけどね」

「そんなに・・・?」

いくら回復出来るからと言って、10年は長すぎる・・・。

「安心してください、私自身納得してますし、親も回復出来るならと送り出してくれました。ただ・・・」

「ただ?」

「出来るなら・・・あなた達と同じように百花高校に通いたかったです」

「あ・・・」

たしかにあの旅館の女将さんも、百花高校に通いたがっていたと言っていた。

回復と念願のエンドレスバトラーになれた代償、それは彼女自身の青春の時間だ・・・。

「ですから、私嬉しいんです」

「え?」

「その百花高校に通うあなたの手助けが出来たんですから」

今まで不思議な印象しかなかったかよこちゃんの顔から、少し笑みがこぼれた。

「・・・そう言ってくれると助かります」

「はい、でもそろそろ敬語はよしてください、エンドレスバトラーとしては先輩なのかもしれませんが、あなたより年下なんですから」

「そ、そうだったね、ゴメン」

言われて確かにその通りだと思い謝罪した。

もっとも、敬語だったのは先輩だったというよりは幽霊の類だと思っていたからとはとても口には出せない。

「待たせてすまない」

聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

声の方を向くと、会長に加え2人いた。

確かこの人たちは

「悠矢さんに雷電さん?」

7月にあの廃ビルでの戦闘で一緒になった2人だ。

たしか、会長の卒業後に所属する部隊にいるって話だったはずだ。

「久々だな」

「あの時に比べて段違いに成長しているみたいで良かったぞ」

俺を見てそう言ってくれた。

「あ、ありがとうございます」

そう言われた俺は素直に嬉しさから礼を言った。

「ところで、駒込は?」

雷電さんが俺たち以外何もない周りを見渡しながら聞いてきた。

「それが・・・」

俺たちは今までの出来事を一通り説明した。

「そうか、泉岳寺が来たか・・・」

会長がそれを聞いてボソッと言葉を発した。

「会長、教えてください。あの泉岳寺て何者なんですか?」

「ん?ああ、あいつはな・・・」

俺の質問に会長は言葉を濁らせた。

ここまで来て、何か話せない事情があるのか?

「池袋、そろそろ話してやれ」

そんな俺に悠矢さんが助け舟を出してくれた。

「もう彼は十分俺たちに巻き込まれている、そろそろ話してもいい頃合のはずだ」

雷電さんからも援護が来た。

「・・・分かりました、全て教えますよ。俺の正体も含めてね」

観念したかのように会長が言った。

でも・・・

「正体?」

それがどうにも気になる。

「率直に言おう、俺は100年後の未来から来た」

「・・・え?」

あまりにも突飛すぎる発言に、俺の頭はついていけなかった。

「こいつの言っていることは本当だ、俺たちが保証する」

雷電さんがそう言ってフォローした。

「え、で、でも何のために?」

必至に話についていこうと頭の中で整理しながら質問した。

「理由はいくつかある。まず、この時代への技術提供だ」

「ぎ、技術提供?」

「EBシステムの基礎理論と最低限の武器解析技術、俺の時代にそれらを繋げるために基礎的な技術を伝えに来た」

言われてみれば、EBシステムにしても武器の解析にしても、この時代の技術だけでは難しいものばかりだ。

「でも、どうして最低限なものだけを?そっちの最新技術を教えればもっと楽になるはずなのに・・・」

「そうしたら技術の前倒しが起きて、未来に大きな影響が出てしまう。だから最低限に留めているんだ」

「な、なるほど・・・あれ?」

納得しかかったところで、疑問が生まれた。

「どうした?」

「たしかEBシステムは20年以上前には確立されたって聞いていました、そうなると・・・会長は今何歳に?」

「あぁ、言葉が足らなかったな。それは俺の役目でなく、あの泉岳寺の役目だったんだ」

「え!?」

思わぬ名前が出てきて驚いた。

「俺の目的は、泉岳寺とサイボーグの反乱の阻止だ」

「反乱?」

その言葉に疑問を感じた。

サイボーグは未来から『侵攻』してきたのかと思っていた、それが『反乱』となると・・・

「まさかサイボーグは・・・元々味方だったんですか?」

「鋭いな、その通りだ。サイボーグの成果もあり、未来では異星人からの侵攻が今の1割にも満たない状況になっている」

「・・・じゃあ何で、この時代にサイボーグが?」

未来と現状、この二つでの立ち位置があまりにも違いすぎる。

「詳しいことは俺にもわからない。ただそのサイボーグの統率責任者だった泉岳寺がそいつらと、中止になった『E計画』の情報を引き連れて

この時代に来た、そして技術を伝え終わり、その本性を現したことで、影響が未来に出てきたから、俺がこうして止めに来たんだ」

「じ、じゃあ何でそれを言ってくれないんですか?」

そうすれば俺はもちろん、生徒会の皆や先生達も協力してくれるはずだ。

「公にしたところでこんな話、一体どれだけの人が信じてくれる?情報の錯綜で下手したら新たな反乱者を生む可能性だってあるぞ」

「そ、そうなんですか?」

「本当だ、このことは政府軍の一部にしか公表されてないが、少数派ながら疑問視する奴らはいる」

俺の疑問に雷電さんが代わりに答えてくれた。

「でも、止める手段てあるんですか?」

今も様々な場所でサイボーグは破壊活動を行っている、それを根本的に止める方法があるとは簡単には思えない。

「それについては目途が立っている、早ければ来月にはその成果が出るはずだ」

「そ、そうですか」

根拠はないが、今はその言葉を信じるしかない。

会長に加え政府軍に所属する3人がいる場での発言だ、信憑性は高い。

「そして最後の目的は・・・種の回収だ」

「種・・・まさかコレが?」

俺の使っている『ネバーエンディング・フューチャー』もまさに種という文言が付けられている。

関係性があるのは明白だ。

「あぁ、本来は未来で使われていた『運命の業火』の発展形としての武器だったんだが、泉岳寺が奪いこの時代に

最新技術を用いた武器としてばら撒いたんだ。ほとんどは回収出来たが、唯一あの『ワールズエンドフラッシュ』だけが出来ていない」

「・・・そんな武器を俺が使っていていいんですか?」

話を聞いているうちに、この武器の重大性が理解出来てきた。

とても使い続けて良さそうな武器には思えない。

「その点については大丈夫だ、未来から持ってきたデータによって誰に渡していいか判断出来るようになっている。

そして、君はそれに該当した。だから渡したのさ」

「俺が・・・これの・・・」

色々と思いながら今手に纏っているこの『ネバーエンディング・フューチャー』を見つめた。

この武器に、そんな意味が込められているとは・・・。

「それのおかげで君は、いつでも奴らとやりあえるはずさ」

「え?」

「リストをよく見てみるんだ」

会長の言葉に従ってリストの液晶を見てみた。

そこには、先ほどとは違う文字が浮かんでいた。

『GU&HT GOD COMPLETE』

さっきの戦いの最中にまだ『神の領域』に達してなかった防御と精度が達したことを表していた。

「これは・・・」

「元々EBのシステムは、高い能力を持った相手と戦う方が成長速度が速くなる。だから奴と戦ったことにより更にそれが早まったんだ」

「そ、そうだったんですか」

「いつまた奴らが襲い掛かってくるかわからない、だから能力が高いことは決して損じゃないはずだ」

「・・・確かにそうですね」

その一言が、俺に戦う決心を更に強めた。

「さて、そろそろ戻るか。ここはあまり長居していい場所ではない」

悠矢さんがそう言って話を締めくくった。

「では、私の方で皆さんを元に戻すよう処理します」

するとかよこちゃんは目の前に半透明のスクリーンを浮かび上がらせ、操作し始めた。

そして間もないうちに俺たちも体が輝き始めた。

前に見たことがある、バーチャル空間から現実世界に戻ろうとしているのと同じ現象だ。

「では、お元気で」

微笑みながらそう言われたが、どこか寂しそうにも見えた。

それもそうだろう、こんなところにいつも一人でいるのだから。

だからか、自然と口にしていた。

「いつか・・・」

「え?」

「いつか現実世界に戻ってこれたら、一緒に戦おう!」

さっき言われた通りなら、10年後には元通りの体になっているはず。

そして、その頃には俺も正式なエンドレスバトラーになれているはずだ。

この約束を守れるのは、そう難しいことではない。

「・・・はい、いつか必ず」

かよこちゃんが、年相応の満面の笑みを見せてくれた。

その顔を見たのを最後に、俺はバーチャル空間から脱した。



その後、元の廃屋に戻った俺はそのまま実家に帰り、残りの時間を何事もなく過ごすことが出来た。

心も体もスッキリさせ、連休明けは普通に登校した。

だけど、俺にはやるべきことが増えた・・・。



「・・・そうだったんですか」

「あぁ、今まで黙っていてすまないね」

放課後の体育館、会長から目黒に俺が聞いた話をもう一度してもらった。

目黒も『天使』の適合者、しかも『E計画』に関与している。

狙われる可能性は俺以上にある、話してもらう必要は当然ある。

「いえ、話してくれてありがとうございます」

話を一通り聞いた目黒は、大きな動揺を見せることもなくそれを受け止めていた。

やはり、目黒の芯の強さを信じて正解だった。

「でも、来月に何かしらの動きがあるということは・・・」

目黒が自分の疑問を口に出した。

「あぁ、こっちも巻き込まれる可能性は高いな」

会長から冷静な返答が返ってきた。

俺もこの前それを言われて、危機感を感じていた。

「それなら・・・やることは一つだけだね、上野君」

俺の方を見て目黒が聞いてきた。

「あぁ、分かってる。練習あるのみ、だろ?」

「うん、私たちに出来ることは、今それだけだよ」

そう言葉を交わしてから俺と目黒はログインし、構えた。

「目黒、これからしばらくは十二支を使うようにするんだ、許可は出しておく」

そんな俺たちを見て会長が言ってきた。

「え?」

「実は十二支には成長促進はないけど、継戦能力の促進効果はあるんだ。だから使えば使うほどその効果が出る」

「そ、そうだったんですか?」

「もっとも、学生にはその誘惑が強すぎるから使用制限がかかっているんだけどね」

そうか、だからわざわざ許可を取る必要があったのか。

「分かりました、おいで」

すると目黒は手の平にあのネズミを出した。

「じゃあ、行くよ」

「ああ!」

そのまま一戦交えようと構えた時だった。

「俺たちも混ぜてもらっていいか?」

入り口から声がしたため振り向いてみると、そこには神田さんを始め生徒会全員がそろっていた。

「え、どうして・・・?」

急に全員集まっているこの状況に、頭が一瞬混乱した。

「お前たちがここに入っていくのを見てな、様子がおかしかったからまさかと思って聞いてみたら案の定だった、というわけだ」

「アンタ達、分かりやす過ぎるわよ」

神田さんの説明の後に大塚さんからダメ出しを受けた。

「す、すいません」

「それよりも、練習するんだろ?俺たちも加わるぜ」

「そういうこと♪」

すぐさま大崎さんと田町さんから催促された。

「で、でも1年はともかく先輩たちは大変な時期なんじゃ?」

近々受験もあるし、とても暇とは思えない。

「安心しろ、受験組は推薦か合格安全圏だし、就職組は全員内定をもらっている」

品川さんからそう説明された。

「ボク達も先輩たちの足手まといにならないよう頑張ります!」

「だから一緒に練習させてください!」

「お願いします!」

渋谷、五反田、代々木の3人からも熱意を乗せてそう頭を下げられた。

みんなしてこう揃って言われると、嬉しい以上の何かを感じてしまう。

「・・・こっちからもお願いします、じゃあ早速始めましょう」



「それなんだけどな、効率のいい方法があるんだ」

さっきから黙って聞いていた会長が口を開いた。

「何ですか?」

「EBシステムは、強い相手と戦えば戦うほど能力促進が早まる、それは知っているだろう?」

「あ、はい」

それはこの前俺も実感したばかりだ。

「この場で今一番強いのは、全てにおいて『神の領域』に達した君だ」

「そ、そうなりますね」

「だけど君は先輩たちに比べて実戦経験が乏しい」

「た、確かにその通りです」

言っているうちに、嫌な予感が漂ってきた。

「じゃあお互いのメリットを取るにはどうすればいいか・・・もう分かるよね?」

聞いている間に、俺以外全員が武器を構えてこっちを見ていた。

「・・・分かりましたけど、考えたくありません」

「そうか、じゃあ敢えて言おう、君が一人で全員を一度に相手すればいいだけの話さ、さぁ始めよう」

会長のこの一言と共に、全員一斉に俺に向かってきた。

「も、もうヤケクソだ!!」

半ば自棄になりながらも、俺は構えて迎え撃つことにした。