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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
3月編(後編)

夜の百花高校で、日常では考えられない音が飛び交っていた。

刃が金属を断ち切る音、光線が発射される音、そして爆発音。

授業中ならあり得る音だが、夜となると話は別であった。

不穏な音の主は、普段は学校の治安を守る生徒会の役員達だった。

「これで一段落か」

『蒼天の剣』を地面に刺す形で置きながら神田は周りを見回した。

「えぇ、1年生達の方も一通り終えたみたいよ」

大塚も『プライベートメッセージ』でやり取りした結果を神田に伝えた。

その場にいない1年生の3人は、反対側で敵と交戦していた。

「だけど、これで終わりじゃないでしょ?」

敵が見えないことに疑問を感じながら田町は言葉を発した。

「だろうな。この程度で終わるはずねえ」

自分の掌に拳をぶつけながら大崎は答えた。

「今は先生達が敵の第二陣を食い止めているはずだ、俺たちはそこを突破した奴らを

こいつらみたいに叩く、それだけだ」

神田が周りの残骸を見ながら言った。

周りには4人が倒したサイボーグ達の一部分が所々に転がっていた。

つい先刻まで、百花高校に襲撃を試みようとして交戦した結果が辺りに表れていた。

(みんな、聞こえるか?)

突如4人に『プライベートメッセージ』が頭の中に入ってきた。

(どうした、品川?)

その場にいない品川は、現在校内にある指揮室で戦況を把握しながら全員に指示を出していた。

(さっきとは別方向から『神の領域』に達した奴らが4人、こちらに向かってきている)

(・・・奴らだな)

『神の領域』と『4人』で、その場にいる全員が誰が向かってきているか察しがついた。

(間違いなくそうだろう。先生達が全員この場を離れている今、お前達に対処してもらうしかない)

(分かった、4人で各個撃破していくか?それとも・・・)

(あぁ、1人でも逃していると侵入を許される、1人ずつ奴らの動きを止めてくれ)

(・・・随分簡単に言ってくれるじゃねえか)

(何を言っているんだ?お前達の能力を考えた上での作戦だぞ)

(なるほど、信用はされているみたいだな)

(当たり前だ、そうでなきゃこんな作戦立てられねえよ)

品川と神田、大崎の間で内容と雰囲気に差が出るやり取りが繰り広げられた。

それが出来るのも、3人の間の信頼関係が確立されていることの裏付けになった。

(それで、誰がどこを担うの?)

(それについてはな・・・)

大塚の質問に答える形で、品川は4人に指示を出した。


「ン・・・」

部屋中に大音量が響き渡った。

戦艦に備わっていた仮眠室で休むよう先生達に言われ、発進直後からずっと眠っていた。

備わっていたアラームで目が覚めた俺は体を起き上がらせて、調子を確認してみた。

体力も回復しているし、先の戦いの疲れも飛んだ。

ログイン後でも、実際の疲れが反映されるからこの意味は大きい。

これなら心置きなく戦うことが出来る。

「あ、上野君・・・おはよう・・・」

すぐ近くのベッドで寝ていた目黒も起きたようだ。

でも、まだ寝ぼけているようにも思える。

言葉のトーンもそうだが、目が半分しか開いていない。

「おはよう、準備出来たらブリッジに行こう」

「・・・うん・・・」

とりあえず顔は洗った方がいいと思った俺は、近くにあったタオルを迷わず目黒に渡した。



「先生!」

ブリッジに着くと、音無先生と蝶子先生が立って外の様子を見ていた。

外は真っ暗、ここは宇宙なんだとすぐに納得することが出来た。

「おはよう、疲れは取れたか?」

「はい・・・それより、あれから何か変わったことは?」

「あぁ、目的地ならとっくに補足してある。前方を見てみろ」

「え?・・・あ!」

そう言われて見ると、すぐに分かった。

暗い宇宙の中に、白く浮かんでいる建造物があることに。

しかも、その近くでは戦艦が3隻も構えている。

会長が言っていたのは、おそらくアレのことだろう。

「戦艦が邪魔だな・・・まずはあれをどかすぞ」

「どかす、て・・・どうやってですか?」

こっちはたった1隻・・・数的に不利なのは明らかだ。

『大丈夫よ♪』

『それなら俺達に任せておけ』

突然スピーカー越しに声が聞こえてきた。

すぐ近くのモニターにその主の姿が映され、誰なのか確信することが出来た。

日晴先生に・・・らむ先生だ。

2人とも、どうやらこの戦艦の甲板にいるようだ。

ログインしていれば、宇宙間行動は普通に可能だが、あそこから何をするつもりだ?

「やはり2人に来てもらって正解でしたよ、じゃあ任せますね」

『あぁ。文化祭の時は手伝えなかったからな。その時の分まで暴れさせてもらうぜ』

『今日の私達は止められないわよ』

まさか・・・2人だけで戦艦を3隻も破壊しようっていうのか!?

「せ、先生、いいんですか!?2人だけに任せて・・・」

「安心しろ、あの2人はこっちの方が戦いやすいはずだ」

「え?」

疑問を感じていると、日晴先生が大きな箱を取り出した。

あれは・・・ミサイルランチャーの類か?

すると、その予想通り箱から6発のミサイルが一斉に飛び出した。

ただのミサイルが6発飛び出しただけ・・・と俺は思っていたが、すぐにそれは間違いだということに気付いた。

1隻の戦艦に当たったそれは、1発1発がとてつもない爆発を起こしたのだ。

その威力は・・・同じミサイルである品川さんの『リフレイン』とは比べ物にならない。

日晴先生が使った、その武器の名は多弾装高威力ミサイル発射装置『サイサリスMLRS』。

あれを使うとなれば・・・文化祭で戦うのを止められたのも頷ける。

一方、らむ先生は別の戦艦に対して飛んで向かった。

一見何も持っていないらむ先生だったが、すぐに変化が現れた。

背中から、光り輝く蝶の羽が現れた。

しかもその大きさは目黒の『天使』になった時に現れる羽よりも遥かに大きい。

目標となっている戦艦を覆いつくすのではと思えてしまうほどだ。

だけど、驚いたのはその後だ。

羽の光に触れた戦艦がその部分から溶解していったのだ。

しかも、その勢いは止まりそうにない。

あの羽の正体、それはナノマシン使用大型破滅兵器『月光蝶』。

これも、文化祭のときに止められた意味が良く分かる。

戦艦も弾幕を張って対抗しているが、先生2人の猛攻を止められるとは思えなかった。

たしかに、この調子で行けば戦艦はなんとかなりそうだ。

「・・・まずいな」

そんな俺の気持ちとは裏腹に、音無先生が呟いた。

「ど、どうしたんですか?」

この状況で何がまずいのか、俺には理解できなかった。

「・・・このままじゃ、間に合わないかもしれん」

間に合わない?

一体、何のことを言っているんだ?

「上野、目黒、2人に頼みたいことがある」

この状況下で頼まれることだ。

そう簡単に行えるものではないことぐらい予想は出来ていた。

だけど、それが何かは聞くまでは分からない・・・。

「・・・何ですか?」

「今から・・・あそこへ侵入してくれ」

やはり難題だった。

この艦隊戦の中あの要塞へ潜入するだけでも大変なはずだ。

それに・・・侵入するだけではないはずだ。

「侵入・・・した後、何をすれば?」

「内部の管理装置を破壊して欲しい。ただそれだけでいい」

ただそれだけ・・・と蝶子先生は言うが、それこそ難題だ。

でもこの難題・・・なんで・・・

「でも何で先生達がやられないんですか?私達よりも確実なはずなのに・・・」

目黒が俺が思っていることを代弁してくれた。

「あいにく、俺達はこの戦艦の制御で手一杯だからな。安心しろ、敵の戦艦を全滅したら駆けつけるさ」

音無先生が力強く言ってくれた。

だけど、ここで新たに1つの疑問が浮かんだ。

「だけど・・・どうして今から侵入を?戦艦を全滅させてからでもいいのでは?」

この様子だと、日晴先生とらむ先生が戦艦を破壊してくれるのは時間の問題だ。

それなのに・・・何で?

「・・・あれを見てみろ」

蝶子先生が建造物の上部を指差した。

そこには、何やら巨大なパラボラアンテナのようなものが乗っかっていた。

「あれは・・・?」

「・・・対象殲滅用巨大放射線照射装置『ジェネシス』」

「え?」

『殲滅』だとか『放射線』だとか不吉な単語しか聞こえない辺り、嫌な予感しかしなかった。

「アレが起動すれば、俺達はもちろん・・・その先の地球も危ない」

「!?」

「それに・・・エネルギーの充填も始まっているようだ、このままでは間に合わない」

それを聞いて、事の重大さにようやく気付いた。

そうなると、ここはもう・・・

「分かりました、行きます」

断るわけにはいかない。

目黒も、俺と同じ決意をした顔をしている。

それを確認すると同時に、急に後ろの扉が開いた。

開いた先には、落ち着きを取り戻したかのように見える新橋の姿があった。

「新橋・・・さん」

今まで呼び捨てにしていた癖が抜けきれず、敬称をつけるのを一瞬ためらってしまった。

「呼び捨てでいいさ。中退した身だし、それだけのことを今までしてきたんだからな」

敵意をむき出しにしていた今までとは顔つきが全く違う。

これが本来の新橋の表情なのだろう。

「お前の場合は事情が事情だ、復学も可能てことも忘れるな」

蝶子先生がいつもとは違う優しい目で教えた。

「・・・ありがとうございます」

「その様子だと、強化の無効化に成功したみたいだな」

やり取りを見た音無先生がそう声をかけた。

「そ、そんなことが可能なんですか?」

「あぁ、もちろんだ。今までだって野球部やサッカー部にも同じ処置を施していたんだからな」

そう言われて、確かに納得できた。

「だけど、強化による今までの負担までは無効化出来ていないから、気を付けるんだぞ」

「はい、わかりました」

このやり取りを聞いて、ふと感じ取った。

「・・・もしかして、一緒に来るんですか?」

「あぁ、もちろんだ。今までの償い、きっちりさせてもらう」

実際に何度もやり合った俺は新橋の実力は知っている、だからこの助けは非常に有り難い。

だけど・・・

「もう戦えるんですか?」

あの吐血を見たばかりだ、心配するなという方が無理だ。

「安心してくれ、無理のない程度に戦うつもりだ」

「・・・無茶しないてくださいよ」

目黒がそう返答する新橋を気遣いながら声をかけた。

「あぁ、もちろんだ。生きて帰らないと、目白さんに会わす顔がないからな」

そんな目黒に新橋は迷うことなく返答した。

「それなら新橋、これを持っていけ」

傍でやり取りを見ていた蝶子先生が新橋に武器チップを手渡した。

「これは・・・?」

「私の『山紫水明』が入っている、これを使え」

「え、でもこれは・・・」

新橋があからさまに動揺したのが分かった。

俺にもその気持ちは分かる、あんな上等な武器を簡単に渡されて平常でいられる方が難しい。

「いつまでも敵からもらった剣で戦うわけにはいかないだろう、いいから持っていけ」

「あ、ありがとうございます」

戸惑いながらも新橋はその武器チップをリストにセットした。

「目黒、お前にはコレだ」

続くように今度は音無先生が目黒に武器チップを渡した。

「え?」

「俺の『フェザーファンネル』だ、あれだけ十二支を扱えるのならこれも使いこなせるはずだ」

「い、いいんですか?」

新橋と同じように目黒も動揺を見せた。

「お前だって生きて帰ってくる必要がある、そうだろ?」

「は、はい、ありがとうございます」

そう言われて音無先生の言っていることに気づいた目黒は礼を言ってから武器チップをリストに入れた。

「上野は・・・大丈夫そうだな」

俺を見ながら蝶子先生がそう呟いた。

「はい、俺には色んな人の気持ちを受け取った武器がありますから」

『クジャク』にしろ『ネバーエンディング・フューチャー』にしろ、多くの人達が関わって俺に渡った武器だ。

これほど心強い武器はない。

「それを聞いて安心した・・・よし、エレベーターで最下層まで降りろ。いい物を用意してある」

「え?」

「それを使って、侵入するんだ」

「わ、分かりました。行ってきます!」

もう時間がない、そう思った俺達はエレベーターまで駆けていった。




エレベーターが最下層に着くと、ただ広い格納庫のような場所に会長がいた。

「会長!?」

「待っていたぜ」

会長の下に駆け寄ると、俺と目黒は何か手渡された。

それは・・・チップだった。

「これは?」

「とにかく入れてみろ」

言われるがままに俺はチップをリストにセットした。

そこからチップの情報を浮き出たスクリーン上に表示させると・・・

「め、『メガライダー』!?」

神田さんが愛用する『メガライダー』の情報が映し出されていた。

「ホバー機構は使えないが、推進装置は宇宙でも問題なく使える。これで一気に侵入するぞ」

「は、はい!・・・でも、新橋さんは?」

目黒がふと疑問を口にした。

確かに新橋には何も渡されていない。

「俺には『ブースターウィザード』がある、問題ない」

言われて納得した。

あのスピードなら、『メガライダー』相手にも問題なく追いつくことが可能だ。

すると、急に俺達がいる床が動き出した。

「え?」

「今カタパルトに移動している。今のうちにログインするんだ」

「はい、EB・・・ログイン!!」

俺達はほぼ同時にリストに『EB−ID』を当て、ログインを行った。

そしてすぐに先ほどもらったばかりの『メガライダー』を具現化し、跨った。

すると、もう引き返せないことを意味するかのように上の穴が塞がった。

それと同時に、前方に宇宙空間が広がっているのを確認した。

「行くぞ、2人とも」

会長も同じく『メガライダー』に跨った。

「「はい!」」

そして、俺達はメガライダーを発進させ、外に飛び出した。



『羅印さん、準備はいい?』

「はい。問題ありません」

甲板から、羅印がブリッジと連絡を取っていた。

そんな羅印の目の前には、1つの玉が浮かんでいた。

更にそれは、遠く存在する月から放たれた一本の線が繋がっていた。

すると、羅印にもブリッジの2人にも発進した3人の姿が確認された。

『今よ!』

その一言と同時に戦艦『ハンドレッド・フラワー』から無数のミサイルと光線が放たれ、弾幕を作った。

ミサイルも光線も、全ての戦艦に命中され、爆発によって動きを止めた。

だが、まだ日晴先生にもらむ先生にも狙われていなかった戦艦が、侵入しようとする3人に気付き、攻撃を仕掛けようとした。

だが、それを羅印は予測していた。

「いけーーー!!」

すると浮かんでいた玉から、巨大な光線が放たれた。

その大きさも威力も、『ジャンクション』や『ツインバスターライフル』の比ではなかった。

マイクロウェーブ蓄積型光線放射装置『ティファの祈り』。

それから放たれた光線は戦艦に直撃し、戦艦はバランスを大きく崩した。

その隙に3人は戦艦を通り過ぎ、本拠地の中へと侵入していった。

「頼んだぜ・・・」

羅印の呟きは、ただ巨大な宇宙に飲み込まれるかのように誰にも聞こえず、通り過ぎていった。



「こりゃまた、大勢いるな」

百花高校周辺、遥か上空。

大軍で押し寄せる異星人の軍勢には、戦闘機を含んだ空軍部隊も存在した。

その対処のため、『Gアーマー』に乗った照、坂東、田中が向かっていた。

「数にして1000・・・いや、2000はいるな」

「じゃあ、1人で大体700てところか」

敵の戦力を互いで確認しあい、揃えて感想を口に出した。

「楽勝だな」

言葉が揃ったと同時に、相手から大量のミサイルが3人目掛けて飛んできた。

「行くぞ!」

するとすぐに3人は散開。

ミサイルの追撃を振り切った後、3人の攻撃が開始された。

「暴れろ!」

まず、坂東の『戌:ガンバレル』の4つ全てが縦横無尽に射撃を開始した。

この弾幕を避けるのは容易ではなく、次々と異星人は撃墜されていった。

「行け!!」

次に『トロイダル状防楯内臓メガ粒子砲』を構えた田中が光線を次々と放った。

的確かつ素早い射撃は敵を次々と落としていった。

「邪魔だ!!!」

更に照が『『アムフォルタス・プラズマ収束ビーム砲』』のしなる様な光線を放った。

この光線に多くの異星人が巻き込まれ、落とされていった。

3人の絶対的な攻撃に加え、異星人達が攻撃を行っても当たることすらままならない。

もはや、3人の勝利は最後まで見なくても分かるものであった。



一方、その下の地上では

「ザマスザマスザマ〜〜ス!!」

「行きますよ〜!!」

迫り来る異星人の地上部隊との戦闘が行われていた。

行っていたのは迦樓美、翡翠、そして縫であった。

「アナタ達、もう少し静かに戦えないの!?」

縫が敵を1体『シュベルトゲベール』で両断しながら2人に忠告した。

「これがワタシ達の戦闘スタイルなの♪」

「それに、縫ちゃんに言われたくないですよ〜」

「何よ?ワタシがうるさいとでも・・・」

と話している間に、敵の1人が縫の背後に回りこみ、攻撃しようとした。

「・・・何しようとしてんのよ!!」

それにすぐ気付いた縫は振り返り、異星人の振り下ろそうとした腕をキレイに切り落とした。

更にその勢いのままに相手の肩から腰にかけて斬撃を放った。

異星人はキレイに斬り落とされ、そのまま倒れた。

「ほら、何も間違ってません」

今の縫の叫び声を聞いた翡翠が呟いた。

「う、うるさいわね!とっとと攻撃しなさいよ!!」

「言われなくても分かってますよ!」

そう言って翡翠は『禍ノ白矛』を射出。

自由自在に振り回し、敵を次々となぎ倒していった。

「まだまだ終わらないわよ〜♪」

迦樓美も『禍ノ生太刀』で次々と攻撃。

敵はエネルギーを吸い取られながら、倒されていった。

この3人の圧倒的な攻撃により、異星人達の侵攻は完全に止められていた。



「上手く侵入出来たんだな〜」

百花高校のグラウンド、そこに地響きを立てながら着地した人物がいた。

数時間前に撤退を余儀なくされた恵比寿である。

再び態勢を整え、再侵入を試みていた。

教師たちが全員出払い、今度は問題なく目的が達成できる、恵比寿はそう踏んでいた。

だが、すぐにそれは崩れ去ってしまった。

「どこが上手いんだ?」

恵比寿のすぐ近くに、大崎が立ちはだかったからだ。

「ん〜、よく分かったんだなぁ」

「こっちには優秀な指揮がいてな、ここからの侵入は簡単に予想してくれたよ」

「そうだったんだぁ、だけど・・・」

侵入を遮って余裕を見せている大崎に対し、恵比寿もまた余裕を見せながら武器を構えた。

腹部に3つ連なった砲、『トリプル・メガソニック砲』。

「君一人で止められるほど、甘くないんだな〜」

遅い口調からは結びつけるのが難しいタイミングで大崎に向け一声発射を行った。

「お前も甘えよ!」

その放たれた光線を紙一重で避けた大崎はそのまま恵比寿まで一直線に向かっていった。

「これでもくらえ!」

そして両腕の間合いに入り込み、拳を振り上げた。

その腕に付けられていたのは、いつもの『驕れる牙』ではなかった。

拳だけを覆い、その掌に砲が取り付けられていた。

その掌を恵比寿の胸に当て、砲からエネルギーを当てた。

「うわ〜」

その衝撃に大きく吹き飛ばされた恵比寿からは、あまりに危機感のない言葉が発せられた。

「チ、決められなかったか」

一撃で決めるつもりだった大崎は悔しさを顔に表した。

大崎が装備していたのは、至近距離放射型高出力破壊兵器『パルマ フィオキーナ・掌部ビーム砲』。

名が指す通り、ゼロ距離とも言える間合いで光線を放射して対象を破壊する武器である。

格闘戦を得意とする大崎には相性の良い武器だった。

「なかなかやるんだなぁ〜」

攻撃を受けた箇所に手を当てながら恵比寿は呟いた。

「お前こそ、よく耐えたな。だが次で決めてやる!」

大崎は再び構えた。

「次?次があると思ってるのかな〜?」

そんな大崎を疑問に思ったのか恵比寿は問いかけた。

「あ?あるに決まってるんだろ、俺が諦めない限りな!」

恵比寿の問いに対し、大崎はすかさず反論した。

「・・・けど、あの子達に次は無かったんだなぁ〜」

「何?」

口調を変えず声のトーンを急に落とした恵比寿に大崎は何かを感じ取った。

「世界中の子供たちが皆ボクたちと育つように努力したのに、それは無駄になったんだぁ〜」

「無駄?」

それを聞いて大崎は恵比寿の過去を思い出した。

かつて世界中をボランティアで飛び回ったという、優しい心の持ち主だったということを。

「だからこんな世界、間違っているんだなぁ〜」

「な、何言ってやがる!」

いきなり突拍子のないことを言い放つ恵比寿に大崎は動揺を見せた。

「力のないあの子たちが救えず、力のあるボク達だけが残る世界なんて、間違ってるんだなぁ〜」

「お前何言って・・・」

大崎は恵比寿の異変に気付き言葉を途中で止めた。

恵比寿のリストの液晶が、更に赤く輝きだしたからだ。

「や、やめろ!それ以上強化したらお前は・・・!」

「だからお前も・・・消えちゃうんだなぁ!」

言葉を出し終わると同時に、恵比寿は腹部の砲を再び大崎に向かって放ってきた。

「チッ!」

大崎は先ほどと同じように紙一重でその光線を回避した。

そして再び恵比寿に向かって駆け出そうとした瞬間、大崎の頬に衝撃が走った。

「な!?」

衝撃の正体は、普段発射の衝撃に備えるためのストッパーである恵比寿の右腕であった。

それを伸ばして殴ってきたのが大崎にはすぐ理解できた。

更にその直後、手の甲にある砲から大崎に光線が放たれた。

慌てて大崎はそれを掌から光線を放つことで跳ね返したが、その反動で飛ばされたことにより恵比寿との距離が広まった。

「まだ終わらないんだなぁ!」

恵比寿は攻撃の手を緩めず、両手の甲から光線を大崎に放ってきた。

最初の一発に比べ威力は落ちているが、それでも十分に大きい威力の光線。

それを連射されているため、大崎は回避を最優先で行動した。

(これじゃ近づけねえ!)

心の中で大崎が愚痴を呟いた。

大崎の『パルマ フィオキーナ・掌部ビーム砲』を当てるためには、恵比寿の懐に飛び込まなければならない。

しかし、目の前の光線を全て避けてそれを行うのは至難の業であった。

それどころか、避け続けるうちに恵比寿との距離を取らざるを得なかった。

「かかったんだなぁ」

恵比寿が再び腕を縮めると共に地面に固定させ、『トリプル・メガソニック砲』の発射体制に入った。

「『トリプル・メガソニック砲』、『JSAモード』起動なんだなぁ」

不敵な笑みを浮かべる恵比寿の宣言に応じ、砲に溜まるエネルギーは更に膨れ上がった。

大崎はその状況を見て、すぐに何が起きたか把握した。

恵比寿の狙いは大崎の反撃が出来ない距離まで後退させ、その瞬間に最大出力の光線を放つことであった。

しかも恵比寿は既にこの武器を幾度と使用していたため、タイミングを掴んでいた。

発射すれば避けることが出来ないタイミングを。

「やらせるか!」

その状況をすぐ察した大崎は迷わず行動に移した。

恵比寿に対し真っすぐ突進する、それが大崎の導き出した答えだ。

その行動自体は恵比寿も予測していた。

それでも避けきれない、その距離まで離したのだから無駄に終わると踏んでいた。

だが、ここで恵比寿の予想をしていないことが起きた。

突進する大崎があまりにも速かったのだ。

この速さを生み出したのは、大崎の背中に装着された大型のスラスターであった。

推進力向上大型スラスター『フォースシルエット』。

『パルマ フィオキーナ・掌部ビーム砲』の進化過程で生まれた武器である。

そこから生まれる速さに目を付けた大崎が最後まで取っていた切り札となっていた。

その速さに恵比寿は光線をすぐ放つという対応が出来なかった。

反応が間に合わなかったというのもあるが、一番の要因は砲にエネルギーが溜まりきっていないことであった。

その砲に向かって大崎は『パルマ フィオキーナ・掌部ビーム砲』を当てた。

「『パルマ フィオキーナ・掌部ビーム砲』、『JSAモード』起動!」

今度こそ一撃で決める、そう決意していた大崎は全力で砲を目がけて光線を放った。

通常通り放つだけでも高威力の光線に加え、恵比寿の砲には莫大なエネルギーが溜まっていた。

そこに攻撃を与えられたことにより、恵比寿の腹部で大爆発が起こった。

大崎もそれに多少巻き込まれたが、至近距離でそれを受けた恵比寿はその比でなく、立つことも出来なかった。

「も・・・もうだ、ダメなんだなぁ・・・」

恵比寿はそれだけ呟き、大崎の方を見た。

大崎は爆発によるダメージを受けているものの、戦闘可能な状態であった。

「な?次があっただろ?」

自身が受けているダメージを堪えながら大崎は拳を突き出して恵比寿に聞いた。

「ふ、普通だったら・・・そ、そんなう、上手くいかないんだなぁ」

強化の影響から、恵比寿の返答は途切れ途切れになっていた。

「そうかもな。けど俺は諦めなかったぜ」

「え?」

大崎の返答に恵比寿は疑問を返した。

「可能性がゼロじゃないんだったら、何度も繰り返すだけさ。一度でダメなら二度、それでもダメなら三度ってな」

「・・・君、よくバカて・・・言われないのかなぁ?」

恵比寿は直球の質問を大崎に返した。

「かもな。現に赤点は取るし、それで親にも友達にも迷惑はかけるさ、だけど、それが俺の信条だ」

自信満々に大崎は答えた。

「・・・こんなのに負けたボクは情けないんだなぁ〜」

それだけ言って恵比寿は安らかな顔で気を失った。

(・・・品川、1人倒したぜ。コイツどうする?)

気絶した恵比寿を確認し、大崎は『プライベートメッセージ』で品川に連絡を取った。

(上等だ、大崎。とりあえず、リストを外して懲罰室にでも閉じ込めておいてくれ)

(あそこか・・・了解)

百花高校の地下には、大きな問題を起こした生徒を一時的に閉じ込めておく『懲罰室』が存在する。

ほぼ使われることがないが、その存在は生徒達にも広く知られていた。

「さて、と・・・こいつを運ぶか」

ため息をつきながら大崎は恵比寿の巨体を再確認した。



無事要塞に侵入出来た俺たちは、内部を防衛する人型のサイボーグ達の襲撃に遭っていた。

だけど、わざわざそのために止まるわけにもいかない。

俺たちは『メガライダー』で進みながら練った作戦を実行した。

「邪魔だ!!」

まず俺が目の前のサイボーグに向け、『クジャク』を『スマッシャーモード』で撃った。

15本の光線は向かってくるサイボーグを尽く破壊していった。

だが、この光線を放った後は少し間が空いてしまう。

その間に攻撃されたらこちらの被害は必須だ。

そこで今度は

「シュート!」

目黒が『ピーコックスマッシャー』を放った。

今度は7本の光線がサイボーグたちを破壊していった。

そしてその後に出来た間を埋める形で俺が

「行けえ!」

再び『クジャク』から光線を放った。

この光景は歴史の授業で習った長篠の戦そのものだった。

絶え間なく撃たれる光線は俺達の阻むものを排除していった。

だが、この作戦には弱点があった。

それが目黒の放った光線で現れた。

この光線を無効化するフィールド搭載型がいたのだ。

こればかりは実体のある攻撃でどうにかしないといけない。

すると

「ここは任せろ」

言葉が聞こえると共に俺の横を新橋が高速で通り過ぎて行った。

手には蝶子先生から渡されたばかりの『山紫水明』が握られていた。

それを敵とすれ違いざまに振り下ろした。

俺の見た目では一振りしかしていない。

だが、攻撃を受けたサイボーグは胴体に両腕、両足をまるで輪切りにされたかのようにバラバラになった。

それも1体だけでない、近くにいた数体まとめてそのような状態にしていった。

「す、スゴい・・・」

素直にその感想を口にした。

今まで強化で暴走状態だった新橋からは想像できない、華麗な技だ。

「当然だ、在学中は一撃重視の神田に対し手数重視の新橋と言われていたんだからな」

後ろから追いかけている会長からそう言われて納得した。

神田さんのあの一撃にも匹敵する高速剣技なら、あれだけの芸当も頷ける。

「・・・分かれるぞ」

「え?」

会長の突然の言葉が何なのか一瞬分からなかったが、すぐに理解することが出来た。

前方で分かれ道が出来ていたからだ。

時間がない都合上、出来る限り早めに目的の管理装置を見つけ出さなくてはならない。

そのためには、戦力が多少削がれようとも分散するのが得策だ。

「俺達は右側へ行く。2人は左側へ行ってくれ」

「分かりました!」

会長と新橋、そして俺と目黒の組み合わせ、たしかにこの組み合わせが一番連携を組みやすい。

「目黒、十二支の許可を出しておく。自分の判断で使え」

「はい!」

この先、十二支を使わないことの方が考えにくい。

それを見越しての許可だろう。

「じゃあ、また後でな」

会長のこの言葉を聞き、俺達は分かれた。



「ここね・・・」

百花高校の体育館。

その入り口を、再侵入していた鶯谷が開けた。

中は照明がついておらず、月明りだけがそれになっていた。

「・・・こんなところに、例の物があるなんてね・・・」

暗い中の体育館を歩く鶯谷。

すると突然、体育館の中の照明が一斉に点灯した。

「え?」

急な現象に鶯谷が歩みを止めると、すぐに行動に移った。

上方から急降下して攻撃を仕掛けてくる大塚に対しての防御行動であった。

大塚は自分の背丈ほどの長さになる鎌で攻撃し、それを鶯谷はビームサーベルで受け止めていた。

大塚の鎌は、刺突・斬撃可能大型鎌『ニーズヘグ』。

その名のとおり、鎌としての斬撃だけでなく槍のような刺突用の刃を備わっている。

大塚が今まで使っていた『雷鳴の槍』の経験も活かすことの出来る武器であった。

その突撃を受け止められ、奇襲に失敗した大塚は一旦鶯谷から距離を取った。

「やはりこれで終わりとはいかないみたいね」

再び構えた大塚はそう言葉を発した。

「そりゃそうよ、それだけの修羅場、経験してきたんだから」

鶯谷の言葉と共に3体の『Bit・ラスヴェート』が現れた。

その手には鶯谷と同じビームサーベルが握られていた。

「あなたもその修羅場、経験してみる?」

4対1という状況を作り出し、鶯谷は大塚を脅してきた。

「・・・いいわよ、それで修羅場になるんだったらね」

構えも態度も崩さず、大塚は冷静に返答した。

「あら、余裕ね。でも・・・いつまで続くかしら」

鶯谷が言葉を出し切ると、1体の『Bit・ラスヴェート』が大塚に向かっていった。

それに続く形で残りの2体も後を追った。

まず先行した1体はそのビームサーベルを刺突の構えで大塚に攻撃を仕掛けてきた。

だが大塚はそこから回避行動に移らなかった。

一歩も動かず、そのまま手に持っていた『ニーズヘグ』を振り上げた。

ビームサーベルよりもリーチのあるその斬撃は『Bit・ラスヴェート』の腕を切り落とし、攻撃を無効化させた。

更にその振り上げた『ニーズヘグ』をすぐに構え直し、勢いのまだある『Bit・ラスヴェート』の胴体に突き刺した。

この攻撃が決定打となり、『Bit・ラスヴェート』はそのまま起動停止した。

その圧倒的な状況にも関わらず、大塚の後ろに回り込んだ残りの『Bit・ラスヴェート』2体がビームサーベルで攻撃を仕掛けてきた。

背後からの攻撃という危機的状況にも関わらず、大塚は冷静に振り返り、突き刺している『Bit・ラスヴェート』を盾にし、その攻撃を防いだ。

同士討ちとも言えるそれを確認した大塚はすぐに『ニーズヘグ』を抜き離れた。

攻撃を受けた『Bit・ラスヴェート』は爆発、残りの2体にもダメージを与えた。

「思ったよりもやるじゃない」

その様子を見ていた鶯谷は大塚を称賛した。

「この程度で終わると思っているの?」

『ニーズヘグ』を鶯谷へ向けながら大塚は答えた。

「思っている訳ないじゃない、大塚 聖さん?」

「・・・私のこと知ってるの?」

フルネームで名前を呼ばれ、大塚は警戒心を露わにした。

「戦うかもしれない相手のことを調べるのは当然のことよ。あなたのお家はもちろん、叔父さんのこともね」

「!?」

予期していなかった言葉に、大塚は驚きの表情を浮かべた。

「軍人だった大好きな叔父さんがEB用の武器の鹵獲作戦で殉職だなんて、それじゃ皆ここへの進学を反対するのも当然よね」

周りにほとんど話したことのない事情を話され、大塚は次第に怒りを露わにし始めた。

「触れちゃいけないことだったかしら?でもあなたのこと気になっていたから調べるのが楽しかったわよ?」

「楽しかった?」

自分の過去を洗いざらいに調べられた挙句、楽しいと言われた大塚は更に不機嫌さを表情に滲ませた。

「だってあなた、彼氏もいるんでしょ?しかも親に反対されているのに頑なに続けているって。・・・不愉快極まりないわ」

言葉を終えると鶯谷は表情に真剣さを全面に押し出すと同時に、リストの液晶がより赤く輝いた。

「え?」

大塚が言葉と状況を同時に読み取った時には、既に鶯谷が目の前まで迫ってきていた。

すぐに大塚は『ニーズヘグ』で鶯谷が振るってきたビームサーベルを防いだ。

この間合いでは不利と感じた大塚はすぐに後ろへ跳び鶯谷と距離を取った。

その直後、大塚の左腕に光線が直撃した。

「クッ!?」

慌てて確認すると、『Bit・ラスヴェート』がビームライフルを構えていた。

その後も発砲は続き、大塚に光線が次々と襲い掛かった。

すぐにその場を離れる形で回避行動に移ったが

「私を忘れてる?」

すぐに鶯谷の攻撃が大塚に襲い掛かってきた。

また先ほどと同じように間合いに飛び込まれるのは好ましくないと判断した大塚は

「ハッ!」

先に刺突の形で『ニーズヘグ』で仕掛けた。

その攻撃を鶯谷は難なくビームサーベルで防いだ。

「その接近戦の心得も、彼氏から教わったの?」

「・・・そうだと言ったらどうするの?」

否定せず、肯定と捉えて間違いない返答を大塚は口に出した。

「仲がいいのね・・・益々不愉快だわ」

返答を聞いた鶯谷は更に顔を険しくし、『ニーズヘグ』で取られていた距離を押す形で縮めていった。

「何が不愉快なの、あなたにそんなこと言われる筋合いはないはずよ」

先ほどからの理不尽な逆上に、大塚も我慢の限界が来ていた。

「あなたには分からないでしょ、苦労して結ばれたのにそれが簡単に壊されるこの苦痛を!」

「苦痛?」

それを言われて大塚は合点がいった。

鶯谷の過去、かつて恋人を失い、それにより大きな力を手に入れようと『E計画』に加担したことを。

そしてその間に距離は更に縮まり、大塚の刺突のための『ニーズヘグ』を前に突き出した構えは垂直にした守りの形へと変わっていた。

「私はそれが出来なかったのにあなたはそれが出来る・・・こんな世界おかしいに決まってるでしょ!」

目の前で自分の成し遂げられなかった幸せを掴もうとしている、それが鶯谷の逆上の理由であった。

それが強化の影響により、更に増幅されていた。

「・・・なるほど、それが理由ね」

「何勝手に納得してるの!!」

納得した大塚の発言で鶯谷の逆鱗に触れた。

そして空いていた左手にビームライフルを持ち、それを至近距離で大塚に発砲しようとした。

「!?」

それを大塚はすぐさま衝突させていた『ニーズヘグ』を引きその場を離れた。

だが大塚が安堵する余裕なく、今度は『Bit・ラスヴェート』による発砲が襲い掛かった。

それに加え、鶯谷からも発砲があり全て避けきるのは至難の業であった。

「これなら!」

避けきるのは難しいと判断した大塚は『ニーズヘグ』を風車のように回転させ、迫りくる光線を弾いた。

「いつまでも持つかしら?」

鶯谷から余裕の発言が出た。

大塚自身も感じていた、いつまでもこれで防ぎきるのは不可能だと。

現に何本かの光線は『ニーズヘグ』をすり抜けて大塚に当てていたからだ。

それを見て鶯谷は攻撃の手を更に強めた。

だが、何発放っても大塚が倒れる気配がなかった。

この状態を続けていれば時間が経てば倒れると思っていた鶯谷からしたら予想外であった。

「・・・やってくれるじゃない」

鶯谷はすぐに状況を把握した。

大塚は全ての攻撃を弾くことは出来ていなかったが、致命的なダメージを受ける攻撃だけは防ぐようにしていた。

そのことに気づいた鶯谷はすぐさまその対処した。

離れた場所で発砲させていた『Bit・ラスヴェート』を自分のもとに徐々に近づかせ、ある程度まとまったところで

「『Bit・ラスヴェート』、『JSAモード』起動!」

と宣言し、ビームライフルの砲口にエネルギーを溜めた。

この高威力の光線による弾幕ならば大塚も同じように防ぐことは出来ない、鶯谷はそう予想していた。

だが大塚の考えは別にあった。

「発射!」

手に『ニーズヘグ』しか持っていないはずの大塚からこの発言が放たれた直後、それぞれの肩越しに板状の物体が出現した。

そして瞬く間に、板の間にエネルギーが溜まり、すぐさま凄まじい光線が発射された。

発射された威力は鶯谷達から放たれていたビームライフルとは比べ物にならないものであった。

その光線は曲線を描くように放たれ、鶯谷達を一度に巻き込める弾道を突き進んだ。

それを可能としたのは誘導型高威力光線放射兵器『フレスベルグ』。

元々『ニーズヘグ』はこれの進化過程で生まれた武器であったが、大塚の戦い方から最後の最後まで温存していた。

そして、今までバラバラになっていた鶯谷と『Bit・ラスヴェート』が一か所にまとまったことで一度の攻撃で倒せると確信し使用したのであった。

「な!?」

この光景を目の当たりにして鶯谷はすぐさま回避行動に移ったものの、残った『Bit・ラスヴェート』は光線に巻き込まれ爆発した。

鶯谷は回避することは出来たものの、手に持っていたビームライフルは巻き込まれ、そのまま光線の餌食になった。

すぐさまビームサーベルを構え、次の攻撃に備えたが、大塚の攻撃はまた鶯谷の考えていた範囲ではなかった。

手に持っていた『ニーズヘグ』を大塚が回転をかけながら投げてきたからだ。

間合いをつめて接近してくると考えていた鶯谷は再び避けることが出来ず、ビームサーベルでの防御を強いられた。

それでも『ニーズヘグ』の刃を受け止め、それを上空に弾き飛ばした。

前や横に弾き飛ばせば、すぐに拾われ再び接近戦を可能とされる。

だが上空に飛ばせばそれが敵わず接近戦は圧倒的に優位となる。

鶯谷の中でそのように考えを巡らせていたが、前を向くとそこにいたはずの大塚はいなかった。

見失った大塚をすぐに見回した鶯谷だが、すぐ所在がわかった。

上空に吹き飛ばされた『ニーズヘグ』を手に取るため跳躍していたからだ。

そして邪魔されることなく再び『ニーズヘグ』を手にした大塚はそれを大きく振り上げた。

そのまま降りてきて斬撃を行う。

鶯谷はそう踏まえて再びビームサーベルを構え接近戦に持ち込もうと考えた。

だが、その予想は外れることになった。

「『フレスベルグ』、『JSAモード』起動!」

再び大塚は肩越しに備わっていた『フレスベルグ』にエネルギーを溜め始めた。

先ほどの一発で、これはビームサーベルで防ぐことはできないのは鶯谷も把握していた。

防御行動は諦め、すぐさまその場を離れ回避行動を取った。

大塚自身もその行動は予測していた。

この回避行動だけでなく、『ニーズヘグ』を上空に打ち上げることも一度は防御行動に移ることも含めて。

大塚はそこから鶯谷に対応出来る手段を考え出し、実行に移した。

その手段とは、『フレスベルグ』を鶯谷とは反対に向け発射することで、ブースターとして勢いを付けることであった。

予想していなかった行動に鶯谷は一瞬動きを止めてしまった。

更に鶯谷はその場から離れて大塚から目標を一度は外したものの、『フレスベルグ』の曲がる光線により避けた先に大塚が難なく向かうことが出来た。

そして勢いを付けた大塚はそのまま持っていた『ニーズヘグ』で斬りかかった。

咄嗟にビームサーベルで防御行動に入った鶯谷だったが、大塚の放った斬撃はそれを切り裂いた上で鶯谷に致命の一撃を与えた。

「あ・・・ぁ・・・」

それを受けた鶯谷はそのまま倒れこんだ。

「勝負あったわ、観念しなさい」

『ニーズヘグ』を鶯谷に突き付けながら大塚は宣告した。

「わ・・・私が・・・こんな小娘に・・・負けるなんて・・・」

自分が負けるとは思っていなかった鶯谷は悔しそうに言葉を絞り出した。

「でもあなたも強かったわよ、助言がなかったら負けていたのは私だったかもしれないわ」

「じょ・・・助言・・・また例の彼氏かしら・・・?」

悔しさの中に怒りも見せながら鶯谷は問うた。

「それもあるけど、親友たちのも大きかったわ」

「何ですって・・・?」

鶯谷は驚きの表情を見せた。

実際、大塚の行動に影響を大きく与えていたのは田町と品川であった。

射撃は最後まで取っておいた方がいいと言う田町の意見。

そして経験豊富な相手には奇抜な攻撃が有効という品川の意見。

これにより生まれた戦法が、鶯谷の発想では追いつけなかった攻撃に繋がった。

「あなたにもいたんじゃない、その恋人と同じ、もしくはそれ以上に存在が大きい人が」

「彼以上か・・・もしかしたらいたかもしれないけど・・・忘れたわ、そんなの」

表情に若干の笑みを浮かべながら鶯谷は返答した。

「さて、あなたには聞いておくことがあるわ」

「・・・何かしら、大したことは知らないわよ」

大塚からの質問に鶯谷は疑問を浮かべた。

「こっちはあの戦艦があなた達の目的だと思っていたわ、でもそれが発進した後もここに来た。

一体何が目的なの?」

「・・・あなた達、何も知らされてないのね」

「えぇ、こっちはあの戦艦ですらさっき知ったばかりなのよ。それで、何が目的なの?」

「・・・いいわ、教えてあげる」



「・・・新橋、気づいているか」

要塞内を『メガライダー』で突き進んでいる池袋は新橋にそう問いかけた。

「あぁ、明らかに上を目指している」

新橋も冷静に状況を見極めていた。

通路が上に繋がっている、それは目的である『ジェネシス』に近づいていることを意味していた。

「これなら最悪でも『ジェネシス』本体を攻撃することも可能だ」

「あぁ、確かにな」

相槌を打ちながら新橋は池袋に返答した。

「・・・と、そう簡単にはいかないみたいだな」

池袋がそう言いながら乗っている『メガライダー』を停めた。

新橋もそれに続いて進行を止めた。

「・・・今度はコレか」

前方を見た新橋がため息をつきながら言った。

そこには、2種類の敵が道を阻んでいた。

1つは目黒のコピー。

もう1つは、同じように新橋のコピーであった。

「俺のクローン、てわけか」

「正確にはDNAデータと戦闘データを用いて作られたサイボーグ、だな」

新橋に対して敵の補足を池袋は付け足した。

「そうだな、目白さんは戦闘データの不足でどうしても出来なかったみたいだが・・・」

「・・・お前と目黒なら必要な2つのデータが容易に手に入ったわけだ」

池袋はどこか悔しげにしている新橋の肩を叩きながら『メガライダー』を降り、『ヒートロッド』を構えた。

「とにかく、時間が惜しい、行くぞ!」

「あぁ!」

新橋も同じく『山紫水明』を構え、2人同時に敵の集団に突撃した。



「何だ、本当に屋上がガラ空きじゃねえか」

『Gアーマー』に乗りながら田端は百花高校を空から侵入を試みようとしていた。

「ったく、つまんねえな・・・ん?」

文句を口に出している田端の視界に、気に留めるものが入った。

屋上で一人佇む人影であった。

「やっぱり誰かいるじゃねえか、何がガラ空き・・・」

再び文句を言っている途中で、その人影から田端目がけて2つの光線が襲い掛かった。

「うわ!?」

慌てて旋回し、田端はそれを避けた。

「あぶねえ・・あ!!」

避けきって安心した直後、今度は多数のミサイルが向かってきていた。

「この!!」

田端はそれを避けつつ、それでも当たりそうなミサイルは『デファイアント』で斬り落とした。

「い・・・いい加減にしろ!!」

いきなりの猛攻を受けた田端は急いで態勢を立て直し、攻撃の大元である人影に真っすぐ向かった。

すると人影は田端と同じように『Gアーマー』に乗り、離陸した。

その正体は、この襲撃に備え待機していた田町であった。

「あん時の姉ちゃんか・・・だけど負けねえぞ!」

その田町に向かって田端は更に突進した。

「それはこっちのセリフだよ」

田町の返答と同時に、再び光線が放たれた。

腰の両側に添える形で構えられた2つの砲。

破壊力重視長距離2連光線砲『ケルベロス』。

そこから発射された光線は田端が警戒するのに十分な威力があった。

「こんなのくらうかよ!」

襲い掛かる光線を避けつつ、田端は更に田町へ接近した。

すると今度は田町の肩に備わった筒のような装備からミサイルが放たれた。

誘導ミサイル一斉発射兵器『ファイヤーフライ』。

『ケルベロス』の進化過程で生まれた武器を、田町は使い分けることで上手く扱っていた。

田端はその襲い掛かるミサイルを同じように避け、斬り落としながら自分の間合いに田町を入れた。

「これならどう?」

田町は再度『ケルベロス』で光線を放ったが、それも難なく田端に避けられた。

「甘えよ!これで終わりだ!」

そして田端が『デファイアント』を突き出そうとした。

「たしかに終わりよ」

突き出すために生まれた一瞬の隙を突き、田町は『ケルベロス』を田端の『Gアーマー』に放った。

この砲撃のために田町はわざと2つある砲の1つを撃たずに取っていた。

田町のその作戦にハマってしまった田端は足場である『Gアーマー』を失い、そのまま屋上へ落下した。

「く、くそぉ・・・」

ログインしていたため落下によるダメージは軽微であったが、撃たれたという精神的なダメージが田端を苦しめていた。

「勝負あったわ、認めなよ」

乗っていた『Gアーマー』から降り、田町は説得を始めた。

「ま、まだだ・・・!」

それに抵抗する田端が着けているリストの液晶が更に赤く輝き始めた。

「止めなよ、それ以上強化したらあなた自身が壊れるわ」

「いいんだよ、どうせ俺には何も残っちゃいないんだ!!」

憎しみを混じらせた瞳で田端は再び立ち上がろうとした。

「・・・・・」

それを止める形で田町は田端を抱きしめた。

「な・・・!?」

「辛かったんでしょ、ずっと自分のせいで何もかも失くしたって思って」

「そ、そんなこと・・・!」

「そんなに思いつめないで。じゃないと、お父さんもお母さんも悲しむわよ」

優しい声で田町は田端への説得を続けた。

「父さん・・・母さん・・・」

「だから、もう止めよ?あなたはまだ先があるんだから」

「あ・・・あ・・・」

田端の目から大粒の涙が流れ始めた。

「あなたは決して、一人じゃないんだから」

「あ・・・うわーーーー!」

田端は耐えきれず、そのまま泣き崩れた。

それを田町は泣き止むまで抱き続けた。



「上野君、これって・・・」

「あぁ、下っているよな」

会長と新橋と別れた後、俺たちは道なりに進んでいた。

途中で分かれ道もなく、前進か後退かの選択肢しかなかった。

それで今道は下っているという状況。

もし上に上がっているのなら、最悪あの『ジェネシス』本体を壊せば良かったが、下っているとなると・・・

「管制室、あると思う?」

俺の考えを代弁するかのように目黒に聞かれた。

もしこのまま進んで管制室が無かったら、完全に無駄骨だ。

「さあな、だけど今は進むしかない」

会長たちに何か進展があったら連絡が来るはずだ、それまでは進むしかない。

・・・だけど、さっきから妙だ。

「なあ、最後に敵が出てきたのはいつだ?」

「え?・・・そういえばさっきから遭ってないわね」

突入した直後にあれだけ道を塞いでいた敵がさっきから見当たらない。

だから実質上、俺たちは今相手に見向きもされていない状況だ。

それはつまり・・・

「この先、何もないんじゃ・・・?」

「・・・その可能性はあるわね」

俺も目黒も考えていたことが一致していた。

益々、今のこの行動に疑問が出てきた。

「と・・・とにかく今は進もう」

「そ、そうね」

今引き返したところで結局は同じこと。

それなら、今は僅かな可能性に懸けて進むしかない。

その決意をした直後、開けた場所に出た。

広さにして、体育館と同じくらいはある。

その広い空間に、ただ一つだけ俺の知っている物があった。



(第2陣、来るぞ、3人とも用意はいいか)

(はい、こっちもチャージ完了です)

百花高校の正門で、1年生の3人が準備をしていた。

(作戦通りにな、後は任せるぞ)

(はい!)

品川とのやり取りをまとめて引き受けた五反田はそう返事して『プライベートメッセージ』を終えた。

「・・・見えましたよ」

代々木の一言と共に渋谷と五反田の2人が同じ方向を見ると、多数の飛行物体が向かってきていた。

「ったく、先輩たちは幹部たちとやり合えているのに、何でボクたちは雑魚の片づけなわけ」

渋谷が不満を口に出した。

「仕方ないですよ、僕たちは結局『神の領域』に達することが出来なかったんですから」

五反田が渋谷をそう言ってなだめた。

上野達と違い経験が乏しい1年生の3人は、『NT7』に到達するのが精いっぱいであった。

「仕方ないって、アンタはそれで納得してるの?」

言われた渋谷はそれに食ってかかった。

「僕的にはその方が良いですよ、先輩たちみたいに体張って前に立つより、こうやって後ろから支援する方が向いてますから」

五反田は返答しながら、自分自身の武器である巨大な砲を構えた。

その砲は五反田自身の背丈よりも遥かに長く、とてもその場から持って動けるものではなかった。

固定型マイクロウェーブ放射兵器『サテライトランチャー』。

月からのエネルギーを供給する必要があるこの武器は、夜間戦闘に最適であった。

「目標が射程内に入りました、行きます!」

その掛け声と共に、五反田は砲の引き金を絞った。

砲口からは『ジャンクション』や『砕かれた世界』から放たれる物とは比にならないほどの光線が放たれた。

向かってきていた敵達は多くがその光線に巻き込まれ爆発、墜落していった。

結果として敵の3割は光線の餌食となった。

それを受けた敵達は、予め品川が3人に伝えていたのと同じ行動を取った。

残った敵達が一斉に3人のいる方へ進路を取ってきたからだ。

「・・・これから再びチャージに入ります、2人ともその間お願いします」

五反田が2人にそう告げると、敵からの射撃が次々と放たれた。

狙いはすべて『サテライトランチャー』と、それを握る五反田。

それに対し五反田は逃げも隠れもせず、それをただ見ていた。

その射撃が、エネルギーによるバリアで阻止されることが分かっていたからであった。

バリアの主は、近くに立っていた代々木の物であった。

十二支のように遠隔操作出来る武器であると共に、バリアを発生することが可能である武器。

遠隔操作型攻防一体射撃兵器『フィンファンネル』。

「私も、相手を倒すよりも仲間を守ることの方が合ってます、だから問題ありません!」

今まで『自由の代償』で攻撃よりも防御に重点を置いていた代々木がそう答えた。

その間にも『フィンファンネル』で防御しつつ、余ったそれで反撃の光線を放っていった。

放った光線で敵は次々と倒されていくが、それでは抑えきれないほど敵の猛攻も激しかった。

「ならボクは、目の前の敵を倒していくだけ!」

そう言って渋谷は代々木の光線を掻い潜った敵に向かって駆け出した。

渋谷の両手には、拳全体を覆った武器が装備されていた。

「フィールド展開!」

その掛け声と共に、両手の拳が光の膜で覆われた。

それは上野が使っていた『両腕部Iフィールド発生器』と同じ様相であった。

だがこのフィールドは、上野のそれとはまた違ったものであった。

上野の物は元々防御用の物を無理矢理攻撃に使っていた。

それに対し、渋谷のは最初から攻撃のために使うことが想定されていた。

攻撃転換型フィールド発生装置『Iフィールド・バンカー』。

そしてフィールドはそれを表すかのように、形を拳を覆うようにしていた筒状から鋭利な刃のように変化した。

その刃で渋谷はまず一番近くにいた敵を切り裂いた。

刃の切れ味は鋭く、敵をまるでリンゴを切るかのように真っ二つにした。

渋谷はそれだけでは止まらず、襲い掛かってくる敵を次々と同じように斬り続けた。

元々格闘戦を得意としている渋谷であったが、リーチの短い刃ならそれと似たような感覚で攻撃することが可能であった。

この2人の攻撃により敵の猛攻は削がれつつあったが、それに一旦ブレーキがかかった。

倒し続けていた敵よりも一回り大きいロボットが来たからだ。

代々木がまず射撃で応戦したが、動きを止めることが出来なかった。

それどころか、ロボットは怯むことなく進撃してきた。

次第に距離を詰めていき、ついに渋谷を間合いに入れた。

「渋谷さん!」

「分かってる!」

代々木の掛け声に応えた渋谷は襲い掛かるロボット相手に構え直した。

「フィールド収束!」

その宣言と共に渋谷の右手は強く輝き始めた。

ロボットはそんな渋谷に対してまずビームによる弾丸を無数に放った。

渋谷は左手に纏ったフィールドでそれを弾きながら突進し始めた。

この攻撃が無駄だと分かったロボットはすぐに射撃を止め、渋谷に拳を振るってきた。

そのパンチを渋谷は紙一重で避け、右手を振りかぶった。

「必殺!『シャイニングフィンガー』!!」

渋谷の右手から放たれた一撃はロボットの胴体を衝撃で貫き、更に吹き飛びながら爆発した。

この日のために渋谷は上野と大崎から『シャイニングフィンガー』を教わり、練習していた。

その成果がこうして表れていた。

「チャージ完了!渋谷さん、射線上から離れてください!」

「了解!」

五反田の呼びかけに渋谷はすぐさまその場を離れた。

そしてそれを確認した五反田は第二波を放った。



「ハッ!」

クローン達と交戦していた池袋と新橋はそれに終止符を打とうとしていた。

新橋は『山紫水明』で自分自身のクローンを斬り、池袋は『ヒートロッド』で目黒のクローンを突き刺した。

共に再起不能になったことを確認したところで、残っているのは池袋と新橋のみとなった。

「よし、ひと段落だ・・・」

池袋が新橋に声をかけようとしたところで、地面に何かが突き刺さる音が響き渡った。

息切れする新橋が『山紫水明』を杖のようにして体を支えていたからだ。

「新橋、お前やっぱり強化の影響が・・・」

長らく強化を受けていた新橋には、強化の無効化が出来たとはいえ、それまでの負担の蓄積が確実に体を蝕んでいた。

「き・・・気にするな、それよりも・・・やることがあるだろ?」

「・・・あぁ、そうだな」

会話をしながら2人の視線が一致した。

先の戦闘で偶然空いた天井から、目的としていた『ジェネシス』の姿が確認出来たからだ。

「この先管制室もなさそうだし、ここで破壊するしかなさそうだな」

進路先に通路がないことを確認した池袋はそう話した。

「あぁ・・・ちょっと手間取りそうだがな・・・」

間近で見る『ジェネシス』は、2人の想像を遥かに超えた大きさであった。

「そうだな、だけど出来なくはない」

池袋は『ヒートロッド』を構え直し、破壊を行おうとした。

「たしかに、これを使えば簡単だ・・・ウェポンチェンジ」

新橋が武器を大型の銃に変えた。

「な、何を・・・?」

「『ツインバスターライフル』、『ジェノサイドモード』起動!」

その宣言と共に銃口に莫大なエネルギーが溜まり始め、新橋はそれを真上にそびえる『ジェネシス』に向けた。

新橋が使っている『ツインバスターライフル』、それは暴走型と呼ばれる『ジェノサイドモード』が可能な武器であった。

「や、止めろ!それを放ったらお前自身タダじゃ済まないぞ!」

池袋が慌ててそれを止めようとした。

ただでさえ疲弊している新橋に、放っただけで体への負担が大幅にかかる『ジェノサイドモード』は、自殺行為そのものであった。

「いいんだよ・・・さっきからずっと考えていたんだ・・・」

「え?」

「今まで俺が犯してきた罪、それをどうやって償えるか・・・俺の命一つで地球が救われるなら、それに越したことはない」

話す新橋の口元には微笑ともとれる表情が浮かばれた。

「そ、そんなわけあるか!いいから止めろ!」

「これで・・・目白さんに顔向け出来る・・・」

新橋はその一言を放ったことで決意出来たのか、引き金を絞ろうとした。

その時であった。

「全く、相変わらず無茶するんだから」



百花高校の正門で、神田はただ立って待っていた。

後ろでは銃声や爆発音が入り交じり、戦いの真っ最中ということがよく分かっていた。

それでも神田は動かず、仲間たちを信頼してその場に留まっていた。

そして、神田が待っていた人物が現れた。

立派なアゴヒゲを蓄えた老人、巣鴨であった。

「初めまして・・・だな」

それを確認した神田がまず話しかけた。

「ほう、よくわしが来ることが分かったのう」

話しかけられた巣鴨は立ち止まり、そう返答した。

「ウチの優秀な指揮官の予測だよ。今来ている3人はあくまで囮、本命はその間に正面から来るってな」

神田は冷静にそう答えた。

実際、品川からそう指示を受けて神田は待機していた。

「なるほど・・・しかし、君1人で私を止められるかのう」

アゴヒゲをいじりながら巣鴨は疑問を浮かべた。

「止めて見せるさ、そのために俺がここを任されたんだからな」

『蒼天の剣』を構えて、神田は戦闘態勢に入った。

「・・・そんな武器でわしを止められると思っておるのか」

甘く見られているとも取れる神田の行動に、巣鴨は不機嫌さを見せた。

「そう思われたくなければ、さっさと本気出してみろ」

そう一言放つと同時に、神田は巣鴨へと駆け出し、斬りかかった。

神田の渾身の一撃、それを巣鴨は片手で受け止めた。

「・・・なるほど、言うだけのことはあるのう」

空いているもう片方の手でアゴヒゲをいじり続けながら巣鴨は感想を述べた。

「そう思うんだったら、早く本気を出してみろ」

神田はまだ余裕を見せている巣鴨を挑発した。

「・・・ふむ、まあいいだろう。後悔するんでないぞ?」

一瞬考え込んだ巣鴨の一言と同時に、神田との間に眩い光が現れた。

異常を感じた神田はすぐさま後ろに飛び退き、着地と同時に身構えた。

光は次第に収まり、そこに姿を現したのは黒い体毛と立派な角を蓄えた牛であった。

それを見た神田は不思議に思わず冷静に判断した。

「なるほど・・・十二支か」

神田自身にその知識があったおかげで、動揺することはなかった。

「ほう、知っておったか。ならば・・・行かせてもらうぞ」

神田の反応を見た巣鴨は手で動かす合図をすると、牛は光になり分散された。

その直後、高速で襲い掛かる物体を神田は『蒼天の剣』で防御した。

それはビームの刃を出した小型の飛行物体。

同じ物体が神田の周りを複数飛び回っていた。

十二支系光学刃射出兵器『丑:突撃ビーム機動砲』。

「どうした?お望み通り本気だしてやったぞ?」

巣鴨は続けて余裕を見せていた。

神田に襲い掛かる『丑:突撃ビーム機動砲』も攻撃の手を止めなかった。

それに対し神田も防戦を強いられた。

「チッ!」

このままではやられるだけ、そう踏んだ神田は再び巣鴨へ向かって駆け出した。

「無駄じゃ」

巣鴨は慌てることなく神田を観察していた。

落ち着いて神田の後ろから更に早い速度で飛ぶ『丑:突撃ビーム機動砲』で刺そうとしていたからだ。

神田が巣鴨を攻撃の間合いに入る前にそれが出来る、そう巣鴨は踏んでいた。

そしてまさに刺さろうとした瞬間、神田は振り返る形で体を回転させ『丑:突撃ビーム機動砲』を『蒼天の剣』で弾き飛ばした。

後ろから攻撃するという行動自体、神田は予測できていた。

そしてその回転の勢いのまま巣鴨へと斬りかかった。

先ほどと何も変わらない、巣鴨はそう考え再び手で攻撃を受け止めようとした。

だが攻撃が巣鴨の手に触れようとした瞬間、違和感を感じた巣鴨はその場をすぐ飛び離れた。

空を切った神田の攻撃は、巣鴨が立っていた場所を粉々に砕くほどの衝撃を走らせた。

「危なかったわい、お主も策士じゃのう」

「それはどうも」

軽いやり取りを二人は交わした。

その神田の手には、『蒼天の剣』ではない剣が握られていた。

大振りのそれとは違い、細身の刀身である日本刀のような形であった。

EB用最終破壊刀『菊一文字』。

かつて神田が文化祭で手に入れ、あまりの性能に今の今まで使うことを戒めていた武器であった。

その名と結果が現れるように、巣鴨が少しでも触れていたら戦いが終わっていたであろう威力を目の前で示した。

しかし、その一撃を放つためには体への負担が『蒼天の剣』の倍以上かかる欠点があった。

極力一撃で決めたい、そう考えた神田は攻撃を仕掛けている間に武器を変えていた。

「じゃが、次はあるのかのう」

それを今の攻撃で全て察した巣鴨は神田にそう問いかけた。

「やってみせるさ」

返答しながら神田は構え直した。

「ふむ・・・ならば私も本気を出そう」

「何?」

巣鴨の一言に神田が反応した直後、再度『丑:突撃ビーム機動砲』が神田に襲い掛かってきた。

その場を離れる形でそれを避けたが、続けて別のが神田に突進してきた。

この攻撃の連続に神田は避けることに専念するしかなかった。

(強化か・・・いや違う!)

急な猛襲の要因を結果を一度は解析したが、すぐさま否定した。

強化であったら現れるはずの、リストの赤い液晶が見られなかったからだ。

そこから改めて神田は原因を考え、そしてすぐに結論に達した。

「・・・『覚醒』か」

出した答えを神田は口に出した。

「ほう、よく分かったのう、その通りじゃ」

感心しながら巣鴨は応えた。

「聞いてた話と違うな、お前たちは強化による成果を試す組織じゃなかったのか?」

「・・・よく調べておるの」

神田の問いかけに巣鴨は肯定した。

「だったら何でそれを使わない?」

「簡単じゃ、ワシの体は『強化』にはもう耐えられん、『覚醒』の適合者で助かったわい」

「・・・『覚醒』だって体への負担がないわけじゃないぞ」

適合者である神田は実体験からそう答えた。

多少なりとも、使用後に疲労感を感じる、それが神田には分かっていた。

「そうじゃの、じゃが『強化』のこの先を見届けるにはこれぐらいなら耐えれるぞ」

「この先?」

「・・・『強化』の理論を最初に考えたのはワシじゃ」

「!?」

巣鴨の告白に神田は驚きの表情を見せた。

「それを理由に軍を追い出されたがの、ワシは信じていた・・・これこそが世界を救うカギだと」

「カギ?」

「そうじゃ、これを応用すればどんな脅威からも対応できる、それが可能になる理論のがこの『強化』じゃ」

「だけど、お前らが異星人の襲撃を仕組んでいるのはお前らなんだろ?矛盾しているぞ」

巣鴨の説明に納得できない神田はそう反論した。

「・・・勘違いしているようじゃが、ワシはそんなことしておらんぞ」

「え?」

「異星人の誘致は泉岳寺と駒込が独断でやったことじゃ、ワシは『強化』の研究しかしておらん」

「だったら・・・何でそれを止めない!」

あまりの身勝手さに神田は怒りを露わにした。

「ワシは研究させてもらえば何も文句はない、そのためにはこの組織に従うだけじゃ」

「・・・ただのマッドサイエンティスト、てわけか」

「・・・少しは年寄りに敬意を見せんかい」

この一言と同時に、神田への攻撃が更に激しさを増した。

前後上下左右とあらゆる方向からの攻撃に神田は反撃に出る余裕はなかった。

「・・・なら見せてやるよ、その敬意とやらを」

巣鴨をにらみつけて一言放つと同時に、神田は『覚醒』した。

「ほう、お主も適合者じゃったか・・・じゃが結果は変わらん」

『覚醒』した神田を見ても巣鴨は冷静でいた。

それを表すかのように、『丑:突撃ビーム機動砲』は変わらず高速で飛び回り、神田に襲い掛かった。

神田はそれに対し、回避行動を取り続けた。

だが、『覚醒』する前とはその方法が違った。

今までその場を離れる形で避けていたのを、最低限体を反らすだけで避ける手段に変えたのだった。

上半身を狙う攻撃には胴体を捻らせ、下半身を狙う攻撃には足をずらすことで対応した。

それが何十、何百と繰り返し、神田に攻撃が当たる気配はほぼなかった。

「・・・やはり適合者相手じゃ簡単にはいかんみたいじゃな、ならば」

このままでは埒が明かない、そう踏んだ巣鴨は作戦を変更した。

「『丑:突撃ビーム機動砲』、『JSAモード』起動」

巣鴨の宣言と共に、『丑:突撃ビーム機動砲』は更に速度を上げた。

その速さは尋常でなく、神田の目に残像が残るほどであった。

「クッ」

神田はこの状況に歯を噛みしめながらも、回避行動を取り続けた。

攻撃速度を上げた『丑:突撃ビーム機動砲』に対し、神田は変わることなく攻撃を避け続けた。

そして淡々と狙っていた、攻撃を行える一瞬のタイミングを。

これを繰り返していればそれが絶対に訪れる、神田はそう確信していた。

その瞬間は『丑:突撃ビーム機動砲』の攻撃が一瞬止む形ですぐにやってきた。

それを察した神田は『菊一文字』を振り上げ、振り下ろすことにより衝撃波を飛ばそうとした。

だがこれは、巣鴨による罠であった。

一瞬攻撃が止まったのは、神田を『丑:突撃ビーム機動砲』による包囲が完成したからであった。

それが一斉に襲い掛かれば、『覚醒』の有無に関わらず避けるのは不可能に違いなかった。

そして神田が『菊一文字』を振り上げるのと同時に、全ての『丑:突撃ビーム機動砲』は神田へ向かって突進した。

まず1つ目が神田の背中に突き刺さり、その後腕、足、胴と全身に攻撃を加えた。

いくら『神の領域』に達していても、これだけの攻撃を受ければ致命傷は免れなかった。

この結果は、『覚醒』している巣鴨には既に予測出来ていた結果であった。

そしてこの後神田は膝を地面に着いて崩れ落ちるところまで見えていた。

だがそれが視界に入ると考えていた瞬間、巣鴨の目には違う光景が入ってきた。

神田の姿が霧のように一瞬で消え、刺さっていた『丑:突撃ビーム機動砲』も空を切り、別の方向へ飛んでいく光景であった。

予想外の光景に、今度は巣鴨の思考が一瞬停止した。

そしてそれが再開されてから疑問が浮かんだ。

「・・・どこじゃ!?」

消えてしまった神田の行方、それが巣鴨には分からなかった。

この残像は、『菊一文字』に備わった能力の一つであり、渋谷が使う『刹那の夢』とそれと同じ物であった。

『覚醒』で行動を先読みする巣鴨には、これを使って隙を作るしかない。

それが神田の導き出した答えであった。

残像を使いその場を離れた神田は、巣鴨が隙を作る瞬間を待っていた。

『メガライダー』で巣鴨の頭上を滞空し、『菊一文字』を『JSAモード』で巨大化させて待機させた状態で。

通常だったらすぐ気づかれる状況であったが、あまりにも避け続ける神田に当てることを意識した巣鴨にはそれが出来なかった。

そして残像に気づき隙を見せたその瞬間に、神田は飛び降りた。

同時に巨大化させた『菊一文字』を振り下ろした。

あまりにも巨大な動きと物体に巣鴨は流石に気づいたが、対応することは出来なかった。

為すすべなくそれを受けてしまった巣鴨は、『菊一文字』と地面に挟まれる形で倒れた。

「・・・勝負あったな」

着地し、その様子を見た神田から言葉が発せられた。

「・・・『覚醒』の裏をかくとは、見事じゃ」

弱っているところは見せないが、指先一つ動かさず巣鴨は呟いた。

「アンタを倒すには、『覚醒』に頼らせて隙を作るしかなかった。これ以外に倒す方法はなかったよ」

一息つき、『菊一文字』を元の大きさに戻しながら神田は返した。

「そうか・・・ワシも焼きが回ったものじゃ・・・さぁ、煮るなり焼くなり好きにするが良い」

「あぁ・・・だが、その前に聞きたいことがある」



「・・・アイツは・・・」

俺と目黒の目の前に現れたのは、先月のバーチャル空間で遭遇した男・・・泉岳寺であった。

「来たのはお前たちの方か・・・」

仁王立ちの姿勢を崩さないまま泉岳寺は口を開いた。

俺はこの状況から泉岳寺がここにいる意味を察した。

「・・・そこが管制室か」

組織のトップにいる人物が一人だけそこにいる、それはこの要塞の重要な部分があるからだ。

「あぁ、確かにその通りだ。戦艦の火力以外でジェネシスを簡単に破壊されるとは思えないからな。

ここを狙ってくることは予想出来ていた・・・もう止められないがな」

言葉を出し切ると同時に戦いの姿勢に移してきた。

それに応えるように俺と目黒も『メガライダー』を降り、構えた。

「10分後には『ジェネシス』のチャージが完了する、それまでに俺を止められると思うか?」

言葉の中に威圧感のある質問を俺たちに浴びせてきた。

「止めてやるさ・・・それが俺たちの目的だ!」

「その通りです!」

すぐに終わらせないといけない、そう考えた俺は『覚醒』を、目黒は『天使』を発動させた。

いくら奴が組織のトップだからといって、『神の領域』に達している俺たち二人を、それも『覚醒』と『天使』相手では止められないはずだ。

「無駄だ」

だがこの考えは泉岳寺が次に取った行動で打ち消されることになった。

その行動は、泉岳寺が手に纏った『ワールズエンドフラッシュ』をこちらに向け、そこから閃光を発することであった。

あの目くらまし、そう捉えていたが、すぐにそれを否定することになった。

発動させたばかりの『覚醒』の感覚が急に消えたからだ。

「な・・・!?」

一瞬何が起きたか分からなかったが、目黒を見て効果が一目瞭然で分かった。

『天使』の象徴とも言える光り輝く翼が消えていたからだ。

「これは・・・」

「どういうこと?」

俺と目黒揃って起きた現象を理解することが出来なかった。

「これが『ワールズエンドフラッシュ』の本当の力だ」

「何?」

「こいつはただ『遠雷』の発展形として作られたんじゃない、『覚醒』と『天使』の無力化も備わっている。

駒込はそれを使いこなせていなかった、それだけだ」

それを聞き、今置かれている状況がどれほど危険な状況かすぐに察した。

いくら戦力的に2対1とはいえ、相手は戦場での経験が豊富な上に『強化』も出来る。

こっちの不利は目に見えていた。

「さぁ、始めるぞ」

こっちの対抗策がまとまらないうちに泉岳寺が襲い掛かってきた。

「クッ」

こうなった以上、とにかくやるしかない。

「目黒!」

「う、うん!」

お互い声を掛け合った上で俺たちは迎え撃った。



「品川!」

指揮室の扉を力強く開けながら神田は声を発した。

「待ってたぜ、こっちも情報収集が完了した」

座っている椅子を回しながら品川は微笑んだ。

「助かったぜ。で、そいつはどこにある?」

「特定したわけじゃないが、『ハンドレットフラワー』があった格納庫の更に地下だ」

「・・・なるほど、それは納得だ」

品川の回答に神田はただ頷いた。

「けど、あんなの俺たちだけじゃどうしようもないぜ。どうするつもりだ?」

「安心しろ、ツテに頼んである」

「ツテ?」

「レーダー見てみろ、もう近づいてきてるだろ?」

疑問を浮かべる品川に、神田は目の前のモニターを指さしながら指摘した。

「え・・・こ、これは!?」

「さぁ、俺たちも反撃だ」



「・・・・・」

あまりの力の差に、俺も目黒も声が出なかった。

こっちの行動をまるで2手3手先を読んでいるかのように読まれ、更に攻撃される。

泉岳寺はほぼ無傷なのに対し、俺と目黒は既に傷だらけであった。

「残り5分切ったぞ、もう終わりか?」

泉岳寺からの言葉に焦りを感じるが、対抗手段が思いつかない。

せめて『覚醒』出来ればいいのだが、それも出来ない今は何をしても無駄に感じる。

目黒からも何も発信されないところを見ると、俺と同じことを考えているのだろう

「来ないか・・・ならば俺が終わらせてやる」

こっちが混乱している間に、泉岳寺が駆け出す形で仕掛けてきた。

「クッ!」

とにかく迎撃しないといけない、俺は『ネバーエンディングフューチャー』を二挺拳銃に変え、可能な限り引き金を絞った。

だが、その射撃を全て紙一重で避けられ、ダメージを与えるどころか向かってくる速度を削ぐことも出来なかった。

そんな俺を助けるかのように、目黒も泉岳寺の横から十二支による射撃を行ったが、それも見透かされたかのように避けられた。

そして遂に泉岳寺が俺を接近戦の間合いに捉え、その拳を振るってきた。

俺はそれに対応すべく、すぐに左の拳銃を盾に変え、その拳を防いだ。

「ほぅ」

俺の行動に泉岳寺は一瞬感心したみたいだ。

さっきからこのパターンでやられている、それを先読みするぐらい俺にも出来る。

そしてこの一瞬の隙に、俺は変えずにいた右の拳銃を泉岳寺に向けて発砲した。

目黒もそれに乗じて更に十二支で光線を発射した。

全てというわけにはいかなかったが、何発か当たり、泉岳寺はすぐさまその場を飛び離れた。

(カウンター戦法、いける・・・!)

先輩たちからの猛特訓で会得した、相手の攻撃を見切った上でのカウンター戦法。

格上の泉岳寺相手にも通用するのが今ので分かった。

次は銃による発砲でなく、『シャイニングフィンガー』で確実に決める。

俺のその考えは、泉岳寺の次の行動で打ち消されることになった。

離れた場所から掌をこちらに向けて、そこから無数の光弾を放ってきたからだ。

俺はそのまま盾を、目黒は

「アル!」

『アルミューレ・リュミエール』を出し、防御した。

これでダメージは軽減出来たが、いつまでもこのままでは持たないし、そもそも反撃も出来ない。

このままでは時間だけが過ぎていく・・・。

(・・・残り4分か)

チラッと時計を見て残り時間を確認したが、それで状況が好転するわけではない。

早くこいつをどうにかしなければ・・・!

(上野君、目黒君、聞こえるか?)

(会長?)

急に会長からの『プライベートメッセージ』が頭の中に聞こえてきた。

(時間がないから簡潔に話すぞ、今泉岳寺と交戦中だね?それならあと3分だけ止めてくれ)

(3分?)

(詳しいことは今は話している暇がない、とにかく3分だけどうにかしてくれ)

(わ、分かりました)

とにかく時間を稼げばいい、簡単に言われたが実際はそうではない。

倒すという選択肢をとらなくていいだけ軽くなったが、それでも荷が重い。

『覚醒』出来ればいい手段が思いつくかもしれないが、今はそれにも頼れない。

頭の中で思考を張り巡らせていると、1つ思いついた。

(・・・目黒、1分だけ時間を稼いでくれ、アレをやる)

(え、アレって・・・大丈夫なの?)

(あぁ、それしか手段がない)

(・・・分かった、任せるね)

目黒はそう了承した後、すぐに

「ウェポンチェンジ!」

武器を音無先生から受け取った『フェザーファンネル』に変え、更に

「『フェザーファンネル』、『JSAモード』起動!」

と宣言したと同時に、大量の羽が出現した。

そしてすぐに目黒の元から飛び立ち、泉岳寺を中心に円を描くように取り囲んだ。

これにより泉岳寺から放たれる光弾は遮られ、俺たちへの攻撃が止んだ。

その隙に俺は持っていた盾と銃を光の状態に戻し、

「『ネバーエンディング・フューチャー』、『JSAモード』起動!」

考えていた作戦の準備に入った。

実行にはただ『JSAモード』を起動して攻撃するのに比べて時間がかかる作戦だ、タイマンじゃまず出来ない。

でも今は目黒と共闘している状態だ、実行するための条件は整っている。

あの羽も俺は目の前でその力を見ている。

以前、大軍の異星人を一度に葬り去った量だ、そう簡単に打ち破ることは出来ないはず。

そう考えていると、徐々に飛び回っている羽と羽の間から泉岳寺の姿が見え始めた。

やはり泉岳寺の実力は俺たちの想像以上だ。

だけどこっちの準備完了まで残り30秒は切った。

泉岳寺がこの羽を打ち破るのが先か、俺の準備が整うのが先か。

おそらく、このまま羽で囲い続けても俺の希望の時間は稼げないだろう。

羽を操っている目黒も同じ考えのはずだ。

だから俺は、目黒の決心を後押しすることにした。

(残り10秒!)

そう『プライベートメッセージ』を目黒に送ったことで、すぐに意図を読み取ってくれた。

残っていた羽が順次泉岳寺に襲い掛かったからだ。

今まで光弾を放ち続けて突破を試みていた泉岳寺も、これにはさすがに防御行動を取らざるを得なかった。

光弾で羽を迎撃する、もしくはその場を離れる。

このどちらかを行うことで攻撃を凌いでいたが、その間に俺の準備が完了した。

「行くぞ!」

そして俺は膨れ上がった光を重ね合わせて巨大化させ、泉岳寺の上へと放った。

放たれた光は泉岳寺の頭上高くに到達すると、9つに分散した。

分散した光は泉岳寺を取り囲むように降り注ぎ、地面に到達すると同時に形を変えた。

形は全て違った。

剣、爪、槍、拳護具、ミサイル、盾、ライフル銃、長距離砲、拡散砲。

そう、これらは全て生徒会全員が使う運命系の武器を模した物だ。

俺は泉岳寺に向かいながら、右手に拳護具、左手に爪を装着して泉岳寺に仕掛けた。

この状況をすぐに理解出来ず動きを止めていた泉岳寺は俺の右ストレートを避けれず、咄嗟に腕でガードした。

俺はすぐさま左手の爪で切り裂いたが、これは避けられた。

だけど、俺も手を緩めずこの両手で攻撃を仕掛け続けた。

泉岳寺が状況を把握しきれていない今がチャンスだからだ。

現に、今まで当たらなかった攻撃も決定打にこそならなかったが当たり始めていた。

「ち、調子に乗るな!」

この状況に苛ついた泉岳寺が『ワールズエンドフラッシュ』を纏った拳で反撃してきた。

やはり経験が違うからか、俺に反撃をさせないタイミングと間合いからの攻撃であった。

やっと攻撃が通じ始めたこの格闘戦もここまで。

そう見切りをつけ、俺は回避行動を取った。

だが避けるのは横ではない。

泉岳寺の間合いに入り込む形で飛び込んだ。

狙いがずれ泉岳寺の拳は空を切り、俺はその勢いのまま泉岳寺を横に通過した。

これにより拳で攻撃できる間合いから遠ざかったが、問題はなかった。

その先に具現した槍とライフル銃があったからだ。

拳護具と爪を装着したままそれを持ち、すぐさま反転してまずはライフル銃で何度も引き金を絞って発砲した。

放たれたエネルギー弾に対して泉岳寺は咄嗟に防御行動を取った。

それで動きを止めている間に俺は再び接近して槍を突き出した。

この刺突に対して紙一重で避けるのが泉岳寺の限界のようだ。

現に、俺に対して反撃をする余裕もないみたいだ。

俺はライフル銃で発砲しつつ、槍での刺突を止めなかった。

「図に乗るな!」

これに対抗しようと泉岳寺が『ワールズエンドフラッシュ』の形状を変えようとした。

おそらく、これに対抗できる槍や銃にするつもりなのだろう。

だけど、この一瞬が俺の狙いだ。

『ワールズエンドフラッシュ』が形を変えようとした瞬間、泉岳寺の背中で爆発が起きた。

一瞬何があったのか分からず、泉岳寺の表情は驚きを隠せていなかった。

爆発の正体、それはさっき具現したミサイルが直撃した結果だ。

続けるように、俺は長距離砲と拡散砲を遠隔操作した。

1本の巨大な光線と何本もの細かい光線が泉岳寺に襲い掛かり、泉岳寺にダメージを与えた。

俺の手元を離れていても、それぞれの武器を操って攻撃することが出来る。

最初の格闘戦も、それを悟らせないための布石だった。

だけど、これで終わるつもりはない。

更にライフル銃を発砲しながら近づき、ある程度距離が縮まったところでそれを上空へ放った。

続けざまに、もう片方の手で持っていた槍を泉岳寺目がけて投げ飛ばした。

更に、上空に飛ばしたライフル銃からも発砲させ、泉岳寺の動きを止めさせた。

そのおかげで槍も泉岳寺の肩に突き刺さり、泉岳寺は苦痛で顔を歪ませた。

この一瞬の間に俺は一気に距離を詰めた。

それに気づいた泉岳寺は対抗しようと掌をこっちに向けてきた。

武器の具現を諦めて、直接光線や光弾を放ってくるのだろう。

俺はそれを阻止するために、予め具現しておいた盾を泉岳寺の前へ飛ばした。

泉岳寺の前方を阻んだそれは、予想通り放たれた光線を防いだ。

予想外の妨害に、泉岳寺の動きが一瞬止まった。

その隙を突いて、拳護具で動きが止まっている泉岳寺のボディに渾身のアッパーを見舞った。

拳護具から放たれる衝撃で泉岳寺の体は上空へと吹き飛んだ。

俺はそれを追う形で跳躍した。

それと同時に、唯一使っていなかった剣を俺の元へ手繰り寄せる形で飛ばした。

泉岳寺を追い越し、剣を手に取って、それを振り下ろす態勢に入った。

その直前、俺は具現した他の武器を光の状態に戻し、剣に集めた。

集まった光で剣は巨大化し、その一撃の重さを示した。

「これで終わりだ!」

俺は思い切りそれを振り下ろし、泉岳寺に当てると同時に落下した。

剣の重さ、落下の衝撃、この2つの威力を物語っているのかのように、落下地点は泉岳寺を中心に大きな窪みが出来た。

遠雷以外の全ての運命系の武器を模した武器を同時に具現して、絶え間なく攻撃し続ける戦法。

品川さんから提案された、『熟練の敵に対して有効な奇抜な作戦』を考えた結果がこれだった。

大崎さんは『フォースシルエット』を用いた急襲。

大塚さんは『フレスベルグ』を用いた変則的な加速。

そして神田さんは『菊一文字』の残像と『覚醒』を同時にしようとすることで可能となった陽動。

それらと同じように俺も考えた戦法がこれであった。

だけど、この戦法には難点が2つあった。

1つは発動までに時間がかかること。

これは目黒がいたからさっきは解決出来た。

だけどもう1つの難点、これが致命的だった。

そして、それが俺の目の前で現実になった。

「・・・少しはやるみたいだな」

地面と剣に挟まれて倒れていた泉岳寺が平然と立ち上がった。

そう、これがもう1つの難点でありこの武器の弱点、決め手に欠けることだ。

本来だったら『覚醒』した状態で使うことで9つ同時攻撃を実現してそれを克服するはずだったが、それが出来なかった。

だから今の状態で出来たのは時間稼ぎぐらいであった。

「もう間もなく『ジェネシス』のチャージが完了する、諦めることだな」

泉岳寺が勝ち誇った顔をしながら俺たちに告げてきた。

たしかに、仮にここで泉岳寺を倒したところで管制室から『ジェネシス』を止めるだけの時間は残されていない。

だけど、これで良い。

俺たちは会長に言われた通りに時間を稼いだだけだ。

それを信じれば、俺たちの作戦は成功と言える。

そして、それはすぐに表れた。

部屋全体、いや要塞全体が大きく揺れたからだ。

何が原因かはすぐに分からなかったが、すぐにそれは判明した。

「『ジェネシス』タイハ・・・ソウインキンキュウタイセイニハイレ・・・クリカエス・・・」

要塞全体に機械的な放送が流れてきた。

『ジェネシス』の大破・・・これだけで俺たちの目的は達成された。

「・・・やってくれるじゃねえか」

この放送を聞いても取り乱さず、ただこちらを睨みつけながら俺たちを見た。

「俺たちの勝ちだ、諦めろ」

外の戦艦を先生達がどうにかするのも時間の問題だ。

『ジェネシス』を失った以上、こいつに残された手段はない。

だから俺はそう宣告した。

「・・・諦める訳ないだろ」

決して態勢を崩さず、更なる闘志をこちらに向けてきた。

ここまでされても・・・まだやる気のようだ。

「何で・・・何でそこまでして地球を攻撃するんです!」

俺が思っていたことを目黒が代弁するかのように声を張り上げた。

「・・・いい機会だ、教えてやろう、もう未来のことは聞いているな?」

闘志を剥き出しにしながら俺たちに聞いてきた。

「あぁ、サイボーグの成果で異星人からの被害が激減したんだろ」

「激減じゃない、皆無になったんだ。異星人も侵略することに意味がないと思ったんだろう」

当時のことを懐かしむかのように泉岳寺は答えた。

「それなのに・・・何でこんな真似を!」

「じゃあ聞くが、その後サイボーグはどうなったと思う?」

ぶつけるように投げかけた疑問に、泉岳寺は質問で返してきた。

「え?」

「一部のサイボーグは民間用に転換することが出来た、だがほとんどは戦闘用に作られた奴らだ。

ただでさえ維持に手間と金がかかるやつらに、上は何て指示したと思う?」

「・・・まさか!?」

「そう、スクラップにしろって言ってきた、人間のために働いてきた俺たちは用済みだと言ってきやがった!!」

言われた当時のことを思い出したのか、泉岳寺は声を荒げた。

「でも・・・どうしてそれがこの時代を襲撃する理由になるんですか!」

新たに生まれた疑問を目黒は投げかけた。

「簡単なことさ、この時代から更に戦乱を起こすことでこの先、未来永劫サイボーグが必要な世界を作り上げる、それが俺の目的だ」

「そんな・・・そんなことのためにこんなことを?」

「そんなことだと?俺たちがどれだけ苦労して人間たちを守ってきたか、お前たちに分かるものか!」

俺の反応が泉岳寺の逆鱗に触れたようだ、ただでさえ気が荒くなっているのに火を注いだかのようになった。

「・・・あなたの気持ちも分からなくはないです、大切にしていたものがなくなる気持ち、私にも経験があります。

だけど、もうあなたが抗う手段はありません、諦めてください」

目黒が諭すように泉岳寺に忠告した。

「いや、まだ方法はいくらでもあるさ。例えばお前たちを捉えて人質にすれば、外の戦艦は無力化出来るだろ?」

そう言われて思い返すと、確かにその通りだ。

先生達が俺たちを無視して強硬手段に出るとは思えない。

しかも、今の状況では泉岳寺を倒すことが出来ない。

それはさっき証明されたばかりだ。

「さぁ、続きを始めるぞ!」

その言葉と共に泉岳寺が駆け出そうとした、その時だった。

「じゃあ私も混ぜてもらおうかしら」

突然天井から声が聞こえたと同時に、それが崩落した。

天井の一部と一緒に、誰かが一緒に落ちてきたのは分かったが、それが誰なのかすぐに分からなかった。

その人物が泉岳寺へ一直線に落下、何か攻撃を加え泉岳寺を吹き飛ばした。

「チッ、誰だ貴様は!」

咄嗟にガードしてダメージを最小限に抑えた泉岳寺はその人物を睨んだ。

その人物が着地し、静止したことで俺も特徴を捉えることが出来た。

黒い長髪でスラリとした長身の・・・女性だった。

そしてこの女性は、俺に見覚えがあった。

それを裏付けるように、目黒が呟いた。

「お姉・・・ちゃん?」

そう、写真で一度だけ見たことのある、目白さんそのものだった。

「未莉、久しぶりね」

こちらを振り返らず、ただそう返答された。

「どうして・・・?」

突然の状況に目黒は混乱しているみたいだ。

だけど俺は、似たような状況をこの前見たばかりだからすぐに把握出来た。

「目黒、バーチャル空間だ」

「あ・・・」

俺の一言で目黒も納得出来たみたいだ。

どんな経緯か分からないが、かよこちゃんと同じようにバーチャル空間にその身を置いていたのだろう。

「そういうことよ。さぁ、とっととこいつを倒すわよ」

短く言い終わると、目白さんの様子が変わった。

正面を見なくても分かった、『覚醒』したのが。

「『覚醒』は・・・無駄だ!」

すぐにそれが分かった泉岳寺が、さっきと同じ行動を取ろうとした。

「どうかしら?」

目白さんのその一言と同時に、背中から何かが出現した。

それは、先ほどらむ先生が使っていた『月光蝶』だった。

それが辺りを包み込むと、泉岳寺が放った光が遮られた。

目白さんの『覚醒』も打ち消されていないみたいだ。

「な!?」

「いくら未来の技術でも、この光を突破して『覚醒』や『天使』を打ち消すことは不可能よ。

さぁ二人とも、行くわよ!」

その号令で俺も目黒も察した。

俺は目白さんと同じように『覚醒』し感覚を尖らせ、目黒は『天使』になり背中から輝く翼を発現した。

「上野君、私が援護するからお姉ちゃんと一緒にお願い!」

「分かった、頼む!」

俺は『ネバーエンディング・フューチャー』を剣と拳銃に変え、発砲しながら駆け出した。

それと目白さんの拳による対処を泉岳寺は同時に行わくてはいけなかった。

そして接近戦の間合いに入った俺は目白さんの接近戦に参加した。

目白さんが拳を振るった直後に俺が剣を振り下ろす。

俺が振り下ろしたら今度は目白さんが拳を振るう。

自然と出来たリズムで泉岳寺に攻撃の隙を与えなかった。

・・・いや、自然ではない。

明らかに目白さんが俺に合わせて攻撃してくれている。

昔から気配りの出来る人だと聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった。

「チッ」

このままではまずいと思ったのだろう、泉岳寺は後退し間合いから逃れた。

「逃がすか!」

俺は持っていた拳銃を泉岳寺に向けて発砲した。

更に

「行って!!」

目黒から十二支の射撃も放たれた。

全方位から放たれるこの攻撃に、泉岳寺は攻撃に出ることは出来なかった。

「まだまだ!」

この隙を突いて再び目白さんが接近戦に入った。

俺も発砲を止め、その接近戦へ加入した。

徐々に決定打も出始めた、このままいけば勝てる。

その手ごたえを感じながら、俺は剣を振り下ろした。

一撃を与えられると感じた一振り、それを泉岳寺はいとも簡単に握って止めた。

「図に・・・図に乗るな!!」

この一言と同時に、剣を握っていた腕に装着されているリストの液晶が赤く輝きだした。

『強化』した、それがすぐに理解できた。

俺はこの拘束状態から逃れるために、剣を光の状態に戻し拳に纏わせた。

「甘い!」

そんな俺に泉岳寺は蹴りを放ってきた。

咄嗟にガードしたが、衝撃が上回りそのまま吹き飛ばされた。

追撃を許さぬよう目白さんが接近戦を続けたが、明らかに劣勢であった。

「クッ!」

このままでは目白さんが危ない、俺はすぐに加勢しようとした。

(上野君、トリプルで行くわよ)

目白さんから急に『プライベートメッセージ』が飛び込んできた。

何のことかと思ったが、先ほどから目白さんの拳を纏っている武器名を見て納得した。

(分かりました・・・目黒、一瞬だけでいい、動きを止めてくれ!)

(わ、分かった!)

「『ネバーエンディング・フューチャー』、『JSAモード』起動!」

作戦の方向が決まると同時に、俺は再び拳の光を強く輝かせた。

「収束!」

そしてそれを両手に合わせて纏め、更に輝かせた。

幸いにもここは要塞内、それも部屋の中。

壁も天井も存在する。

俺は後方に跳躍し、壁に足を付けた。

その瞬間、目黒が泉岳寺に一斉射撃を行った。

弾かれたり紙一重で避けられたりして決定打にはならなかったが、動きは止まった。

それを見て俺は壁を蹴って勢いを付けた。

前に体育館で新橋さんに行ったのと同じ行動だ。

その勢いのまま『ダブル・シャイニングフィンガー』をぶつけるために。

「必殺!」

「『トリプル・シャイニングフィンガー』!!」

俺の拳がぶつかる直前、泉岳寺を通して反対側にいた目白さんから合わせるように拳が振るわれた。

目白さんの拳を纏っているのは、高熱エネルギー至近距離照射兵器『溶断破砕マニュピレーター』。

その別名は・・・『シャイニングフィンガー』。

別に驚くことではない、他にもそうなっている武器はあると聞いていたからだ。

しかも、威力は俺が放っているもの以上に大きかった。

そして間に挟まれてその衝撃を同時に受けた泉岳寺は、そのまま上空に吹き飛ばされ、離れた場所へ落ちた。

「や・・・やったの?」

トドメを刺していない目黒が、実際に刺した俺たちに聞いてきた。

「・・・手応えはあった」

それだけは俺の口からはっきりと言えた。

でも結果が分からない、だから起き上がらないか目を離さずにいるのだが・・・。

「・・・大丈夫よ、勝負あったわ」

同じく観察していた目白さんからそう言われ、やっと緊張が解けた。

「良かった・・・それよりもお姉ちゃん、どうして・・・」

目黒がずっと抑え込んでいた疑問を目白さんに投げかけようとしたが

「話は後でね、まずこいつを拘束しないと」

遮るようにそう言われ、目黒はただ黙るしかなかった。

それに構わず目白さんが泉岳寺に近寄り、手に付けているリストに手を伸ばそうとした。

「・・・終わりじゃねえよ」

リストに手が触れようとした瞬間に、泉岳寺が言葉を発したのが離れた俺にも聞こえた。

そして間もなく要塞全体が急に揺れだした。

「な!?」

辺りの急変に俺も目黒も動けずにいた。

そして間もなく、要塞自体に亀裂が入り始めた。



「戦艦全滅、『ジェネシス』の大破も確認」

『ハンドレット・フラワー』の艦橋から、蝶子と音無は戦況を冷静に観察していた。

戦艦は日晴とらむが、『ジェネシス』は潜入した生徒たちが成し遂げたのは目に見えていた。

2人とも心配こそしていたが、信頼していたためこの結果に驚くことはなかった。

「よし、このまま俺たちも突っ込むぞ」

音無の号令と共に、『ハンドレット・フラワー』が要塞目がけて前進を始めた。

「待て、様子がおかしい!」

要塞の異変に気付いた蝶子が前進を一旦制止した。

「どうした?」

「要塞が・・・割れている」

蝶子の一言で音無もよく見ると、徐々に要塞が上下に分かれようとしていた。

そして上部、先ほどまでジェネシスが備わっていた部分が角度を変え、『ハンドレット・フラワー』の方を向き始めた。

「まずい、急速回避!!」

何が起こるか察した音無はすぐに『ハンドレット・フラワー』を大きく横へと旋回させた。

その直後、要塞の上部が急発進し、『ハンドレット・フラワー』の横を大きさからは想像できない速度で通り過ぎた。

「あの方向は・・・地球か!」

要塞の向かう方向を見て、蝶子はすぐに目的を察した。

『直接地球へあの要塞を落下させる』

それを音無も続けて気づいた。

「急速旋回、急いで俺たちも追いかけるぞ!」

「それよりも、あいつらの安否は!?あいつらは無事か」

急な状況に、2人は今までにないほどに慌てていた。

「おい、お前ら無事か?返事をしろ!」

戦艦のシステムを使い、蝶子は直接『プライベートメッセージ』で呼びかけた。

『・・・こちら上野、こっちは無事です』

すぐに上野から返事が返ってきた。

それを聞いて2人は外の様子を確認した。

そこには、既に『メガライダー』に乗って向かっている上野達の姿が見えていた。



(このまま俺と目黒は直接あの要塞を追いかけます)

(分かった、すまないが頼んだぞ)

(はい!)

『プライベートメッセージ』でのやり取りを終わらせた俺は、再び前方の目標を確認した。

あの地響きの後、いきなり壁が空き、そのまま宇宙空間へと放り出されてしまった。

だけど『メガライダー』を出して態勢を整えることで、いきなり発進した要塞を追うことが出来た。

目黒も俺と同じことを考えていたらしく、同様に『メガライダー』を走らせていた。

そして・・・

「途中障害物はないわ、全速で行くわよ」

同じく目白さんも並走していた。

『メガライダー』がない目白さんは、『月光蝶』の出力で飛んでいた。

らむ先生のを見てその出力は絶大だと思ってはいたが、『メガライダー』と同じ速度が出ることには驚いた。

・・・この状態なら、疑問に思っていたことを聞けそうだ。

「目白さん、やはり1年半前のあの時にバーチャル空間へ?」

「えぇ、そうよ。流石に『サイクロプス』を至近距離で受けたからほぼ即死に近い状態だったけどね」

「そ、即死・・・」

ただでさえショックな出来事であった目白さんの最期を改めて聞き、目黒は驚きの表情を見せた。

「けど、すぐにバーチャル空間へ移ることが出来てね。今はそこの管理を行いながらリハビリ中のようなものだわ」

「すぐに?」

即死に近い状況でバーチャル空間に行く手続きが済んでいたというのか?

「えぇ、池袋君に感謝しないとね」

「会長に?」

「そうよ、私をバーチャル空間へ行くように手筈してくれたのは彼なんだから」

言われて一瞬驚いたが、すぐに納得した。

会長はあの場にいたのだから、事情を察していれば救済手段はいくらでもあったからだ。

しかも、既にその時会長は軍と関わりを持っていた、すぐにそれが出来たのも頷ける。

「そうだったんですか・・・」

「実は、あなたへかよちゃんを向かわせたのも私なのよ」

「え?」

言われれば、確かにあの救助はかなりスムーズだった。

それが目白さんに寄るものだとすれば、合点がいく。

「あなたの戦いぶりは良かったわよ、その内一緒に共闘したいて思っていたのよ」

「共闘?」

「そうよ、『ダブル・シャイニングフィンガー』があるならトリプルがあってもいいじゃないて、ずっと考えていたんだから」

チラッと目白さんの顔を見ると、惚れ惚れとした顔で語っている姿がそこにあった。

(・・・目黒、目白さんて前からこうなのか?)

(う、うん・・・ほら、お姉ちゃんて子供たちとよく遊ぶから、その影響でヒーロー物とか触れる機会多かったの)

(なるほど・・・)

色んな人から聞いていた憧れの先輩という目白さんの印象。

それが俺の中で崩れていくのがよく分かった。

(く、クレグレも内密にね)

(わ、分かった・・・)

目黒もこれまで一生懸命それを隠していたんだろう。

少し目黒の苦労が分かった気がする。

「と、おしゃべりはここまでね。そろそろ来るわよ」

目白さんのこの一言で、俺は再び前の目標に集中した。

あの要塞との距離が話している間にかなり縮まっていた。

もう少ししたら俺たちの射程距離に入る。

「エネルギー反応・・・来るわよ!」

この目白さんの言葉が終わると同時に、要塞から無数の光線が俺たちに襲い掛かってきた。

まだ『覚醒』している俺は光線の軌道を読みつつ、それを回避しながら前進した。

確かにこの回避は簡単ではないが、出来なくはない。

これも『覚醒』があるからこそ出来る行動だ。

そう考えたとき、ふと嫌な予感がした。

「キャ!?」

それがすぐに的中した。

目黒が光線に被弾していた。

『天使』になったところで光線の軌道は読めない。

しかも『メガライダー』に乗った状態じゃその恩恵も少ない。

「目黒!!」

「大丈夫、『メガライダー』に当たっただけであの子は無事よ、私たちはこのまま行くわよ」

冷静に分析した目白さんの言葉に安心しつつ、俺は再び前を見た。

もうすぐで要塞に到着する・・・。



「う・・・」

被弾したことで『メガライダー』を失った目黒は、『天使』の翼と十二支の推進力で態勢を整えた。

「目黒、大丈夫か!?」

声に気づいた目黒が振り向くと、そこには新橋が追いかけてきていた。

「わ、私は大丈夫です、このまま追いかけます!」

「いや、その翼じゃ『メガライダー』を追いかけるのは無理だ、俺と一緒に一度『ハンドレット・フラワー』に戻るぞ」

「で、でも!」

先に行った上野と目白を放っておけない目黒はそれでも追いかけようとした。

「池袋が同じように追いかけている、今はあいつらに任せるんだ」

「・・・はい」

冷静に諭された目黒は、それを不本意ではあったが受け入れた。

それでも、目黒は上野のことが心配でならなかった。

(・・・上野君・・・頑張って・・・)



「神田君、待たせたな」

「いえ、こちらこそありがとうございます、山本さん」

目の前の端末で状況を把握していた神田の元に、かつて任務で共に戦った山本が駆けつけていた。

任務などを通して知り合った現役のエンドレスバトラーと、神田は確実に人脈を広げていた。

その人脈を活用して、今回の危機を脱しようとしていた。

「礼を言いたいのはこっちの方だ、これがあれば確かにアレに対抗出来る」

「そう言ってもらえると助かります、それじゃあ、お願いします」

「ああ、分かった・・・総員に告ぐ、これより発進態勢に入る!」

目の前のマイクで山本は号令を放送した。

百花高校の地下深くで建造されていた、新型の戦艦『ハンドレット・フラワーU』の中で。



「・・・上野君、私もここまでみたいね」

「え?」

急に目白さんからそう言われ、すぐに振り向いてその様子を見た。

目白さんの体から光の粒子が放たれ、少しずつ薄くなっていた。

「もしかして、またバーチャル空間へ?」

「ええ、元々私の活動時間は短いから、これが限界なの」

「そうでしたか・・・」

まだ色々と話したかったが、こればかりは俺には止めようがない。

「だから、この後の要点だけ話すわね。あの要塞を地球へ落そうとしているのは分かるわね?」

「はい」

「あんな巨大なのを落とされたら、地球全体が壊滅的な被害を受けるのは確実よ」

「確かにその通りですね・・・」

それ自体、詳しい知識がない俺にも容易に想像がつく。

「だから、完全破壊なんて思わないで、細かく分断するようにして。そうすれば後は大気圏突入時の摩擦で燃え尽きるから」

「なるほど・・・分かりました」

返答はしたものの、かなりの難題だというのは頭の中で理解していた。

今まで対人戦を中心に経験してきたから、こんなデカブツ相手はどうやって対応すればいいか検討がつかない。

後は・・・『覚醒』で思うままに攻撃するしかない。

「それじゃ、そろそろ行くわね・・・新橋君と池袋君にもよろしくね」

それだけ言い残して、目白さんの体は完全に消え去った。

「目白さん・・・ありがとうございます」

いなくなってしまった目白さんに対して礼を言い、俺は要塞へと向かっていった。

これだけ巨大だと、威力は大きい方が良い。

それなら『ネバーエンディング・フューチャー』よりかは『クジャク』だ。

『ブラスターモード』のまま俺は更に速度を上げた。

『スマッシャーモード』で光線を放っても、要塞に与えるダメージは微々たるものだ。

それなら、このまま剣の状態で・・・

「『クジャク』、『JSAモード起動』!!」

全力で切断する、それが一番だ。

俺は要塞にギリギリまで接近し、速度を落とすことなく出力を上げた『クジャク』を要塞に斬りつけた。

要塞の内部に刃が通ったことを確認し、俺はそのまま『メガライダー』で直進した。

そのまま斬撃は拡大し、俺が通り抜けただけで大きなダメージを与えることが出来た。

流石に切断することは出来なかったが、もう何度か行えばそれも出来る。

だからもう一度やろうと、俺は旋回して第二波を行おうとした。

そこで俺が見たのは無数に襲い掛かってくるミサイルだった。

これを全て避けきれるには極めて難しい。

それなら・・・迎撃するだけだ。

「スマッシャーモード!」

『クジャク』を銃に変え、ミサイルの大群に向けて発砲した。

放たれた14本の光線に触れたミサイルは次々と爆発、1本も俺にたどり着かなかった。

それを確認して俺は再び要塞へと突進した。

再び『ブラスターモード』にし、あの斬撃を繰り返すためだ。

対する要塞も俺に合わせてまた光線を放ってきた。

今度は砲口が近い分、避けながらの進撃は無理だ。

だとすれば、答えは単純だ。

「フィールド全開!」

両腕のフィールド発生器から俺を覆うほどのフィールドを発生させ、光線を防いだ。

これでさっきと同じように斬撃を繰り出せる、そう確信した瞬間だった。

俺が跨っていた『メガライダー』の底から衝撃を感じた。

下からミサイルが襲い掛かってきていたからだ。

すぐに察した、この光線は囮でその隙にミサイルを撃ち込むことが本当の目的だったということを。

この被弾で『メガライダー』が破壊されたため、俺はその勢いのまま要塞へと落下するような感覚で直進した。

流石にこのままだと激突でダメージは免れない。

俺は『クジャク』でそのまま目前に迫っていた要塞に突き刺し、一旦静止した。

とりあえず落ち着きはしたものの、『メガライダー』を失ったのは大きすぎる。

ここからどうやってこの要塞を破壊していくか・・・。

「どうした、もう終わりか?」

急に声が聞こえてきた。

その声の主が誰なのか、考える間もなく俺の目の前に姿を現した。

要塞から穴が開き、そこから泉岳寺がせり上がる形で出てきたからだ。

しかも、その姿はさっきまでに比べてあまりにも異なった。

体中にケーブルが繋がり、それによる作用なのか至る所で血管が浮き出ていた。

「泉岳寺・・・」

「見てのとおり、今俺とこの要塞は繋がっている、俺の思い通りに動く・・・つまりだ、こういうことも出来るんだよ」

その一言と同時に、俺の周りを囲む形で砲台が一斉に出現し、発砲してきた。

急いでフィールドを展開して光線を防ぎ、『クジャク』による射撃でミサイルを迎撃した。

だが、全てを防ぐことは出来ずかなりのダメージを受けてしまった。

このまま受け続けるのは危険・・・そう考えた俺は『クジャク』の先端にある砲から光線を放った。

それを長い剣を扱うように回転しながら俺を取り囲んでいた砲台を全て斬り落とした。

一旦は危機を脱したが・・・状況はあまり好転していないのはよく分かった。

「もうこれで分かっただろ?地球に到着するのも時間の問題だ、諦めろ」

窮地に立たされている俺を見ながら泉岳寺は通告してきた。

「・・・諦めるかよ、俺以外の皆が諦めてないんだからな」

『クジャク』を構え直し、俺は泉岳寺へ向き直った。

「無駄だ、もうどんな手段を使おうと止める手段は・・・」

泉岳寺の言葉の途中、突如要塞に爆発が起きた。

それも一度ではない、至る所でそれが起き始めたのだ。

何が起きたのか、俺はすぐに把握出来た。

後を追ってきていた『ハンドレット・フラワー』が追いつき、俺と同じように要塞の破壊を始めたということが。

「ふ、たかが戦艦1隻で何が出来るという、無駄なあがきを・・・」

「本当にそう思っているのか?」

「・・・何?」

俺は気づいていた、この爆発が『ハンドレット・フラワー』だけのものではないことを。

俺の背後・・・つまり地球側からもう1隻向かってきていることを。

要塞に向かって砲撃している以上、敵でないことは確かだ。

そして、その砲撃によって要塞が徐々に削れていくのが分かった。

「これで分かっただろ、この要塞が破壊されるのも時間の問題だ」

この宣告で、泉岳寺が諦めてくれる・・・俺はそれを期待した。

「・・・だから言っただろ、無駄なあがきだと」



「羅印さん、準備はいいですか?」

『あぁ、いつでも大丈夫だ』

『ティファの祈り』によるチャージが完了し、羅印はいつでも光線を放つことが出来る状態になっていた。

「よし・・・こちら『ハンドレット・フラワー』、斉射準備完了」

それを確認した音無は通信でその旨を連絡した。

「目黒、分かってるな」

「はい・・・上野君が斬撃を与えた箇所、ですよね」

蝶子が目黒に確認を行った。

新橋と共に回収された目黒は、自ら砲撃手を申し出た。

少しでも役立ちたい、その気持ちが目黒を動かしていた。

「そうだ、普段の戦いと同じように狙ってくれて問題ない」

「わ、分かりました」

振るえる手を抑えるように、目黒は目の前のトリガーを握りしめた。

狙うのは上野が最初に一撃与えた場所、そこを砲撃して要塞の分断させる。

そうすることで要塞そのものの質量を半減させることがこれから行われる砲撃の目的であった。

「よし、向こうも準備出来たぞ、カウントダウン開始・・・10・・・9・・・」

もう一つの戦艦と連絡を取り合っていた音無がカウントを始めた。

その場にいた全員がその声に耳を傾け集中した。

「3・・・2・・・1・・・0!」

カウントが終わると同時に、『ハンドレット・フラワー』ともう1つの戦艦から無数のミサイルと光線が放たれた。

更に羅印も『ティファの祈り』による光線を発射した。

これだけの火力があれば間違いなく要塞を分断できる、全員がそう確信していた。

だが、それは要塞に届く前に光線もミサイルも突如遮断されることで裏切られることになった。

「あ、あれは・・・まさか」



「・・・フィールド・・・いや、バリアか」

目の前で起きたこの現象を見て、俺はそう判断した。

もしフィールドなら、ミサイルも防がれるのはおかしい。

それなら、光線にも実弾にも耐えられるバリア・・・それが一番納得のいく答えだ。

「その通りだ、発動に時間がかかるのが難点だが、それに見合う効果は出してくれる」

バリアの効果を見ながら泉岳寺はそう答えた。

「これで分かっただろ、お前にもう為す術はない。黙って俺の理想の世界が出来上がるのを見届けろ」

「理想の・・・世界?」

「この要塞が地球に落とされることで、少なくとも人間の生きられる環境ではなくなる。

俺が目指すサイボーグのための世界が確立される」

サイボーグのため・・・確かにそれは可能だが・・・

「お前は・・・お前も生きられないだろ!?」

たとえそれが実現しても、それを行った当の泉岳寺はそこにはいられないはずだ。

「その心配はない・・・俺の今の姿が答えだ」

一体何のことだ・・・そう一瞬思ったが、泉岳寺に繋がっているいくつものケーブルですぐに分かった。

「まさか・・・自らサイボーグに?」

「その通りだ、計算上、俺が来た時代まで生き残ることが可能だ」

そう言い終わると、泉岳寺は俺の方に掌を向けた。

「せめてもの慈悲だ、一瞬で葬って、天国でその光景を見届けさせてやる」

泉岳寺が言い切ると、掌に光が集まり始めた。

『ワールズエンドフラッシュ』による光線・・・それで俺にトドメの一撃を放つつもりなのだろう。

すぐにでもその場を離れたいが、さっきの砲撃によるダメージでそれが出来そうにない。

何か手はないか・・・考えろ・・・何かあるはずだ・・・。

「じゃあな」

思考を巡らせている俺に対して、死刑宣告とも取れる発言を放ってきた。

すぐに光線が向かってくる、俺は自然とそれに対して身構えた。

そして俺に光線が照射され激痛が・・・と予想していたが、それが全く来なかった。

だけど、それに代わって要塞全体が大きく揺れた。

何が起きたのか、急いで周りを見渡すと要塞の一部が爆発したことが分かった。

バリアが解けたのか・・・そう思ったがバリアはまだ張られ続けている。

「・・・何があったか分からないが、これぐらいじゃ状況は変わらねえ、今度こそ最後だ」

同じく状況を確認していた泉岳寺から、再度宣告が言い放たれた。

まだ諦めるのは早い・・・今の爆発には何かしらの意味があるはずだ。

そう自分に信じ込ませながら俺は構え直した。

「懲りないやつだ・・・今度こそ終わらせてやる」

泉岳寺のこの一言と同時にまたさっきと同じ砲台が現れた。

今度は俺を囲む形でなく、泉岳寺の後ろで援護するような形で出現した。

さっきよりやりやすいとはいえ、あれを全て避けきるのは難しい。

でも・・・やるしかない!

「フィールド展開!」

両腕からフィールドを発生させ、まず光線への対処を施した。

機銃は避けるしかない、ミサイルは『クジャク』で斬り落とす。

幸いにも、まだ『覚醒』は続いている・・・まだやれる!

「無駄なことを・・・死ね!」

まるで号令をかけるかのような泉岳寺の声で、俺は駆け出そうとした。

足に力を入れた瞬間、再び爆発が起きた。

場所は俺の目前・・・出現した砲台全てだ。

「これは・・・」

「間に合ったな」

泉岳寺が状況把握している間に、それは攻撃を仕掛けてきた。

それを泉岳寺は咄嗟の反応で防御した。

姿を見るまでもなく、声を聞いた瞬間に誰かすぐ分かった。

「会長!」

『メガライダー』に乗って突撃してきた会長だった。

「上野君、こいつを使え!」

いきなりそう言い放ってから、会長は『メガライダー』を乗り捨てる形で俺の方へ走らせた。

「え?」

(こいつの相手は俺が引き受けた、君の火力ならまだ要塞の分断は可能だ!)

俺の頭に直接『プライベートメッセージ』で意図を送り込んでくれた。

(分かりました!)

すぐに応えて俺は向かってきた『メガライダー』に跨り、走らせた。



「貴様!」

「もう好き勝手させないぞ、泉岳寺!」

お互いの言葉が交わされた直後、池袋は『ヒートロッド』を伸ばし泉岳寺へ攻撃を仕掛けた。

泉岳寺はそれを紙一重で避け、再び出現させた砲台で池袋に斉射した。

「!?」

それに対し池袋は言葉を発さず、全ての砲弾を難なく回避した。

そのまま泉岳寺に接近した池袋は、縮めて剣状にした『ヒートロッド』で斬りかかった。

接近を許した泉岳寺は『ワールズエンドフラッシュ』を同じく剣状にして防御した。

「・・・そうか、お前が噂の未来人か」

防御することで冷静に分析した泉岳寺が質問を投げかけた。

「そうだ、だからお前を止めに来た・・・他に言うことはあるか?」

「ねえよ」

泉岳寺は即答すると、静かに池袋の後ろに出現させた砲台を発砲させた。

砲弾はそのまま池袋の背中に直撃する、そう予想していた泉岳寺の予想はすぐに裏切られた。

当たる直前に池袋はその場を離れる形で回避し、更に砲弾は放った泉岳寺自身に直撃した。

「く・・・未来予測に『覚醒』か」

目の前で起きた事象を泉岳寺は冷静に分析した。

「その通りだ。この2つがある限り、俺は負けない!」

着地後に構え直した池袋がそう言い返した。

「・・・本当にそう思っているのか?」

意味深な泉岳寺の言葉に池袋が疑問を持つと、その答えがすぐ分かった。

今まで出てきたのとは桁違いのサイズの砲台が泉岳寺の後ろに出現したからだ。

「いくら未来予測出来て『覚醒』していても、これを避け続けは出来ないだろ?」

泉岳寺がそう言っている間にも、その砲台の発射口にエネルギーが溜まりつつあった。

「・・・」

それを無言で見る池袋であったが、内心は焦りで満たされつつあった。

『ZEROシステム』でも『覚醒』でも、対応策が見つからなかったからだ。

「じゃあ、始めるぞ」



「ハァ・・・ハァ・・・」

一体どれだけ斬りかかっただろう。

会長が相手を引き付けてくれたから俺は要塞の切断を再開出来た。

だけど、何度斬りつけてもそれが達成出来そうになかった。

決して『クジャク』の威力が低いわけではない、むしろ十分にあった。

要因は・・・この要塞が堅すぎるんだ。

流石にこの『分断する』て行動そのものに無理があったのかもしれない。

他の手段を探すべきか・・・いや、その時間もない。

もう俺の肉眼に地球が見え始めている、作戦を変える暇はない。

それなら手段を変えないと、埒が明かない。

何か方法がないか・・・とにかく要塞を観察した。

どこかに何かヒントがあるはずだ。

その中で、爆発した跡を1か所見つけた。

さっき、俺が泉岳寺と対峙している時に起こった爆発のだろう。

でも、何で爆発が起きた?

おそらく直後に駆けつけた会長がやったのだろうけど・・・。

「!?」

もしかして、あれは会長が俺に宛てたメッセージなのでは?

すぐに泉岳寺の相手をすることで『プライベートメッセージ』を送る暇もないことを見越して、何か伝えようとしたのでは?

そうなると、一体何を意味するのか・・・。

考えろ・・・『覚醒』している今なら、答えが見つかるはずだ・・・。

頭の中で思考を巡らせていると、答えが導き出された。

だけど・・・

(こんなこと・・・本当に出来るのか?)

疑問に思うほど壮大な結果だった。

本当にそんなことが出来るのか・・・?

・・・いや、そんなこと考えている余裕はない。

とにかく、今はそれを実行するだけだ。

俺は決心し、先ほどから斬撃を繰り出したことで出来た切り口へと進路を取った。

切り口と言っても、『クジャク』の威力が凄まじかっただけにどちらかというと通路のようになっていた。

そこに侵入し、『メガライダー』を走らせながら必至に目的の物を探した。

『覚醒』で導き出した答えの通りなら、絶対にあるはずだ。

その間にも、さっきまで俺がいた場所から爆発音が何度も聞こえてくる。

このままでは会長が危ない。

早く見つけ出さないと・・・。

「!!あ、あった!」

やっと見つけ出すことが出来た。

切り口によってむき出しになった、この要塞のケーブルを。

そこへ真っすぐ向かい、そして

「ウェポンチェンジ!」

持っていた『クジャク』から武器を変えた。

それは・・・『遠雷』だ。

雷を纏った右手で俺は迷うことなくそのケーブルを掴んだ。

ケーブルの先端からは激しいスパークが発せられていたが、『遠雷』がそこから守ってくれる。

「『遠雷』、『JSAモード』起動!!」

出力を上げた『遠雷』で、ケーブルへ電撃を直接流し込んだ。

上手くいけば、目的が達成できる。

だから、だから早くしないと・・・。

「何をやってやがる」

急に背後から声が聞こえてきた。

振り向くと泉岳寺が背後にある壁から姿を現していた。

考えてみれば、こいつは要塞と同化しているも同然。

俺がどこにいるか見つけるのは容易いことだ。

だけど、それ以上に気になることがある。

「か、会長は!?」

「あぁ、あいつか、この要塞の主砲にやられて消し飛んださ、あれじゃ助からん」

「そ、そんな・・・」

予想外の事実に絶望を感じているのが考えるまでもなく分かった。

「あとはお前だけだ・・・」

泉岳寺の言葉と共に、掌に『ワールズエンドフラッシュ』の光が集まり始めた。

まだ俺の作戦は終わっていない・・・このままじゃ失敗に終わる・・・!

「あの世でゆっくり最期を見ていろ」

そして迷いなくそこから光線を放たれ、俺に直撃・・・したと思った。

放たれた光線は途中で遮られた。

俺との間で『ヒートロッド』を使って光線を受け止めた会長によって。

「か、会長!?」

「お、俺に構うな・・・そのまま続けろ!」

言われた通りに俺は目の前のことを続けたが、一瞬目に入った会長の姿は文字通りボロボロだった。

「貴様・・・あの主砲からどうやって生き延びた!?」

「ギリギリだったが、やられた振りをさせてもらったよ・・・この展開が『ZEROシステム』で見えたからな・・・」

俺の後ろで2人の会話が聞こえてきた。

気にしつつ、俺は電撃を流し続けた。

あの状況で会長が長く持たないのは目に見えている。

早く・・・早く終わらせないと・・・。

「・・・!?終わった!!」

それを感じ取ってすぐ、俺はケーブルを手放し、会長の襟を掴んで『メガライダー』でその場を離れた。

空を切った光線は俺がいた場所に直撃し爆発を起こした。

その爆発が上手く目くらましになり、泉岳寺の追撃を妨げることが出来た。

俺はとにかくその場を離れ、一旦態勢を整えることにした。

ある程度離れたところで、ちょういいど物陰を見つけた。

俺はそこに『メガライダー』を停め、会長をそこに降ろした。

降ろした会長は座ることも出来ず、そのまま横たわってしまった。

「会長!」

それを見て俺は慌てて上体を抱き上げた。

「さ・・・さすがに・・・主砲を受けたらこうなるな・・・」

弱弱しく会長が口を開いた。

「もうしゃべらないで・・・ここで待っていてください!」

これ以上はいくらログインしているとはいえ、命に関わる。

「いいさ・・・もう助からないことぐらい俺にも分かる」

「助からないって・・・会長だって戻る場所があるんでしょ、そんなこと言わないでください!」

「そんな場所・・・俺にはねえよ」

悲観的なことを言っているにも関わらず、会長の顔からは笑みがこぼれているようにも見えた。

「な、何を言っているんですか、会長がいた時代があるでしょ!?」

元々会長がいた時代にも、待っている家族や友人がいるはずだ。

戻る場所がそこにも・・・。

「・・・一度未来から過去に来ると・・・元いた時代には戻れないんだよ」

静かに会長がこの事実を告げてきた。

「な・・・」

「それに・・・俺も出来る限りのことは・・・もうやった、悔いはないさ」

「悔いはないって・・・何でそんなこと言えるんですか!?」

あまりに淡々と話す会長に、俺は自然と言葉が荒れた。

「・・・今から10年後、お前は異星人からの大規模侵略に立ち向かうことになる」

「え?」

「規模が規模なだけに・・・民間人にも被害が及んだが・・・お前の判断で大勢が助かった」

未来の俺にそんな功績が・・・?

「だけど、それが会長に何の関係が!?」

10年後の俺の功績に、100年後から来た会長が直接関係するとは思えない。

「その中の1人が・・・俺の祖父を身籠っていた曾祖母だ」

「曾祖母?」

「あぁ・・だから・・・もしお前がいなかったら・・・そもそも俺自身が存在することすら・・・なかったんだ」

「・・・それが・・・会長が未来から来た理由・・・ですか」

「その通りだ・・・」

あまりの理由に、俺は言葉が出なかった。

だけど、今までの会長の行動を考えると納得は出来た。

今まで俺にしてきた無茶ぶり、それは全て俺の成長に繋がる物だったからだ。

「だから上野・・・お前はとにかく・・・生きろ」

それだけ言って、会長は目を閉じた。

・・・それが、会長の命が消えた瞬間だと、すぐに察した。

「お別れは済んだか?」

背後から声が聞こえてきた・・・見なくてもそれが泉岳寺であることは分かった。

「もう残りはお前だけだ・・・観念しろ」

・・・不思議だ、怒りと悲しみで一杯のはずなのに、頭の中は冷静だ。

「いや、もう終わりだ」

それはきっと、もう決定打を放てているからだろう。

だから俺からの言葉も冷静そのものだった。

「終わりだと?この状況が分からないのか?」

泉岳寺がその言葉を出し切った直後、この要塞の何処かから大きな爆発が起きた。

それも一度に留まらず、二度三度と繰り返し起こった。

その規模は・・・要塞をその内破壊出来ると容易に想像できるものだった。

「・・・貴様、何をした?」

冷静を装うとするも、怒りが抑えきれない表情を見せながら泉岳寺が聞いてきた。

「簡単だよ、むき出しのケーブルに『遠雷』で電気信号を送って、この要塞の自爆装置を作動させた」

以前、授業で教わったことがある。

大抵の要塞には、機密保持のため自爆装置が備わっていることを。

特にこの要塞は未来から来た泉岳寺が中心で作った要塞だ、機密の塊と言っても過言ではない。

「な!?」

いくら『覚醒』していてもそこまでは出来ないと思っていたのだろう、泉岳寺の表情に驚きが加わった。

「もう5分もしない内にこの要塞は爆散する、俺たちの勝ちだ」

そんな泉岳寺に俺は冷たく言い放った。

そして、次に取る泉岳寺の行動は分かっている。

「それなら・・・!」

奴はこの要塞に繋がっている、自爆の取り消しを行おうとするだろう。

それに対し俺が取るべき手段は1つだ。

「させるか、ウェポンチェンジ!!」

取り消しする行動そのものを阻止する、それだけだ。

まず先制して、『クジャク』から剣先のビーム砲で射撃を行った。

それを難なく防がれたが、それよりも重要な自爆の取り消しが中断させることには成功した。

「ク・・・なら先にお前を始末してやる!!」

もうなりふり構っていられないのだろう、泉岳寺も行動を移した。

さっき会長にも放ったと思われる、主砲2門を目の前に出現させた。

確かに、これを正面から放たれたらタダではすまない。

しかも、その隙をついて泉岳寺も俺から離れた場所へと移動していた。

主砲を掻い潜り、再び泉岳寺を間合いに入れるのは至難の業だった。

・・・けど、1つの勝算が俺にはあった。

確実ではないが、今はそれに賭けるしかない。

俺は『クジャク』を地面となっている要塞に突き刺し、傾けた。

柄が泉岳寺を向いたところまで傾けたところで、迷うことなく引き金を絞った。

そうすることで、ビーム砲がブースターのようになり、勢いよく俺を泉岳寺の方へ飛び出せた。

「無駄だ!」

主砲が発射される前に速攻で倒そうというのが俺の狙いだと思ったのだろう。

俺が泉岳寺に到達する前に、主砲が俺へと発射された。

急いで放ったのだろう、威力はさっき遠くから見えたものに比べて低い。

だけど、対人戦では見られないほどの光線だ。

それこそ、『ジャンクション』や『ツインバスターライフル』の比ではない。

このまま直進しても、泉岳寺に届く前に俺はこの光線の餌食になるだろう。

そのために俺が取るべき行動は・・・

「フィールド展開!」

片腕のフィールドを発生させ、その光線を防ぐことだ。

フィールドは光線を受け止めるのでなく逸らす効果があるため、威力は関係なく俺には届かない。

だけど、必要以上に負荷がかかれば装置そのものが破壊されてしまう。

現に、光線をそらし続けて俺の腕から煙が出始めている。

これを続けていればフィールドは途切れ、俺に光線が直撃するだろう。

けど、あと少し、あと少しでこいつに一太刀浴びせられる。

だから俺は、こいつにとって予想外な行動を取ることにした。

「『クジャク』、『JSAモード』起動!!」

宣言と同時に、俺を勢いづかせていたブースターが更に出力を上げた。

これにより速度が上がり、光線を脱した俺を見て泉岳寺は驚きの表情を見せた。

「ブースターON!」

その一瞬の隙に乗じて、俺は渾身の一撃を叩き込んだ。

咄嗟に泉岳寺も『ワールズエンドフラッシュ』で纏った腕で防ごうとした。

だが、防ぎきるにはあまりにも出力が弱すぎた。

その腕ごと俺は斬り落とし、更に泉岳寺の胴体にも斬撃を与えた。

「!?」

サイボーグの体になっているからだろう、腕を斬り落とされても驚かれる程度の動揺しか見られない。

けど、間合いに入った今が好機だ。

自爆の解除を妨げるために、俺は絶え間なく斬撃を繰り出した。

それもただ、がむしゃらに放っているだけではない。

泉岳寺の次の行動を読みつつ、最適な場所に『クジャク』を振り下ろした。

有効打には中々ならなかったが、自爆の解除を妨げるには十分だった。

それが出来るのも『覚醒』しているおかげだ。

おかげで泉岳寺の行動が手に取るように分かる。

しかも、泉岳寺は片腕を失っている上に、要塞と繋がっているから動きも制限されている。

この間合いに入ってしまえば俺の方が圧倒的に有利だった。

そして、この状況を打破しようとする泉岳寺の次の行動も読めた。

「いい気になるな!!」

目の前の泉岳寺が俺に残っていた方の掌を向けた。

俺が『覚醒』の恩恵を受けているのが分かったのだろう、それをさっきと同じように無効化しようとしてきた。

さっきはそれで苦戦を強いられたが、もうその対策方法も分かっている。

「させるか!」

要はあの光を俺に届かないようにすればいい。

『クジャク』ならそれが・・・出来る!

剣先の銃口にエネルギーを溜めた状態で、その掌に向けて突き出した。

そしてゼロ距離になったところで、俺は引き金を絞った。

剣先から放たれた光線により、掌は跡形もなく消し飛んだ。

その威力を至近距離で放ったことにより、『クジャク』も刀身の半分が焼け落ちてしまった。

だけどこれは想定の範囲内だ。

むしろ、切り札となっていた『覚醒』の無効化も防がれたことにより、動揺は流石に隠せないみたいだ。

「ウェポンチェンジ!」

この好機を逃すわけにはいかない。

すかさず『ネバーエンディング・フューチャー』に変え、右手にエネルギーを集めた。

『ダブル』も『ソード』も収束するのに若干のロスが発生する。

一刻も早く一撃を与えたい俺は、すぐさまそれを放った。

「収束!必殺、『シャイニングフィンガー』!!」

迷うことなく放たれた一撃は、泉岳寺の胴体に直撃し、衝撃がそのまま貫通した。

繋がれたケーブルも衝撃で引っ張られた本体により切断され、そのまま遠くで吹き飛ばされた。

普段の人間相手なら、これで確実に終わりだろう。

だけど相手は今はサイボーグ、これで決着というわけではない。

俺は警戒しながらも、泉岳寺の動向を見続けた。

しばらくその状態を維持したが、何か仕掛けてくる様子もない。

本当に・・・終わったようだ。

一瞬安心した直後、目に見える場所で大きな爆発が起きた。

いよいよ自爆が本格的に行われるみたいだ。

「『メガライダー』!!」

先ほどの場所に置いていた『メガライダー』を俺の方へと向かわせた。

一時停止させることなく、俺は飛んできたそれのハンドルを掴み、そのまま離脱した。

飛びながらシートに跨り、出力を全開にしてその場を後にした。

そうでないと、この自爆に巻き込まれる。

俺は後ろを振り返らず、ただひたすら前を見て『メガライダー』を走らせた。

だが、そんな俺に予想外の事態が起きた。

『メガライダー』のブースターが急に爆発したのだ。

いくら出力を全開にしたとはいえ、これで爆発するのはいくら何でもおかしい。

不思議に思い後ろを振り返ると、そこには俺の方を見ている泉岳寺の姿があった。

その肩から大きな砲が俺の方を向いていた。

『ワールズエンドフラッシュ』で作ったのだろう、それが『メガライダー』のブースターを破壊したのは容易に想像出来た。

「俺の計画は失敗だ・・・だが、タダでは死なん、お前も道連れだ!!」

その声を最後に、泉岳寺は爆発に巻き込まれた。

その安否を確かめる余裕はない、俺はすぐさま助かるべく行動を映した。

幸いにも『覚醒』の状態は保っている。

そして、『メガライダー』も壊されたのはブースター部分のみだ。

そこから導き出した行動は、まず『ネバーエンディング・フューチャー』で盾を作った。

そしてそれを前方に置き、ハンドルを握りながらその盾の上に飛び乗った。

足が盾に着いた瞬間、俺は『メガライダー』の引き金を絞った。

すると『メガライダー』の前方の砲から光線が放たれ、俺を乗せた盾ごと前に飛ばした。

これなら普通に跳躍するより段違いの速度で離脱できる。

それでも、『メガライダー』に比べると速度は出ない。

・・・このままでは、ギリギリ間に合わないかもしれない。

ふと要塞の方に目を向けた。

細かい爆発が所狭しと起こっている。

本命の大爆発が起きるのもすぐだろう。

・・・一か八か、もっと大きな盾を作って爆発を防ぐか?

爆発を至近距離で受けるわけではないからそれで助かるかもしれないが、確率は微妙だ。

その手で行くべきか思考を巡らせていると、突如声が聞こえてきた。

「上野君!」

声の方向に振り返ると、俺の方へ向かってくる目黒の姿が見えた。

背中には『天使』と十二支の翼が見えた。

その推進力なら、今の俺よりもこの場をより速く離脱できる。

俺は乗っていた盾から跳躍し、目黒の方へと手を伸ばした。

すぐに俺の勢いはなくなったが、目黒はそのまま俺の方へと近づき手を掴んだ。

「行くよ!」

そのまますぐに要塞から離れる形で目黒は飛んだ。

その背中には、もう1つ推進力が生まれていた。

あれは・・・『ブースターウィザード』だ。

きっと新橋さんから借りたのだろう。

そこから生まれる速度で、速やかに離脱が行われた。

そして安全圏に到達したところで、背後で大爆発が起きた。

目黒と共に振り返ると、要塞が文字通り木っ端みじんになっていた。

・・・やっと・・・終わった。

それを見て一安心していると、急に体を締め付けられるのを感じた。

見下ろすと、目黒が俺に抱きついていた。

「目黒?」

「良かった・・・上野君が無事で・・・」

その言葉と共に、目黒から涙がこぼれるのも分かった。

宇宙空間という無重力状態で、目黒の目からそれが浮かんでいるのが見えたからだ。

「・・・心配かけてゴメン、でもこれで終わったよ・・・」

そう、この約1年関わり続けた組織との戦いが終わったのだ。

色んな犠牲もあったが、それは無駄にはならなかったはずだ。

それに弔うことが出来たのが、何よりも大きい・・・。

「二人とも、いちゃつくのは場所を考えろ」

冷やかしも含まれた声が聞こえてきた。

目黒も慌てながら離れ、俺と共に声の主の方へ振り返った。

『ハンドレット・フラワー』が俺たちの方へ向かってきていた。

「先生・・・」

「いいから戻ってこい、流石に限界だろ?」

さっきのは音無先生、そして今のは蝶子先生の声だ。

「はい・・・行こう、目黒」

俺の呼びかけに、先ほどの冷やかしに恥ずかしさを感じているのか、黙って頷く形で返事をされた。



「2人ともお疲れさま、よくやったな」

ブリッジに着くと、まず先生達から労いの言葉を受けた。

「あ、ありがとうございます」

俺も十分な戦果だというのは認識していた。

現役のエンドレスバトラーでも、要塞1つ落とすのは容易ではないと授業で教わっていたからだ。

だけど・・・

「でも・・・犠牲は出てしまいました・・・」

俺のこの言葉に、その場にいる全員がその意味を理解した。

会長の死・・・戦場だから覚悟は必要だが、それでもこの現実は思っていた以上に重いものだった。

「・・・お前の気持ちは分かる。だが、それは乗り越えなきゃいけないことだ、そうでないと・・・俺みたいになる」

新橋さんからそう諭された。

俺自身も頭の中では分かっている・・・それでも、受け入れるのには時間がかかりそうだった。

「分かっています・・・分かっているんですが・・・」

『オイオイ、俺はここにいるぞ』

急に誰もいない場所から声が聞こえてきた。

そこにあるのはオペレーター席に備わった、ただのモニターのみ。

その正体を気にしていると、すぐにそれは現れた。

モニターの電源が入るのと同時に映し出されたのは、紛れもなく会長だったからだ。

「か、会長!?」

「ど、どうして!?」

俺も目黒も目の前の会長に戸惑いを隠せなかった。

『私がバーチャル空間へ連れてきたのよ』

会長とは別の声がモニターから聞こえてきた。

聞き覚えのある声・・・誰かと考える暇もなかった。

同じモニター上に目白さんが現れたからだ。

「め・・・」

「目白さん!?」

俺たち以上に、新橋さんが驚いた。

もう会えることがないと思っていたのだろう、俺もそうだから気持ちはよく分かる。

「お・・・お姉ちゃん、どうして?」

目黒も不思議に思ったのだろう、恐る恐る尋ねた。

『どうしても何も、彼がこうなることを想定していたし、望んでいたのよ』

「え?」

想定も希望もしていた・・・どういうことだ?

『俺は元々死ぬ覚悟で未来から来ていたからな、無茶して命を落とすことは容易に想像出来ていた』

「容易に、って・・・」

重大な言葉が淡々と会長の口から発せられた。

『だから、事前に手筈は整えておいたのさ、いつ俺が死んでもいいようにさ』

『おかげで私もスムーズに連れてこれたわ』

「・・・会長はそれでいいんですか?」

いくらバーチャル空間で助かったとはいえ、あくまで仮想世界での話。

現実では死んでいる事実に変わりはない。

『あぁ、言ったろ?お前が死んでいたら、そもそも俺自身が存在していないんだ』

「あ・・・」

言われてみればそうだ。

もしあの要塞で俺が死んでいたら、もっと大きな影響が歴史上で起こっていた可能性だってあったんだ・・・。

『だから、俺はここで生きていけるだけで問題はない。お前たちはそのまま現実を生きろ』

「・・・はい」

そこまで言うんだったら、俺から言えることは何もない。

言われた通り、今を生きるだけだ。

『私も、存在がバレた以上隠す必要がないしね・・・未莉、モニター越しだけどこれからは話せるわよ』

笑顔で目白さんが目黒に話しかけた。

「・・・うん、ありがとう」

目黒もそれに笑顔で応えた。

「さて・・・もうそろそろ大気圏突入だ、続きはまた戻ってからにして衝撃に備えろ」

「・・・はい」

モニター上で手を振る会長と目白さんを見ながら、俺たちは先生達の言葉に従った。

・・・地球に戻ったら、また俺たちに日常が戻ることになる、そう考えながら俺は近くの席に座った。

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