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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
1月編

1人、職員室で蝶子はただ放心していた。

他の教師達は新学期が始まったこともあって忙しいため、全員出払っている。

昨年末に婚約者である犬彦がいなくなり、その現実をまだ受け止められないでいた。

「まだショックで?」

その職員室に羅印が現れた。

「・・・そうね。とても信じられないわ、アイツが死ぬなんて」

表情を暗くしながら蝶子は言った。

「・・・これ、犬彦先生からです」

「え?」

驚く蝶子に羅印が差し出したのは、見るからに高そうな箱であった。

大きさが手の平に収まるほどの物ということもあり、蝶子は何があるか容易に想像できた。

そしてそれを手に取り、中を開けるとそこには1つの指輪があった。

「こ、これって・・・」

「あの日の夜に、あなたに渡すつもりだったみたいです。遅くなってしまってすいません」

そう言って羅印は深々と頭を下げた。

「ありがとうございます・・・本当にアイツ・・・最後まで・・・」

蝶子はそこまで泣き出してしまった。

その姿を見届けることが出来ないのか、羅印も帽子を深々と被ってその場を後にした。



あれからすぐに年が明け、新学期が始まった。

だけど、そんなに時間が経った気がしない。

つい昨日の出来事だったみたいにすぐ思う。

その上、あれから何もやる気がしない。

折角の年末年始、俺は渋谷や五反田と同じように実家に帰ることはなかった。

ただ部屋で、何も考えずにいた。

それだけ、あの時のことが鮮明に蘇ってくる。

今も、この生徒会室の中でジッとしているだけだ。

だから俺は思った。

(こいつは返すべきだな)

俺の手にあったのは、以前神田さんから託された武器チップ。

神田さんの手に余るほどの武器を、今の俺が扱えるわけがない。

だから今日これを返すつもりだ。

もう卒業間近の3年生達と会う機会は限られてくる。

だけど今日は始業式ということもあるから、集まるはずだ。

だからその時に・・・

「やぁ、上野君」

突然入り口から声が聞こえてきた。

声の主は見るまでもなく会長だった。

「・・・どうも」

とりあえず挨拶だけはした。

「どうした?元気がないな」

「・・・そんなことないですよ」

とりあえず強がっておいた。

「そうかい・・・ところで、今グラウンドで野球部とサッカー部の連中が暴れているぞ」

「え?」

「今1年の3人が応戦しているけど・・・時間の問題だね」

「何でですか?もうあの3人なら大丈夫なはずですよ」

現に3人は文化祭の時最後まで残った。

いくら人数的に不利でも、どうにかなるはずだ。

「・・・また奴らが強化されていたら、と言ったらどうする?」

「え?」

また強化を?

たしかにそれだったら時間の問題だ。

・・・だけど、



「すいません、行く気になれません」

どうしてもすぐに駆けつけようとは思えなかった。

本当に、今やる気という物が削がれていた。

「そうかい・・・実はさっき目黒にも会って、そう伝えたんだけど・・・」

「え?」



「さ、流石にきついわね」

「ですね」

「う、うん」

グラウンドの真ん中。

1年3人の目の前にまだ大勢の野球部員とサッカー部員がいた。

既に数人が倒されていたが、総勢20人の強化された相手と戦うのは3人には至難のことであった。

「・・・ボクが相手をおびき寄せるから、二人とも援護お願い!」

痺れを切らしたのか、渋谷が飛び出そうとした。

その時だった。

「待って!渋谷ちゃん!」

その一言と同時に、3人の上空を目黒が飛んで現れた。

「シュート!!」

そして手に持った『ピーコック・スマッシャー』から9本の光線を放ち、相手の集団に直撃させた。

それによって動きを止めたのを確認した後、着地した目黒が3人に声を掛けた。

「3人とも、大丈夫?」

「は、はい。どうにか・・・」

そう言葉を交わしている中、再び野球部員とサッカー部員が襲い掛かってきた。

「・・・生徒会特権であなた達を拘束します!皆、行こう!!」

「は、はい!」



「すぐ・・・駆けて行った?」

「あぁ。今頃、もう着いているだろうね」

目黒の反応を聞いて、俺は驚きを隠せなかった。

俺と同じようになっていると思っていたのに・・・何で?

「どうして、って顔してるね」

「・・・はい」

やはり会長には、全てお見通しのようだ。

「上野君、君は自分で言ったこと忘れたのかい?」

「え?」

俺が言ったこと?

「『目黒はそんな弱いやつじゃない』って言っただろ?」

「あ・・・」

そうだ、俺はあの時、そんなことを言っていた。

何より、目黒の強さに疑いがなかったから。

それなのに・・・俺は・・・

「心配することはない」

「え?」

「君はそれ以上に強いはずさ。それを信じて、神田はそいつを渡したんじゃないのかい?」

「あ・・・」

そう言われて、俺は改めて手に持っているチップを見た。

これを渡してくれた神田さんの気持ちは、俺には分からない。

だけど・・・俺を信じてくれなきゃコレを渡してくれるはずがない。

もう、迷うわけにはいかない。

「行ってきます」

俺は立ち上がって、そのまま駆け出した。

「・・・・・」

その最中に会長が何か言ったように聞こえたが、それを聞き返すほどの余裕はなかった。



「へへへ、どうした?もう終わりか?」

野球部とサッカー部の鎮圧に行っていた目黒、渋谷、五反田、代々木の4人であるが、限界が徐々に近づいていた。

普段の状態ならともかく、強化された状態の相手を20人近く相手にするのは流石に酷であった。

それでも半分以上を倒し10人まで減らしたものの、そこまでが限度だった。

「ま、まだです!」

そう言うと目黒はすぐ飛び上がり、『ピーコック・スマッシャー』の砲口を下に向けた。

そして引き金を絞ろうとした、その時だった。

「させねえよ」

同じく跳躍したサッカー部員の1人が目黒の方へと近づき、そのまま蹴りを放った。

「キャッ!!」

それを避けることの出来なかった目黒はそのまま吹き飛ばされてしまった。

「もらったー!!」

そしてそのままサッカー部員は目黒に向かって突進、トドメを刺そうと拳を構えた。

「目黒さん!」

「お前達の相手は俺らだって」

助けに向かおうとした1年生3人に他のサッカー部員や野球部員が襲い掛かってきた。

それを避けるなり防ぐなりしたものの、そのために目黒を助ける余裕がなくなってしまった。

1年生たちはもちろん、目黒本人も敗北を覚悟した。。



「目黒!!」

やっと到着したと思ったら、目黒がいきなりやられそうになっている。

「EB、ログイン!!」

すぐさまスマホを取り出してログイン、更に『遠雷』を具現化、躊躇うことなく雷撃を放った。

その雷撃は狙った奴に直撃、吹き飛ばすことにより目黒を窮地から救った。

「目黒、大丈夫か?」

すぐさま倒れていた目黒に駆け寄り、様子を聞いた。

「う、うん、大丈夫・・・」

それを聞いて、安心した。

と、今度は1年生達が狙われている。

次はそっちを助ける番だ。

「目黒、行けるか?」

「うん!」

力強い返事を聞き、俺はすぐさま一緒に構えた。

「迸れ!!」

「シュート!!」

俺は『遠雷』の雷撃を、目黒は『ピーコック・スマッシャー』から9本の光線を放った。

それぞれ寸分も狂わず野球部員かサッカー部員に直撃し、吹き飛ばした。

これにより余裕が生まれた1年3人も、俺達の方へと駆け寄ってきた。

「上野さん、遅いですよ!」

開口一番、渋谷にそう言われた。

「悪い悪い。だけど、その分きっちりと働かせてもらうから、それで勘弁な」

そう言って俺は一歩前に出た。

「へぇ、いい気になってるね」

サッカー部の1人がそう言ってきた。

「前の俺達と思ったら大間違いだぜ!」

野球部の1人も睨みつけながら叫んできた。

なら、思い知らせてやる。

「俺も、前の俺とは違うぜ!!」

そう言ってから、俺は駆け出した。

「くらえーー!!」

まず来たのは何人かによる銃撃。

だけど、これぐらいなら『覚醒』するまでもなく避けることは簡単だ。

一発一発見切りながら俺は近づいていった。

その間に俺は『遠雷』を刀の形に変え、手に持った。

「んなもん通じるか!!」

ある程度近づいたところで、剣を持ったサッカー部員が叫びながら仕掛けてきた。

半年前、俺は同じ状況で全く対応することが出来なかった。

俺には『遠雷』の弱点である実体がないことへの対処法が見つからなかったからだ。

だけど、今の俺は違う。

まず、相手の動きを読み、太刀筋を見極める。

それを紙一重で避け、その隙をついて

「ハァッ!!」

横を駆け抜けると共に刀を一振り。

手ごたえは確かにあった。

現に、駆け続ける俺の後ろで斬った相手が倒れる音が聞こえてきた。

この調子で、今目の前で同じように俺に仕掛けようとしている奴らに攻撃を・・・。

と俺が考えているのを尻目に、奴らの半数以上が俺を無視して通り過ぎていった。

狙いは・・・後ろにいる目黒と1年の3人か!?

今あの4人はさっきまでの疲労がまだ残ってる。

ここは・・・俺がどうにかして止めないと!

「よそ見してるんじゃねえ!!」

俺がそれを気にしている間に、残りの奴らが襲い掛かってきた。

「邪魔するな!!」

俺はそれに対処するべくカウンター気味に一振り入れた。

これで1人撃破・・・したはいいが、まだ相手は残っている。

ここで背を向ければ、間違いなくやられる。

すぐに・・・片付ける!

「うぉぉぉぉぉ!!」

そう考えているうちに目の前の奴らが一斉に襲い掛かってきた。

この瞬間・・・閃いた!!

「ハッ!」

刀に変えていた『遠雷』から雷雲を発生。

「何!?」

俺がそこからすぐ抜け出したのに対し、襲い掛かってきた奴らは雷雲に迷い込んだ。

これによって、やつらに隙が出来た。

あとはその間に4人を助けないと・・・

「キャ!」

「ウワ!?」

急に後ろから声が聞こえてきた。

すぐに振り返ると、渋谷と代々木が攻撃を受けて、吹き飛ばされていた。

吹き飛ばされた2人はダメージ過多によるログアウトの後、そのまま気を失った。

「渋谷!代々木!」

残る目黒と五反田はどうにか攻撃を避けながら対処しているが、時間の問題だ。

まずはここから・・・

「迸れ!」

雷撃で援護を行った。

これはどうにか1人に当たって、そいつを吹き飛ばした。

これである程度は攻撃が緩くなる・・・と思ったときだった。

「ワッ!?」

五反田が敵の攻撃を受け、吹き飛ばされてしまった。

「五反田!」

吹き飛ばされた五反田は先の2人と同じく強制ログアウトの後に気を失った。

これで残ったのは俺と目黒だけ・・・。

「どけえ!!」

とにかく、目黒にいつまでも敵を接近させるわけにはいかない。

俺は再び『遠雷』で刀を作り上げ、そいつらを1人1人斬っていった。

全員斬れた・・・というわけではないが、当てることの出来なかったやつはその場から離れていった。

目黒から敵を引き離すという目的はどうにか成された。

そしてその離れていった奴らは先ほど雷雲で閉じ込めた奴らと合流。

今の俺の攻撃に寄って、先ほどの半数近くにまで相手の数は減っていた。

あと・・・少しだ。

「上野君」

「あぁ、ケリつけるぞ」

ここまで数を減らせば、力押しでもどうにかなる。

俺は『遠雷』を普段の手に纏わせた状態に戻し、構えた。

そして目黒も『天使』を発動させ、背中から輝く翼を発現させた。

先の戦いの疲れに加え、今他に誰も見ていないことを考えれば、妥当な選択だ。

「『遠雷』・・・」

「『ピーコック・スマッシャー』・・・」

「『JSAモード』起動!!」

そして俺も目黒も通常の3倍近い出力のそいつを・・・

「迸れ!!」

「発射!!」

思いっきり放った。

この強力な2重の攻撃に、奴らは絶望したのか。

「う、うわぁぁぁぁぁ!?」

ただ絶叫して、それを受けていた。

あれだけの攻撃を受けた野球部とサッカー部の連中は目の前で全員倒れた。

「どうにかなったな」

「うん」

これでとりあえずは安心だ。

だけど、気になることもある。

「一体、誰がこいつらを強化させたんだ?」

当たり前だが、こいつらに自分自身を強化させるだけの力はない。

つまりは、誰かがこいつらを強化したのは明白だ。

・・・もっとも、大体見当はついている。

「やっぱり、あの組織が?」

「だろうな。それ以外に思いつかない」

最初に野球部を強化したのも、その後サッカー部を強化したのも、今改めてこいつらを強化したのも犯人はそいつらだろう。

だけど、確証はない。

全ては推測の域を出てないだけに、いまいち強気に出れない。

前回も事情聴取したと聞いていたが、強化前後の記憶が抜けているらしく、手掛かりがほとんどなかったと聞いている。

ここまで分かっているのに確定出来ない、そのもどかしさは確かにあった。

その時、俺は気付いた。

わずかに意識を保っている野球部員が1人いることに。

俺は何か聞きだせるかと思い、そいつに向かって歩みを寄せた。

「おい、お前達の強化をしたのは誰だ!?」

少し乱暴ながらも、胸倉をつかんで無理矢理体を起こさせ、質問を浴びせた。

「俺達を・・・強化?」

「ああ、誰かがやったんだろ?言え!」

「上野君、落ち着いて」

熱くなっている俺に対して目黒はあくまで冷静になだめてきた。

「お前達・・・あいつの仲間じゃないのか?」

「仲間?どういうことだ!」

俺達をそんな悪人達と一緒にされたこともあってか、余計に頭に血が上った。

「だって・・・あいつはお前達のところにいた奴だろ?」

「・・・何だと?」

「見たことあるぜ、お前達の中にあいつがいたことを・・・」

「あいつ?あいつって誰のことだ!!」

生徒会の中に犯人がいる。

しかも、そいつは例の組織と関与してるかもしれない。

そう考えただけでも、信じたくなかった。

「あいつは・・・」

「上野君!危ない!!」

目黒の声を聞いて、俺は気付いた。

何かとてつもないエネルギーが近づいてくることを。

俺は胸倉を掴んでいた野球部員を投げ飛ばすと同時にその場から飛び離れた。

その直後、巨大な光線が俺がいた場所を通過した。

あの威力・・・受けていたらただじゃ済まなかったはずだ。

「チ、避けやがったか」

聞いた途端、誰だかすぐ分かった。

「新橋・・・」

校門近くであの巨大な銃を構えている新橋の姿があった。

だけど、これでようやく確信が出来る。

「やっぱり、こいつらを強化をしたのはお前か!」

思えば、こいつも生徒会の一員だった、そう考えれば全て説明がつく。

「正確には俺達の組織が、だけどな。少なくとも、声を掛けたのは俺だ」

あっさりと答えてきやがった。

気付いてはいたが、こいつに罪の意識はないようだ。

それでも、やるべきことは変わらない。

「今日こそ・・・終わりだ」

コイツを倒して、これ以上の犠牲を減らすこと。

そうしなきゃ、また犬彦先生のような人が出てしまう。

「慌てるな、俺は今回は戦わない」

「そんな言い分が通用するか!」

こいつは今まで様々なことをしてきやがった。

目の前に現れた以上、ただで帰すわけにはいかない。

「・・・それはこいつらを見ても言えるか?」

俺はそう言われて気付いた。

新橋の後ろに、体全体を布のようなもので包み容姿を隠している奴らが何人かいることを。

そいつらが新橋の前に横一列で並んで出た。

容姿以外に分かることと言えば、いずれも身長は同じぐらいで新橋より低いことだ。

「・・・誰だ?」

「誰?可愛そうなことを言うな、よく知っている顔だろ?」

「俺が・・・よく知っている顔?」

だが、その肝心の顔が布によって完全に隠されている。

今は・・・何とも言えない。

「お前達、姿を見せてやれ」

するとそいつらは被っていた布を一斉に脱ぎ捨てた。

「!?」

俺は、ただ驚くしかなかった。

布を脱ぎ捨てたそいつらは、普通の容姿ではなかった。

・・・いや、容姿は普通なのだが、異様な点がある。

まず、顔が全員同じだということ。

とても双子とかそういうレベルの話ではない。

そして、特に気になる点がある。

・・・全員、その顔が目黒と同じだということだ。

「ど、どういうこと?」

その本人も驚いているようだ。

「お前ら、クローンて知っているか?」

急に新橋が問いかけてきた。

「クローン・・・?」

「遺伝子情報から特定の生物のコピーを作り出す技術・・・ですよね?」

「あぁ、その通りだ。これで言いたいことは分かるな?」

目の前の目黒と同じ顔の連中、それに今のクローンの話・・・。

これらが意味すること、それは・・・

「こいつらは・・・目黒のクローンて言うのか?」

「そうなるだろうな、お前らにとっては」

俺らにとって?

「どういうことだ!」

「お前ら、この前駒込にあったそうだな」

駒込・・・あのクリスマスの時戦ったアイツか。

「ああ。それがどうした!」

「こいつらはな、お前らが駒込と会ったあそこで作られたんだよ」

「何!?」

だからあそこは・・・つい最近まで使われた跡があったのか。

「そして目黒、お前も昔あそこにいたことがある」

「・・・え?」

目黒があそこにいたことが・・・?

「お前のその『天使』の力はな、先天的のものじゃない。人工的に付与されたものなんだよ」

「う・・・嘘・・・」

「更にな、お前はオリジナルじゃなく、こいつらと同じクローンだ」

「え・・・」

「デタラメなことを言うな!!」

信じられないことを立て続けに言われ、感情を抑えることが出来なかった。

「本当のことさ。お前のオリジナル、それは・・・目白さんだ」

「お、お姉ちゃんの・・・?」

「ああ。『覚醒』の適合者だった目白さんの遺伝子を利用して、そこから『天使』の適合者を作り出した。それが、お前だ」

「わ・・・私が・・・?」

「今からその証拠を見せてやろう」

そう言って新橋はこちらに書類を投げてきた。

「それを読んでみな」

新橋に警戒しながらも、俺は目の前に落ちたその書類を拾い上げた。

そこに書かれていたのは、目黒と目白さんの遺伝子情報について記載されていたものだった。

専門的な細かい分析結果は何を意味するか分からなかったが、俺でも分かるように大きく書かれている文章があった。

『遺伝子情報は99.9%同一であることが証明されている』

「そ、そんな・・・」

横で同じく読んでいた目黒の様子が次第におかしくなっていった。

このままじゃ・・・まずい!

「目黒、しっかり・・・」

「さて、お前はこれでも自分は本物て言えるか?」

俺の言葉を遮って新橋は話を進めた。

「ア・・・アァ・・・」

そのまま目黒は膝から崩れてしまった。

「止めろおおお!!!」

もうこいつには何を言っても止められない。

俺はそれを力ずくで止めようと一気に駆け出した。

しかし次の瞬間、光線がいくつも俺に襲い掛かってきた。

目黒のクローン達が『ジャンクション』でこちらに撃ってきたからだ。

すぐに察した俺は光線を横に大きく跳ぶことで避けた。

「言ったはずだぜ、俺は今回戦わないとな」

相変わらず癪に障る言い方をしてくれる。

とにかく、こいつらをどうにかしなければ・・・!

俺が迷っている間に、目黒のクローン達が再び一斉に『ジャンクション』を俺に撃ってきた。

だけど、何度も目黒と特訓しただけある。

(射線が・・・読める!)

全ての光線の軌道を把握した俺は、そのまま跳躍。

光線が通り過ぎるのを上空から見下しながら、俺はクローンの1人の前に着地した。

この位置なら、俺を撃ったら仲間も巻き添えにしてしまう。

そう簡単に撃てるわけがない。

俺は思いっきり拳を振ろうとした。

「・・・!?」

その寸前で、俺は動きを一瞬止めてしまった。

視界に入ってきたのは、いつも見ているはずの目黒の顔。

それを敵意を持って攻撃するには、やはり多少の抵抗が俺にはあった。

その一瞬の迷いを見透かしたのか、目の前のクローンは俺の目前に砲口を突きつけてきた。

そしてその奥からエネルギーが集まり始めたのを見て

(マズイ!)

考えるのよりも先に本能が先に動いた。

すぐさま後ろにステップして放たれた光線を紙一重に回避。

だが、それで終わるはずがなかった。

他の目黒達がまた一斉に『ジャンクション』を放ってきたのだ。

さっきとは違い、回避した直後でまともに対応することが出来ない。

ここは・・・コレだ!

「『ビームバリア』!!」

周りにビームを弾くための壁を発生させ、それで光線を受け止めた。

先ほどのような一斉射撃でないなら、これでどうにか防ぎきれる。

だけど、ずっと身を守れるほど、この壁は頑丈じゃない。

『両腕部Iフィールド発生器』があればまだ防ぎきれたが・・・無い物ねだりしても仕方がない。

どうするか迷っていた時、突然光線が止んだ。

俺がそれを不思議に思った瞬間、目黒のクローン1人が目の前から襲い掛かってきた。

振るってきた拳には、『刹那の夢』が装備されていた。

(目白さんの装備まで使えるのか!?)

考えてみたら、目白さんの遺伝子情報で作り上げたクローンだ、使えないわけない。

俺は右に体の重心を傾けることででかろうじて避けた。

だが急な対応に俺はバランスを崩してしまった。

「クッ!」

俺が必死に態勢を整えようとすると、もう片方の拳で殴りかかろうとしてきた。

避けれるか出来ないか、そんな疑問を感じながら再び避けようとした。

「ハッ!」

突然目の前のクローンが蹴飛ばされ、視界から外された。

蹴飛ばしたのは・・・会長だった。

「会長!?」

「上野君、惑わされるな」

そう言ってから会長は武器を具現化させた。

アレは・・・代々木と同じ『自由の代償』だ。

それを目黒のクローン達へ投げ飛ばし、軌道を細かく変えながら全員に命中させた。

「な、何を!?」

相手がいくら敵とはいえ、躊躇せず攻撃を行った会長に疑問と怒りを感じた。

「安心してくれ。それに、これでまともに攻撃が出来るはずだ」

「え?」

そう言われて見てみると、俺は納得と驚きを同時に感じた。

今会長の攻撃を受けた相手の肌や顔の所々に、機械が露になっていた。

「こ・・・これは?」

「・・・話は後だ。それよりも、目黒の方が心配だ」

俺はその一言を言われてすぐさま目黒の方を見た。

未だにうずくまり、体中を震わせている。

「ハハハ、池袋、遅かったようだな」

新橋が急に話しかけてきた。

「ど、どういうことだ!」

俺は新橋に食いつくように問いただした。

「見てれば分かるさ」

相変わらず癪に障るような話し方をする・・・!

「ア・・・アア・・・」

目黒の様子のおかしさに気付くと同時に、その周りから変なオーラが包んでいることにも気付いた。

「・・・間に合わなかったか」

「間に合わない?」

会長の呟きに気にかかった、その時。

「イヤーーーーーーーーー!!!」

突然目黒が叫ぶと同時に、目黒の周りを黒いエネルギーが包み込んだ。

それに驚きを感じたと同時に、新橋からの一言を俺は聞き逃さなかった。

「さぁ、破滅の始まりだ」

「破滅・・・?どういうことだ!!」

「俺が説明するまでもない、池袋にでも聞くんだな」

「何・・・!?」

俺と新橋がそうやり取りしていると、突然目黒の周りを包んでいた黒いエネルギーが晴れた。

そしてうずくまっていた目黒はゆっくり立ち上がったが・・・

「め・・・目黒?」

目を疑うような大きく変わった点が2つあった。

1つは、目黒の瞳が虚ろになっていること。

もう1つは・・・光り輝いていた目黒の翼が黒く変色してしまっていることだ。

「これは・・・どうにかしないとな」

そう言って会長は持っていた『自由の代償』を構えた。

「ど・・・どういうことですか!?」

とにかく、この状態が何なのか分からない俺には、1つでも情報が欲しかった。

今の目黒に・・・一体何が起こっているか知るためにも。

「あの『天使』には、体の負担が軽くなるというメリットがあるが、大きなデメリットも存在するんだ」

「デメリット?」

「もし・・・『天使』を発動させた状態で精神状態が不安定になった時、その効果が急激に変化する。

その状態のことを『堕天使』と呼ばれているんだがな・・・」

「『堕天使』・・・?」

「この状態になった時、『天使』の時とは逆に体への負担が増加し、その分破壊力が急激に増す」

「え!?」

俺はそれを聞いて目黒を確認した。

目黒の手に持たれていた『ピーコック・スマッシャー』を構え、今にも発射しようとしていた。

「避けるんだ!」

俺と会長が危険を察してその場から飛び離れた次の瞬間。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

目黒の叫びと共に『ピーコック・スマッシャー』から9本の光線が放たれた。

その1本1本の威力は、確かに普段とは違うと瞬時に理解することが出来た。

その光線は俺達の上を通り過ぎ、向かった先は・・・あのクローン達だった。

しかも、ホーミング能力も上がっているのかそれを避けきれた奴はいなく、すぐに跡形もなく蒸発してしまった。

だけど・・・これは意外だ。

目黒の状態は一見、強化された状態に似ている。

となると、理性を失って敵味方なく攻撃するものだと思っていた。

だけど、一番近くにいた俺達ではなく真っ先にクローン達に攻撃を仕掛けた。

これは・・・どういうことだ?

「会長、これは・・・」

「『堕天使』になると、まず最初にその状態にした対象を破壊しようという習性があるんだ」

「え!?」

目黒をあの状態にした要因、それはあのクローン達と・・・それを連れて来た新橋だ。

「あぁ、その通りさ!」

こっちの会話が聞こえたのだろう、新橋が声を掛けてきた。

「どういうことだ!」

自分自身が狙われるのに、何でこうも平然としていられる?

「俺はな・・・こうしたかったんだよ!」

そう言うと、新橋は跳躍した。

そして着地した場所、その背中には・・・校舎が建っていた。

もしこの状態で目黒が砲撃したら、校舎はもちろん・・・中の生徒や先生達が!?

「な、何のつもりだ!」

「俺はな、前からここを破壊したかったんだよ」

「え?」

「ここさえ無くなれば、もう目白さんみたいな人が出ないだろ?それには目黒のその力が必要だったんだ!」

確かにここの校舎は、エンドレスバトラー育成のため普通より頑丈な造りだと聞いたことがある。

生半可な攻撃じゃ壊れはしないだろう。

だけどタダでさえ破壊力が増しているのに加え、目黒にはアレがある・・・!

「め・・・メジロさん・・・」

新橋の一言に反応したのか、目黒が呟くと同時に武器を『ジャンクション』に変化させた。

それと同時に、砲口にエネルギーが急速に集まりだした。

あれは・・・やはり『ジェノサイドモード』!?

ただでさえ凄まじい威力なのに、あそこで放ったら新橋はもちろん校舎も破壊されちまう。

以前野球部にアレを放った時は上手く校舎が外して撃ったからそんなことはないが、今はそんなことが出来るとは思えない。

それどころか、今の疲労でただでさえ負担の大きい『ジェノサイドモード』を放ったら、目黒自身も・・・。

「目黒、やめろ!!」

「さぁ、目黒、放ってみるがいい!!」



「イヤァァァァァァァァ!!!!!!」

ダメだ、発射を止めることは出来ない・・・。

そう直感した俺は、跳躍して校舎前に着地した。

新橋はいいが、校舎だけは守らなければ・・・。

「ウェポンチェンジ!」

そう決意して武器を『ムラマサ・ブラスター』に変えたとき、『ジャンクション』から光線が放たれた。

「『JSAモード』起動!」

一刻の猶予もなかった。

俺はすぐさま剣先を正面にして構え、迫ってくる光線に備えた。

その目の前で、本来は新橋がそれに直撃するはずだった。

だが、ただでさえ隙が大きく直線的な砲撃の『ジャンクション』。

それを新橋が見切れないわけなかった。

すぐに跳躍してそれをかわされ、光線が真っ直ぐに俺へと突っ込んできていた。

だが、迷うことは無い。

俺がやるべきは2つ。

まずは・・・

「ウォォォォォォ!!!」

剣先の砲で光線を止めること!

ビームの刃を抑えその出力を砲に全て集中させ、『JSAモード』で出力が上がった光線は、どうにか『ジャンクション』の光線を止めた。

だけどそれと同時に俺にもかなりの衝撃が襲ってきた。

この衝撃は・・・半端じゃない。

やはり、これは長くは持たないはず。

それに、俺にはもう1つやらなければならないことがある。

それは・・・目黒を止めること。

これ以上目黒にこんな体の負担が大きいことをやらせるわけにはいかない。

俺は『ムラマサ・ブラスター』を押す力を更に強めた。

そうするごとに光線の中に『ムラマサ・ブラスター』は徐々に飲み込まれていった。

俺の作戦は、内部からこの強力な光線を切り裂き、目黒の射撃を止めること。

そのためには、『ムラマサ・ブラスター』の強力な出力が必要不可欠だ。

早く・・・目黒を止めないと・・・。

「やらせるかよ!!」

突然どこからか新橋の声が聞こえてきた。

ふと横を向くと、新橋が銃を俺に向けて構えている。

そこまでして・・・ここを破壊したいのか!?

今の俺に回避する術は無い。

引き金を引かれれば・・・終わっちまう。

「させないぞ」

今度は会長の声がすると共に、銃に『自由の代償』が当たり、銃口が全く別の方向を向いた。

「く、池袋!!」

「上野君、ここは任せてくれ。君は目黒を!」

会長からの言葉に、俺は返事をする余裕はなかった。

ただ頷き、再び手に力を込めた。

だけど・・・そろそろ『ムラマサ・ブラスター』の限界が近そうだ。

砲の部分に若干のヒビが見えたからだ。

それまでに光線の中に刀身を入れて切り裂かなければならないが、このままだと・・・無理だ。

このまま・・・終わらせちまうのか!?

いや、そんなことはさせない。

残された手段は・・・『覚醒』しかない!

そう考えてすぐ『覚醒』した俺は、光線をどのように切り裂けばいいか感覚的に理解できた。

俺は・・・そのまま一気に『ムラマサ・ブラスター』を光線に押し込んだ。

(今だ!)

今まで抑えていたビームの刃を発動させると共に『ムラマサ・ブラスター』を大きく振り上げ、俺は光線を切り裂いた。

斬撃は『ジャンクション』本体にまで及び、砲身も切り落とした。

これで追撃はないはず。

だが目の前の目黒は、それを手放し武器を変える構えを見せた。

まだ・・・戦おうとするのか!?

(これ以上の戦闘は・・・させるわけにはいかない!)

直感的にそう思った俺は『ムラマサ・ブラスター』を放り、一気に距離を縮めてからすぐさま目黒を抱きしめた。

「・・・ウ・・・エノ・・・クン?」

全身を硬直させた目黒がそう呟いた。

ここは、とにかく目黒を落ち着かせるんだ。

「目黒、あいつが言ったことなんて信じるな」

「でも・・・わたし・・・クローンなんだよ?偽者なんだよ?」

目黒の虚ろな瞳から、涙が流れ、俺の肩を濡らした。

余程、そのことがショックだったんだろう。

だけど、俺は・・・

「そんなこと構うものか!」

「え・・・?」

「俺にとってお前は・・・目黒は1人だけだ!」

もう、何の迷いもなかった。

俺はただ、本心を目黒に伝えた。

「本当に・・・いいの?」

「あぁ。今のお前じゃなきゃダメなんだ」

「・・・ありがとう」

微笑みながらそう返されたその瞬間、目黒の背中から発生していた黒い翼が音も無く散った。

それと同時に、目黒もその場で膝から崩れた。

「目黒!?」

元々抱きしめていたため、転倒は免れた。

息は・・・している、ただ気を失っているだけだ。

俺はそっとその場で横にした。

「なんとか収まったみたいだな」

すぐそばに駆け寄った会長が声を掛けてくれた。

「えぇ・・・」

とりあえず、これで一安心だ

「チ、よくも止めてくれたな」

少し離れたところから、新橋がこっちを見ている。

・・・もう、ここで決着をつけよう。

そうしなきゃ、また目黒が傷つくことになるかもしれない。

「会長、ここは俺にやらせてください」

「あぁ。最初からそのつもりだったさ」

「ありがとうございます」

一言会長に礼を言ってから前に出た。

「ハ、お前1人でどうにかなるとでも思ってんのか?」

俺はその言葉を受け流しながら、ポケットに入れていたチップを取り出した。

・・・神田さんがあの時このチップを渡してくれたときのことを思い出した。

『お前だったら、それを使うときを自然と見つけられるはずだ』

ずっと、考えていた。

今リストにセットしているこのチップを俺は使うときを見出せるのか、と。

・・・今なら迷わず言うことが出来る。

これを使うのは、今この瞬間だ!

「ウェポン・チェンジ!!」

俺の一声と同時に、先ほど放った『ムラマサ・ブラスター』は光となって俺のもとに戻り、手に纏うように形を変えた。

そこで俺が目にした形、それは・・・まさしく『遠雷』だった。

でも色が違う。

『遠雷』が雷だけあって黄色に近かったのに対し、今はどちらかというと青白い。

それも、雷というより光に近い感覚だ。

だけど、神田さんですら手に余ると言わしめた武器だ。

きっと見た目だけじゃないはずだ。

俺は必死にその武器の情報を引き出そうとした。

「どうした、かかってこないのか?」

そんな俺を見て新橋が挑発してきた。

すぐにでもそれに乗ってやりたいところだが、まだ情報を引き出しきれてない。

「来ないなら・・・こっちから行かせてもらうぞ!!」

すると新橋は武器を一瞬であの『エクスカリバー』に変え、こちらに駆け出してきた。

(とにかく、構えないと・・・!)

俺はその一心でまず形を刀に変え、新橋の一撃に備えた。

「終わりだ!!」

新橋からの渾身の一振り。

「ウォォォォォォ!!」

俺はそれに合わせる形で刀を思いっきり振り上げた。

この2つがぶつかり合った瞬間、交差した箇所から凄まじいスパークが発せられた。

そこで新橋の攻撃を止められることから、『エクスカリバー』を凌ぎきれる程の威力があるのは明確だった。

俺が今まで必殺技として使っていた『シャイニングフィンガー』と同等、いや、それ以上の威力があるのは間違いなかった。

「な!?」

これには流石の新橋も驚きを隠せず、一旦その場から後退する形で離れた。

これが・・・この武器の力なのか?

「く、そんな隠し種を持っていたとはな・・・だが、今度こそ終わりだ!!」

新橋は今度は武器を銃に変えて構えた。

接近戦では埒が明かないと踏んだのだろう、なら俺もそれに合わせるだけだ。

まず武器を一旦、元の手に纏った状態に戻した。

だが、新橋はフィールドでエネルギー系の攻撃を大幅に軽減できる。

普通にやりあうだけでは分が悪い。

「!?」

そう思考を巡らせていたとき、頭に流れ込んできたこの武器の情報に俺は驚きを隠せなかった。

でもその性能を活かせば・・・やりあえる!

すぐさま俺はこの武器の形を変えた。

その形は2つの拳銃。

しかも、エネルギーが形を変えただけの状態ではなく、ちゃんと実体を持った形だ。

俺は両手にそれぞれ持ったその銃口を新橋に向け、躊躇うことなく引き金を何度も引いた。

「銃に変えたところでそんな攻撃など・・・!」

銃口から放たれたのはエネルギー弾だと思ったのだろう。

だが、新橋にその攻撃が直撃したことで新橋はその間違いに気づいた。

「グ!?・・・じ、実弾だと!?」

そう、今までの『遠雷』では考えられない、実体のある攻撃が出来たのだ。

これならフィールドの影響をほとんど受けない。

「貴様・・・どういうことだ!?」

痛さによる怒りを俺に向けながら新橋は疑問を投げつけてきた。

だから俺はその疑問に答えてやった。



「こいつはな、『遠雷』の発展形として作られた武器だ」

「何!?」

「場面に合わせて形が変えれても、今まで実体がないという弱点があった『遠雷』に実体を作れるようにして

その弱点を克服させる、それがこの武器のコンセプトだ」

そう、その名も種系究極自由自在変幻型武器『ネバーエンディングフューチャー』。

雷雲による目くらましはなくなったものの、これなら今まで培った経験を全て活かすことができる。

フィールドに苦戦した過去も含めて・・・だ!

「く、くそお・・・!」

この状況に悔しさを感じているのか、新橋はまた怒りの表情を露わにし、こっちに銃口を向けた。

だが、今の実弾を受けた以上、一つの確かなことがある。

あの衝撃を受けたということは、今ならフィールドが消えているということだ。

なら・・・ここで一気に決める!

そう決意し、俺は両手を握り合わせた。

「『ネバーエンディングフューチャー』、『JSAモード』起動!収束!」

宣言すると共に、俺の両手に纏っていた光の出力が上がり、収束で更に輝きが増した。

「『ダブル・シャイニングフィンガー』か、二度も同じ手に引っかかるか!」

そう、ここまでだったら確かにそれと同じだ。

だが、違うのはここからだ。

「伸びろ!」

収束された光から更に伸びた。

そう、まるで剣のように。

実際、『遠雷』でも同じことを行ったことがある。

去年の5月、あの任務で初めてJSAモードを使った時にやった方法だ。

だけど、あの時とは武器も練度も違う。

威力は『遠雷』よりも上がっているし、収束してから伸ばすことでエネルギーの密度も上がり、剣としての完成度も高まった。

これなら、最大限に活かせる!

「行くぞ!」

それを今までの刀と同じように構えて新橋に向かって駆け出した!

「させるか!!」

新橋がそれに対して銃の引き金を絞り光線を放ってきた。

だが、『覚醒』している俺にはそれを見切るのは容易だった。

紙一重でそれを避け、決してスピードを緩めず新橋に接近した。

そして間合いに入った瞬間、俺は剣を振るった。

「必殺!『シャイニングフィンガー・ソード』!!」

剣は光線を放った直後で硬直していた新橋の胴に確かに当たった。

「ガハッ!?」

その威力に新橋はそのまま後ろに吹き飛ばされ、倒れこんだ。

だけど、俺も今ので『覚醒』が切れたようだ。

「ク、クソォォ・・・」

さっき倒れたばかりの新橋が、再び起き上がってきた。

しかも、あの銃をまだ持って構えている。

「もう・・・やめろ、新橋。勝敗は決したはずだ」

新橋には致命的な一撃が入っているが、俺にはまだない。

普通に戦えるぐらいの力も残っている。

「まだだ、俺の目的は・・・」

すると新橋は持っていた銃を・・・俺ではなく校舎に向けた。

「ここを破壊することだぁぁぁ!!!」

「クソ!!」

俺はすぐにそれを止めるためその場から駆け出した。

間に合え・・・!

「久々に会ったと思ったらそれかよ、新橋」

俺の耳にそんな声が聞こえると同時に、新橋に対して何かが落下してきた。

俺はそれが何なのか、すぐ理解出来た。

「神田さん!?」

神田さんが『蒼天の剣』で、新橋に対して斬りかかっていた。

新橋はそれを銃でどうにか防いでいた。

「・・・やっぱり、ちゃんと使ってくれたみたいだな」

俺が『ネバーエンディングフューチャー』を使っている姿を見て、そう言ってきてくれた。

「神田ぁ・・・!!」

行動を妨げられたからか、新橋は怒りを露にして神田を振り払った。

「神田だけじゃないぞ」

その声の直後に新橋の後ろから巨大なミサイルが飛んできて、新橋に直撃した。

あれは・・・『リフレイン』!?

その飛んできた方を見てみると、そこには・・・

「品川さん!?」

「私達も忘れないでよね」

今度は俺の背後から光線がいくつも飛んできた。

新橋はその猛攻を全て避けることが出来ず、動きを止めた。

それを見てから後ろを振り向くと、そこには・・・

「田町さん!?」

「私達で・・・」

「最後だ!」

俺が反応を示している間に、新橋へと駆けていく2つの影を見た。

もう、何なのか見なくてもすぐ察しがつく。

「大塚さん!大崎さん!」

この2人の攻撃はそれぞれ命中、新橋は今度こそ倒れた。

「・・・終わった・・・」

最後は先輩達の力を借りることになったが、これで新橋との戦いも終わるはずだ。

これで目黒も・・・傷つくことはない。

俺がそう安堵した直後だった。

「だらしないぜ、新橋のあんちゃん」

「全くなんだなぁ」

どこかで聞いたことのある声と同時に新橋の元に駆け寄る2人の人影を見た。

それは誰かすぐに分かった。

「恵比寿に・・・田端!」

あの文化祭で襲撃してきた、デブとガキだ。

「悪いけど、あんちゃんにはここで死なれるのは困るんだ」

「そういうことなんだなぁ。だからここは逃げるんだなぁ」

そう言ってきた直後、人物大の戦闘機が現れ、それに乗る形で3人はすぐに飛んでいった。

「ま、待て!」

だが、俺の声を発したときには、その3人は視界から消えていた。

「安心しろ、すぐにはまた襲ってこないさ。それよりも・・・」

神田さんが俺の肩をポンと叩いて言うと、そのまま会長の方を向いた。

「池袋、そろそろ全てを話してもらってもいいか?」

「・・・あぁ。どうやらそうしなきゃいけないみたいだな」



「・・・俺が知っているのはこれぐらいです」

会長と神田さんが先生達に報告をしている間に、俺は生徒会室で知っていることを全て打ち明けた。

例の組織やそいつらが行っていること。

それに新橋が関係していること。

会長がそれに対抗する組織に所属していること。

俺の『覚醒』や目黒の『天使』のこと。

そして・・・さっき現れた目黒のクローンについても。

「・・・・・」

その目黒、1年生3人も既に目を覚まし、俺の話をただ聞いていた。

そして、それをただ受け止めていた。

「だが、そんな昔からそれを実現できるだけの技術はあったのか?」

品川さんがそう指摘した。

そう、俺が知っていることだけではいくつか疑問に残ることがある。

その1つが10年以上も前に目黒をクローンとして生み出すことは可能だったのか。

あともう1つが・・・

「それに・・・その『天使』の素質、どうやって見抜いたの?当時はまだエンドレスバトラーの技術は無かったはずよ」

大塚さんの言うとおりだ。

エンドレスバトラー用の武器はもちろん、ログインのシステムもここ数年で確立したものだ。

目黒がまだ幼かった時に、ログイン後に影響のある『天使』の能力を見抜けるとは思えない。

そして、俺が引っかかっている点もある。

「・・・『天使』の能力は最近確認されたばかりだと聞いています。なのに昔からそれを確認できたのは・・・どうしてでしょう」

そう、全ては目黒の過去に謎が集約されている。

だから、目黒の回答が唯一の手がかりなのだが・・・

「・・・私にも分からないんです」

これが目黒の回答だった。

「どういうことだ?」

「物心がついたときには今の孤児院にいて、後から目白さんに『E計画』に関わっていたから私と一緒に逃げ出した、としか聞いてないんです」

そう、全てを知っている目白さんはもう・・・いない。

後は、会長から知っていることを聞くしかない。

「お待たせ」

ちょうどいいタイミングで会長と神田さんが生徒会室に入ってきた。

「俺から知っていることは皆に話しました。とりあえず今のことを神田さんにも・・・」

「いや、俺はさっき池袋から全てを聞いた。後は・・・こいつに全てを話してもらう」

そう言ってから2人は席についた。

・・・思えば、生徒会が全員集まるのはこれが初めてかもしれない。

「さて、では俺が知っていることを話させてもらおうか。まず、単刀直入に言う。目黒自身は目白さんのクローンじゃない」

俺や目黒はもちろん、全員が驚きの表情を見せた。

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ・・・あの時、最後に目白さんに確認した。目黒はクローンでも何でもない、それは間違いない」

あの時・・・廃工場での出来事のことか。

だけど、そうなるとあの新橋の発言が気になるところだ。

「じゃあ・・・あの時新橋が言っていたことは?あれは嘘だとでも?」

「・・・順を追って話そう。20年以上前、政府は既に異星人やサイボーグの兆候に気付いていた」

「え!?」

そんな昔には既に気付いていたというのか?

「そして、対策を練った政府はその時にはログインの基礎的なシステムは完成したが・・・問題があった」

「問題?」

「・・・武器がなかったんだ」

「あ・・・」

そうか、武器に関しては異星人やサイボーグから鹵獲した兵器を解析して作ったものだ。

その当時にログインだけ出来ても・・・戦う術はまだなかったのか。

だけど、納得いく部分もある。

鹵獲して解析するには、その兵器を無傷で手に入れる必要がある。

そのためにはログインによって強化された肉体が必要不可欠だ。

「そのため研究者達は、ログインシステムの発展のため、更なる実験を行おうとした」

「・・・『E計画』ですか」

「ああ。軍を追われた後も、秘密裏にそれは行われた。だが・・・途中、被験者が4名脱走した」

「脱走?」

「そのうち2人は・・・目黒と目白さんだ」

「!?」

ここにいる全員が表情を強張らせた。

そうか、そういえば・・・

「たしか、目黒が昔いた孤児院ていうのは・・・」

「あぁ、その実験施設だ。目白さんは既に解明されていた『覚醒』の適合者として実験台にされ、

目黒はそれとはまだ違う能力・・・『天使』の適合を見出され、そこに入れられていた。

当時まだ物心がついていなかった目黒には何もされなかったらしいが、目白さんはもう・・・」

会長はその後に言葉は続けなかったが、前に聞いていた通りだ。

薬物投与に遺伝子操作・・・下手したらそんな幼い時に肉体改造をされている可能性も・・・。

「・・・残る2人は?」

「あぁ。1人は・・・犬彦先生だ」

「!?」

再び全員表情を固めた。

確かにあの時、犬彦先生は『E計画』の被験者だと言っていた。

それ自体は納得が出来る。

そうなると

「最後の1人は・・・?」

「最後は・・・あなたですよね、羅印さん?」

急に会長が入り口の方を向いて言った。

するとその羅印さんが入り口から姿を現した。

「あぁ・・・その通りさ」

「・・・目白さんも、犬彦先生もいなくなった今、全てを知っているのはあなたしかいません。どういうことか分かりますか?」



「あぁ、言われなくてもそうさせてもらうさ」

羅印さんはそう言うと空いていたイスに座り、話を始めた。

「確かにあの時、俺のような身寄りの無い者が集められ、非人道的な実験を繰り返された。

その中で俺と犬彦先生は意気投合したわけだが、その時知っちまったんだよ。

まだ片手で歳を数えられそうな女の子が2人もこの実験に関わってしまっているてことをよ。

しかも1人はまだ物ごころもついてないていうじゃねえか。

俺達には、それを見過ごせるほど人としての心を無くしちゃいなかった。

ある夜、他の被験者と共謀して、俺達は脱走を図った。

まだ武器がないとはいえ、ログインすればそれなりの力をつけることが出来たから、どうにかはなった。

だが、研究者達にも用意があったのだろう、仲間達は次々と殺されていった。

結局、俺と犬彦先生、それに目白と目黒の4人だけが生き延びることが出来た。

施設も半壊したし犬彦先生がデータを改竄とかしたみたいだから、後から色々と大変だったみたいだけどな」

なるほど、だから目黒が目白さんのクローンだなんて偽情報が流れたのか・・・。

「まず、目白と目黒はそこから遠く離れた孤児院・・・つまりは今目黒がいる孤児院に預けた。

一応話をつけて、本当の戸籍と表向きに見せる偽の戸籍を渡したから、見つかることはないはずだった。

それから数年後、異星人やエイリアンの襲撃が激化し、ログインシステムが公になったことを受け、俺と犬彦先生は傭兵稼業を行うことにした。

世界中を回っていたら、『E計画』に関して何か分かる可能性があったからだ。

だが、犬彦先生に異変が起きた。

被験された影響で傭兵を行えるほどの体じゃなくなっていたんだ。

それと時を同じくして、あの孤児院の近くにこの『百花高校』を創立すると聞き、犬彦先生はそこで教鞭を振るうことにした。

その後も俺は戦い続けていたが、犬彦先生と同じように影響が出始め、用務員という形で迎え入れてくれることになった。

幸いなことに、俺と犬彦先生の事情を知っている元傭兵仲間が多数いたこともあったからな。

だけど、それを機に『E計画』関連の情報は入らなくなっちまった。

だから俺と犬彦先生は、ここに入学していると聞いたあの2人を護衛を兼ねて監視することにしたんだ。

すると、だ・・・」

「新橋が入った組織に関することが耳に入った、そういったところですか」

「あぁ。目白と目黒が任務に行くと聞いたときにはなるべく犬彦先生は引率についていくようにしたが・・・」

そこで羅印さんは言葉を詰まらせた。

そう、犬彦先生だけでなく羅印さんも負い目に思っていたんだ。

目白さんを、あのような形で亡くしてしまったことを・・・。

「・・・俺から話せることはこれぐらいだ。何か質問はあるか?」

そう言われ、俺は気にかかっていたことを聞くことにした。

「文化祭で襲ってきた奴らと・・・あと、巣鴨と駒込という奴らにも会いました。そいつらについて何か知っていることは?」

あいつらの正体は組織に所属していること以外は未だに不明なままだ。

この機会に分かることは知っておきたい。

「巣鴨と駒込は・・・当時俺や犬彦先生を実験台にしていた研究者だ」

やっぱり・・・何となく予想したとおりだ。

あの時の口ぶりからして『E計画』にかなり深く関与している様子だったのも頷ける。

「・・・文化祭で来た奴らに関しては他の先生達に聞いたほうがいいかもしれん。そうですよね、先生方」

羅印さんが入り口に向かって言うと、そこから音無先生と日晴先生が顔を出した。

「あぁ、あいつらは昔俺たちが傭兵だった時の知り合い達だ」

「え?」

傭兵ということは・・・昔は先生達と一緒に戦っていたてことか?

「それが・・・どうして例の組織に?」

そう、疑問はそこにある。

先生たちとかつての仲間だったということは、異星人やサイボーグ達に立ち向かっていたことになる。

今はそれに加担していると言っても過言ではない。

「それぞれに理由があってな。まず鶯谷・・・あの着物美人だが、同じく仲間だった婚約者を亡くしている」

「え?」

戦いに身を投じている以上、それは避けられないことなのかもしれないが、その間柄の相手を失うということは・・・。

「まさか、新橋と同じ・・・」

「あぁ、二度と大切なものを失わないようにする力を欲しているんだろう」

肩を落としながら音無先生は漏らした。

「次に恵比寿・・・あの巨漢の男と言えば分かるか。あいつはかつて世界中をボランティアで飛び回る優しい青年だった」

「あ、あいつが?」

日晴先生からの情報に驚きを隠せなかった。

あの時の様子からはとても想像が出来ないからだ。

「あぁ、だが各地の襲撃によって今まで救援していた場所が無残な姿になっていることに絶望して、

それ以上の力を欲するようになったんだ」

「そうだったんですか・・・」

あいつも目的が存在したのか・・・。

「最後に田端・・・あいつは被害者と言ってもいいかもな」

「え?」

被害者・・・どういうことだ?

「あいつは俺たちが傭兵時代に拠点の一つとして利用していた旅館の息子でな。その潜在的な素質に目を付けた

組織にさらわれて、旅館は襲撃されて家族共々失った」

「な!?」

「しかも本人は強化の影響か洗脳されているのか、そのことに関して全く思い出せないみたいだ」

それを聞いて、今までの印象が一気に変わった。

確かにそれだと被害者で間違いではない。

「お前たちは気にしなくていいぞ、かつての仲間が今も元に戻すために今も手を尽くしている。それも時間の問題だ」

音無先生のこの一言で俺は少しは安心した。

全く見捨てられているわけではない、それを聞いただけでも救いがある。

「・・・貴重な情報、ありがとうございます」

俺はそれを聞き、ひとまずお礼を言った。

「・・・他にはないようだな、じゃあ俺達は失礼する」

帽子を被り直した羅印さんは先生達と一緒にその場を後にした。

その後しばらく、生徒会室に重苦しい空気が漂った。

「・・・上野、目黒を送っていってやれ」

それを打ち破ったのは、神田さんの一言だった。

「え?」

「これから、更に戦いが激化するはずだ。それに備えるためにも、今は休むんだ」

確かにその通りだ。

ここまで来た以上、もう後戻りすることは出来ない。

それどころか、生徒会全体まで巻き込んでしまったんだ。

もう迷ってもいられない。

「分かりました・・・行こうか」

「う、うん」

そう言って目黒を連れて外に行こうとした。

だけど、その寸前で忘れていたことがあったことに気づいた。

「・・・神田さん、コレありがとうございました」

リストに取り付けたチップを見せながら神田さんにお礼を言った。

これがなかったら、新橋と決着を付けられなかっただろう。

「大丈夫だ、それにそいつは俺のじゃない」

「・・・え?」

意外な返事でつい聞き返してしまった。

「俺が文化祭で手に入れたチップはまだここにある、そいつは池袋から頼まれて渡した物だ」

会長から?

「ま、俺から渡すと軽くなっちゃうからな。神田の方が重みがあると思ったわけさ」

「そ、そうだったんですか」

「それと、しばらくはその『ネバーエンディング・フューチャー』だけを使うようにするんだ」

「え?」

ちょっと予想外な返答が来て驚いた。

これだけ強力な武器、そうそう簡単に使っていいものなのか?

「そいつは使う経験がちゃんと形になる武器だ、やっていくうちに分かるさ」

「わ、分かりました・・・じゃあ、お疲れ様です」

疑問に思いながらも、俺は目黒と一緒に外に出た。



「・・・で、俺たちだけ残してどうするつもりなんだ?」

上野と目黒が立ち去った後、大崎が神田に疑問を投げかけた。

「あぁ。今の話を聞いた以上、俺たちもこれから今まで以上の戦いに巻き込まれるのは明らかだ」

神田は今まで以上に真剣な眼差しでその場にいる全員を見据えながら言った。

「何言ってるの、たとえどうなっても私達が全力を尽くすのは当然でしょ」

「そうよ、当たり前のこと言わないで」

大塚と田町がそれに笑みを浮かばせながら答えた。

「あぁ、だがこのままでは文化祭の時の二の舞だ」

「・・・悔しいが、その通りだ」

神田の発言に品川は冷静に言い放った。

戦闘指揮科である品川はその力量の差を正確に分析することが出来ていた。

「そこでだ、さっき先生達からこれをもらった」

神田はポケットの中から何個か小さい箱を取り出し机の上に並べた。

「これは・・・まさか!?」

「あぁ、最前線のエンドレスバトラーが使う本格的な能力の武器チップだ」

「そんな・・・一体どうして?」

「・・・お前が手配したんだろ、池袋」

神田がまだその場にいた池袋の方を向いて聞いた。

「あぁ。そろそろ俺も隠しきれないと思ってな。どうせなら皆も巻き込んだほうがいいと踏んだわけさ」

「そうだったのか・・・でもいいのか、こんな貴重なもの使っても?」

品川が尚も冷静に聞いた。

「あぁ、何しろこれは牙津さんからの差し入れだ、使って何の問題もない」

自分達のOBの名前に、その場にいる全員に安心感が戻った。

「そういうわけだ、皆好きなのを使えばいい」

神田は全員に箱をとるよう促した。

「・・・あれ?でも足りなくない?」

明らかにその場にいる人数と箱の数が足りないことに田町は気づいた。

「俺と神田は既に武器があるから、何の問題もないさ」

池袋が笑みを浮かべて説明した。

「え、ということはもしかして・・・」

大塚は少し心配そうな顔を神田に向けた。

「あぁ、俺も無事卒業は出来そうだしな、そろそろアレを解禁する時が来たのかもしれない」

「・・・ついに使うのか」

神田の言葉に大崎も真剣な表情を見せた。

「あぁ。もっとも、ギリギリまで使うつもりはない。それぐらいにこれから更に鍛えるつもりだ」

周りの心配を振り払うかのように神田は自信のある表情を見せた。

「そうか・・・なら俺も付き合うぜ」

「私達も忘れないでよ」

大崎と田町がすぐに名乗り出た。

「よし、体育館で練習だ・・・1年たちも来い、鍛えなおしてやる」

「はい!」

そして全員生徒会室を後にした。



「さ、着いたぞ」

「・・・・・」

結局、目黒と何を話せばいいか分からぬまま孤児院の前に着いた。

・・・俺から何を言えばいいのか、正直分からなかった。

「じゃあ、ゆっくり休めよ」

だから、そのまま立ち去ろうと背を向けると、その背中から急に温もりを感じた。

すぐに何かは分かった。

目黒が背中から抱きついたからだ。

「目黒・・・?」

「・・・さっきは・・・ありがとう」

さっき・・・あの戦闘のときのことか。

・・・正直、礼を言われるようなことをしたつもりはない。

だから、俺はすぐ言葉を返した。

「ここからが本番だぞ、頑張ろうぜ」

「うん・・・」

こんな一瞬の出来事なのに、何故かこの時は永遠のように感じた。



これから起こることが、俺達の一生を揺るがすものになるのだから・・・。

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