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Endless Battle 〜百花繚乱〜 完全版
エピローグ

「目黒先生〜」

百花高校の職員室、その入り口からそんな声が響き渡った。

当の本人が入り口の方を振り向くと、数人の女子生徒が向かってくる姿が眼に映った。

「あら、どうしたの?」

「お昼一緒に行こ♪」

「うん、いいわよ」

目黒が卒業してから、既に9年が経過していた。

無事大学へと進学し、その後は軍の方で世界各地で戦いを続けていた。

しかし、諸事情があって最近退役したばかり。

ちょうどその時に百花高校から教師としてのスカウトが舞い込んだため、今は社会科の教師として教壇に立っている。

大学在学中に教員免許を取得していたのもスカウトされた要因だが、もう1つの背景には百花高校そのものがあった。

未だに衰えない異星人からの侵略によってエンドレスバトラーは近年更に重要な職となった。

そのため百花高校と同じ育成機関が多数設立された。

その中でも百花高校は初期に創立されたこともあり、有数の名門校へと成長を遂げていた。

これにより入学希望者は毎年増える一方であり、教師の数が相対的に足りなくなっていた。

なので卒業生であり、教員免許を持ち、軍を退役したばかりの目黒はとても的確な人材であった。

それが上手く的中したのか、わずか2年で教え方だけでなく人柄でも男女問わずに生徒から多大な人気を得ていた。

そして、同じく卒業生がもう1人教鞭を振るっていた。

「渋谷先生、一緒にどうですか?」

「あ、はい。是非♪」

目黒の1年後輩である渋谷も同じく教師となっていた。

渋谷の場合、大学卒業後にそのまま赴任してきたため、教師としては目黒より先輩であった。

軍や傭兵などの現場仕事も渋谷にとって魅力的だったが、生徒会にて後輩たちを指導していくことで教師になることの方が魅力を感じていた。

そのため苦手な勉強を一所懸命頑張り、無事大学進学と教員免許取得を実現させた。

それも担当は実技教科のため、エンドレスバトラーとしての腕は衰えるどころかむしろ上達していた。

「じゃ、行きましょ」

目黒と渋谷は立ち上がり、女子生徒達と共に歩き出した。

在学中、年相応に見えないほど幼さが残っていた目黒であったが、今ではそれなりに大人の雰囲気を纏っていた。

しかし身長が低いのは相変わらずであり、生徒達と並んで歩く後姿を見ると1人だけ制服の違う生徒に見えてしまっていた。

このことは本人も自覚しており、実は気にしていることだという。

「フフ、上手くやっているみたいね」

「あぁ。何よりだな」

そんな姿を、蝶子先生と音無先生が微笑みながら見ていた。

この2人が、目黒をスカウトした張本人であった。

そのためもあって、目黒が赴任してからその働きぶりをずっと見守っていた。

10年前の出来事もあり、2人とも少なからず心配していたのだ。

しかし目黒はそれを感じさせない程に強く成長しており、喜びすら感じていた。

「お2人とも、ちょっといいですか?」

そんなところを、羅印が声を掛けてきた。

今も用務員として、問題なく働いていた。

この3人だけでなく、10年前に働いていた者達は全員在籍していた。

「どうしたんですか?」

「先生方に手紙が届いてます、どうぞ」

そう言って、羅印は何通もの手紙を手渡した。

「結構あるわね」

「えぇ、しかも差出人は全て同じです」

「え?」

考えても仕方ないと判断し、2人はその手紙を開封した。

その中身を見て、2人は納得した。

「そうか、そういえばそろそろだったな」

「えぇ、久々に皆に会えるわね」



都内近郊。

そこでバイクが何台も暴走行為を行っていた。

運転者は全員不法に手に入れた認証リストと『EB−ID』で肉体を強化していた。

そのバイクたちを、1台の『メガライダー』に乗った警察官が追っていた。

『そこのバイク、止まりなさい』

『メガライダー』に備わっているスピーカーからそのような声が発せられた。

しかし、暴走者は全く聞く耳を持とうとしなかった。

「仕方ない・・・か」

再三の警告を無視され、もうこれ以上は意味が無いと判断した警察官は行動を起こした。

(こちら神田。これより実力行使に入る。援護を頼む)

警察官・・・神田が『プライベートメッセージ機能』を用いて連絡を取った。

(了解、目標地点で待機します)

(頼んだ)

それだけの言葉を交わすと、神田はアクセルをフルスロットルまで開けた。

『メガライダー』はそれに応えるかのようにスピードを上げ、前方のバイクとの距離を詰めていった。

だが、バイクたちもスピードを緩めることがないため差は中々上手く縮まらなかった。

このまま行けば逃げ切れる。

バイクの運転者達誰もがそう確信したその時だった。

前方にいくつもの光線が突然放たれ、それを見たバイクたちが急いでブレーキをかけた。

これにより全速力を出していた『メガライダー』との距離は一気に縮まった。

「行くぞ、『蒼天の剣』!!」

そして何回も手に持った剣を振り下ろし、そこから斬撃に近い衝撃を放った。

衝撃はバイクを全て真っ二つにし、その瞬間に弾け飛んだ。

バイクは爆発し、運転者は宙に吹き飛びそのまま落下した。

(・・・よし、五反田、ナイスアシスト)

(はい、ありがとうございます)

どこかのビルの屋上で待機しているであろう五反田に神田は労いの言葉をかけた。

神田はそのまま『メガライダー』を降り、戦闘不能になった運転者たちを次々と確保していった。

まだ意識があり、逃げることは可能であったが、神田が持つ『蒼天の剣』の迫力の前に怖気づいてしまった。

高校卒業後にそのまま警察官となり、わずか3年で機動隊長となった神田。

10年前の戦いで解禁した『菊一文字』の方が性能が良いが、市街地だと被害が及んでしまうため、

普段は『蒼天の剣』の使用がメインとなっていた。

それでも、見た目の大きさが威嚇となり、高い検挙率を誇っていた。

そして、その後大学を卒業した五反田をスカウト。

高校時代からサポートには定評があり、また生徒会会長として責任感のある仕事を請け負っていた五反田は

警察官として適任な人材となっていた。

市街地戦では五反田の主力武器である『サテライトランチャー』は使えないため、取り回しのきく

『砕かれた世界』が主に使われていた。

その彼を誘ったことは大きく、2人で凄まじい数の検挙数をたたき出していた。

だがその反面、休みが取れないほど毎日忙しくなっている。

それだけの成果を挙げているためもあり、仕方ないことではあった。

特に今はいつも以上の忙しさとなっていた。

なぜならば、

(次に行きましょう。今度の休暇、取り消されないうちに)

(あぁ。もちろんそのつもりだ)

2人揃って休みを取っていたため、その穴埋めの分が今回ってきていたのだ。

確保した運転者達を引き渡した神田は『メガライダー』のハンドルを握りながら、ふと上を向き呟いた。

「そうか・・・あいつがいなくなってもう10年か・・・」



「戻ったぜ」

「あ、おかえりなさい」

部屋の中に入ってきた牙津を大崎と田町が出迎えた。

2人は卒業後、揃って牙津が所属する企業へと就職。

武器の開発をメインとしながら軍などからの依頼に応える事業を展開している企業であった。

3人が所属する部署では、主に遠隔操作による武器の開発を行っていた。

基本的に試作段階の武器を田町が使用し、大崎がそれに応戦する形により、データは順調に取得されていた。

「早速だが、こいつのデータを取得するぞ」

そう言うと、牙津は武器を具現化させた。

すると牙津の傍に一頭の猪が出現した。

「牙津さん、これってもしかして・・・」

「あぁ、十二支の1つだ。その中でも初期に開発されたやつでな」

武器の名は、語らずとも全員理解出来ていた。

十二支系有線制御型射撃砲『亥:ガンバレル』。

武器になった姿も、最先端の遠隔操作型の武器に比べると簡単な作りになっていた。

「でも・・・何でこれのデータを?」

田町が率直な疑問をぶつけた。

高校時代は今時の若者といった雰囲気を醸し出していたが、今では大人の落ち着いた雰囲気を纏っていた。

一方の大崎も、未だ直線的な性格ではあるが行動する前に考えるぐらいのことは出来るようになっていた。

「あぁ。軍の方からの要請でな・・・次世代用の十二支の開発が正式に依頼されることになった」

「ほ、ホントですか!?」

「あぁ。これも主任とまりんさんの交渉の成果だな」

昔に比べ大分浸透し、憧れというものから遠ざかっていくようになった十二支。

だがそれを新たに開発するとなれば、武器を開発するものとしてはとてもやりがいのある仕事に違いなかった。

「さて、じゃあ早速実験場に行くか」

「はい!」

そう言って3人とも部屋を後にしようとしたその時、牙津が突然足を止めた。

「あ、そうだ」

「え?」

「お前達にコイツが届いてたぞ」

そう言うと牙津は2人にそれぞれ封筒を手渡した。

「これは・・・?」

疑問に思いながらも2人は封を開けた。

「あ・・・」

「・・・そういえばそうだったな」

2人とも何かを思い出したかのように声を出した。



政府軍東京支部。

異星人からの侵略が日本で最も多いと言われる東京では、国内最大規模の勢力を有するとまで言われていた。

その中枢が存在する事務局の中の一室にて、黙々と事務的な作業をする2人がいた。

百花高校を卒業後、大学に進学しその後軍に入った大塚と品川であった。

大塚は現場で戦いに身を投じ、品川は後方指揮を主に担当していた。

2人の活躍は大きく、様々な戦績を出していた。

そのためもあって、事務的な書類仕事もそれに比例するように増えていた。

「・・・ふぅ、やっとひと段落したわ。コーヒーいる?」

「あぁ、頼む」

大塚は立ち上がり、2人分のコーヒーを用意し始めた。

高校時代に比べ大分物腰が落ち着いたが、その裏では相変わらず家柄の関係で悩まされているという。

慣れた手つきでコーヒーを淹れていると、ドアがノックされた。

「はい、どうぞ」

急なノックにも動じず、大塚は返事をした。

扉が開かれると、そこには山本がいた。

「お疲れ様」

「あ、お疲れ様です」

2人の直属の上司である山本に、2人はその場で挨拶した。

「いや、固くならなくていい。ちょっと案内をしに来ただけだ」

「案内?」

「さ、入りたまえ」

すると山本の後ろから1人の男性が現れた。

「お久しぶりです」

「あ・・・日暮里」

百花高校時代に同じ学科に所属していた品川はすぐに反応した。

日暮里は百花高校卒業後そのまま軍に所属し、指揮官としてその手腕を振るっていた。

規律の厳しい軍の中でも皆平等に相手し、それでも高い戦果を挙げていることから『優眼の日暮里』の異名を持っていた。

「どうしたんですか?こんなところに・・・」

世界中を飛び回る日暮里が政府軍の支部にまで足を運ぶ理由はそうはなかった。

「えぇ。実は10年前の・・・あなた達が参加したあの戦闘の報告書を読ませていただきたくて」

「!?」

その日暮里の頼みを聞き、2人は表情を変えた。

「・・・別にいいですけど、何で?」

「えぇ、実は今度の国際会議のデータとして、あの宇宙で行われた戦闘記録を知りたいんです」

あの日、戦艦『ハンドレッド・フラワー』とその後継艦であるUを用いて宇宙での激戦を繰り広げたあの戦闘のことであった。

「そうですか・・・ちょっと待ってくださいね」

すると大塚は1つの棚を開け、そこから保存メディアを1つ取り出した。

「この中にそのデータが入ってます。どうぞご覧下さい」

「ありがとうございます・・・早速ですが、ここで見ていいですか?」

「え?あ、はい。じゃあそこにPCを使ってください」

日暮里は案内されたPCの前に座り、立ち上げると共に早速そのメディアを入れた。

そこには、要塞の中で行われた戦闘の記録が細部に渡り綴られていた。



「あれから10年か、早いもんだな」

渡された資料にその時のことが書かれていて、つい懐かしさが込み上げてきた。

「隊長、この資料は関係者へ配布する方向で?」

「そうだな。代々木、そうしてくれ」

「はい」

返事をした代々木は資料を持って部屋を出た。

『百花高校』を卒業後、俺は軍に所属することになった。

正確には、会長が所属していた例の組織に・・・。

表向きはどこにも所属していない謎めいた組織だが、実際のところはEBシステムの不正を摘発する軍の内部組織だ。

その中の部隊の1つを俺は任されている。

そして、高校卒業後に代々木をスカウトしたのも俺だ。

池袋さんの手伝いで何回か依頼を請け負っていた代々木なら、ここでもやっていけると思ったからだ。

現に、俺の補佐官として立派に働いてくれている。

だが、軍の内部と一言で言っても膨大な規模であるのは事実。

そのため、毎日が多忙であった。

休みが取れても月に1日か2日、取れない日だってある。

それだけ、軍というのは忙しいところだといつも実感させられる。

それにしても、さっきの資料・・・これはこれで問題だな。

でもあの日暮里さんが言うことなんだ、間違いは無いだろう。

とにかく、今は残務を片付けよう。

折角取れた休日、それで潰されたらたまったものじゃない。

・・・いくら毎日会えるとは言え、あいつには何年も待たせちまったんだからな。



「田端!そっちにいったぞ!!」

「OK!!」

新橋の掛け声に呼応し、田端が迫ってくる敵の集団を『デファイアント』で次々と薙ぎ払っていった。

それを援護するように、新橋も『ツインバスターライフル』の引き金を幾度と絞った。

2人が戦っているのは月面に建てられた前線基地付近。

侵略してくる異星人達を迎え撃つ、戦場の最前線であった。

数年前に2人揃って課せられていた奉仕活動の終了が言い渡されていたが、その後も最前線での活動を志願。

迫りくる異星人の脅威に対抗するべく建てられた月面基地での任務に従事している。

『今ので一段落だ、お疲れ様』

襲撃の途切れと同時に、新橋と田端に通信が入った。

それを入れたのは、バーチャル空間上の池袋だ。

既に未来からのサイボーグ達の無力化は出来ているため、今はこうして最前線の支援に回っている。

「了解、これでゆっくり出来るな」

『で、あと10分後に次のが来ているから、交代の時間まで対応をよろしく』

「な!?」

異星人の侵略はこの10年で止むどころか、激しさを増す一方であった。

もちろんそのための人員が他にも多数待機しているが、それでも1人当たりが対応する数は地上の比ではなかった。

「全く、暇なんてありゃしないな」

『当然だよ、この前の国際会議の資料を読んだだろ?』

「・・・そういえばそうだった」

池袋の言葉に、新橋は納得した。

『それに、今日は例の日だ・・・援軍と称して襲撃は多いと思うぞ?』

「例の日・・・あぁ、なるほどね」

「そういえばそうだったな・・・断って正解だったかもな」

『そういうことだ、これも1つの参加の仕方だと思って頑張ってくれたまえ』

「ったく、他人事みたいに言いやがって・・・けど、間違っちゃいないな」

「あぁ、また暴れさせてもらうぜ!」

それだけ言葉を交わし、2人は再び襲撃に備えた。




・・・いい天気だ。

潮風も気持ちいい。

こういう日に行うことが出来て、今日は本当についているな。

それだけでも、十分に嬉しい。

・・・だけど、ここまで来るのに、時間がかかりすぎたな。

よく愛想を尽かされなかったものだ。

「どうした、新郎」

突然の声に、すぐ反応して振り向いた。

「か、神田さん」

「まだ嫁さんの準備は整ってないのか?」

「えぇ。もうそろそろだと思うんですけど・・・」

本当は緊張で硬い顔だが無理矢理笑顔を作った。

「だが、よくこんなところでやろうなんて考えたな」

「たまたま、これの使用許可が取れたもんで・・・でも悪くはないでしょ?」

「だな、お前にしては珍しいことに」

そんな会話を交わす俺達の前には、海が大きく広がっていた。

船上での披露宴・・・中々洒落ている。

しかも、ただの船ではない。

先日正式な世代交代が行われたばかりの・・・引退直後の初代『ハンドレッド・フラワー』。

戦艦にしてはフリースペースが広いことから、こういった催しでも十分活用出来る。

それに・・・俺達にとっては思い出深いものには違いなかった。

その上出席者のほとんどはエンドレスバトラーかその関係者。

ここでやることに反対な人はほとんどいなかった。

「ところで、先日俺に内示が出た」

「え?」

突然の神田さんの言葉に、つい言葉に出して驚いてしまった。

「今の所轄署から本庁の機動隊長への異動、いわば出世てやつだ」

「それはすごい、おめでとうございます!」

思わず声を上げてしまった。

軍に所属する俺でも聞いたことがある、警察が持つ戦力の中でも本庁の機動隊はいわば精鋭。

大規模な暴動が起こった際に軍よりも早く駆けつける、早期対応のスペシャリスト達で、将来の幹部候補でもある。

その隊長になるのだから、言われた通りの出世なのは間違いないはずだ。

「これで俺も、お前たちに追いつけるはずだ」

「・・・なるほど」

神田さんと大塚さんのことは一応聞いたことがある。

良家である大塚さんと所謂一般庶民である神田さんでは格差があるため、ずっと反対され続けてきたと。

だけど、ここまで出世すればその格差も大分なくなるはずだ。

俺たち以上に時間をかけてきたんだ、2人には幸せになってもらいたい。

「だからさ、お前達と同じゴールが出来るよう頑張らせてもらうよ」

「・・・応援してます」

「あぁ、ありがとうな」

「上野さん、準備出来ましたよ」

後ろから渋谷の声が聞こえてきた。

「じゃあ、先に行って待ってるな」

「はい・・・司会、期待してますね」

「任せておけ」

それだけ言って、神田さんは行ってしまった。

とりあえず、俺は声のした方へと足を進めた。



「・・・・・」

つい言葉を失ってしまった。

一度は衣装合わせの時に見たが、やはり改めてみるとここまで綺麗なものかと思ってしまう。

この未莉のウェディングドレス姿を・・・。

「じゃあ私たちは先に行ってますね」

「あ、あぁ。ありがとな」

それだけ言い残して渋谷や他のスタッフは部屋から出て行った。

「・・・どう?」

皆出て行ってから、そう聞かれた。

「あぁ。綺麗だよ」

「フフ、ありがとう」

『ホント、キレイよね』

俺たち以外にいないはずの部屋から突然声が聞こえてきた。

すぐ近くのテレビ、そこに目白さんが姿を現していたからだ。

「目白さん、今日はすいません、本当は式から参加してもらいたかったんですけど・・・」

『仕方ないわよ、まだバーチャル空間は世に公表されていないんだから』

まだまだ試験段階が続くと言われている『バーチャル空間』、なのでその存在を知るのもごく一部に限られている。

そのため、俺の親族などの一般人が来るこのような場では目白さんは姿を現すわけにはいかない。

その代わり、今回目白さんにはこの『ハンドレット・フラワー』の制御という形で参加してもらっている。

本来なら唯一の肉親である目白さんにも式から参列して欲しいが、ここは納得せざるを得なかった。

だけど、目白さんにこの制御役を依頼したのには訳がある。

「その代わり、要望通り会場にはカメラを設置しておきましたよ」

『ありがとう、そこからゆっくり見させてもらうね』

戦艦に制御役として来ていることから、あらゆるカメラで式の様子を見ることが可能だ。

こういう面ではバーチャル空間に所属していることに対して利点が活かされる。

「・・・お姉ちゃん」

未莉がテレビ上の目白さんに声を掛けた。

『未莉、今日はおめでとう』

「ありがとう・・・ここまでこれたのも、お姉ちゃんのおかげだよ」

『何言ってるの、2人が頑張ってこれたからゴールイン出来たんじゃない』

「ううん、それだけじゃないよ。私を小さい頃から見てくれて、バーチャル空間にいる間もずっと気にかけてくれて、

あの部屋も用意してくれて・・・お姉ちゃんがいてくれたから、ここまでやってこれたんだよ」

『未莉・・・嬉しいこと言ってくれるわね』

今まで見たことない、涙ぐむ目白さんの姿がモニター上に映し出された。

「あと・・・ずっと言いたかったこと言わせて」

『・・・何?』

「あの時・・・『たとえ血は繋がっていなくても、あなたは私の妹』て言ってくれたでしょ?」

おそらく、あの廃工場での出来事のことだろう。

『そういえばそうだったわね』

「私も、お姉ちゃんはずっとお姉ちゃんだって、そう思っているから」

終始笑顔を絶やさず、未莉はモニター上の目白さんにそう伝えた。

『・・・私も、今も昔も変わらないわ』

それを返すように、目白さんも笑みを浮かべて応えた。

この2人の絆は、もしかしなくても実の姉妹以上なのは間違いない。

改めてそう感じさせた。

『じゃあ2人とも、頑張ってきてね』

照れ隠しとも取れる形で、目白さんはモニター上から姿を消した。

「目白さんらしいな」

「フフ、そうね」

未莉と笑い合っていると、ドアがノックされた。

「お二人とも、お時間ですよ」

それを聞いて、時間があっという間に過ぎていることに気づいた。

「じゃあ、行こうか」

「うん」



「それでは最初に、二人の馴れ初めから紹介させていただきます」

神田さんの的確な司会によって、披露宴は順調に進んでいた。

その司会ぶりは、俺たちはもちろん出席者も安心して聞いていられた。

出席者は俺の親族は勿論、『百花高校』の教師や当時同じ生徒会員だった人達、あと仕事上関わっている人達等多岐に渡っていた。

それだけ大勢いるのに、それを全員入れられてしまうのだから、改めてこのスペースは凄いと実感せざるを得なかった。

「そして2人は卒業後も交際を続け、数多の困難を乗り越えこの度ゴールインした次第であります」

神田さんの司会も安定している、依頼して正解だった。

やはり安心していられる・・・そう思い始めた時、突然サイレンが鳴り始めた。

エンドレスバトラー関係者がほとんどのため一般人に比べると驚きが少ないが、誰もが警戒を強めた。

とにかく、何かあったのだろうと急いでスマホで目白さんへ連絡を取った。

「もしもし、目白さん。何があったんです?」

『えぇ、こっちに異星人の大群が押し寄せているわ、戦艦の装備だけじゃ対応しきれそうにないわね』

そう連絡を取っていると、スクリーンが現れ外の光景が映し出された。

そこには、何千といる異星人の軍団がこちらに迫っている光景であった。

考えてみれば、旧型の戦艦にこれだけのエンドレスバトラーが集まっているんだ。

一網打尽にするにはこの上ない状況だ。

・・・だけど、裏を返せばそれだけの戦力がこちらにもあるということ。

現に、既に関係者の半分以上はログインして外に向かっていた。

「主役2人は下がってろ、ここは俺達がどうにかする」

『私も応援要請しているわ、2人はここで待ってなさい』

神田さんも既にログインし、戦闘態勢に入りつつあった。

だけど・・・この言葉を聞くわけにはいかない。

「すいませんけど、俺も戦いますよ」

持っていたスマホを取り出し、いつでもログイン出来るようにした。

「何言っている!?お前にもしものことがあったら・・・」

「でも、俺には絶対に守らなきゃいけない人がいる。そうでしょ?」

「・・・そうだったな。だが、絶対に無茶するなよ」

それだけ行って、神田さんは行ってしまった。

「・・・未莉、奥で待っていてくれ。後は皆でどうにか・・・」

「ううん、私も行く」

俺がその言葉に反応して振り向くと、先ほどの俺と同じようにスマホを用意する未莉がいた。

「え・・・!?」

「私にも・・・守らなきゃいけない人がいるから」

そういいながらお腹をさする姿を見て、すぐに納得した。

「・・・分かった、一緒に守ろう」

「うん、ありがと」

この言葉を交わしていると、前に目を通した日暮里さんの資料を思い出した。

10年前、俺達が壊滅させた組織。

そこから異星人に地球を侵略するよう仕組んでいた事実は合っていたが、厄介なのはその後だった。

異星人には独自のネットワークが存在し、他の異星人にも同じよう情報が回っているというのだ。

こちらから攻め入る手段もなく、防戦しか手段はない。

更にその上、力に溺れて暴走するエンドレスバトラーもいるのは確かだ。

これらが完全に駆逐され、エンドレスバトラーの必要性がなくなるのに要する時間は・・・100年では足りないという。

つまり、俺達が生きている間に戦いが終わることはまずないだろう。

それどころか、この子が生きている間に終わるのも怪しい。

・・・だけど俺は・・・俺達は戦いをやめる訳にはいかない。

なぜなら、俺達はエンドレスバトラー・・・『終わりなき戦士』なのだから!

「行こう!」

「うん!」

「「EB・・・ログイン!!」」



Endless Battle 
〜百花繚乱〜